風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第十二
戀歌三

1126

後二條院御歌

題志らず

いかにせむ世に僞の有るまゝに我がかね言を人の頼まぬ
1127

後光明照院前關白左大臣

後宇多院に奉りける百首の歌の中に

よし今は頼まずとても言の葉のかはるが末に思ひ合せば
1128

徽安門院

契戀の心を

限りなく深き契を聞く中に人にもさぞのなからましかば
1129

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

なほゆかし思ふぞと云ふ其の内の深き限は我ばかりかと
1130

院御歌

戀の御歌の中に

人よまして心の底の哀れをば我れにて知らぬ奥も殘るを
1131

永福門院

なるゝ間の哀に遂にひかれ來て厭ひ難くぞ今はなりぬる
1132

從三位親子

通ひけりと思ひ知られじ人づまに心の色の添ひ増るころ
1133

從二位宣子

戀ひ恨み君に心はなりはてゝあらぬ思ひもませぬ頃かな
1134

進子内親王

哀れさらば忘れて見ばや生憎に我が慕へはぞ人は思はぬ
1135

前大納言實明女

増る方の人にいかなる言の葉の我が聞かざりし際を云ふ覽
1136

院別當

さのみ唯哀なるしも頼まれず斯ては人の果てじと思へば
1137

大江高廣

恨みても思ひ知らねば中々になにか心のいろを見えけむ
1138

從三位爲理

契顯戀と云ふ事を

洩すよりあだなる程の知らるれば云ひし契の末も頼まず
1139

院冷泉

戀の五首の歌合に、戀命

一度の逢瀬にかへし命なれば捨ても惜みも君にのみこそ
1140

藤原爲名朝臣

契戀の心を

何か云ふ後の世までのかね言よ人も思はじ我もたのまず
1141

院兵衞督

戀の歌の中に

始めより頼まじすべて頼むよりつらき恨はそふと思へば
1142

院御歌

憂きながら流石に絶えぬ契をば猶も哀になしこそはせめ
1143

儀子内親王

思ひけつ限こそ有れ憂き身ぞと忍ふが上も餘るつらさを
1144

今上御歌

恨戀を

つらさをば憂き身の咎と喞ちつゝ哀を猶も醒し兼ねぬる
1145

院冷泉

さばかりも心とゞめて思ふかと恨むるにしも添ふ哀かな
1146

前大納言爲兼

戀の歌とて

思ひ鳬と頼成りての後しもぞはかなき事も人よりは憂き
1147

思取りし昨日の憂さは弱ればや今日は待つぞと又いはれぬる
1148

永福門院

習ひあらばげにもしやとも頼まゝし僞としも見えぬ言の葉
1149

院御歌

寄人戀と云ふ事を

さらばとて頼むになれば人心及ばぬ際の多くも有るかな
1150

徽安門院一條

百首の歌奉りしに

人よされば誰か夜がるヽ夜がれとて逢はぬ絶間を憂しといふ覽
1151

入道二品親王法守

げに思ふ心の中は言の葉のおよばぬ上もみゆらむものを
1152

宣光門院新右衛門督

かばかりも思ひけるよの哀より我も心をゆるし立ちぬる
1153

永福門院

題志らず

思ふ方によし唯凡べて押籠めてさのみは人の心をば見じ
1154

憂きも契つらきも契よしさらば皆哀れにや思ひなさまし
1155

進子内親王

院の五首歌合に、戀憂喜といふことを

憂きに添ふ哀に我れもみだされて一方にしもえこそ定めね
1156

權大納言公宗女

戀の歌の中に

人はしらじ今はと思ひとるきはゝ恨のしたによわき哀も
1157

大藏卿有家

後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、契戀を

先の世を思ふさへこそ嬉しけれ契るも今日の契のみかは
1158

前大納言爲家

千首の歌の中に

契りしを頼めばつらしおもはねばなにを命の慰めぞなき
1159

權大納言公蔭

百首の歌奉りし時、戀の歌

おし返し哀なる哉むくい有りて憂きも二世の契と思へば
1160

院一條

戀契を

憂きにしも哀の添ふよ是ぞ此の遁れざりける契と思ふに
1161

左近中將忠季

戀情と云ふ事を

思ひとけば心づからに歸れとも唯なほ人のうきに覺ゆる
1162

從一位教良女

寄身戀

身を知らぬ思ひと人や思ふらむ憂きをば置ける上の思を
1163

從二位爲子

題志らず

我も云ひきつらくば命あらじとは憂き人のみや僞はする
1164

伏見院新宰相

限なく憂き物からに哀なる孰れ我が身のこゝろなるらむ
1165

徽安門院一條

奉恨戀と云ふ事を

言はねどもつらしと思ふ色や見ゆる慰め顏に人の恨むる
1166

大納言公重

稀逢戀

侘ぬれば斯こそ物は哀なれ絶えぬ計りのたま/\の夜を
1167

徽安門院

題志らず

憂からぬもまして憂きにも哀々よしなかりける人の契を
1168

哀なる節もさすがに有りけるよ思ひいでなき契と思へど
1169

太上天皇

百首の歌に

其までは思入れずやと思ふ人の恨むる節ぞさては嬉しき
1170

儀子内親王

戀の歌に

我と人哀れ心のかはるとてなどかはつらき何かこひしき
1171

後光明照院前關白左大臣

