風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第十一
戀歌二

1028

永福門院

忍待戀の心を

包む中の重ねて聞かぬ契こそまつ物からに頼みがたけれ
1029

戀の御歌の中に

嬉しとも一かたにやは詠めらるゝまつ夜に向ふ夕暮の空
1030

院冷泉

頼まじと思ふ心はこゝろにて暮れ行く空のまた急がるゝ
1031

從三位親子

必ずとさしも頼めぬ夕暮を我れ待ちかねて我ぞかなしき
1032

藤原重能

訪はずとも障るとせめて聞かすなよ待つを頼の夕暮の空
1033

新宰相

待戀を

訪へかしと思ふ心のあらましに頼めぬ暮ぞ空にまたるゝ
1034

伏見院新宰相

戀の歌に

頼まねど頼めし暮は待つと云はむ哀と思ふ方もありやと
1035

前大納言尊氏

寄鐘戀の心を

よしさらばまたじと思ふ夕暮をまたおどろかす入相の鐘
1036

永福門院

戀の歌とて

暮にけり天とぶ雲の往來にも今夜いかにと傳へてしがな
1037

西園寺前内大臣女

待戀

自ら思ひもいでばとばかりの我があらましに待つぞはかなき
1038

前大納言爲兼

百首の歌の中に

頼まねば待たぬになして見る夜半の更行く儘になどか悲しき
1039

前權僧正圓伊

忍待戀の心を

宵の間は誰も人目を包めばと更くるつらさを忘てぞ待つ
1040

先福寺前内大臣女

包む中は人目に障る方や有ると更てしもこそ猶待たれけれ
1041

永福門院

戀の歌とて

頼め捨てゝとはぬはさこそ易くとも待つ心をば思遣らなむ
1042

後伏見院御歌

契明日戀と云ふ事を

いくゆふべむなしき空に飛ぶ鳥の明日必ずと又や頼まむ
1043

進子内親王

戀の歌の中に

見るも憂し流石さこそと待つくれにあす必ずの人の玉章
1044

後照念院前關白太政大臣

面影は心のうちにさき立ちてちぎりし月の影ぞふけぬる
1045

四條太皇大后宮下野

藤原隆方朝臣月のあかゝりける夜下野がつぼねに尋ねまかりたりけるに御まへにいとまいるよし申して侍りけるつとめて、よしさてもまたれぬ身をば置きながら月見ぬ君が名こそをしけれと申しつかはしければ、返し

