續千載和歌集

Shoku Senzai wakashū

作者複数 Various

續千載和歌集卷第四
秋歌上

344

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、初秋の心を

いつしかと片敷く袖に置く露のたまくら凉し秋のはつ風
345

中務卿宗尊親王

おなじ心を

今朝みれば露ぞ隙なき芦のやのこやの一夜に秋や來ぬ覽
346

惟明親王

千五百番歌合に

昨日より荻の下葉に通ひ來て今朝あらはるゝ秋のはつ風
347

光明峰寺入道前攝政左大臣

題志らず

いつのまに秋風立ちて大ともの三津の濱松音まさるらむ
348

前中納言爲相

百首の歌奉りし時

天の河水かげ草のいく秋か枯れなで年のひとよ待つらむ
349

中納言家持

七夕のふなのりすらし天の河きよき月夜に雲立ちわたる
350

山邊赤人

彦星と七夕つめとこよひあふ天の河原になみ立つなゆめ
351

讀人志らず

亭子院の歌合に

天の河わたりてのちぞ七夕のふかき心もおもひ知るらむ
352

前大納言爲家

龜山院位におましましける時七月七日人々に七首の歌めされけるによみて奉りける

天の河絶えじとぞ思ふたなばたの同じ雲居にあはむ限は
353

後京極攝政太政大臣

家の六百番歌合に、乞巧奠

星合の空のひかりとなるものは雲居の庭に照すともし火
354

前大納言有房

七夕の心を

織女の露の契りの玉かづらいく秋かけてむすび置きけむ
355

選子内親王

八日前栽の露置きたるを折りて法成寺入道前攝政のもとにつかはすとて

露置きてながむる程を思ひやれ天の河原のあかつきの空
356

入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時

明けゆけば河瀬の浪の立ち歸り又袖ぬらす天の羽ごろも
357

源兼氏朝臣

題志らず

七夕の雲の衣をふく風にそでのわかれは立ちもとまらず
358

前中納言定房

閏月七夕といふ事を

契ありておなじ七月の數そはゞ今夜もわたせ天の川ぶね
359

後鳥羽院御製

太神宮に奉らせ給ひける五十首の歌の中に

朝露のをかの萱原山かぜにみだれてものは秋ぞかなしき
360

題志らず

わするなよけふは昔の秋までもこのゆふぐれの荻の上風
361

前中納言定家

正治の百首の歌奉りける時

幾かへりなれてもかなし荻原や末こす風の秋のゆふぐれ
362

二條院讃岐

千五百番歌合に

さびしさに秋の哀をそへてけりあれたる宿の荻の上かぜ
363

皇太后宮大夫俊成

述懷の百首の歌よみ侍りけるに、荻

我袖は荻の上葉の何なれやそよめくからに露こぼるらむ
364

花山院御製

寛和元年の内裏の歌合に、露

荻の葉における白露玉かとて袖に包めどたまらざりけり
365

權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りし時、荻

わきて猶夕べは露の荻の葉になみだもそよと秋風ぞふく
366

法眼慶融

題志らず

吹きむすぶ荻の葉分に散る露を袖までさそふ秋のゆふ風
367

入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時

夕されば野邊の淺茅に吹く風の色こそ見えね露ぞこぼるゝ
368

前大納言爲氏

弘安八年八月十五夜の卅首の歌に、秋風入簾

村雨の野分のつゆの玉すだれ袖に吹きまく秋のゆふかぜ
369

伏見院御製

題志らず

村さめに桐の葉落つる庭の面の夕べの秋を問ふ人もがな
370

後二條院御製

宿ごとの夕ぐれとはむ秋といへば我にかぎらず物や思ふと
371

前中納言定資

閑中秋夕といふ事を

さびしさをかねて習はぬ宿ならば秋の夕をいかで忍ばむ
372

二品法親王覺助

秋の歌の中に

今更に何かうしともわきていはむ思ひのみそふ秋の夕暮
373

前大納言經長女

物思はぬ人はよそにやながむらむうき身一つの秋の夕暮
374

平久時

いかにせむ物思ふ袖の涙だにほさで露そふあきの夕ぐれ
375

太政大臣

嘉元の百首の歌奉りしとき

おのづから涙ほすまも我は袖に露やはおかぬ秋の夕ぐれ
376

後久我太政大臣

建暦二年内裏内裏の詩歌合に、水郷秋夕

水無瀬山夕かげ草の下つゆや秋なく鹿のなみだなるらむ
377

遊義門院

題志らず

秋にあへぬ袖の涙や草葉までこのごろ茂き露となるらむ
378

前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時

結びおきし秋のさが野の庵より床は草葉の露に慣れつゝ
379

九條右大臣

