新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第三
夏歌

193

後九條前内大臣

更衣の心を

宮人の袖つき衣けふ更へて夏來にけらしたかまとのやま
194

等持院贈左大臣

家に五首の歌よみ侍りけるに、同じ心を

昨日にも空は變らで諸人のころものいろに夏は來にけり
195

院御製

首夏をよませ給うける

今日もなほ霞む外山の朝ぼらけきのふの春の面影ぞ立つ
196

進子内親王

百首の歌の中に

夏衣立ちかへてしも忘れぬは別れし春のはなぞめのそで
197

從二位家隆

二品法親王守覺の家の五十首の歌に

夏衣春におくれて咲く花の香をだに匂へおなじかたみに
198

法皇御製

題志らず

鶯の忘れがたみにこゑはあれど花はあとなき夏木立かな
199

讀人志らず

花咲かぬ梢と見しは吉野山春におくるゝさくらなりけり
200

從二位爲子

夏淺き青葉のやまの朝ぼらけ花にかをりし春ぞわすれぬ
201

中納言爲藤

文保の百首の歌奉りける時

青葉のみ茂りにけりな片岡の木末は花のかげと見しまに
202

衣笠前内大臣

夏の歌の中に

別れての後忍べとや行く春の日數に花の咲きあまるらむ
203

後京極院

嘉暦四年御着帶の後祭の日朝がれひの御几帳に葵のかゝりたりけるを御覽じてよませ給ひける

我が袖に神はゆるさぬあふひ草心のほかにかけて見る哉
204

兵衛

上西門院いつきと聞え給ける時待賢門院かんたちめに渡らせ給ひたりけるに御供にさぶらひて齋院の女房のなかに葵につけて遣しける

諸葛かゝる例はあらじかし今日二葉なる千代を添ふれば
205

崇徳院安藝

返し

二葉なる千とせを添ふるもろ葛しめの内には例にぞ引く
206

後宇多院宰相典侍

祭の使つとめ侍りし事を思ひ出でゝよみ侍りける

忘れずよ祈る深山のあふひ草かけし昔はとほざかれども
207

入道親王尊道

百首の歌奉りし時、郭公

時鳥鳴くべき頃もあやにくに待てばや忍ぶ初音なるらむ
208

民部卿爲明

貞和二年百首の歌奉りし時

なべて世に待たるゝ頃の時鳥さぞ忍び音は洩し侘ぶらむ
209

照慶門院一條

題志らず

忍びねと思ふものから郭公聞きては人にまづかたるかな
210

左京大夫顯輔

久安六年崇徳院に百首の歌奉りける時

人傳と言はぬばかりぞ郭公聞くともなくて過ぎぬなる哉
211

關白前左大臣

百首の歌奉りし時、郭公

さだかなる人づてよりは郭公たどるばかりの一聲もがな
212

三條入道左大臣

夏の歌の中に

待ち兼ねて梢更けにける轉寐の夢路に通ふほとゝぎす哉
213

從二位行家

寳治の百首の歌に、待郭公

やよや鳴け有明の空の郭公こゑ惜むべきつきのかげかは
214

前參議爲嗣

題志らず

明くる夜の月影慕ふほとゝぎす聲さへ雲のいづくなる覽
215

貫之

延喜十四年十二月、女一宮の屏風の歌に

月をだに飽かず思ひて寐ぬものを時鳥さへ鳴き渡るかな
216

讀人志らず

菅家萬葉集の歌

人知れぬ思ひや繁き時鳥なつの夜をしも鳴きあかすらむ
217

後西園寺入道前太政大臣

文保の百首の歌奉りける時

つれなさのたぐひならじと有明の月にしも鳴く時鳥かな
218

順徳院御製

承久元年十首の歌合に曉時鳥といふ事を詠ませ給うける

曉とおもはでしもや時鳥まだなかぞらのつきに鳴くらむ
219

後深草院少將内侍

題志らず

山の端の月に鳴く夜の郭公待たれしよりもいこそ寐られね
220

法印淨辨

建武二年内裏にて人々題を探りて千首の歌詠みける時、夏動物と云へる題を給はりて仕うまつりける

時鳥鳴きて過ぎ行く山の端に今ひとこゑと月ぞのこれる
221

前大納言公蔭

