風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第十
戀歌一

950

權大納言公蔭

戀の歌の中に

契ありてかゝる思や筑波嶺のみねども人のやがて戀しき
951

關白右大臣

百首の歌奉りし時、戀の歌

知られじなおさふる袖の泪川したにははやきみづの心を
952

前參議教長

題志らず

暫しこそ袖にもつゝめ泪川たぎつこゝろを爭でせかまし
953

後醍醐院御歌

我が戀は初元結の濃むらさきいつしか深き色に見えつゝ
954

前中納言定家

初戀の心をよめる

昨日今日雲の旗手に詠むとて見もせぬ人の思ひやは知る
955

今上御歌

戀の思ひと云ふ事を

物思ふと我だに知らぬ此の頃の怪しく常は詠めがちなる
956

冷泉

院の六首の歌合に、戀始

人知れぬこゝろの内の思ひゆゑ常は詠めの日頃にも似ぬ
957

權大納言公蔭

戀山を

岩が根のこりしく山にあらなくに妹が心の我にうごかぬ
958

從三位親子

題志らず

深き江の芦の下根によしさらば只朽果てね水籠りにして
959

大貳三位

始めて人のもとにつかはしける

埋もるゝ雪の下草いかにして妻籠れりとひとに知らせむ
960

貫之

承平五年、内裏の御屏風に、女に男のものいふまへに櫻の花ある所

よそにては花のたよりと見えながら心の中に心ある物を
961

從二位家隆

戀の歌の中に

青柳のかづらき山のよそながら君に心をかけぬ日はなし
962

前大納言爲兼

寄樹戀と云ふ事を

はつ時雨思ひそめても徒らに槇の下葉のいろぞつれなき
963

權中納言敦忠

年月契りながら逢はざりける人に

人知れず思ふ心は年經てもなにのかひなくなりぬべき哉
964

中納言國俊

堀川院の百首の歌に、忍戀を

打絶て詠めだにせず戀すてふ氣色を人に見せじと思へば
965

太宰大貳重家

同じ心を

つらからむ時こそあらめ味氣なく言はで心を碎くべしやは
966

後二條院御歌

戀の御歌の中に

言ひ出でむ言の葉も猶忍ばれて心にこむる我が思ひかな
967

徽安門院

戀硯と云ふ事を>

いつとなく硯にむかふ手習よ人にいふべき思ひならねば
968

左兵衞督直義

百首の歌奉りしに

泪をば洩さずとてももの思ふ心のいろのえやはかくれむ
969

宣光門院新右衛門督

戀の歌とて

忍びかね心に餘る思ひなれば言はでも色に出でぬべき哉
970

權大納言公蔭

院の六首の歌合に、戀始

知せねば哀も憂さもまだ見ぬに涙までには何かこぼるゝ
971

花山院前内大臣

寳治の百首の歌の中に、寄月戀

仄かなる面影ばかり三日月のわれて思ふと知せてしがな
972

鎌倉右大臣

月前戀と云ふ事を

我が袖に覺えず月ぞ宿りける問ふ人あらばいかゞ答へむ
973

祝子内親王

月はたゞむかふばかりの詠めかな心のうちのあらぬ思に
974

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、寄草戀

枯れね唯其の名もよしや忍草思ふにまけば人もこそしれ
975

前大納言爲家

建長五年五月後嵯峨院に三首の歌奉りけるに、寄郭公戀と云ふ事を

郭公今は五月と名のるなり我がしのび音ぞ時ぞともなき
976

鴨長明

題志らず

忍ぶれば音にこそ立てね小男鹿のいる野の露のけぬべき物を
977

皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌に、寄關戀を

越えて又戀しき人に逢坂の關ならばこそ名をもたのまめ
978

今出川前右大臣

題志らず

戀死なむ後の哀の爲ばかりかくともせめて知せてしがな
979

永福門院

戀の心を

さても我が思ふ思よ遂にいかに何のかひなき詠のみして
980

刑部卿頼輔

日吉の社の歌合に

つらくとも遂に頼はありなまし逢はぬ例のなき世なりせば
981

大江嘉言

始めて人の許につかはしける

忍ぶれど思ふ思の餘りには色に出でぬる物にぞ有りける
982

藤原元眞

題志らず

志るやと暫しばかりは忍ぶるに心弱きはなみだなりけり
983

俊頼朝臣

つれなくのみ侍りける人の許につかはしける

侘びつゝは頼めだにせよ戀死なむ後の世迄も慰めにせむ
984

進子内親王

戀の歌の中に

身をかへて見る道もがな難面さの人にもかゝる人の心か
985

大納言公重

百首の歌奉りし時

おのづから我が思寐に見る夢や人はゆるさぬ契なるらむ
986

源定忠朝臣母

戀の歌とて

忘られむ名をだにせめて歎かばや其も馴ての後ぞと思へば
987

後醍醐院少將内侍

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

つれもなき人の心の關守は夢路までこそゆるさゞりけれ
