續千載和歌集

Shoku Senzai wakashū

作者複数 Various

續千載和歌集卷第三
夏歌

211

衣笠内大臣

寳治の百首の歌奉りける時、首夏

春をのみをしみし程に夏衣たつ日に早くなりにけるかな
212

和泉式部

四月一日によみ侍りける

昨日をば花の陰にて暮してき今日こそいにし春は惜けれ
213

赤染衞門

卯月の頃遲櫻を人の許に遣はすとて

まだ散らぬ花に心を慰めて春過ぎぬともおもはざりけり
214

左京大夫顯輔

永久四年四月鳥羽殿の歌合に、卯花を

朝日山ふもとの里の卯の花をさらせる布とおもひける哉
215

二條院讃岐

千五百番歌合に

神まつる卯月の花も咲きにけりやま時鳥ゆふかけて鳴け
216

式乾門院御匣

弘安の百首の歌奉りける時

住の江の松は久しきほとゝぎす遠里小野に一こゑもがな
217

讀人志らず

題志らず

はつ音をばわが方に鳴け杜鵑こと浦に待つ人はありとも
218

在原元方

亭子院の歌合に

み山出でむまづ初聲は郭公夜ふかくまたむ我が宿に鳴け
219

前大納言公任

題志らず

ほのかにも聞かぬ限は時鳥まつ人のみぞ寐られざりける
220

後深草院少將内侍

寳治の百首の歌奉りける時、待時鳥

時鳥初音待たるゝ時にこそみじかき夜半も明しかねけれ
221

關白家新少將

同じ心を

明けやすき夏の夜なれど郭公まつに幾たび寐覺しつらむ
222

前參議雅孝

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公

待ちかねてまどろむ夜はの時鳥夢ならで聞く一聲もがな
223

前右大臣

百首の歌奉りし時

我ならぬ人にもかくや時鳥さのみ初音のつれなかるらむ
224

前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公

郭公人もきかずばつれなさを我が身一つと恨みざらまし
225

前大納言師重

夏の歌の中に

人ごとに聞きつと語る郭公など我が爲になほ待たるらむ
226

皇后宮

尋ねばや志のぶの山のほとゝぎす心の奥の事やかたると
227

慈道法親王

ほとゝぎす猶急がるゝ初音かな都の人の聞かぬさきにと
228

今出川院近衛

題志らず

あだ人のいつの契にならひけむ待たれてとはぬ時鳥かな
229

伏見院御製

頼めおく時とはなしに郭公ゆふべはわきて猶まさるらむ
230

法橋顯昭

はつ聲をさてもや聞くと郭公またで年ふる人にとはゞや
231

三條入道左大臣

待つ程の心もくるしほとゝぎすいかで思の外に聞かまし
232

平時元

つれなきを習ひになさで時鳥今年は早くはつ音なかなむ
233

藤原泰宗

ほとゝぎす五月まつ間の忍びねも顯はれぬべき村雨の空
234

前中納言季雄

我にこそつれなしとても郭公かたぶく月に音をば惜まじ
235

權大納言兼季

あり明の月には待たじ郭公つれなき影にならひもぞする
236

前大納言俊定

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公

つれなさをいつと頼みて郭公猶ありあけの月に待つらむ
237

伏見院御製

おなじ心を

つれなさを月にぞかこつ郭公まつにむなしき有明のそら
238

藤原基俊

題志らず

唐衣たつ田の山のほとゝぎすうらめづらしき今朝の初聲
239

安法法師

聞初むるかひ社なけれ時鳥またれぬ夜はゝあらじと思へば
240

伊勢

郭公夜ふかき聲は月まつと起きていをねぬ人ぞ聞きける
241

寂蓮法師

曉聞郭公といへる心を

ほとゝぎす有明の月の入り方に山の端出づる夜はの一聲
242

源道濟

人の扇の繪に郭公きゝたる所をよませ侍りけるに

郭公なくこゑ聞けば山里につねよりことに人ぞ待たるゝ
243

法眼行濟

夏の歌の中に

山ふかくたづねて入れば郭公わけつる雲の跡に鳴くなり
244

權中納言爲藤

待たれつる身にこそ頼め郭公かたらふ聲は誰となけれど
245

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、聞郭公