百首の歌奉りし時、郭公

郭公待つ宵過ぎて山の端にいざよふ月のかげに鳴くなり
222

安喜門院大貳

夏の歌の中に

曉のおもひを添へて時鳥などいひ知らぬそらに鳴くらむ
223

後鳥羽院御製

さのみやは心有るべき時鳥寐覺のそらにひとこゑもがな
224

前右兵衛督爲教

法印覺源すゝめ侍りける日吉の社の歌合に

聞くまゝに仄かになりぬ時鳥雲のよそにや遠ざかるらむ
225

前大納言忠季

題志らず

時鳥仄かに名のるひとこゑの飽かで別るゝ嶺のよこぐも
226

源仲綱

後法性寺入道前關白右大臣の時の百首の歌に

村雲のたなびく空の霍公絶え%\にこそこゑもきこゆれ
227

藤原道信朝臣

或る所の歌合に人に代りて

小夜更て寐覺めて聞けば時鳥鳴くなる聲やいづこなる覽
228

前中納言有光

百首の歌奉りし時、郭公

橋姫の待つ夜更けてや子規眞木のをやまに初音鳴くらむ
229

前中納言定家

建仁元年、鳥羽殿の歌合に、山曉時鳥

時鳥やまのしづくに立ち濡れて待つとは知るや曉のこゑ
230

光明峯寺入道前攝政の家の百首の歌に、杜郭公を

津の國の生田の杜の時鳥おのれ住まずばあきぞ訪はまし
231

源信明朝臣

題志らず

時鳥來鳴くを聞けば大荒木の森こそ夏のやどりなるらし
232

大江頼重

よしさらば心つくさで時鳥おのが五月のころや待たまし
233

法印定爲

嘉元の内裡の卅首の歌召しける時

暫しだに語らばゞこそ時鳥こゝろづくしの程もうらみめ
234

花園院御製

百首の御歌の中に

宮古人さこそ待つとも時鳥おなじ深山のともなわすれそ
235

御製

百首の歌召されしついでに、時鳥

飽かず猶暫し語らへ郭公いかに待たれしはつ音とか知る
236

大納言延光

應和二年五月四日庚申の夜内裏の歌合に、待郭公

打ち忍び事語らはむ時鳥明日をあやめの音には立つとも
237

祝部成久

題志らず

あやめ草五月の今日の郭公袖には懸けぬ音をや添ふらむ
238

前關白左大臣

時鳥おのが五月の時しらば菖蒲刈りふくやどになかなむ
239

從三位氏久

澤邊早苗といふ事を

押しなべて茂る野澤の夏草にしめ引き分けて早苗取るなり
240

平宣時朝臣

題志らず

今日も又浦風荒れて湊田につりせぬ海士や早苗取るらむ
241

津守國冬

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、早苗

里遠き山田の早苗歸るさを急がで取るやいそぐなるらむ
242

彈正尹邦省親王

同じ心を

五月雨の晴るゝを隙と小山田にこの夕暮や早苗取るらむ
243

藤原雅朝朝臣

元弘三年、立后の屏風に

大荒木の杜のうき田の五月雨に袖干しあへず早苗取るなり
244

後二條院御製

題志らず

山陰や田子の小笠を吹く風もすゞしき暮に早苗取るなり
245

赤人

風に散る花立花を袖に受けて君がためにと思ひけるかな
246

前大納言俊定

嘉元の百首の歌奉りける時、廬橘

誰が袖の名殘をとめて立花のむかし變らぬ香に匂ふらむ
247

徳大寺前内大臣

百首の歌奉りし時、おなじ心を

袖觸れて御階に近く立花のにほひも今はむかしなりけり
248

按察使實繼

忍ぶるも遠からぬ身の昔かな花たち花のちかきまもりは
249

法皇御製

卅首の御歌の中に

心にはちかき守りの橘の立ちなれし世ぞとほざかり行く
250

前中納言定家

光明峯寺入道前攝政の家の百首の歌に、故郷橘

橘の袖の香ばかりむかしにてうつりにけりな古き宮古は
251

土御門院御製

題志らず

吹く風に昔をのみや忍ぶらむくにのみやこに殘るたち花
252

式乾門院御匣

いつまでか我れも忍ばむ立花の下吹く風に殘るむかしを
253

