新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第二
春歌下

94

光明峯寺入道前攝政左大臣

花の歌の中に

山風の霞のころも吹きかへしうらめづらしき花の色かな
95

前中納言定家

後京極攝政の家の花の五十首の歌に

霞立つみねのさくらの朝ぼらけくれなゐくゝる天の川波
96

中宮大夫公宗

題志らず

朝日影うつろふ峯の山ざくら空さへにほふ花のいろかな
97

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

見るまゝに猶雲深しさくら咲く外山の春のあけぼのゝ空
98

二條院讃岐

春の歌とて詠める

日に添へて立ちぞ重なる三吉野のよしのゝ山の花の白雲
99

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、花

分け行けば花に限もなかりけり雲を重ぬるみよしのゝ山
100

前參議爲秀

同じ心を

櫻花いま盛りなりひさかたの雲に雲添ふかづらきのやま
101

前大僧正慈勝

咲き殘す絶間もあらば山ざくら重ねてかゝれ峯のしら雲
102

前參議爲實

三吉野のたかまの櫻咲きぬらし空よりかゝる嶺のしら雲
103

前關白左大臣九條

百首の歌奉りし時

嵐吹く遠山ざくら匂はずば志らでやなほも雲にまがへむ
104

前大納言實教

花間鶯といふ事を

雲に入る面影つらし花の枝に鳴きて木傳ふ春のうぐひす
105

壬生忠見

題志らず

をり侘びて歸らむ物か葛城の山のさくらは雲居なりとも
106

入道二品親王性助

弘安元年百首の歌奉りける時

春雨の日數ふる野のさくらがりぬれてぞ歸る花染のそで
107

彈正尹邦省親王

花透霞といへる事を

山姫のかすみの袖やうすからしへだても果てぬ花の白雲
108

後鳥羽院御製

春の御歌の中に

をはつ瀬や霞にまがふ花の色を伏見の暮に誰れ詠むらむ
109

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時、花

身の憂さも詠むるからに忘られて春の心ぞ花にのどけき
110

前大納言爲家

文永二年白河殿にて人々題を探りて七百首の歌仕うまつりけるとき、挿頭花と云ふ事を

今日も又大宮人のさくら花のどけき春のかざしにぞ挿す
111

大納言經信

題志らず

百敷や御垣が原のさくらばな春し絶えずば匂はざらめや
112

伏見院御製

なれて見し雲居の花も世々ふりて面影かすむ九重のはる
113

後宇多院御製

正安三年二月廿七日日吉の社に御幸ありて次の日志賀の山の櫻につけて内へ奉らせ給うける

君ゆゑとけふこそ見つれ志賀の山かひある春に匂ふ櫻を
114

後二條院御製

御かへし

志賀の山風をさまれる春に逢ひて君が御幸を花も待けり
115

永福門院

暦應二年の春花に付けて西園寺より奉らせ給うける

咲き散るも知る人も無き宿の花いつの春まで御幸待ちけむ
116

花園院御製

御返し

世々をへて御幸ふりにし宿の花かはらぬ色も昔戀ふらし
117

前大納言爲兼

弘安元年百首の歌奉りける時

荒れ果てし志賀の故郷來て見れば春こそ花の都なりけれ
118

前大納言爲氏

寳治元年十首の歌合に、山花

三吉野の花は昔の春ながらなどふるさとの山となりけむ
119

後一條前關白左大臣

花の歌の中に

故里の吉野の櫻咲きにけりいく代の春のかたみなるらむ
120

光明峯寺入道前攝政左大臣

家の八重櫻を内裏へ召されけるにそへて奉りける

花の色の昔に還る春なればこれを見るにも物思ひも無し
121

法性寺入道前關白太政大臣

鳥羽院、位おりさせ給うて後、白河に御幸ありて花御覽じける日よみ侍りける

常よりも珍らしきかな白河の花もてはやすはるの御幸は
122

中園入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、花

そこと無き花のところも春ふかみ空に知られて匂ふ春風
123

如願法師

同じ心を

身に換へて思ふも苦し櫻花咲かぬ深山にやどもとめてむ
124

藤原光俊朝臣

寳治元年、百首の歌に、見花

尋ねてぞ花をも見まし木の本を住みかともせぬ我身なりせば
125

後宇多院宰相典侍

題志らず

咲くを待ち散るを惜むに日數經て盛すくなき花の頃かな
126

法皇御製

卅首の歌詠ませ給うける中に

暮れ果てゝ色も分かれぬ花の上に仄かに月の影ぞ移ろふ
127

權中納言公雄

文保の百首の歌奉りける時

櫻咲く高嶺をかけて出でにけり花のかゞみの春の夜の月