契らぬに人待つ名こそ惜からめ月計をば見ぬ夜半ぞなき
1046

藤原隆祐朝臣

寳治の百首の歌の中に、寄月戀

更けにける槇の板戸の休らひに月こそ出づれ人は難面し
1047

源和氏

同じ心を

忘れずば夜よしと人に告げず共月見る度に待つと知ならむ
1048

權大納言公宗

更けぬ共誰にか云はむ人知れず待つ夜の月の宵過ぐる影
1049

永福門院

忍待戀の心を

槇の戸を風の鳴すもあじきなし人知れぬ夜の稍更くる程
1050

從三位客子

契待戀

人はいさあだし契の言の葉をまこと顏にや待ち更けぬらむ
1051

伏見院御歌

戀の歌數多よませ給ひける中に

思取り恨果てゝもかひぞなき頼むれば又待たれのみして
1052

永福門院

歴夜待戀と云ふ事を

我も人も哀れ難面き夜な/\に頼めもやまず待ちも弱らず
1053

題志らず

宣光門院新右衞門督

更けぬれど障ると聞かぬ今夜をば頼の中に待つもはかなし
1054

院御歌

夜戀を

更けぬなり又とはれてと向ふ夜の泪に匂ふともし火の影
1055

土御門院御歌

戀の御歌の中に

妹待つとやまの雫に立ちぬれてそぼちにけらし我が戀衣
1056

伏見院新宰相

待戀の心を

更果てぬ頼めしをさへ忘れてや障るとだにも音づれもなき
1057

二品法親王尊胤

更にこそ明日の契りも頼まれぬ進まぬ方の障りと思へば
1058

進子内親王家春日

さのみやと我さへ果ては難面きに今夜は人に待つと知られじ
1059

從二位爲子

障りあればのち必ずの慰めよ幾たび聞きて幾夜待つらむ
1060

前大納言經顯

慂戀を

強ひてなほ頼みやせまし僞の契もさすがかぎりありやと
1061

權大納言資明

戀の歌の中に

僞の有る世と誰も知りながら契りしまゝを頼むはかなさ
1062

左近大將經教

忍契戀

邂逅の人目の隙を待ちえても思ふばかりは契りやはする
1063

權大納言公宗母

百首の歌奉りし時、戀の歌

積りける程をも人に見ゆばかり待つ夜の床の塵は拂はじ
1064

進子内親王

思ひやる寢覺もいかゞ安からむ頼めし夜半のあらぬ契は
1065

伏見院御歌

戀の御歌の中に

とはずなる今より斯や隔て行かむ今夜計はさて飽かず共
1066

永福門院

待空戀と云ふ事を

云ひし儘の今宵遠はぬ今宵にて又明日ならば嬉しからまし
1067

題志らず

此のくれの心も知らで徒らによそにもあるか我が思ふ人
1068

同院内侍

戀雨を

今日の雨晴るゝも侘し降るも憂し障習ひし人を待つとて
1069

從三位親子

戀の歌の中に

我が方の障を強ひて恨みねば淺かり鳬とつらくこそなれ
1070

前太宰大貳俊兼

院の三十首のうためされし時、戀月

頼めねば來ぬを憂しとは喞たねど斯る月夜を獨見よとや
1071

前右近中將資盛

契不來戀と云ふ事を

中々に頼めざりせば小夜衣返すしるしは見えもしなまし
1072

前大納言爲兼

伏見院の御時六帖の題にて人々に歌よませさせ給ひけるに、一夜隔てたると云ふ事を

夜がれそむる寢待の月のつらさより廿日の影も又や隔てむ
1073

從二位爲子

二夜隔てたる

空しくて又明ぬるよ一夜こそげにも障の有るかとも思へ
1074

西園寺前内大臣女

同じ心を

さり共と今日をば待ちし昨日こそ夜かれになれぬ心なりけれ
1075

賀茂重保

曉の戀を

さりともと猶待つ物を今はとて心よわくぞ鳥はなくなり
1076

進子内親王

戀の歌の中に

空しくて明けつる夜半の怠を今日やと待つに又音もなし
1077

永福門院

待戀の心を

何となく今夜さへこそ待たれけれ逢はぬ昨日の心習ひに
1078

戀の歌とて

とはぬ哉訪べき物をいかに有れば昨日も今日も待たず來ぬ覽
1079

修理大夫顯季

堀川院の百首の歌に、初逢戀を

播磨潟恨みてのみぞ過ぎしかど今夜とまりぬをふの松原
1080

源兼氏朝臣

逢戀

今更に苦しさまさる逢坂をせき越えなばと何おもひけむ
1081

從三位頼政

ある女に始めて物ごしに申し語らひて歸りてあしたにつかはしける

逢ひもせず逢はずも非ぬ今日やさば事有り顏に詠暮さむ
1082

藤原隆信朝臣

大内にて月のあかゝりける夜思ひかけず逢ひたりける女の行くへを問ひ侍りけれども言はざりけるに

心をば雲居の月にとめ乍ら行方も知らずあくがれよとや
1083

讀人志らず

返し

行くへなき月も心しかよひなば雲のよそにも哀とはみむ
1084

太宰大貳重家

初逢戀を

逢ふ事に身をば換へむと云ひしかど偖しも惜しき命なり鳬
1085

從二位爲子

忍遇戀と云ふ事を

憂き中のそれを情に有りし夜の夢よ見きとも人に語るな
1086

前大納言爲家

女と夜もすがら物語してあしたに云ひつかはしける

