續千載和歌集

Shoku Senzai wakashū

作者複数 Various

續千載和歌集卷第五
秋歌下

460

大納言經信

月不撰處といへる心を

久方の空にかゝれる秋の月いづれの里もかゞみとぞ見る
461

鎌倉右大臣

題志らず

月見ればころも手さむし更科やをばすて山の峯のあき風
462

入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、月

つく%\と詠むるからに身に志むは月より秋の風や吹く覽
463

民部卿實教

物おもふ人のためとや秋の月うきを忘るゝ影を見すらむ
464

前大僧正實承

月の歌の中に

いつ迄か友と見るべき老らくの身の行末は月ぞ知るらむ
465

讀人志らず

なれて見る同じ光の月のみや六十ぢの秋の友となるらむ
466

法皇御製

百首の歌めされしついでに

老が世に秋の心もはれにけり六十ぢ近づく山の端のつき
467

前内大臣重

前大納言爲世玉津島の社にて歌合し侍りし時、月

仕へつゝ見るぞかひある影靡く我身五十ぢの秋の夜の月
468

民部卿資宣女

題志らず

古へにすみこしまゝの影ならば月は幾世の秋を知るらむ
469

後久我太政大臣

ふりにける宿は昔の名殘にて月もかはらぬ影ぞひさしき
470

參議雅經

建保四年後鳥羽院に百首の歌奉りける時

秋の夜の月に幾度ながめして物思ふことの身に積るらむ
471

殷富門院大輔

百首の歌の中に

世の中の憂きにつけても詠むれば月を喞つになりぬべき哉
472

藻壁門院但馬

藤原光俊朝臣よませ侍りける十首の歌の中に

行く末をいかにせとよて今年又月見る袖のぬれ増るらむ
473

民部卿實教

題志らず

秋をへてやどりなれぬる我が袖の月は涙も厭はざりけり
474

前僧正公朝

いかばかり月見る人に厭はれむよそまで曇る涙なりせば
475

平時遠

人とはぬ深山の秋の寂しさを堪へてもすめる夜はの月哉
476

津守國道

長き夜は雲のいづくも明けやらで露にぞ宿る野邊の月影
477

少將内侍

百首の歌奉りし時

置く露の最ど深草里はあれて月のすむ野となりにける哉
478

皇太后宮大夫俊成女

月の歌の中に

尋ねても忘れぬ月の影ぞとふよもぎが庭の露のふかさを
479

皇后宮

秋萩の花野の露にかげとめて月もうつろふ色やかふらむ
480

藤原光俊朝臣

木の葉ふく秋風さむみ足曳の山邊にひとり月を見るかな
481

建中納言公雄

露霜の染めぬ色さへまさりけりかつらの里の秋の夜の月
482

前大納言爲家

建長元年九月十三夜鳥羽殿の五首の歌に、水郷月

さとの名もあらはに志るし長月の月の桂の秋のこよひは
483

源有長朝臣

仁治二年九月十三夜左大臣の家の十三首の歌の中に、月前雲

月影の遠ざかり行く山の端に殘るともなきよそのうき雲
484

藻壁門院少將

河月を

みむろ山峯にや雲の晴れぬらむ神なび河に月ぞさやけき
485

前中納言定家

殷富門院にて人々百首の歌よみ侍りける時、月の歌とてよみ侍りける

となせ河玉ちる瀬々の月を見て心ぞ秋にうつり果てぬる
486

平維貞

河月を

大井河こほりも秋は岩こえて月にながるゝ水の志らなみ
487

前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時

風わたるにほのみづうみ空晴れて月影きよしおきつ島山
488

前大納言爲氏

從二位行家人々にすゝめ侍りける時住吉の社の十首歌合に、江上月

住の江の松の秋風おとづれて空にふけ行く夜半の月かげ
489

西園寺入道前太政大臣

寛元元年長月の頃、住江にまかりて翫明月といふ事をよみ侍りける

住吉の松も我が身もふりにけり哀れとおもへ秋の夜の月
490

前右兵衛督爲教

建治三年九月十三夜五首の歌に、江月

曇りなき影もかはらず昔見しまゝの入江の秋の夜のつき
491

寂惠法師

秋の歌の中に

老いぬれば昔ばかりもながめぬを心かはると月や思はむ
492

平泰時朝臣

もろこしの波路分け行く舟人は心のこらぬ月や見るらむ
493

權中納言爲藤

百首の歌奉りし時

すむ月の影さしそへて入江こぐあしわけ小舟秋風ぞふく
494

後二條院御製

江月といへる心を

ほに出づる荻の上風うちそよぎ入江夜さむにすめる月影
495

中務卿宗尊親王

百首の歌の中に、月

更け行けば松風さむし大伴の三津のとまりの秋の夜の月
496

前中納言定家

道助法親王の家の五十首の歌に、船中月

知らざりき秋の汐路をこぐ舟はいか計なる月を見るらむ
497

法印定爲

百首の歌奉りし時

わたつ海のかざしの浪も白妙に月もてみがく秋の浦かぜ
498

丹波忠守朝臣

左大臣の家の詩歌合に、月前眺望

明石がた浪の千里の末晴れて月はかぎりも見えぬ空かな
499

權大納言冬教

題志らず

伊勢の海や汐瀬遙かに雲晴れて月にぞかゝる秋のうら浪
500

津守國助

山階入道左大臣の家の十首の歌に、島月

浪かくる小島の苫や秋をへてあるじも知らず月や澄む覽
501

觀意法師

故郷月といへる事を

故郷とおもふばかりぞ難波がた昔にかはる月のかげかは
502

前大納言爲氏

住吉の社に奉りける十首の歌の中に、海邊月

難波がた浦よりをちの月かげに浪もへだてぬ淡路島やま
503

入道二品親王道助

家の五十首の歌よみ侍りけるに、山家月を

訪ふ人も嵐ふきそふ深山べに木の葉わけ來る秋の夜の月
504

承鎭法親王

題志らず

秋ふかきとこの山風身にしみて月かげさむき夜はの手枕
505

法印長舜

前大納言爲世よませ侍りし歌に、故郷月といふ事をよみ侍りける

あれにけり我が故郷の苔の庵見しよの儘に月はすめども
506

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りし時、月

たきすさむ烟や殘る秋の田の鹿火屋が上にかすむ月かげ
507

慈道法親王

今上、位につかせおましまして後、護持僧に加はりて二間にまゐりてよみ侍りける

人よりもまづこそ見つれ九重の雲居にすめるよひの月影
508

春宮權大夫有忠

禁中月といふ事を

今ははや近き守になれし身もよそにみはしの雲の上の月
509

正三位爲實

二品法親王の家の五十首の歌に、竹間月

さゝ竹の大宮人はとひもこで葉分の月をひとりこそ見れ
510

式部卿久明親王

月の歌の中に

武藤野や入るべき峰の遠ければ空にひさしき秋の夜の月
511

前大僧正仁澄

秋の夜の月はいづくとわかね共我住む山の影ぞさやけき
512

鎌倉右大臣

さゞ波や比良の山風さ夜更けて月影さむし志賀のから崎
513

津守國助

河風に有明の月を待ち出でゝ寐ぬ夜ふけぬる宇治の橋姫
514

爲道朝臣

永仁二年八月十五夜十首の歌講ぜられし時、山月聞鐘といふ事を

更けゆけば鐘の響もあらし山そらに聞えてすめる月かな
515

大藏卿隆博

題志らず

明けやらぬ鐘の響はほのかにて初瀬の檜原月ぞかたぶく
516

大炊御門太政大臣女

鐘の音に寐ざめて見れば曉の窓にぞ月はかたぶきにける
517

前大納言俊光

百首の歌奉りし時

長き夜もしばしと思ふうたゝねの枕の上に月ぞかたぶく
518

前大納言爲世

明石がた沖にかたぶく月影に雲こそなけれ波ぞかゝれる
519

素暹法師

海上月を

山の端のみえぬ計りぞ渡つ海の波にも月は傾ぶきにけり
520

惠慶法師

月の入るを見て

月の入る山のあなたの里人とこよひ計は身をやなさまし
521

藤原實方朝臣

題志らず

雲懸る峰だに遠き物ならば入る夜の月はのどけからまし
522

後鳥羽院御製

袖のうへになれてもかなし奥山の松の葉わけの有明の月
523

爲道朝臣

いかゞせむ長き習の秋の夜も月をし見れば明くる易さを
524

藤原景綱

あかず見て明くる名殘の惜しければ月にもつらき鳥の聲哉
525

源順

草村虫といふ事を

草村のそこまで月の照せばや鳴く虫の音の隱れざるらむ
526

大藏卿隆博

建治三年九月十三夜五首の歌に、野虫

哀れとは何れをわきて秋の野に多かる虫の聲をきかまし
527

前攝政左大臣

題志らず

此の暮と頼むるひともなき宿にその事となく松虫ぞなく
528

昭訓門院春日

百首の歌奉りし時

更て社つらきも見えめ松虫のくるゝよりなど音には立つ覽
