續千載和歌集

Shoku Senzai wakashū

作者複数 Various

續千載和歌集卷第十四
戀歌四

1424

坂上是則

題志らず

秋山に朝立つ霧のみねこめて晴れずも物を思ふころかな
1425

九條右大臣

物申しける人に又かよふ人ありと聞きて遣しける

秋萩の下に通ひし鹿の音も今はかひなくなりやしぬらむ
1426

前中納言定家

建仁元年五十首の歌奉りける時

假にだに訪はれぬ里の秋風に我身うづらの床は荒れにき
1427

後深草院辨内侍

戀の歌の中に

もの思ふ泪をそへておく露にわが身の秋とぬるゝ袖かな
1428

前大納言爲氏

さぞとだに思ひも出でじ秋の田の假にも斯と驚かさずば
1429

二條院讃岐

千五百番歌合に

石の上ふるのわさ田に綱はへて引く人あらば物は思はじ
1430

光明峰寺入道前攝政左大臣

會不逢戀といふことを

頼め置きし言の葉さへに霜枯れて我身むなしき秋の夕暮
1431

皇太后宮大夫俊成女

洞院攝政の家の百首の歌に、同じ心を

枯れはつる契もつらし跡絶えてふる野の道の霜の志た草
1432

二品法親王覺助

家に五十首の歌よみ侍りし時、絶戀

分馴れし小野の淺茅生霜枯れて通ひし道のいつ絶にけむ
1433

前中納言公脩

題志らず

色かはる人のこゝろの淺茅原いつより秋の霜は置くらむ
1434

九條左大臣女

尋ねても訪はるゝほどの跡もなし人はかれにし庭の蓬生
1435

皇后宮内侍

變らずば尋ねて見ばや三輪の山ありし梢の杉の志るしを
1436

前大僧正道玄

嘉元の百首の歌奉りし時、忘戀

消えねたゞ忘れ形見の言の葉もあるかなきかの袖の白露
1437

權僧正慈仙

題志らず

濡れてほすひまこそなけれ戀衣身を志る雨の晴れぬ思に
1438

大江廣房

言の葉の移ろふ秋の時雨には我が身一つの袖ぞ濡れぬる
1439

源親教朝臣

つきぐさの花色ごろもたが袖の泪よりまづ移りそめけむ
1440

左衛門督公敏

うつり行く人の心の秋のいろに昔ながらの言の葉ぞなき
1441

左大臣

正安三年九月盡日伏見殿に御幸ありて人々題をさぐりて五十首の歌よみ侍りける時、絶戀

身の秋ぞ喞つ方なき言の葉に露もかゝらずなりぬと思へば
1442

讀人志らず

題志らず

露ばかりかけし情もとゞまらずかれゆく中の道の志ば草
1443

本院侍從に遣しける

朝毎にほす方もなしから衣夜な/\袖のそぼちまされば
1444

本院侍從

返し

ほす方もありとこそ聞けから衣うすくなり行く人の袂は
1445

藤原雅朝朝臣

戀の歌の中に

立ち歸り幾たび袖をぬらすらむよそになるみの沖つ白波
1446

右衞門督教定

逢ふ事も今はなぐさの濱風に猶なみさわぐ袖を見せばや
1447

平時元

知られじな海士の藻汐木こりずまに猶下燃の絶えぬ思は
1448

前權僧正雲雅

人ごゝろあさかの浦の澪標深き志るしもかひやなからむ
1449

正三位經朝

逢ふ事も今はかたみのうら波に遠ざかりゆく海士の釣舟
1450

從三位宣子

いかにせむうき中河の水を淺みせだえがちなる心細さを
1451

觀意法師

流れてと契りし末のいかなればありしにかはる中河の水
1452

唯教法師

逢ひみても人の心のかはるせに又そで濡らす中川のみづ
1453

大江貞重

とにかくに變るぞやすき飛鳥川ふち瀬や人の心なるらむ
1454

前權僧正定顯

夏虫のかげ見し澤の忘れ水思ひ出でゝも身はこがれつゝ
1455

平重時朝臣

水鳥にあらぬ泪の浮寐して濡れつゝ今はなかぬ日もなし
1456

參議雅經

深き江のうきに萎るゝ芦のねのよゝの契も朽や志ぬらむ
1457

平宗宣朝臣

忘れ草心なるべき種だにも我が身になどか任せざるらむ
1458

丹波經長朝臣

いかにして思絶えなむ忘れゆく人の心を我が身ともがな
1459

前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、忘戀

斯て唯とはぬばかりはつらくとも心よりだに忘果てずば
1460

源宗氏

題志らず

忘らるゝ身をうき物と思ひ志る心一つのなどなかるらむ
1461

前參議雅孝

百首の歌奉りし時

自から又もやとふと待たれしはつらさになれぬ心なりけり
1462

前大納言通顯

戀の歌の中に

悔しくぞ契り置きける存へてかはる心のはてをみるにも
1463

讀人志らず