生きて世の忘形見と成やせむ夢計りだにぬともなき夜は
1087

安嘉門院四條

返し

あかざりし暗の現を限にて又も見ざらむゆめぞはかなき
1088

永福門院内侍

戀の歌とてよめる

逢ひ見つる今夜の哀夢なれな覺めては物を思はざるべく
1089

從二位爲子

夢とてや語りもせまし人知れず思ふもあかぬ夜半の名殘を

1090

藤原爲基朝臣

夢中遇戀といふ事を

現にも逢はゞかくこそ思寢の夢は覺めても嬉しかりけり
1091

前大納言爲家

女の許にあからさまに罷りて物語りなどして立ち歸りて申しつかはしける

まどろまぬ時さへ夢の見えつるは心に餘る往來なりけり
1092

安嘉門院四條

かへし

魂は現のゆめにあくがれて見しも見えしも思ひわかれず
1093

法印長舜

題志らず

ぬるが内に逢ふと見つるも頼まれず心の通ふ夢路ならねば
1094

前大納言爲家

女のもとへ近き程にあるよし音づれて侍りければ、今宵なむ夢に見えつるは鹽竈のしるしなりけりと申して侍りけるにつかはしける

聞きてだに身こそ焦るれ通ふなる夢の直路のちかの鹽竈
1095

安嘉門院四條

返し

身をこがす契ばかりか徒らに思はぬ中のちかのしほがま
1096

徽安門院一條

忍逢戀

包む内は稀の逢ふ夜も更けはてぬ人の鎭る程を待つまに
1097

後西園寺入道前太政大臣

建治の百首の歌の中に

掻き亂す寢くたれ髮の眉墨もうつりにけりな小夜の手枕
1098

讀人志らず

題志らず

逢ひ難き君に逢へるよ郭公こと時よりはいまこそ鳴かめ
1099

唐あゐのやしほの衣朝な/\なれはすれどもいや珍しき
1100

章義門院

戀の歌の中に

向ふ中のつらくしもなき氣色にぞ日頃の憂さも言はず成ぬる
1101

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

我が爲に深き方には云爲せど誰が障る夜のすさびなる覽
1102

新室町院御匣

忍遇戀

哀なり斯る人まの時の間も又いかならむ世にかと思へば
1103

安嘉門院四條

人にだに忍ぶるなかの曉を誰れ知せてかとりの鳴くらむ
1104

徽安門院

戀の歌に

たま/\の今宵一夜は夢にして又幾月日戀ひむとすらむ
1105

後伏見院御歌

別戀の心をよませ給ひける

別れ路を急がぬ鳥の聲よりもまだ空たかき月ぞうれしき
1106

權大納言公宗

同じ心を

憂かりける人こそ有らめ曉の雲さへ峰になどわかるらむ
1107

入道二品親王法守

更けてとふ夜半の殘はすくなきを又歸るさに猶急ぐらむ
1108

左近中將忠季

偖も又いつぞとだにも云ひかねて咽ぶ泪におき別れぬる
1109

永福門院

戀曉と云ふ事を

きぬ%\を急ぐ別は夜深くてまた寢久しきあかつきの床
1110

從三位客子

曉を憂き物とだにしらざりき枕さだめぬゆめのちぎりは
1111

太上天皇

百首の歌の中に

邂逅の夜をさへ分くる方のあれや鳥の音をだに聞かぬ別路
1112

進子内親王

出でがてに又立歸り惜む間に別れの戸口明け過ぎぬなり
1113

從三位親子

戀の歌とてよめる

明けぬるか又はいつかの鳥の音に人の頼めをきく迄もなし
1114

前中納言定家

句のかみに文字を置きてよみ侍りける歌の中に

手を結ぶ程だに飽かぬ山の井のかげはなれ行く袖の白玉
1115

從三位頼政

戀の歌に

明ぬとて鳴く/\歸る道芝の露は我が置く物にぞ有ける
1116

後伏見院御歌

別戀の心を

又や見む又や見ざらむとばかりに面影暮るゝ今朝の別路
1117

前大納言實明女

我ならぬ人もや忍ぶ歸るさの夜深き道に逢へるをぐるま
1118

前大納言爲家

戀の歌の中に

八聲なくかけの垂れ尾の己れのみ長くや人に思ひ亂れむ
1119

進子内親王

名殘をばさすがにかくる玉章に又此の暮もなどか頼めぬ
1120

永福門院

後朝戀を

其儘の夢の名殘のさめぬ間に又同じくば逢ひ見てしがな
1121

從三位親子

いつと待つ日數は暫し慰むを今朝別れぬる今日ぞ侘しき
1122

永福門院内侍

稀に見る夢の名殘はさめ難み今朝しも増る物をこそ思へ
1123

和泉式部

九月ばかり曉歸りける人の許に

人は行き霧はまがきに立ち止りさも中空にながめつる哉
1124

讀人志らず

題志らず

玉ゆらに昨日の夕べ見し物を今日のあしたは戀ふべき物か
1125

藤原元眞

今朝こそは別れて來つれいつの間に覺束なくも思ふなる覽
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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