麗景殿の薄にむすび付け侍りける

白露の奥より見つる花ずゝきほにいでゝ風に靡きぬる哉
380

津守國道

題志らず

花ずゝきたがなみだともしら露の袖にみだるゝ秋の夕風
381

前僧正道性

故郷秋蘭といふ事を

藤袴何匂ふらむすみ捨てゝ野となる庭はたれか來て見む
382

源公忠朝臣

天慶八年の御屏風に

秋の野に色々さける花見れば歸らむ程ぞいつと知られぬ
383

讀人志らず

夕ぐれがたにちひさきこに鈴虫を入れて紫の葉えふに包みて萩の花にさしてさるべき所の名のりをせさせて齋院にさし置かすとてその包紙に書き付けたりける

しめの内に花の匂を鈴虫の音にのみやは聞きふるすべき
384

選子内親王

返し

色々の花はさかりに匂ふとも野原の風のおとにのみ聞け
385

前左兵衛督教定

題志らず

我が宿の庭の秋萩咲きにけり朝おく露のいろかはるまで
386

邦省親王

高圓の萩さきぬらし宮人の袖つきごろもつゆぞうつろふ
387

從三位氏久

色ふかくうつりにけりな狩人の眞袖にわくる萩の朝つゆ
388

從二位家隆

建永元年和歌所の三首の歌に、朝草花

我が袖を今朝もほしあへず飛鳥川ゆきゝの岡の萩の白露
389

讀人志らず

題志らず

武藏野は猶行く末も秋はぎの花ずりごろも限りしられず
390

萬秋門院

朝な/\おくと見しまに白菅の眞野の萩原つゆぞ移ろふ
391

藤原爲定朝臣

野萩を

袖にこそみだれそめけれ春日野の若むらさきの萩が花摺
392

法皇御製

百首の歌めされしついでに

高圓の野べの秋風吹くたびにたもとにうつす萩が花ずり
393

僧正行意

名所の百首の歌奉りける時

たかまとの野路の秋萩咲きにけり旅行く人の袖匂ふらし
394

大納言旅人

題志らず

さしすぎの栗栖の小野の萩の花ちらむ時にし行て手向けむ
395

後徳大寺左大臣

思ふどちいざ見に行かむ宮城野の萩が花ちる秋の夕ぐれ
396

壬生忠岑

秋はぎのしたにかくれて啼く鹿の涙や花の色を染むらむ
397

相模

永承五年祐子内親王の家の歌合に

露むすぶ萩の下葉やみだるらむ秋の野原に男鹿なくなり
398

小辨

鹿をよめる

さをじかの妻戀ひ増る聲すなりまのゝ萩原盛りすぐらし
399

前關白左大臣押小路

百首の歌奉りし時

紫のゆかりの色をたづねてや萩さく野邊に鹿のなくらむ
400

忠房親王

男鹿なく萩の錦の唐ごろもきつゝなれしに妻や戀ふらむ
401

從三位爲繼

秋の歌の中に

秋草の色づく見ればかた岡のあしたの原に鹿ぞ鳴くなる
402

正三位知家

名所の百首の歌奉りける時

初瀬山木の葉色づく秋風にまづ寐ねがてのさをじかの聲
403

法印定圓

題志らず

夕さればこぬ妻よりも秋風をつらき物とや鹿の鳴くらむ
404

前中納言經繼

嘉元の百首の歌奉りし時、鹿

我だにも音にたてつべき夕暮をさぞ妻戀に鹿は鳴くらむ
405

法印定爲

高砂の尾上の鹿はつれもなき松をためしに妻や戀ふらむ
406

行念法師

題志らず

秋を知る鹿の聲のみ高砂の松のあらしも吹かぬ日はなし
407

中務卿宗尊親王

小倉山峰の秋風ふかぬ日はあれども鹿の鳴かぬ夜はなし
408

後堀河院民部卿典侍

月下鹿を

小男鹿の峰の立ちどもあらはれて妻とふ山を出づる月影
409

前大納言經房

月ゆゑに我が心こそ空ならめ鹿のねさへに澄みのぼる哉
410

平貞時朝臣

對月聞鹿といふ事を

山ふかみ絶え%\通ふ鹿の音に木の間の月も哀そひけり
411

藤原景綱

題志らず

誘はれて同じみ山や出でつらむ裾野の月に鹿ぞ鳴くなる
412

藤原基任

月みれば秋の思ひも慰むをなど夜とともに鹿は鳴くらむ
413

左大臣

正安三年八月十五夜内裏の十首の歌に、曉月聞鹿

よそに聞く我さへかなしさを鹿の鳴く音を盡す有明の空
414

入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、鹿

花ずゝき仄かにきけば秋霧のたち野の末に男鹿なくなり
415

前大納言爲世

小山田の庵立ちかくす秋霧にもる人なしと鹿ぞ鳴くなる
416

二品法親王覺助

百首の歌奉りし時

秋霧に立ち隱れつゝ鳴く鹿は人目よきてや妻を戀ふらむ
417

權僧正桓守

田家鹿を

山田もる賤が寐覺のをり/\や又鹿のねの遠ざかるらむ
418

圓光院入道前關白太政大臣

夜寒なる田中の井戸の秋風に稻葉を分けて鹿ぞ鳴くなる
419

法皇御製

山鹿といへる心をよませ給うける

深くなる秋の哀をねにたてゝ峯の男鹿も鳴きまさるなり
420

萬秋門院

嘉元の百首の歌に、鹿

鳴く鹿の聲もをしまず高砂の尾上の秋や夜さむなるらむ
