續千載和歌集

Shoku Senzai wakashū

作者複数 Various

續千載和歌集卷第二
春歌下

87

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、惜花

かく計をしと思ふ日を暮れぬとて花みで歸る人さへぞうき
88

前大納言爲家

西園寺入道前太政大臣の家の三首の歌に、花下日暮といへる心を

ながしとも思はで暮れぬ夕日かげ花にうつろふ春の心は
89

源重之女

題志らず

春の日は花に心のあくがれて物思ふ人と見えぬべきかな
90

藤原清輔朝臣

思ひねの心や行きて尋ぬらむ夢にも見つる山ざくらかな
91

後法性寺入道前關白太政大臣

家に歌合し侍りけるに、花下明月

照る月も光をそへよ春ならでいつかは花と共に見るべき
92

順徳院御製

花の歌とてよませ給うける

ほの%\と明け行く山の櫻花かつ降り増る雪かとぞ見る
93

鎌倉右大臣

弓のわざし侍りけるに芳野山のかたをつくりて、山人の花見たる所をよみ侍りける

三吉野の山に入りけむ山人となりみてしがな花にあくやと
94

談天門院

山花といへる心を

芳野山まがふさくらの色なくばよそにや見まし峯の白雲
95

前大納言爲氏

嵐山ふもとの花のこずゑまで一つにかゝる峯のしらくも
96

六條内大臣

百首の歌奉りし時

しら雲のへだつるかたや山鳥の尾上に咲ける櫻なるらむ
97

正三位爲實

大原や小鹽のさくら咲きぬらし神代の松にかゝる白くも
98

萬秋門院

題志らず

咲きにけり外山の峰の櫻花たなびく雲のいろぞうつろふ
99

權大納言經繼

百首の歌奉りし時

白雲は立ちも別れで吉野山花のおくより明くるしのゝめ
100

平貞時朝臣

題志らず

三芳野やをのへの花に入る月の光をのこす山ざくらかな
101

前大納言俊光

霞みつるをちの高嶺もあらはれて夕日にみゆる山櫻かな
102

内大臣

百首の歌奉りし時

花のいろは猶暮れやらで初瀬山をのへの鐘の聲ぞ聞ゆる
103

邦省親王

題志らず

葛城や高間の霞立ちこめてよそにも見えぬ花のいろかな
104

入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、花

山ざくら花の外なるにほひさへ猶立ちそふは霞なりけり
105

二品法親王覺助

百首の歌奉りし時

咲きつゞく花はそれとも見えわかで霞のまより匂ふ白雲
106

津守國助

花の歌の中に

深山木のしげみの櫻咲きながら枝に籠れる花とこそ見れ
107

左大臣

徳治二年三月、歌合に

身の春をいつとか待たむ九重の御階の櫻よそにのみ見て
108

左近大將爲教

南殿の櫻を本府より植ゑ侍りける時大内の花のたねにて侍りければ

古への雲居の櫻たねしあれば又春にあふ御代ぞ知らるゝ
109

前關白太政大臣

百首の歌奉りし時

百敷や御階の花はいにしへにいつまで花の匂ひなりけむ
110

法皇御製

故郷花を

故郷にむかし忘れず咲く花はたが世の春を思ひ出づらむ
111

權中納言爲藤

今上いまだみこの宮と申し侍りし時講ぜられし五首の歌の中に、花

さゞ浪や志賀の故郷あれまくを幾世の花に惜みきぬらむ
112

後鳥羽院御製

五十首の歌よませ給うけるに

はなゆゑに志賀の故郷今日見れば昔をかけて春風ぞ吹く
113

入道二品親王性助

故郷花といふ事を

住み捨てし我が故郷を來て見れば花ばかりこそ昔なりけれ
114

源兼氏朝臣

花の歌の中に

へだて行く昔の春のおもかげに又立ちかへる花のしら雲
115

中務

天徳四年、内裏の歌合に、櫻

年毎に來つゝわが見る櫻花かすみも今は立ちなかくしそ
116

源俊頼朝臣

堀河院の御時中宮の御方にて、かたをわかちて花を折りに遣はして、御前にたてならべて歌よませ給ひにけるによめる