恨戀の心を

兼てより恨置かばや憂きにならむ心の後はかひもあらじを
1172

山本入道前太政大臣女

つらけれど猶戀しきよ身の程の憂きをば知らぬ人の習に
1173

權大納言公宗女

戀の歌とて

哀知らじ常の恨におもなれてこれをまことの限なりとも
1174

徽安門院一條

戀の五首の歌合に、戀夢を

人の通ふ哀になして哀なるよ夢は我が見る思ひねなれど
1175

院一條

覺め難みしばし現になしかねぬ哀れなりつる夢の名殘を
1176

前中納言公雄

戀の歌の中に

面影は殘る形見の現にてまだ見ぬゆめの覺むる間もなし
1177

藤原懷世朝臣

自づから夢路ばかりの逢ふ事を通ふ心とたのむはかなさ
1178

從二位爲子

思盡す心よ行きて夢に見ゆなそをだに人の厭ひもぞする
1179

前太宰大貳俊兼

つらきをば世々の報と思ふにも人は憂からで猶ぞ戀しき
1180

太上天皇

百首の歌の中に

世々の契いかゞ結びしと思ふ度に始めて更に人の悲しき
1181

永福門院

題志らず

大方は頼むべくしもなき人の憂からぬにこそ思侘びぬれ
1182

院兵衞督

それしもやうき身は人に厭はれむ深き思の際を見ずとて
1183

伏見院御歌

かはり行く昨日の哀れ今日の恨み人に心の定めなの世や
1184

徽安門院

戀涙と云ふ事を

落ちけりな我だに知らぬ涙哉枕ぬれ行く夜半のひとり寐
1185

永福門院右衛門督

その行くへきけば涙ぞ先落つる憂さ戀しさも思分かねど
1186

兵衞督

院の百番歌合に、寄心戀を

思はぬになす心しもいかなれや常はながめて涙のみうく
1187

今出川入道前右大臣

題志らず

哀にも憂きにも落つる我が涙さも殘有る物にぞ有りける
1188

前參議家親

つらけれど思知らぬに爲す物を何と涙のさのみ落つらむ
1189

藤原公眞朝臣母

うきふしも思ひ入れじと思ふ身に何故さのみ落つる涙ぞ
1190

伏見院御歌

戀の御歌の中に

泪だに思ふが程はこぼれぬよあまりくだくるいまの心に
1191

思ひ/\泪とまでになりぬるをあさくも人の慰むるかな
1192

從二位爲子

せめてたゞ思ふあたりの事をだに同じ心に云ふ人もがな
1193

徽安門院小宰相

百首の歌奉りしに

渡る瀬のさも定めなき中川よ潮の滿ち干る浦ならなくに
1194

二品法親王覺助

文保三年後宇多院へ召されける百首の歌に

人心思ひ亂るゝかくなはのとにも斯にもむすぼゝれつゝ
1195

前左兵衛督爲成

六帖の題にて歌よみける中に、あやを

夕暮は思ひ亂れて雲どりのあやに戀しきひとのおもかげ
1196

貫之

題志らず

くれなゐに袖ぞ移ろふ戀しきや泪の川の色には有るらむ
1197

讀人志らず

うらぶれて物な思ひそ天雲のたゆたふ心我が思はなくに
1198

權大納言實家

戀の歌の中に

戀しさの天つみ空に滿ちぬれば泪の雨は降るにぞ有ける
1199

權大納言公蔭

院に三十首の歌召されし時、戀月を

雨雲の絶えま/\を行く月のみらく少なき妹に戀ひつゝ
1200

正二位隆教

百首の歌奉りし時

そのまゝに思ひ合する方ぞなきあだに見し夜の轉寐の夢
1201

前中納言定家

後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、寄風戀を

知らざりし夜深き風の音もせず手枕疎きあきのこなたは
1202

權大納言公蔭

戀海と云ふ事を

君故に思ふ思ひは大海のなみをばそでにかけぬ間もなし
1203

伏見院御歌

伊勢の海渚に拾ふたま/\も袖干す間なき物をこそ思へ
1204

戀の歌あまたよませ給ひけるに

戀しさになり立つ中の詠めには面影ならぬ草も木もなし
1205

權大納言公宗女

寄書戀を

何となくうちも置かれぬ玉章よ哀なるべき節はなけれど
1206

儀子内親王

思ふ程はかゝじと思ふ玉章に猶ともすれば進むことのは
1207

宣光門院新右衞門督

なほざりに人は見るらむ玉章に思ふ心のおくはのこさぬ
1208

法印實性

通書戀と云ふ事を

通ふとていかゞ頼まむ徒らに末もとほらぬ水ぐきのあと
1209

讀人志らず

人の文をあだ/\しくちらすと聞きて恨み侍れば

常磐山露ももらさぬ言の葉の色なる樣にいかで散りけむ
1210

相模

返し

色かへぬ常磐なりせば言の葉を風につけても散さましやは
1211

三條院女藏人左近

實方朝臣、みちの國より人の許へ弓をつかはして、戀しくばこれをいだきてふせと申したりける返し、人にかはりて

これやさば安達の眞弓今こそは思ひためたる事も語らめ
1212

花山院前内大臣

寳治の百首の歌に、寄玉戀

かざしけむ主は白玉知らね共手にとるからに哀とぞ思ふ
1213

冷泉前太政大臣

白玉か何ぞとたどる人もあらば泪の露をいかにこたへむ
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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