128

前大納言爲家

弘長元年百首のうた奉りけるに、春月

飽かず見る花の匂も深き夜の雲居にかすむはるの月かげ
129

後伏見院御製

朝花といふ事をよませ給うける

飽かずみる山櫻戸のあけぼのに猶あまりある有明のかげ
130

前大納言經繼

嘉元の百首の歌奉りける時、花

あたら夜の在明の月に人は來で宿のさくらに春風ぞ吹く
131

中納言爲藤

龍田山木綿附鳥のおのが音を夜ふかき花の色に待つかな
132

中務

早う住み侍りける家の櫻を箱の蓋に入れて人の許に遣すとて

年を經てをりける人も訪はなくに春をすごさぬ花を見る哉
133

源道濟

雲林院の櫻を折りて式部が許へ遣はすとてよめる

又見せむ人し無ければ櫻花いま一えだを折らずなりぬる
134

後徳大寺左大臣

齋院の女房の許より本院の櫻を折りて、之は見るやと申し遣したりけるに

一枝の匂ひは飽かず神垣や花の木ずゑを行きてながめむ
135

讀人志らず

返し

一枝を飽かず思はゞ櫻花こずゑにのこるほどをすぐすな
136

藤原隆信朝臣

花の盛りに櫻のちひさき枝に結びつけて寂蓮が許に遣しける

來て見よと更にも言はじ山櫻殘りゆかしき程にやは非ぬ
137

寂蓮法師

返し

心をばまづ先だてつ山櫻たづね行く間も目がれすなとて
138

民部卿爲明

前大納言爲世人々いざなひて法性寺に花見に罷りて十首の歌よみ侍りける中に

家苞に折りつる花もいたづらにかへさ忘るゝ山ざくら哉
139

花山院御製

折花といふ事を

山守もいかゞいふらむいたづらに風にまかする峰の櫻を
140

土御門院小宰相

三十首の歌よみ侍りけるに、花

咲けば且移ろふ色をあだなりと見てこそ花に風は吹くらめ
141

前關白左大臣近衛

百首の歌奉りし時、同じ心を

散る花の心も知らで春風のさそふをよそに恨みけるかな
142

御製

春の御歌の中に

吹く風の枝を鳴らさぬ春だにも何をかごとに花の散るらむ
143

後照念院關白太政大臣

文保の百首の歌奉りける時

花の香を誘はざりせば吹く風をつらしとのみや思果てまし
144

永福門院内侍

題志らず

吹くとしもよそには見えで脆く散る花に知らるゝ庭の春風
145

前大納言爲世

山櫻うつろふいろの花の香にかすみの袖もにほふ春かぜ
146

源重之

吉野山ふもとの櫻散りぬらし立ちものぼらで消ゆる白雲
147

前内大臣

明け渡る外山の木ずゑほの見えて花に別るゝ峯の横ぐも
148

忠房親王

文保の百首の歌奉りける時

春の夜は明け行く鐘のひゞきまで花に霞める小初瀬の山
149

後久我太政大臣

朝落花を

今朝は又暮ればと頼むかげもなし櫻にくもる四方の山風
150

俊頼朝臣

落花留客といへる事を

立ち歸る心ぞつらき櫻花散るをば見じとおもひしものを
151

六條内大臣

文保の百首の歌奉りける時

おのづから散るは習ひの花になほ恨をそへて春風ぞ吹く
152

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、落花

いざ櫻散るをつらさに言ひなさで梢のほかの盛とも見む
153

伏見院新宰相

永仁二年三月内裏の三首の歌に、山路落花を

梢より散りかふ花をさきだてゝ風の下行く志賀の山みち
154

讀人志らず

堀河院の御時中宮の御方にてかたを分ちて花を折りに遣して御前に立て並べて歌詠ませ給うけるに詠める

底清み流れ絶えせぬ水のおもに花の匂をうつしてぞ見る
155

院御製

春の御歌の中に

流れてはいづくに春のとまるらむ花散りかゝる山川の水
156

前參議教長

河上落花と云ふ事を

吉野川老の白波ながるめり吹きにけらしな山おろしの風
157

法性寺入道前關白太政大臣

堀河院の御時、鳥羽院に行幸の日、池上花といへる心をよみ侍りける

池水に花の錦をうつしては浪のあやをやたちかさぬらむ
158

後二條院御製

折花といふ事をよませ給うける

悔しくぞ移ろふ花を手折りつる綾なく袖の雪と降りけり
159

按察使實繼

百首の歌奉りし時、花

散りつもる花の白雪あともなし盛までとや人も訪ひけむ
160

前大納言爲世

永仁二年三月、内裏の三首の歌に、山路落花といへる事を

雪と降る花にしをりも埋もれて又踏み迷ふ春のやまみち
161

法皇御製

卅首の御歌の中に

吹き亂る花の白雪かきくれてあらしに迷ふ春のやまみち
162

前僧正道性

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、落花

又さそふ木の下風にかつ消えてふるとしも無き花の白雪
163