吹く風を厭ひてのみも過すかな花見ぬ年の春しなければ
117

平宣時朝臣

題志らず

いきてこそ今年も見つれ山櫻はなに惜しきは命なりけり
118

前大納言爲家

花を見て慰むよりや三吉野の山をうき世の外といひけむ
119

安嘉門院四條

弘安の百首の歌奉りける時

いか計人を待たまし宿からに訪はれぬ花と思ひ知らずば
120

藻壁門院少將

花の歌の中に

よしさらば風にも散りね櫻花みる我ならで訪ふ人もなし
121

讀人志らず

おのづから花のをりのみ訪ふ人の心の色をいかゞ頼まむ
122

權大納言長家

白川の花見侍りて次の日よみ侍りける

立ち歸りいざ又行かむ山ざくら花の匂のうしろめたさに
123

白川院御製

題志らず

峰つゞき匂ふ櫻をわが物と折りてや來つる春の日ぐらし
124

左京大夫顯輔

をしむとていくかもあらじ山櫻心のまゝに折りて歸らむ
125

野宮左大臣

千五百番歌合に

如何ばかり待つも惜むも花ゆゑは人の心をみよし野の山
126

民部卿實教

前大納言爲世すゝめ侍りし春日の社の三十首の歌の中に

誰も皆花にかへさや忘るらむ今日は山路に逢ふ人もなし
127

法印定爲

前中納言定房の家にて、花下日暮といへる心をよみ侍りける

尋ねつる志るべと頼む山人の歸るも知らず花を見るかな
128

順助法親王

濡れつゝもあかずぞ見つる山ざくら薫る軒端の花の雫に
129

法印長舜

花の歌の中に

散るをこそうしともかこて咲く花の匂はさそへ春の山風
130

平宗宣朝臣

あだに咲く花のつらさに習はずは散らぬより先物は思はじ
131

藤原隆信朝臣

あだに散る物からいかで櫻花のどけき春の色を見すらむ
132

前大納言爲氏

風のまに散らずはありとも山櫻いくかを花の盛とは見む
133

權中納言通俊

寛治八年高陽院の歌合に、櫻

春風は吹くとも散るなさくら花はなの心を我になしつゝ
134

花山院御製

題志らず

霞立つやまの櫻はいたづらに人にも見えで春や過ぐらむ
135

太宰權帥爲經

移ろはでしばしはまがふ山櫻ちればよそなる峯のしら雲
136

前攝政左大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、花

いとはじよ空に嵐のさそはずば四方の梢の花を見ましや
137

今上御製

落花の心をよませ給うける

あだなりと移ろふ花に喞つ哉ちらぬを風も誘ひやはする
138

仁和寺二品法親王守覺

花の歌の中に

花と見るよそめばかりの白雲もはらふはつらき春の山風
139

前中納言定家

正治二年九月、十首歌合に、落花

わがきつる跡だに見えず櫻花ちりのまがひの春の山かぜ
140

辨乳母

小野皇太后宮にまうでけるに、道なりける花は散りて、かしこには盛なりければよみ侍りける

都には散りにしものを山櫻われを待つとや風もよきけむ
141

中納言朝忠

天徳四年内裏の歌合に、櫻

あだなりと豫て知りにき櫻花惜む程だにのどけからなむ
142

貫之

題志らず

散る時はうしと見れども忘れつゝ花に心の猶とまるかな
143

讀人志らず

手折りても猶うつろはゞ櫻ばな心づからのうさや忘れむ
144

參議雅經

建保四年後鳥羽院に百首の歌奉りける時

春風は花ちるべくも吹かぬ日におのれうつろふ山櫻かな
145

津守國助

名所の歌よみ侍りける中に

櫻花散らでもおなじ手向山ぬさとな吹きそ春のゆふかぜ
146

九條左大臣

惜落花といへる心を

散る花のあかぬ色香を身にかへてさも慕はるゝ山櫻かな
147

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時

慣れてみる老木の花よ散り易き我が涙には習はざらなむ