421

平宗泰

題志らず

深き夜の哀は誰も知る物をおのればかりと鹿や鳴くらむ
422

前中納言季雄

よそに又泪を添へて聞くとだに知らじな鹿の音をば鳴く共
423

藻壁門院少將

岡邊なるいなばの風に霜置きて夜寒の鹿や妻を戀ふらむ
424

龜山院御製

弘安の百首の歌めしけるついでに

散にけり鹿なく野邊の小萩原下葉の色ももみぢあへぬに
425

從二位行家

初雁を

萩の上の露はいつより置きつらむ今は雲居の雁ぞなくなる
426

蓮生法師

雁なきて萩の下葉の色づくは我が袖よりや習ひそめけむ
427

平宗宣朝臣

山風のさむき朝げの峰こえていくつら過ぎぬ秋の雁がね
428

躬恒

屏風の歌に

故郷を思ひおきつゝくる雁のたびの心は空にぞありける
429

人麿

題志らず

行き通ふ雲居は道もなき物をいかでか雁の迷はざるらむ
430

後鳥羽院御製

千五百番歌合に

物やおもふ雲のはたての夕暮に天つ空なるはつかりの聲
431

權中納言爲藤

百首の歌奉りし時

秋風にきつゝ夜寒やかさぬらむ遠山ずりのころも雁がね
432

圓光院入道前關白太政大臣

霧中雁を

秋山の麓をめぐる夕ぎりに浮きて過ぎ行くはつかりの聲
433

藤原宗秀

霧をよめる

霧はるゝ室の八島の秋かぜにのこりてたつは烟なりけり
434

大江頼重

かり衣すそ野の霧は霽れにけり尾花が袖に露をのこして
435

讀人志らず

分けまよふ野原の霧の下露に涙ならでもそではぬれけり
436

法印定爲

百首の歌奉りし時

日影さす籬の花のいろ/\に露をかさねて晴るゝ朝ぎり
437

前大納言長雅

弘安の百首の歌奉りし時

立ちこめて日影へだつる程ばかり霧の籬に殘るあさがほ
438

永福門院

題志らず

うちむれて麓をくだる山人の行くさきくるゝ野邊の夕霧
439

權中納言公雄

文永二年八月十五夜五首の歌合に、未出月といふ事を

里人のをしむ心は知らねども山のあなたの月ぞまたるゝ
440

藤原隆祐朝臣

光俊朝臣よませ侍りける百首の歌に

夕ぐれは月待つとても物ぞ思ふ雲のはたての秋の山の端
441

藤原實方朝臣

人々月待つ心をよみ侍りけるを後に聞きて

諸ともに待つべき月を待たずして獨も空を詠めつるかな
442

前大納言爲家

題志らず

秋風に峰行く雲を出でやらで待つほど過ぐる十六夜の月
443

入道前太政大臣

待たれつる山をば出でゝ高砂の尾上の松に月ぞいざよふ
444

前大納言爲世

伏見院、位におましましける時、月の十五首の歌めされし中に

暮るゝ間の空に光はうつろひてまだ峰こえぬ秋の夜の月
445

民部卿實教

月の歌の中に

山の端のくるれば頓て影見えてまたれぬ程に出づる月哉
446

前關白太政大臣家讃岐

出でやらぬ程だにあるを山鳥の尾上の月に雲なへだてそ
447

信實朝臣

暮るゝ夜の嵐は何をはらふらむかねて雲なき山の端の月
448

堀河右大臣

夕されの空もさやかに澄み渡る月の爲にや秋も來ぬらむ
449

法眼源承

性助法親王の家の五十首の歌に

待ち出づる尾上の月はさやかにてた靡く雲に秋風ぞ吹く
450

紀淑氏朝臣

題志らず

卷向の穴師の河にかげ見えて檜原を出づる秋の夜のつき
451

津守國夏

天つ風雲吹きとづな少女子が袖ふるやまの秋のつきかげ
452

平貞文

雨降るゝ賤が伏屋の板間より月ぞもり來て袖ぬらしける
453

二條太皇大后宮攝津

春日やま峰のあらしに雲晴れて照る月影を幾夜みつらむ
454

信實朝臣

洞院攝政のいへの百首のうたに、月

雲は皆晴れにしまゝの秋風に幾夜もおなじ月ぞさやけき
455

津守國冬

嘉元の百首の歌奉りし時

はては又とよはた雲の跡もなしこよひの月の秋のうら風
456

皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りけるに

月を見て千里の外を思ふにもこゝろぞかよふ白川のせき
457

權中納言爲藤

關月を

秋の夜は關の戸ざしも許さなむ行き止るべき月の影かは
458

永福門院

中宮きさきに立ち侍りて西園寺におはしましける頃行幸など侍りけるに、八月十五夜月面白かりければ中宮の御方へよみて奉らせ給うける

今夜しもくもゐの月の光そふ秋の深山をおもひこそやれ
459

今上御製

御返し中宮にかはり奉りてよませ給うける

むかし見し秋の深山の月影を思ひ出でゝや思ひやるらむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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