後嵯峨院御製

文保二年白河殿にて人々題を探りて七百首の歌仕うまつりけるついでに、曉花

是も又在明のかげと見ゆるかな吉野の山の花のしらゆき
164

贈左大臣長實

寛治七年三月十日白河院北山の花御覽じにおはしましたりける日、處々尋花といへる心をよませ給うけるに

尋ねつゝ今日見ざりせば櫻花散りに鳬とやよそに聞かまし
165

人丸

題志らず

春霞たなびく山のさくら花早く見てまし散り過ぎにけり
166

前花大納言經繼

嘉元の百首の歌奉りける時、

飛鳥風あすも吹なばたをやめの挿頭の櫻散りか過ぎなむ
167

源仲正

白河院の北面にて花未忘といへる事を仰事にて仕うまつりけるに

飽かざりし心に春やとまるらむなほ面影の去らぬ花かな
168

藤原清輔朝臣

久安六年崇徳院に百首の歌奉りける時

年を經て我身はあらずなり行けど花の姿は變らざりけり
169

中務卿具平親王

六條の家の今は野のやうになりにたるに櫻のいと面白く咲きたりけるを源爲善朝臣折りてもて來たりければよめる

いたづらに咲きて散りぬる櫻花昔の春のしるしなりけり
170

冷泉前太政大臣

寳治の百首の歌奉りけるとき、落花

山高みさこそ嵐はさそふともあまりなるまで散る櫻かな
171

壬生忠岑

紀貫之曲水の宴し侍りける時月入花灘暗と云ふ事を

散紛ふ花は衣にかゝれどもみなせをぞ思ふ月の入る間は
172

凡河内躬恒

燈懸水澄明

みな底の影も浮べば篝火のあまたに見ゆる春のよひかな
173

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時、山吹

散らぬ間に行きてを見ばや古への色は變らじ井出の山吹
174

津守國冬

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、同じ心を

幾春に井出の下帶めぐり合ひて咲く山吹の花を見つらむ
175

關白前左大臣

百首の歌奉りし時

吉野川岸うつ浪のたかければ咲ける山吹散らまくも惜し
176

源順

水邊山吹と云ふ事を

河風はいかに吹くとも山吹の散行く水を堰きやとめまし
177

皇太后宮大夫俊成

二品法親王守覺の家の五十首の歌に

影うつす井出の玉川底清み八重に八重添ふやまぶきの花
178

藤原長能

恒徳公の家の歌合に

底清き井手の河邊に影見えて今さかりなるやまぶきの花
179

藤原季綱

大井に住み侍りけるころ、花面白くなりなば必御覽ぜむとみかど仰事有りけるをおぼし忘れておはしまさゞりければ奏し侍りける

散りぬれば悔しき物を大井川きしの山吹いまさかりなり
180

左兵衛督基氏

山吹をよめる

流れ行く河瀬の水に影見えて散らぬも浮ぶやまぶきの花
181

入道二品親王覺譽

山吹の花のかゞみとなる水に春の日數もうつるとぞ見る
182

西園寺入道前太政大臣

二品法親王道助の家の五十首の歌に、河山吹

散り果つる山吹のせに行くはるの花に棹さす宇治の河長
183

道濟

藤花を

山高み松にかゝれる藤の花そらより落つる波かとぞ見る
184

貫之

三條右大臣の家の屏風に、松に咲ける藤を

藤の花あだに散りなば常磐なる松に懸れるかひや無からむ
185

前大納言實教

文保二年八月常磐井仙洞に行幸の時人々題を探りて歌仕うまつりけるに、暮春

何故になほしたふらむ花鳥の跡なきのちの春のわかれぢ
186

宜秋門院丹後

後京極攝政の家の百首の歌に

花故に飽かぬわかれは習ひけむ思ひしらずも歸る春かな
187

頓阿法師

山家暮春と云へる事を

移り行く月日も知らぬ山里は花をかぎりに春ぞ暮れぬる
188

中納言爲藤

文保の百首の歌奉りける時

花も散り鳥も殘らず物毎にまたあらたまる春のくれかな
189

入道二品親王尊圓

題志らず

初瀬山尾上の花は散り果てゝ入相のかねに春ぞ暮れぬる
190

等持院贈左大臣

百首の歌奉りし時、暮春

花は皆散り果てにけり今いくか日數ばかりの春を慕はむ
191

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

すがの根の長々し日もいつのまに積りて易く春は暮るらむ
192

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時、暮春

惜むとて暮るゝ日數の留まらば猶いかばかり春を慕はむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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