988

前左兵衞督惟方

つれなかりける女の夢には情ある樣に見えければ申しつかはしける

つれもなき現を夢に引きかへてうれしき夢を現ともがな
989

權大納言公宗

戀の歌に

知せねば難面き色も見えぬまの憂からぬ人に物をこそ思へ
990

順徳院御歌

思餘り知られむと思ふことの葉も猶人つての中ぞ悲しき
991

西宮前左大臣

清槇公の女の許へつかはしける

露ばかり頼む心はなけれども誰にかゝれる我ならなくに
992

祭主輔親

女のもとに始めてつかはしける

訪ふ事の始めは今日に見ゆらめど思ふ心は年ぞ經にける
993

東三條入道攝政前太政大臣

女につかはしける

音にのみ聞けばかひなし郭公こと語らはむと思ふ心あり
994

前右近大將道綱母

返し

語らはむ人なき里に郭公かひなかるべきこゑなふるしそ
995

源兼氏朝臣

顯戀の心を

隱れなきにほの通ひぢ今更にあさき心のみづからぞうき
996

藤原隆信朝臣

春の比山科わたりをありきけるに梅の花盛りなる宿の見え侍りければあるじを訪はせ侍るにはしたなく言ひければいひ入れ侍りける

梅が香は導べ顏なる春風の誰が行くへともなどや吹來ぬ
997

讀人志らず

返し

知らるべき行方ならねど梅が香に誘はれて來ば如何厭はむ
998

藤原隆信朝臣

かやうに云ひて對面などし侍りける後に云ひつかはしける

色深くそめし心ぞわすられぬ深山のさとの梅のにほひに
999

讀人志らず

返し

歸りにし心の色の淺ければあだに染めける花とこそ見れ
1000

永福門院

戀の歌とて

怪しくも心の中ぞ亂れ行く物思ふ身とはなさじと思ふに
1001

西園寺前内大臣女

忍戀を

くやしくぞ暫し人まをゆるしつる止めかねける袖の泪を
1002

徽安門院

六帖の題に、云ひ始むと云ふ事を

大方になれし日頃も疎き哉かゝるこゝろを思ひけるよと
1003

永福門院

戀の御歌の中に

思ふ方に聞きし人まの一言よ偖もいかにと云ふ道もなし
1004

後伏見院御歌

忍戀の心を

味氣なや人の浮名を立てじ故我が思をばなきになしつる
1005

院御歌

六首の歌合に、戀始と云ふことを

打ちつけに哀なるこそ哀なれ契ならではかくやと思へば
1006

徽安門院

思ふてふ事はかくこそ覺えけれまだ知らざりし人の哀の
1007

藤原爲忠朝臣

百首の歌奉りしに

相思ふ心とまでは頼まねど憂き名は人もさぞしのぶらむ
1008

新宰相

戀の歌の中に

なき名ぞと我が心にも答へばや其夜の夢のかごとばかりは
1009

前大納言實明女

偖もともとはれぬ今は又つらし夢なれとこそ云ひし物から
1010

前大納言俊定

夢にだに見つとはいはじ自から思ひ合する人もこそ有れ
1011

平宗宣朝臣

不惜名戀

なき名とも人にはいはじ其をだにつらきが中の思出にして
1012

永福門院右衛門督

題志らず

夢かなほ亂れそめにし朝寢髮又かきやらむ末も知らねば
1013

進子内親王

初逢戀の心を

今朝よなほ怪しく變る詠かないかなる夢の如何見えつる
1014

永福門院

題志らず

とに斯に晴れぬ思にむきそめて憂きより先に物の悲しき
1015

太上天皇

戀の歌の中に

我は思ひ人にはしひて厭はるゝこれを此世の契なれとや
1016

進子内親王

寢られねば夢にはあらじ面影の心に添ひて見ゆるなりけり
1017

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

流石いかに人の思はゞやすからむ包むが上の夢の逢ふ瀬も
1018

永福門院右衛門督

戀の歌に

こと通ふ道もさすがになからめや只憂き中ぞ忍ぶにはなる
1019

藤原爲秀朝臣

折々にきゝ見る事のそれも皆戀しき中のすさびにぞなる
1020

俊頼朝臣

女の許へつかはしける

戀しさに身の憂き事も忘るればつらきも人は嬉しかりけり
1021

賀茂保憲朝臣女

戀の歌の中に

思はじと心をもどく心しもまどひなさりて戀しかるらむ
1022

讀人志らず

題志らず

空蝉の人目を繁み逢はずして年の經ぬればいけりともなし
1023

心にはもえて思へど空蝉の人目をしげみ妹に逢はぬかも
1024

人言をしげしと妹に逢はずして心の中に戀ふるこのごろ
1025

中納言家持

現には更にも云はず夢にだにいもが袂をまきぬとし見ば
1026

讀人志らず

いかならむ日の時にかも吾妹子が藻引の姿朝にけに見む
1027

斯計り戀ひむとかねてしらませば妹をば見ずも有べかりける
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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