我も又いざ語らはむほとゝぎす待ちつる程の心づくしを
246

藤原爲定朝臣

前大納言爲世よませ侍りし春日の社の卅首の歌の中に

なほざりに鳴きてや過ぐる郭公まつは苦しき心づくしを
247

平宣時朝臣

題志らず

ほとゝぎす一聲とこそ思ひしに待ち得てかはる我が心哉
248

法印長舜

初聲の後はなか/\郭公鳴かぬたえまぞなほ待たれける
249

津守國助女

いづくにも待たれしものを今は又なかぬ里なき時鳥かな
250

二品法親王覺助

我が爲は初音なれどもほとゝぎす誰か二度今は聞くらむ
251

法皇御製

百首の歌めされしついでに

鳴き過ぐるならしの岡の郭公ふる郷人にことやつてまし
252

法印定爲

妻ごひを忍びかねてや郭公今日はいはせの森に鳴くらむ
253

辨内侍

永承四年祐子内親王の家の歌合に

いつしかと待ちつるよりも時鳥聞きてぞいとゞ靜心なき
254

西行法師

題志らず

待つ事は初音までかと思ひしに聞きふるされぬ時鳥かな
255

京極入道前關白太政大臣

永保元年内裏にて、暮天時鳥を

人とはでおのれと名のる時鳥暮れ行く空を過ぐる一こゑ
256

太宰大貳高遠

夜郭公といふ事を

まどろまば聞かずやあらまし時鳥さも夜深くも鳴渡る哉
257

權中納言通俊

承暦二年内裏の後番の歌合に郭公をよみ侍りける

あけばまづ人に語らむ時鳥夜ふかく宿を鳴きて過ぐなり
258

禎子内親王家攝津

おなじ心を

夢かとぞおどろかれぬる郭公又もきなかぬ夜はの一こゑ
259

上西門院兵衞

後徳大寺左大臣のもとより山近きすみかは時鳥も人よりさきに聞きつらむといひ遣して侍りければ

明けがたに初音は聞きつ郭公待つとしもなき老の寢覺に
260

前參議雅有

夏の歌の中に

鈴鹿山あけがたちかき天の戸をふり出でゝ鳴く郭公かな
261

前關白左大臣近衛

寢覺に郭公を聞きて

明け方に啼きてぞ來ぬる郭公つれなき夜はと何恨みけむ
262

前大僧正良信

曉時鳥を

曉の鳥の八こゑに一聲を鳴きそへて行くほとゝぎすかな
263

伏見院新宰相

題志らず

郭公あかず聞きつる名殘より寢覺の後はまたぞ寐られぬ
264

永福門院

ほとゝぎす聲もたかねの横雲に鳴き捨てゝ行く曙のそら
265

山階入道左大臣

弘長二年龜山院に十首の歌奉りける時、野時鳥

郭公一聲ゆゑに武藏野の野をなつかしみ過ぎもやられず
266

前中納言定家

正治の百首の歌奉りける時

時鳥しばしやすらへすがはらや伏見の里のむらさめの空
267

光明峰寺入道前攝政左大臣

家の歌合に、羇旅郭公といふ事を

休らはゞ暫しは聞かむ時鳥芦のまろ屋のかりねなりとも
268

源邦長朝臣

題志らず

難波潟葦ふく小屋の軒端にも今日や菖蒲の隙なかるらむ
269

法眼慶融

五月雨

かりにふく蓬あやめの一もとも軒端にかれぬ五月雨の空
270

祝部成茂

寳治の百首の歌奉りける時、早苗

五月きぬみとしろ小田にしめはへて神の宮人早苗とらなむ
271

堀河右大臣

時鳥しのばぬこゑを聞くよりや山田の澤に早苗とるらむ
272

野宮左大臣

千五百番歌合に

足引の山した水をひきかけし裾わの田井に早苗とるなり
273

法印定爲

法眼行濟すゝめ侍りし北野の社の十八首の歌に

見渡せば鳥羽山小田の松かげに緑をそへてとる早苗かな
274

津守國道

二品法親王の家の五十首の歌に、早苗

下草はうゑぬに茂るおほあらきの杜の浮田に早苗とるなり
275

前中納言經繼

題志らず

まぢかくも花橘のにほふかなむかしはとほき宿の軒端に
276

皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りける中に

ふる里にいかに昔を忍べとて花たちばなの風に散るらむ
277

基俊

蘆橘暮薫といへる心を

袖ふれしむかしの人ぞ忍ばるゝ花たちばなのかをる夕は
278

平雅貞

題志らず

風かよふ夜はの寐覺の手枕に袖の香そへて匂ふたちばな
279

權大納言定房

百首の歌奉りし時

たちばなの影ふむ道を過ぎやらで暫し待たるゝ時鳥かな
280