148

前關白太政大臣

雨後落花を

あめはるゝ軒端の花に風過ぎて露もたまらず散る櫻かな
149

中務卿恒明親王

花の歌の中に

立歸り風をのみ社恨みつれ吹かずば花も散らじと思へば
150

俊惠法師

後法性寺入道前關白の家の歌合に、花下明月

花よりも月をぞ今宵惜むべき入なば爭で散るをだに見む
151

俊頼朝臣

修理大夫顯季人々に花の十首の歌よませ侍りけるに

をしとだにいはれざりけり櫻花ちるを見るまの心惑ひに
152

大納言經信

題志らず

春風の吹きまふ時は櫻ばな散りぬる枝に咲くかとぞ見る
153

前内大臣通

吉野川花の志がらみかけてけり尾上の櫻いまや散るらむ
154

從三位氏久

山川に花の流るゝを見て

散る花の浪を岩根に吹きこして風にぞまさる山川のみづ
155

常磐井入道前太政大臣

西園寺の花の盛に申し遣しける

おもひやる心の花も池水にうつるばかりの色や見ゆらむ
156

西園寺入道前太政大臣

返し

今日來ずば明日とも待たじ櫻花徒らにのみ散らば散らなむ
157

源兼康朝臣

花纔殘といふ事を

明日は又いかに眺めむ散果てぬ今日だにつらき花の梢を
158

源邦長朝臣

題志らず

吹く風を恨みもはてじ山櫻こゝろと散らば花の名も惜し
159

平貞時朝臣

なれて見る我が名殘をば惜までや誘ふ嵐に花の散るらむ
160

平齊時

昨日見し梢の花はこのねぬる朝げの風にふれる志らゆき
161

前大僧正實超

分きてなどおなじ梢の春風にかたえ殘して花の散るらむ
162

藤原泰宗

池上落花をよめる

散りのこるみぎはの櫻かげ見えて花の波たつ春風ぞ吹く
163

津守國冬

嘉元の百首の歌奉りし時、花

さくら花ちり殘るらし吉野山あらしの跡にかゝる志ら雲
164

法印定爲

風わたる雲のはやしの山櫻はなのところも雪と降りぬる
165

前大納言爲氏

文永二年内裏の十首の歌に、落花似雪といふ事を

雪とのみ降りこそまされ山櫻うつろふ花の春の木のもと
166

伏見院御製

硯のふたに櫻を入れて入道前太政大臣につかはされける

散りまよふ面影をだにおもひやれ尋ねぬ宿の花の志ら雪
167

入道前太政大臣

御返し

訪はでしも見るぞかひあるよそ迄も散來る庭の花の白雪
168

後京極攝政前太政大臣

正治の百首の歌奉りける時

今日も又とはで暮れぬる故郷の花は雪とや今は散るらむ
169

後鳥羽院御製

題志らず

吉野山くもらぬ雪と見るまでに有明の空に花ぞ散りける
170

從二位家隆

前大納言爲家の家に百首の歌よみ侍りけるに

かづらきや高間の嵐吹きぬらし空に知らるゝ花の志ら雪
171

修理大夫顯季

承暦二年四月内裏の歌合に、櫻

尋ねこぬさきには散らで山櫻みる折にしも雪と降るらむ
172

常磐井入道前太政大臣

月花門院へ奉りける

山里は訪ひ來る人の跡もなし降りつむ花は雪と見れども
173

藤原爲道朝臣

永仁二年三月内裏にて人々三首の歌よみ侍りける時、山路落花を

散らぬまに越ゆべかりける山路共跡つけ難き花に社しれ
174

伏見院御製

寄風花といへる心をよませ給うける

うつろふも心づからの花ならばさそふ嵐をいかゞ恨みむ
175

藻壁門院少將

花の歌の中に

哀れなど風に心のなき世とて春咲く花を散らしはつらむ
176

西園寺入道前太政大臣

袖の上にあかぬ色香は留めおけ暮れなば春の花の形見に
177

大江千里

落盡閑花不見人といへる心を

跡たえて靜けき宿に咲く花のちりはつる迄みる人ぞなき
178

讀人志らず

謙徳公の家の歌合に

うぐひすの羽風に花や散りぬらむ春暮れ方の聲に鳴く也
179

今上御製

みこの宮と申し侍りし時よませ給うける

さのみやは春の深山の花を見むはやすみ昇れ雲の上の月
180

前大納言爲世

百首の歌奉りし時

老いてこそ涙も曇れ春の夜の月はいつより霞みそめけむ
181

二品親王覺助

かすむ夜の月にぞさらに忍ばるゝ忘るばかりの春の昔は
182

平時村朝臣

春月を

春の夜のかすみに曇る空なれば涙いとはで月や見るべき
183

後深草院少將内侍

くもるとは見えぬ物から久方の空にかすめる春の夜の月
184

讀人志らず

つらしとは恨みざらまし春の夜の月を隔てぬ霞なりせば
185

前大納言爲氏

弘長元年百首の歌奉りける時、同じ心を

見ずもあらず見もせぬ影の中空に綾なく霞む春の夜の月
186

伏見院御製

春曉月といへる事を

月影を霞にこめて山の端のまだ明けやらぬしのゝめの空
187

躬恒

延喜の御時の御屏風に

ひとりのみ見つゝぞ忍ぶ山吹のはなの盛にあふ人もなし
188

前大納言爲家

寳治の百首の歌奉りける時、籬山吹

山吹の花こそいはぬいろならめもとの籬を問ふ人もがな
189

土御門院小宰相

暮れぬとて人もとまらぬ籬には咲く山吹の花の名もうし
190

法皇御製

同じ心をよませ給うける

さくら花散りにし後は山ぶきの咲ける籬にのこる春かな
191

權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りし時、山吹

暮果つる春の名殘を惜しとだにえやはいはねの山吹の花
192

權僧正覺圓

春の歌の中に

行く春を惜しとはいはぬ色ながら心にうつる山吹のはな
193

後鳥羽院御製

山吹の花いろ衣さらすてふ垣根や井手のわたりなるらむ
194

前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りける時

行く春はさてもとまらで山ぶきの花にかけたる井手の柵
195

法皇御製

藤埋松といへる心をよませ給ひける

松が枝はみどりすくなく埋れてむらさきかゝる池の藤浪
196

右近大將房實

題志らず

いく春も花のさかりを松が枝に久しくかゝれ宿の藤なみ
197

三條入道内大臣

二葉より契りおきてや藤浪の木高き松にかゝり初めけむ
198

隆信朝臣

おきつ風吹くとも見えぬ高砂の尾上の松にかゝる藤なみ
199

伊勢

海づらなる家に藤の花のさけりけるをよめる

我が宿の影とぞ頼む藤の花立ちよりくとも浪に折らるな
200

中納言朝忠

天徳四年内裏の歌合に、藤

むらさきに匂ふ藤浪うちはへて松にぞ千世の色も懸れる
201

平兼盛

屏風の繪に、松に藤のかゝれる所

ときはなる花とぞ見ゆる我が宿の松に木高く咲ける藤浪
202

大中臣能宣朝臣

題志らず

櫻花ちりだにせずば大かたの春を惜しとは思はざらまし
203

藤原景綱

行く春の日數に花も移り來て殘りすくなき山ざくらかな
204

山階入道左大臣

寳治二年百首の歌に、惜花

如何にして暫しとゞめむ櫻花ちりなばなげの春の日數を
205

右大臣

題志らず

一かたの別れをせめてとゞめばや花と春との同じ名殘に
206

關白内大臣

百首の歌奉りし時

行く春も猶木の本に立ちとまれ庭の櫻のちりのまがひに
207

前權僧正雲雅

暮春の心を

散りかゝる花を誘ひて行く水の返らぬ浪に春ぞ暮れぬる
208

權大納言兼季

吹きおろす嵐の山に春暮れてゐせきにむせぶ花のしら浪
209

西園寺入道前太政大臣

暮春の心を

散りかゝる花の影見し山の井のあかでも春の暮にける哉
210

後鳥羽院御製

人々に五十首の歌めしけるついでに

徒らに春くれにけり花の色の移るを惜むながめせしまに
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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