おもひやる心ばかりの通路はよひ/\ごとの關守もなし
1464

太宰權帥爲經

せく袖のいろさへかはる泪かな見しにもあらぬ人の契に
1465

女三宮治部卿

深くのみ思ひそめにしまゝならで心の色のなど變るらむ
1466

津守國助

いづかたに又秋風のかはるらむ靡きそめにし小野の篠原
1467

花山院内大臣

寳治の百首の歌奉りける時、寄風戀

言の葉は便あらばと思ひしをことかたにのみ秋風ぞ吹く
1468

前參議實俊

題志らず

つれなくも猶したはるゝ心かな思ひ絶えねとつらき契を
1469

權中納言實前

逢見しも人のこゝろの外なれや又つれなさにかへる契は
1470

中納言定頼

久しく音づれもせで人のもとに申し遣しける

池水のいひ絶えぬとや思ふらむふかき心はいつか變らむ
1471

源邦長朝臣

題志らず

山の井の淺きながらも頼みしは影見しまでの契なりけり
1472

爲道朝臣

なにゆゑに袖ぬらすらむ人心あさ澤みづの思ひ絶えなで
1473

安嘉門院甲斐

ふかゝらぬ人の契にいにしへの野中の水は結び絶えにき
1474

前大納言爲世

二品法親王の家の五十首の歌に、絶戀

遂にきて絶えける物を水無瀬川ありて行く水今は頼まじ
1475

權中納言爲藤

三十首の歌奉りし時

河舟のみをさかのぼる綱手繩たえにし後も身は焦れつゝ
1476

冷泉太政大臣

寳治の百首の歌奉りける時、寄橋戀

かづらきや久米の岩はし中たえて通はぬ人の契をぞ知る
1477

源兼氏朝臣

戀の歌の中に

戀ひ渡る心ばかりや絶えざらむ久米路の橋のよるの契は
1478

式部卿久明親王

逢ふ事はをだえの橋の橋柱又立ちかへり戀ひわたるかな
1479

權大納言冬教

思はずよそをだに後の形見にてうかりし節も忍ばれむとは
1480

禪心法師

諸共に思ふが中のいかならむつらきだに社戀しかりけれ
1481

源義行

斯ばかり思ふといふを頼まぬは誰につらさを傚初めけむ
1482

津守國助

永仁二年龜山院に五十首の歌めされける時

命をばあふにかへてし中なればある物とだに人は思はじ
1483

前内大臣公

題志らず

はかなくぞ此世ばかりを契りける又逢ふ迄もしらぬ命に
1484

永福門院

同じ世を頼む方にはあらね共なれし名殘ぞ忘れかねぬる
1485

權大納言兼季

戀ひ死なむ後を頼まむこの世こそ短かりける契なりとも
1486

前關白太政大臣

嘉元の内裏の二十首の歌に

絶えなばと誓ひし末の命さへわがいつはりに存へにけり
1487

平貞俊

戀の歌の中に

せめてなどその曉を限ぞといひても人のわかれざりけむ
1488

平宣時朝臣

今は早やよそにのみ聞く曉も同じ音にこそ鳥はなくなれ
1489

前内大臣公

諸共にいとひなれにし鳥の音を獨聞くにも袖はぬれけり
1490

從二位行家

寳治の百首の歌奉りける時、寄鏡戀

山鳥のはつ尾の鏡それならば隔つる人のかげも見てまし
1491

二條院讃岐

題志らず

今更にいかゞはすべき新枕としの三年を待ちわびぬとも
1492

右近大臣道綱母

打ちはらふ塵のみ積る狹莚も歎く數にはしかじとぞ思ふ
1493

平泰氏

今ははや待ちならひこし夕暮を昔になして濡るゝ袖かな
1494

津守棟國

今さらにくべき宵とも頼まれず契絶えにしさゝがにの糸
1495

藤原貞忠

とはずとていつまで人を恨けむ思絶えては言の葉もなし
1496

藤原宗行

夏引の手引の糸のわくらばに訪はれし中ぞ今は絶えぬる
1497

爲道朝臣

こぬまでも心ひとつを慰めて頼みし程のいつはりもなし
1498

後二條院御製

はかなくぞ一夜二夜の隔てをも身にならはずと昔恨みし
1499

中宮

自から思ひ出づやと頼むかなつらき心のはては見しかど
1500

萬秋門院

嘉元の百首の歌に、逢不會戀

いつなれし面影ぞとも喞たれず唯身にそふを慰めにして
1501

僧正覺圓

題志らず

めぐり逢ふ月は變らぬ面影をいかなる雲の立ち隔てけむ
1502

前大納言爲氏

弘安の百首の歌奉りける時

面影の忘れぬばかり形見にて待ちしに似たる山の端の月
1503

大藏卿隆博

戀の歌の中に

もろ共に待出でし夜の面かげも更に戀しき山の端のつき
1504

順徳院御製

暮をだに猶まちわびし有明のふかき別となりにけるかな
1505

月もなほ見し面影やかはるらむなきふるしてし袖の泪に
1506

信實朝臣

いつまでと知らぬかたみの月影を宿す泪に袖や朽ちなむ