前中納言雅孝

嘉元の百首の歌奉りける時、廬橘

村雨の名殘のつゆやこぼるらむ風に玉散る軒のたちばな
254

從三位爲信

題志らず

置く露もむかしの袖の名殘かは志のぶ草生ふる軒の立花
255

平氏村

時鳥誰れに昔をしのべとてさのみ老曾のもりに鳴くらむ
256

左兵衛督直義

斯く計りつれなき物を郭公鳴くや五月と誰れかいひけむ
257

常磐井入道前太政大臣

建保四年、百首の歌に

浮雲の嶺立ち迷ふ村雨にさそはれ出づるやまほとゝぎす
258

後鳥羽院宮内卿

雨中時鳥といふ事を

月影は思ひ絶えたる五月雨の雲より出づるほとゝぎす哉
259

法印定圓

題志らず

五月雨のふる江の村の苫屋形軒までかゝる田子のうら波
260

河内

堀河院の御時百首の歌に、五月雨

五月雨は入江の眞菰刈りにこし渡りも見えず成にける哉
261

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、同じ心を

今日見れば川浪高し三吉野のむつたの淀のさみだれの頃
262

藤原信實朝臣

河五月雨を

五月雨に八十氏川を見渡せば網代やいづこ瀬々の埋れ木
263

後照念院關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りける時、五月雨

雲くらき眞木のを山の五月雨に八十氏川は水まさるらし
264

藤原基任

橋五月雨といふことを

五月雨のふるの高橋高しともみかさ増りて見えぬ頃かな
265

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

名取川瀬々の埋木浮き沈みあらはれて行く五月雨のころ
266

權中納言具行

河五月雨を詠める

晴れやらで降る梅雨に飛鳥川淵は瀬になる隙やなからむ
267

一條内大臣

嘉元の百首の歌奉りけるとき、五月雨

淵は瀬にかはる習ひも飛鳥川聞えぬ御代の五月雨のころ
268

右大臣

百首の歌奉りし時、同じ心を

五月雨の雲のとだえの夕日影さすが晴間と見ゆる空かな
269

衣笠前内大臣

弘長元年百首の歌奉りける時

さしも草さしも隙なき五月雨に伊吹の嶽の猶や燃ゆらむ
270

前大僧正慈鎭

正治二年百首の歌奉りけるに

五月雨にふじのなる澤水越えておとや烟に立ち勝るらむ
271

祝部行氏

題志らず

時志らぬ山郭公さつきまで雪にや富士の音ををしむらむ
272

前大納言爲氏

寳治元年、十首の歌合に、五月時鳥

あやにくに初音待たれし郭公五月はおのが時と鳴くなり
273

神祇伯顯仲

平忠盛朝臣久しく音づれ侍らざりければうるふ五月の晦日の頃に申し遣しける

あやにくに聞くべき月は重なれど山郭公おとづれもせず
274

崇徳院御製

百首の歌召しける時

五月山弓末振り立て燈す火に鹿やはかなく目を合すらむ
275

前中納言基成

題志らず

照射するさつをの眞弓遙々と歸る山路のすゑぞ明け行く
276

中納言爲藤

文保三年百首の歌奉りける時

照射すと入りにし山の深ければ明けても歸る路や辿らむ
277

左兵衛督基氏

照射の歌とて詠める

照射する露わけごろも立ち濡れて今宵も明す宮城野の原
278

前大納言爲世

元弘三年、立后の屏風に、螢

暮るゝより露と亂れて夏草の茂みにしげく飛ぶほたる哉
279

藤原盛徳

題志らず

石ばしる瀧の白糸よる/\は玉貫き散らし飛ぶほたる哉
280

權中納言公雄

二品親王覺助の家の五十首の歌に、澤螢

飛ぶ螢思ひは富士となる澤に映る影こそ燃えは燃ゆらめ
281

道命法師

大井川の篝火を見て

久堅の月の桂のちかければ星とぞ見ゆる瀬々のかゞり火
282

前大納言實教