529

從二位家隆

前大納言爲家の家の百首の歌に

草の原くるゝ夜ごとの秋風に人をや頼むまつむしのこゑ
530

神祇伯顯仲

夕虫をよみ侍りける

夕されば蓬がねやのきり%\す枕のしたにこゑぞ聞ゆる
531

前大納言爲家

弘長の百首の歌奉りける時、虫

きり%\す思ふ心をいかにとも互に知らでなき明すかな
532

今上御製

聞虫といへる心を

露ふかき夜さむの秋のきり%\す草の枕に恨みてぞ鳴く
533

民部卿實教

題志らず

心とやなきよわるらむきり%\すおのが涙の露の夜寒に
534

春宮大夫公賢

いとゞ又虫や恨むる淺茅原おきそふ霜の夜さむかさねて
535

藤原基任

前大納言爲世よませ侍りし三首の歌に、叢虫

霜むすぶ淺茅が原の蟋蟀かればともにと音をや鳴くらむ
536

讀人志らず

題志らず

色かはる淺茅が末葉露ちりて虫の音さむく秋かぜぞ吹く
537

後九條内大臣

弘安の百首の歌奉りける時

淺茅生の霜夜の虫も聲すみて荒れたる庭ぞ月はさびしき
538

土御門内大臣

故郷虫を

虫の音はかはらぬ秋の恨にてすみ捨てゝける淺茅生の宿
539

左大臣

百首の歌奉りし時

下葉ちる小野の萩原吹くかぜに床あれぬとや鶉なくらむ
540

皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌奉りけるに、秋田

小山田の庵もる賤のあきの袖宿かる露ぞおきあかしける
541

爲道朝臣

田家擣衣を

夜寒なるかりほの露のいねがてに山田をもると衣うつ聲
542

光明峯寺入道前攝政左大臣

家の七百首の歌合し侍りけるに、風前擣衣

衣うつきぬたの音も高圓の山の木の葉にあきかぜぞ吹く
543

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りし時、擣衣

高圓の尾上もさむき秋風に袖つきごろもたれかうつらむ
544

法眼兼譽

里擣衣

秋ぞともわかぬときはの里人はたゞ夜寒にや衣うつらむ
545

藤原顯盛

題志らず

尾花ふくかり庵さむき秋風にうぢのみやこは衣うつなり
546

内大臣

百首の歌奉りし時

故郷の月をいく夜か三吉野の山風さむみころもうつらむ
547

參議雅經

秋の歌の中に

深草や霧の籬にたれ住みてあれにし里にころもうつらむ
548

前大納言俊光

嘉元の百首の歌奉りし時、擣衣

遠近に衣うつなり里人の夜さむやおなじこゝろなるらむ
549

今上御製

聞擣衣といへる心を

急ぐなる秋のきぬたの音にこそ夜さむの民の心をもしれ
550

入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時

夜さむなる須磨のあま人今よりや風に恨みて衣うつらむ
551

大江貞重

海邊擣衣を

秋さむくなるをの浦の海士人は波かけ衣うたぬ夜もなし
552

前大納言爲氏

前大納言爲家人々によませ侍りける日吉の社の五十首の歌合に、湖邊擣衣

さゞ波やにほてる蜑のぬれ衣浦風さむく擣たぬ夜もなし
553

皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌奉りける時、聞擣衣

あぢきなくいそがぬよその枕まで夢路とほさずうつ衣哉
554

伏見院御製

擣衣驚夢といへる心を

おどろかす砧の音に小夜衣かへすほどなきうたゝねの夢
555

遊義門院

題志らず

擣ち明す砧のおとの悲しきは長き夜さむの寐覺なりけり
556

忠房親王

百首の歌奉りし時

夜もすがら月見る人のいねがてに曉かけてうつころも哉
557

源邦長朝臣

擣衣をよめる

誰れ故かかたぶくまでの月影にねなまし人の衣うつらむ
558

從二位宣子

賤がうつよその砧のおとのみぞ秋の寐覺の友となりける
559

前僧正雲雅

百首の歌奉りし時

ぬれつゝや志ひて擣つらむ白露の曉おきの麻のさごろも
560

大藏卿隆博

弘安の百首の歌奉りける時

袖の上の露もみだるゝ秋風に誰か忍ぶのころもうつらむ
561

龜山院御製

殘りける秋の日數をかぞへつゝ霜の夜な/\うつ衣かな