1507

大藏卿隆博

永仁二年八月十五夜十首の歌講ぜられし時、月前契戀といへる心を

月をだに見しよの影と思出でよ契の末はあらずなるとも
1508

爲道朝臣

おのづから共に見し夜の面かげも昔になりぬ秋のよの月
1509

新院兵衛督

題志らず

廻りあふ月を其夜の形見とも人はかけても思ひ出でじを
1510

太政大臣

色かはる月のかつらの影よりや秋の心はうつりはてけむ
1511

參議公明

忘らるゝ我身ぞあらぬめぐりあふ月は昔の影もかはらで
1512

前參議雅孝

おのづから思ひや出づるうき人の心志らせよ夜はの月影
1513

法眼行濟

もろともに見しを形見の面かげに月ぞ泪を猶さそひける
1514

義圓法師

うきながら今は形見の夜半の月せめて泪に曇らずもがな
1515

前中納言經繼

嘉元の百首の歌奉りし時、忘戀

人はよも思ひも出でじあふ事は見しをかぎりの有明の月
1516

廣義門院

題志らず

有明の月こそ見しにかはらねど別れし人は影だにもなし
1517

基俊

有明の月と共には出でしかど君が影をばとゞめざりけり
1518

藤原爲綱朝臣

かぎりとも知らで別れし有明の月を形見と幾夜みるらむ
1519

今出河院近衛

思出づる有明の月も掻暮れてうかりし中は形見だになし
1520

藤原泰宗

諸共にながめし夜半の月ばかり面影殘るかたみとぞなる
1521

平齊時

忘れずよ八重雲がくれ入る月のへだてし中に殘る面かげ
1522

從三位親子

うき人は影離れにし袖の上に月なればとていかゞ宿さむ
1523

前大納言良教

弘長の内裏の百首の歌奉りける時、寄月戀

諸共に見しを形見の月だにも朽ちなば袖に影や絶えなむ
1524

津守國助

戀の歌の中に

いかにみし木の間の月の名殘より心づくしの思そふらむ
1525

從二位行家

ひとりわが泪にくらす月影を誰とさやかに人の見るらむ
1526

其儘に夢のたゞぢも絶えにけりいかに定めし夜半の枕ぞ
1527

前大僧正隆辨

弘安の百首の歌奉りける時

片敷の袖のみぬれていたづらに見し夜の夢は又も結ばず
1528

平貞資

題志らず

稀に見し夢の契も絶にけり寐ぬ夜や人のつらさなるらむ
1529

中臣祐春

驚かす契はさこそ難からめ見し世をだにも夢になせとや
1530

平行氏

逢ふ夢につらさを猶やそへつらむさむる現に物思へとて
1531

前中納言爲相

嘉元の百首の歌奉りし時、逢不遇戀

結ばでもあらまし物をなれし世の契を今の夢と知りせば
1532

今出河院近衛

戀の歌の中に

見ずもあらで覺めにし夢の別より綾なくとまる人の面影
1533

中宮

いかなれば見し夜の夢を現とも思ひあはせぬ契なるらむ
1534

太政大臣

百首の歌奉りし時

我のみぞ思ひあはするそのまゝに又見ぬ夢の昔がたりは
1535

前參議家親

題志らず

今はたゞ夢とぞなれるいつまでか思ひ出でしも現なりけむ
1536

龜山院御製

弘安の百首の歌めされける次でに

おなじ世に見しは現もかひなくて夢ばかりなる人の面影
1537

正三位爲實

戀の歌とてよみ侍りける

夢にても又逢ふ事や難からむまどろまれぬぞせめて悲しき
1538

祝部成良

おのづから見しや其夜の面影もいかなる夢の契なりけむ
1539

源重之女

逢見しは夢かとつねに歎かれて人に語らまほしき頃かな
1540

貫之

平貞文の家の歌合に、會後戀

あかずして別れし人をゆめに見て現にさへも落つる涙か
1541

友則

題志らず

立ち返り思ひ捨つれど石の上ふりにし戀は忘れざりけり
1542

業平朝臣

年だにも十とてよつはへにけるを幾度人を頼みきぬらむ
1543

宗于朝臣

年月は昔にもあらずなりぬれど戀しき事は變らざりけり
1544

後深草院少將内侍

忘られぬ物からつらき年月はいかなる中の隔てなるらむ
1545

藤原爲明朝臣

さりともと猶頼みしは年月を隔てぬ程のつらさなりけり
1546

院御製

遇不逢戀を

一夜だに猶へだてじと思ひしにうき年月の積りぬるかな
1547

龜山院御製

戀の歌とてよませ給うける

年月のあはぬつらさを重ねても猶立ちかへる袖のうら波
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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