風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第九
旅歌

889

貫之

人の馬のはなむけに

遠く行く君を送ると思ひやる心もともにたび寐をやせむ
890

雨のふる日兼茂朝臣ものへ行くに兼輔馬の餞する所にてよめる

久堅の雨も心にかなはなむふるとて人の立ちとまるべく
891

康資王母

遠くまかりける時四條太皇大后宮より裝束を給はせたりければ申しける

旅衣遙かに立てば秋霧のおぼつかなさをいかにながめむ
892

民部卿爲定

遠き所へ罷りける人につかはし侍りける

目に見えぬ心を人にたぐへてもやる方なきは別なりけり
893

安嘉門院四條

百首の歌の中に、曉を

いづかたに有明の月の誘ふらむ空にうかるゝたびの心を
894

順徳院御歌

題志らず

旅衣朝立つ人はたゆむなり霧にくもれるあけくれのそら
895

修理大夫顯季

梓弓入る野の草のふかければ朝行く人のそでぞつゆけき
896

藤原定宗朝臣

逢坂の關は明けぬと出でぬれど道猶くらしすぎの下かげ
897

藤原頼成

深き夜に關の戸出でゝ足柄の山もとくらき竹のしたみち
898

藤原行朝

富士の嶺を山よりうへに顧みて今こえかゝる足柄のせき
899

藤原朝定

我のみと夜深く越ゆる深山路にさきだつ人の聲ぞ聞ゆる
900

道全法師

山路棧と云ふことを

岩だゝみのぼりわづらふ峰つゞき雲にはづれてみゆる棧
901

權律師慈成

院に卅首の歌召されし時、山旅

行く末はなほいくへとも白雲のかさなる峯に又向ひぬる
902

院御歌

夕旅行を

雲霧に分け入る谷は末暮れて夕日殘れるみねのかけはし
903

前大僧正道昭

修行し侍りけるに先達にて侍りける權僧正良宋のもとへつかはしける

分けきつる山又山はふもとにて嶺より峯の奥ぞはるけき
904

延政門院新大納言

山を

山高みいづれを分きて越え行かむ數多跡ある岩のかげ道
905

前大納言爲兼

五十首の歌よみ侍りけるに、旅

めにかけて暮れぬと急ぐ山もとの松の夕日の色ぞ少なき
906

從三位行能

寳治二年、百首の歌召されけるに、旅行

一村の里の知るべに立つ烟行けども遠み暮るゝそらかな
907

和氣仲成朝臣

題志らず

行き暮れて宿とふ末の里の犬とがむる聲を知べにぞする
908

本如法師

夕まぐれ迷ふ山路は越え過ぎて宿とふ里に出づる月かげ
909

從二位爲子

旅月をよみ侍りける

越え惱み我が身行き止る夕山の尾上を月は今ぞ出づなる
910

平維貞

行きとまる草の枕の露にしも我れ待ち顏にやどる月かな
911

藤原公重朝臣

九月十三夜、いつく島へ參りけるに、備後の鞆と云ふ所にて、海邊月と云ふ事をよめる

あたら夜の月を獨りぞ詠めつるおもはぬ磯になみ枕して
912

從三位基輔

題志らず

夜もすがら苫もる月を枕にてうちも寢られぬ浪の音かな
913

藤原頼氏

泊り舟入りぬる磯の波の音にこよひも夢はみらく少なし
914

藤原公重朝臣

夜をこめて旅の宿りを立つ人は隈なき月を明けぬとや思ふ
915

前參議俊言

羇中嵐を

吹きおろす富士の高嶺の朝嵐に袖しをれそふうき島が原
916

前大納言爲兼

あづまへ罷りけるにやす川を渡るとて

やす川と爭でか名には流れけむ苦しき瀬のみある世と思ふに
917

小夜の中山にて

峰の雲浦わの浪をめにかけて嵐を分くるさやのなかやま
918

光明峯寺入道前攝政左大臣

旅の歌とて

笹の葉のさやの中山ながき夜も假寢の夢は結びやはする
919

前大納言爲兼

あづまへ罷りける道にてよみ侍りける

高瀬山松の下道分け行けばゆふ嵐吹きて逢ふひともなし
920

聖尊法親王

旅宿友と云ふ事を

明日も又同じ道にと契るかな泊りかはらぬ夜半のたび人
921