後鳥羽院御製

五十首の歌よませ給うけるに

ほとゝぎす心して鳴けたちばなの花ちる里の夕ぐれの空
281

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公

時鳥菖蒲のねにもあらなくに五月をかけてなど待たる覽
282

皇太后宮大夫俊成

久安の百首の歌奉りける時

五月こそなれが時なれ郭公いつをまてとて聲をしむらむ
283

昭慶門院一條

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公

ほとゝぎす己が五月の雨晴れて村雨まよふ空に鳴くなり
284

祝部成賢

五月雨をよめる

五月雨に烟たえても海士人のなほ汐たるゝ袖のうらなみ
285

津守國助

尋ねばやいはでの山の谷水も音たてつべき五月雨のころ
286

前大納言爲世

河五月雨といふ事を

山川の岩にせかるゝ音もなしうへ越す波の五月雨のころ
287

百首の歌奉りし時

山の井も増るみかさに濁るらし影さへ見えぬ五月雨の頃
288

權津師實性

池五月雨を

池水のみぎはも見えずなりにけり庭に浪こす五月雨の頃
289

大江宗秀

題志らず

日數經て浪やこすらむ五月雨は雲間も見えずふるの高橋
290

高階宗成朝臣

五月雨に流れて下る山川のみをの杣木はよどむ瀬もなし
291

前關白太政大臣

百首の歌奉りし時

最上川みかさまさりて五月雨の暫しばかりも晴れぬ空哉
292

前大納言爲家

題志らず

五月雨は行くさき深しいはた河渡る瀬ごとに水まさりつゝ
293

光明峯入道前攝政左大臣

家の百首の歌に、山五月雨

龍田河みぎはの浪も立ちそひぬ三室の山の五月雨のころ
294

前大僧正道昭

同じ心を

水まさるふもとの河の音そひて猶峰ふかき五月雨のくも
295

權中納言爲藤

百首の歌奉りし時

天の河まさるみかさは知らねども雲の浪たつ五月雨の空
296

前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時

五月雨は天のかぐ山空とぢて雲ぞかゝれる峰のまさか木
297

皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合に

見ても猶あかぬ夜のまの月影を思ひ絶えたる五月雨の空
298

大江貞重

名所夏月といふことを

明け易き空にぞいとゞなぐさまぬ姨捨山のみじか夜の月
299

前大納言爲氏

弘長三年内裏の百首の歌奉りける時、夏曉月

夏草のあかつきおきの露のまに移れば明くる山の端の月
300

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに夏月をよませ給ひける

夏の夜もかげぞ凉しき久方の月のいづくに秋やどるらむ
301

中原師員朝臣

鵜河を

夏の夜の明け行くほども早瀬さす鵜河の篝影しらむなり
302

前内大臣通

鵜飼舟くだすほどなき短夜の川瀬に殘るかゞり火のかげ
303

入道前太政大臣

大井河鵜舟くだせばあかつきの月は空にぞさし昇りける
304

前大納言爲世

嘉元の卅首の歌奉りし時

鵜飼舟せゞさしのぼる白浪にうつりてくだる篝火のかげ
305

順徳院御製

題志らず

朝な/\みつの上野にかる草の昨日の跡はかつ茂りつゝ
306

躬恒

夏草は日毎に深くなりゆけどかれにし人のとはぬ宿かな
307

參議雅經

建保五年四月庚甲、五首の歌に、夏曉

夏草の露わけごろもこの頃もあかつきおきは袖ぞ凉しき
308

法皇御製

百首の歌めされしついでに

なつ草の花の枝ごとに置く露を五月の玉にぬきぞとゞめむ
309

從三位宣子

茂りあふ夏野の草の深ければ分行く人ぞよそに知られぬ
310

院御製

夏草をよませ給うける

今は身の事しげからぬ宿にしも猶みちとづる庭のなつ草
311

龜山院御製

ふみわけて問ふべき人もなき身には宿から茂る庭の夏草
312

山本入道前太政大臣女

淺みどり草の若菜とみし野邊のはや夏ふかく茂る頃かな
313

藤原行房朝臣