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、鵜河

夜河たつ鵜舟の篝さしもなど待たるゝ月の影いとふらむ
283

中宮大夫公宗母

文保三年百首の歌奉りける時

大井川瀬々の鵜舟の數々に浮きてぞ燃ゆるかゞり火の影
284

後宇多院御製

元亨三年八月大覺寺殿に行幸有りて人々題を探りて歌仕うまつりけるついでに鵜河を詠ませ給うける

鵜飼舟浮きて篝の見え行くや立つ河霧の絶え間なるらむ
285

伊勢

撫子の咲けるを人の許へやるとて

獨のみぬる床夏の露けさはなみだにさへや色を添ふらむ
286

式子内親王

題志らず

我れのみは哀とも言はじ誰れも見よ夕露かゝる大和撫子
287

皇太后宮大夫俊成

野邊に置くおなじ露とも見えぬかな蓮の浮葉に宿る白玉
288

後久我太政大臣

建保四年四月、五首の歌に

水上は夕立すらしやまがはの岩根にあまる瀧のしらなみ
289

後醍醐院御製

夏の御歌の中に

葛城や高間の山にゐる雲のよそにもしるきゆふだちの空
290

伏見院御製

名所の卅首の御歌の中に、信太杜

夕立の名殘久しきしづくかな信太の杜の千枝のしたつゆ
291

題志らず

一方に木々の木の葉を吹き返し夕立おくる風ぞすゞしき
292

前大納言爲兼

伏見院の卅首の歌に

なる神の音ほのかなる夕立のくもる方より風ぞはげしき
293

入道二品親王覺譽

野納涼といへる事を

雲かゝる夕日は空にかげろふの小野の淺茅生風ぞ凉しき
294

後伏見院御製

三首の歌合に、夏夜

草深き籬のつゆを月に見て秋のこゝろぞかねておぼゆる
295

等持院贈左大臣

百首の歌奉りし時、納凉

呉竹の代を經て秋やちかゝらむ葉分の風の音のすゞしき
296

前權僧正雲雅

元弘三年、立后の屏風に、同じ心を

夏ごろも立ち寄る袖の凉しさに掬ばでかへる山の井の水
297

後二條院御製

夏月を詠ませ給うける

月の行く波の柵かけとめよあまの河原のみじか夜のそら
298

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時、同じ心を

待ち出でゝしばし凉しく見る月の光にやがて明くる短夜
299

在原業平朝臣

題志らず

夏の夜は月こそ飽かね山の端のあなたの里に住むべかり鳬
300

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌に、夏月似秋

明け易き夜の間ならずば月影を秋の空とや思ひ果てまし
301

前大納言實躬

題志らず

明け易き習ひだに憂き短夜の月には雲のかゝらずもがな
302

藤原爲綱朝臣

徒らに更くるは易き老が世も思ひ知らるゝ夏の夜のつき
303

讀人志らず

寛平の御時、きさいの宮の歌合の歌

琴の音にひゞき通へる松風を調べてもなく蝉のこゑかな
304

俊惠法師

題志らず

山彦もこたへぞあへぬ夕附日さすや岡邊の蝉のもろごゑ
305

和泉式部

今日は又しのにをりはへ禊してあさの露散るせみの羽衣
306

藤原行輔朝臣

百首の歌奉りし時、夏祓

よるせなき身をこそ喞て思ふ事なほ大幣に夏はらへして
307

進子内親王

大幣やあさの木綿しで打ち靡きみそぎ凉しき賀茂の川風
308

前内大臣實

浪かくる袂もすゞし吉野川みそぎにやがて秋や來ぬらむ
309

後西園寺入道前太政大臣

文保の百首の歌の中に

今日しはや歸るさ凉し御祓川ゆふ波かけて秋や立つらむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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