562

法眼源承

性助法親王の家の五十首の歌に

白妙の袖の初霜月さえていとゞ夜さむにうつころもかな
563

皇太后宮大夫俊成

久安の百首の歌に

山川の水の水上たづねきて星かとぞ見る志らぎくのはな
564

藤原興風

延喜の御時、菊合に

散り果てゝ花なきときの花なれば移ろふ色の惜しくもある哉
565

二品法親王覺助

籬菊を

秋ふかきまがきは霜の色ながら老せぬものと匂ふ志ら菊
566

今上御製

菊の枝につけて奉らせ給うける

仙人の千とせの秋をゆづりおきて君が爲にと咲ける白菊
567

法皇御製

御返し

行く末は猶長月の菊の枝にかさなる千世を君にゆづらむ
568

新院別當典侍

重陽の心を

行く末の秋を重ねて九重に千代までめづる菊のさかづき
569

永福門院内侍

題志らず

殘りける秋の日數もあるものをうつりなはてそ庭の白菊
570

前關白左大臣押小路

百首の歌奉りし時

我が袖に露をのこして長月や末野の尾花うら枯れにけり
571

平時敦

題志らず

長月も末野の原の花ずゝきほのかにのこる秋のいろかな
572

祝部成久

下露のそむるは色のうすければ紅葉も秋の時雨をや待つ
573

洞院攝政前左大臣

津の國の生田の杜の初時雨あすさへふらば紅葉しぬべし
574

前内大臣通

染めてけり三室の山の初紅葉時雨も露もいろに出でつゝ
575

前中納言經繼

紅葉一樹といへる心を

いと早も染めて色こき紅葉かな此一本やまづ志ぐれけむ
576

權中納言爲藤

題志らず

玉鉾の道の行くてのはじもみぢ遠近人や折りてかざゝむ
577

關白内大臣

百首の歌奉りし時

露時雨いかに染めてか志のぶ山木々の木葉の色に出で劔
578

前參議雅孝

志ぐれ行く雲のとだえは日影にて錦を晒す嶺のもみぢ葉
579

權中納言公雄

秋の歌の中に

小倉山心に染むるもみぢばゝ志ぐれの外の色やまさらむ
580

從三位爲信

露霜の重なる山のもみぢ葉は千志ほの後も色や添ふらむ
581

修理大夫顯季

家に歌合し侍りけるに、紅葉を

色深き深山がくれのもみぢ葉をあらしの風の便にぞ見る
582

清原元輔

題志らず

もみぢ葉の散來る秋は大井川渡る淵瀬もみえずぞ有ける
583

貫之

水底に影し映ればもみぢばの色もふかくやなり増るらむ
584

從二位家隆

水郷紅葉を

龍田河みねの紅葉の散らぬ間は底にぞ水の秋は見えける
585

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りし時、紅葉

立田川水の秋をや急ぐらむもみぢをさかふ峯のあらしは
586

藤原爲嗣朝臣

題志らず

うつり行く柞の紅葉人とはゞいかにいはたの小野の秋風
587

新院御製

散り積る庭のもみぢば殘るとも秋の日數は止りしもせじ
588

左大臣

永仁元年龜山殿の十首の歌に、河上暮秋

大井河流れて早き木の葉にもとまらぬ秋の色は見えけり
589

從三位師行

筏士よ秋のなごりの大井河この暮志ばしいそがずもがな
590

伏見院御製

暮秋菊といへる心を

霜深くうつろひ行くを秋の色のかぎりと見する白菊の花
591

從三位爲理

正和三年九月盡日十首の歌に、曉惜月

行く秋の名殘おもはぬ時だにもあかずやは見ぬ有明の月
592

後二條院御製

題志らず

いかゞ又思ひ捨てゝは過すべきとまらぬ秋の別なりとも
593

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りし時、九月盡

目に見えぬ心計りは慕へども身をし分かねば秋ぞ止らぬ
594

上西門院兵衛

久安の百首の歌に

明日しらぬ身をば思はでめぐりこむ秋の別を何惜むらむ
595

前中納言定家

後京極攝政、内大臣に侍りける時、家に十首の歌よみ侍りける秋に、

松島の海士の衣手秋くれていつかはほさむ露もしぐれも
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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