前大納言爲世人々すゝめてよませ侍りし春日の社の三十首の歌の中に

夏草のしげみにまじる荻の葉は下にや秋の風を待つらむ
314

院御製

螢をよませ給ひける

風そよぐあしまの螢ほの見えて浪のよる待つ程ぞ凉しき
315

前大納言俊定

嘉元の百首の歌奉りし時、おなじ心を

夏ふかく茂る難波の芦間にもさはらで行くは螢なりけり
316

贈從三位爲子

大井河そらにもゆるやかゞり火にあらぬ螢の思なるらむ
317

前大納言爲氏

弘長の内裏の百首の歌奉りける時、沼螢

苅りてほすあさかの沼の草の上にかつ亂るゝは螢なりけり
318

津守國冬

百首の歌奉りし時

螢とぶおぼろの清水かすかにもしらばや己がもゆる思を
319

前大納言爲家

文永八年七夕、白川殿にて人々題をさぐりて百首の歌よみ侍りける時、蚊遣火

蚊遣火の下やすからぬ烟こそあたりの宿も猶くるしけれ
320

西宮左大臣

夏の歌の中に

もろともに見む人もがな獨のみをればかひなき床夏の花
321

藤原惟成

寛和二年、内裏の歌合に

心して植ゑしもしるく撫子の花のさかりを今も見るかな
322

衣笠内大臣

弘長の百首の歌奉りける時、夕立

此の里もふりぬと思ふ夕立の曇るばかりに過ぎにける哉
323

從二位行家

なる神の音にもしるし卷向の檜原の山のゆふだちのそら
324

前大納言爲氏

文永二年七月白河殿にて人々題をさぐりて七百首の歌つかうまつりける時、湊夕立といふ事を

沖つ浪音吹きたてゝしほ風のみなとにかゝる夕だちの雲
325

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、夕立

かきくらす空とも見えず夕立の過行く雲に入日さしつゝ
326

前參議能清

弘安の百首の歌奉りける時

一むらはやがて過ぎぬる夕立のなほ雲殘るそらぞ凉しき
327

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時

夕立は過ぎぬる峰のむらくもにしばしほのめく宵の稻妻
328

祝部成久

夕立を

程もなく晴れつる方に移りきて日影にかゝる夕立のくも
329

中臣祐賢

題志らず

秋きぬといはぬばかりぞ夏衣すそ野のはらの楢のした風
330

前大納言爲氏

弘長の百首の歌奉りける時、納凉

凉しさは立ちよるからにしられけり秋風ちかき衣手の杜
331

宇治入道前關白太政大臣

題志らず

夕されば志のゝ小笹を吹く風のまだきに秋の景色なる哉
332

前中納言定家

建保四年百首の歌奉りける時

夏衣かとりの浦のうたゝねに浪のよる/\かよふ秋かぜ
333

上西門院兵衛

久安の百首の歌奉りける時

夏衣かさぬばかりに凉しきは結ぶいづみに秋や立つらむ
334

源兼氏朝臣

山階入道左大臣の家の十首の歌に、納涼

せき入るゝ庭の清水はそれながら秋を心に任せやはせぬ
335

爲道朝臣

夏の歌の中に

夕暮の木の志た風に雨過ぎて露もたまらぬ蝉の羽ごろも
336

寂蓮法師

志ばしだに絶えまもなきは夏山の梢につゞく蝉のもろ聲
337

大僧正道順

百首の歌奉りし時

遠近の木ずゑに蝉のこゑはして山路凉しき松の志たかげ
338

關白内大臣

茂合ふ軒端の梢あけたては蝉のをりはへ鳴かぬ日はなし
339

前關白左大臣押小路

みそぎする夜はの河浪音更けて明けぬより吹く袖の秋風
340

昭訓門院春日

わきて又凉しかりけり御手洗や御祓に更くる夜はの河風
341

冷泉太政大臣

寳治の百首の歌奉りける時、六月祓

底清き河瀬の水のあさの葉に白ゆふかけて御祓をぞする
342

皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りける中に

水上に秋や立つらむ御祓河まだよひながら風のすゞしき
343

後鳥羽院御製

千五百番歌合に

御祓河瀬々の玉藻の水隱れて志られぬ秋や今宵立つらむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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