前大納言公泰

前左大臣の家に卅首の歌よませ侍りける中に、海旅と云ふ事を

天の原八十島かけて照る月のみちたる汐に夜ぶねこぐなり
922

前太宰大貳俊兼

雜の歌の中に

蘆の葉に雨降りかゝる暗き夜の入江の舟に都をぞおもふ
923

前大納言尊氏

世の中騷がしく侍りける頃みくさ山をとほりて大倉谷と云ふ所にて

今むかふ方は明石の浦ながらまだ晴れやらぬ我が思かな
924

永福門院内侍

播磨なる所に住み侍りける頃、常に見渡したる方を旅人のとほるも哀に見送られてよみ侍りける

うらやまし山田のくろに道も有れや都へ通ふをちの旅人
925

道全法師

前大納言爲兼安藝國に侍りける所へ尋ね罷りて題を探りて歌よみけるに、海山と云ふ事を

海山の思遣られし遙けさも越ゆれば易き物にぞ有りける
926

寂然法師

讃岐より都へのぼるとて道より崇徳院に奉りける

慰めに見つゝも行かむ君が住むそなたの山を雲な隔てそ
927

崇徳院御歌

松山へおはしまして後都なる人の許に遣はさせ給ひける

思ひやれ都はるかに沖つ浪立ち隔てたるこゝろぼそさを
928

後鳥羽院御歌

雜の御歌の中に

過ぎ來つる旅の哀れをかず/\にいかで都の人に語らむ
929

祭主定忠

行きうつる所々の面影をこゝろにとむるたびのみちかな
930

權大納言公蔭

露にふし嵐に袖をかさね來て野山のたびも日數へにけり
931

後伏見院御歌

飛ぶ鳥の眺めの末も見えぬまで都の空をおもひこそやれ
932

兵部卿隆親

寳治の百首の歌の中に、旅行

分け來つる露の袂は干しわびぬまだ里遠き野邊の夕ぐれ
933

正三位經家

旅の歌の中に

行きずりの衣にうつれ萩がはな旅の志るしと人に語らむ
934

人麿

題志らず

いざや子等大和へ早く白菅の眞野の萩原手折りて行かむ
935

笠金村

鹽津山打ち越えくれば我が乘れる駒ぞ躓く家戀ふらしも
936

讀人志らず

里はなれとほからなくに草枕旅とし思へば猶戀ひにけり
937

從三位頼政

敦頼あづまの方へくだりけるに人々餞し侍りけるに

遙々と行くも泊るも老いぬれば又逢ふ事を如何とぞ思ふ
938

道因法師

題志らず

はかなくも歸らむ程を契る哉さらぬ別になりもこそすれ
939

從三位頼政

贈左大臣範季みちの國の守にて下り侍るにつかはしける

歸るまでえぞ待つまじき君が行き末遙なる我身ならねば
940

寂然法師

崇徳院、松山におはしましけるに參りて、日數へて都へ歸りなむとしける曉よめる

歸るとも後には又と頼むべき此身の轉てあだにも有る哉
941

登蓮法師

筑紫へ罷りける道より都へ云ひつかはしける

故郷を戀ふる泪のなかりせば何とか旅の身には添へまし
942

民部卿爲定

旅の歌に

故郷にかよふ心の道はあれど越えて跡なき峯のしらくも
943

藤原有範朝臣

秋の比東に思ひ立つ事侍りける時

山姫の紅葉のにしき我にかせふる郷人に着ても見ゆべく
944

前大納言爲家

寳治の百首の歌に、旅宿

哀れなどあひも思はぬ故郷も旅寢となれば戀しかるらむ
945

山階入道前左大臣

露ながら結ぶ小笹のかり枕かりそめぶしの幾夜へぬらむ
946

從三位行能

岩代の岡の萱根を結ぶ夜も夢はみやこにかはらざりけり
947

前大納言爲兼

旅の歌の中に

故郷に契りし人も寐覺せば我が旅寐をもおもひやるらむ
948

結びすてゝ夜な/\變る旅枕假寐の夢のあともはかなし
949

讀人志らず

玉かつまあへしま山の夕露に旅寐しかねつ長きこの夜を
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Thursday, January 09, 2014
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia