風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第十三
戀歌四

1214

權中納言定頼

日ごろ雨の降るに人の許につかはしける

つれ%\と詠めのみする此頃は空も人こそ戀しかるらし
1215

左近大將朝光

雨降る日女の許より歸りて程經てつかはしける

程ふれば忘れやしぬる春雨のふることのみぞ我はこひしき
1216

馬内侍

返し

いとゞしくぬれのみ増る衣手に雨降る事を何にかくらむ
1217

貫之

題志らず

歸るかり我が言傳てよ草枕たびはいもこそ戀しかりけれ
1218

和泉式部

人のこむと頼めて見え侍らざりけるつとめてよめる

水鷄だに敲く音せば眞木の戸を心遣にも明けて見てまし
1219

讀人志らず

題志らず

いかにして忘るゝ物ぞ吾妹子に戀は増れど忘られなくに
1220

大原のふりにし里に妹を置て我いねかねつ夢に見えつゝ
1221

吾妹子に逢ふよしもなみ駿河なる富士の高嶺の燃つゝかあらむ
1222

小町

世の中は飛鳥河にもならばなれ君と我とが中したえずば
1223

永福門院

戀の心を

今日はもし人もや我を思ひ出づる我も常より人の戀しき
1224

進子内親王

戀命

空の色草木を見るもみな悲し命にかくるものをおもへば
1225

前大納言爲兼

寄雲戀

物思ふ心の色に染められて目に見る雲もひとやこひしき
1226

院御歌

戀ひ餘る詠めを人は知りもせじ我とそめなす雲の夕ぐれ
1227

永福門院

今しもあれ人の詠もかゝらじを消ゆるも惜しき雲の一村
1228

伏見院御歌

戀の御歌の中に

それをだに思ひさまさじ戀しさの進むまゝなる夕暮の空
1229

同院新宰相

寐られねば唯つく%\と物を思ふ心にかはる燈火のいろ
1230

太上天皇

待過す月日の程を味氣なみ絶えなむとてもたけからじ身を
1231

從一位教良女

斯やはと覺えし時も覺え鳬凡て人にはなれでぞ有らまし
1232

前太宰大貳俊兼

今はとてつらきに爲て見る人の偖もいかにと云ふしもぞうき
1233

從二位爲子

戀しさも人のつらさも知らざりし昔乍らの我身ともがな
1234

院御歌

日増戀と云ふ事を

聞添ふる昨日に今日の憂きふしに覺めぬ哀も生憎にして
1235

權大納言公蔭

題志らず

恨みたらばさこそ有らめと思ふ方に思咽びて過ぐる比哉
1236

伏見院御歌

いとゞこそ頼み所もなくならめ憂きには暫し思ひ定めじ
1237

後伏見院御歌

慕ふ方の進むにつけて厭ひ増る人と我との中ぞはるけき
1238

二品法親王寛尊

定めなき人の心のいかなれば憂き一方にかはり行くらむ
1239

儀子内親王

院の戀の五首の歌合に、戀泪を

すべて此の泪の隙やいつならむ哀は哀れ憂きは憂しとて
1240

權大納言公蔭

百首の歌奉りし時、戀の歌

思ひとればさすが哀れも添ふ物を常の恨みの泪とや見る
1241

院御歌

戀の歌とてよませ給ひける

常はたゞ獨り詠めて大方の人にさへこそうとくなりゆけ
1242

太上天皇

云ふきはゝ及ばぬ憂さの底深みあまる泪を言の葉にして
1243

永福門院

大方の世は安げなし人はうし我が身孰くに暫し置かまし
1244

院御歌

五十番歌合に、漸變戀を

そことなき恨ぞ常に思ほゆるいかにぞ人のあらずなる頃
1245

永福門院

かはり立つ人の心の色や何恨みむとすればその節となき
1246

儀子内親王

戀の歌の中に

是やさば變るなる覽其節と見えぬ物から有りしにも似ぬ
1247

歌御歌

五首の歌合に、戀憂喜と云ふ事を

かはり立つ凡べて恨のその上に憂さ哀れさはかりの節々
1248

式部卿恒明親王

漸變戀

とはぬ間を忘れずながら程ふるや遠ざかるべき始なる覽
1249

昭訓門院權大納言

暮れなばと頼むる夜半の更しより空しく明くる憂さぞ重る
1250

覺譽法親王

變戀の心を

變り立つ心と見ゆるその上のなげの情よよしやいつまで
1251

永福門院内侍

變るかと人に心をとめて見ればはかなき節も有りしにぞ似ぬ
1252

前大納言實明女

憂さは増して哀と思ふ中にしもかはる心の色は見ゆるを
1253

永福門院右衛門督

五十番歌合に、寄人戀を

一筋に憂きよりも猶憂かりけり有りしにかはる人の情は
1254

儀子内親王

五首の歌合に、戀昨今と云ふ事を

變るてふ人よげにこそ變りけれ昨日見ざりし今日のつらさは
1255

後伏見院中納言典侍

戀の歌に

恨み果てむ今はよしやと思ふより心弱くぞ又あはれなる
1256

宣光門院新右衛門督

人は憂く我のみ覺めぬ哀れにてつひの契の果ぞゆかしき
1257

藤原實[2]B2朝臣

せめて我が思ふ程こそ難くともかけよや常の情ばかりは
1258

藤原俊冬

いかにせむ常のつらさはつらさにて今一節の更に添ふ頃
1259

權大納言公宗母

恨戀の心を

つらしとも猶世の常の恨みかはいづくに殘る心よわさぞ
1260

進子内親王

戀の歌とて

つらし共中々なれば云ひはせで恨みけりとはいかで知せむ
1261

儀子内親王

思ひとる唯此のまゝのつらさにて又は哀に歸らずもがな
1262

前太宰大貳俊兼

あばらやの唯一方を思にて侘びぬる果は憂さも知られず
1263

冷泉

院の五首の歌合に、變憂喜

哀見せし人やはあらぬ憂きや誰我は變らぬ元の身にして
1264

院御歌

戀餘波と云ふ事をよませ給ひける

人こそ有れ我さへしひて忘れなば名殘なからむ其も悲しき
1265

康永二年、歌合にの戀終を

人知れず我のみ弱き哀かなこの一節ぞかぎりとおもふに
1266

永福門院右衞門督

我のみは憂さをも強て忍ぶとも變るが上の人はいつまで
1267

徽安門院

戀命

憂きに厭ふ又同じ世を惜むとて命ひとつを定めかねぬる
1268

延政門院新大納言

伏見院の五十番歌合に、戀夕を

いかにせむ雲の行く方風の音待ちなれし夜に似たる夕を
1269

西宮前左大臣

七月七日よみ侍りける

七夕の契れる秋も來にけるよいつと定めぬ我ぞわびしき
1270

貫之

戀の歌の中に

稀に逢ふと云ふ七夕も天の川渡らぬ年はあらじとぞ思ふ
1271

後伏見院御歌

寄七夕戀と云ふ事を

更にこそ忘れしことの思ほゆれ今日星合のそらに詠めて
1272

永福門院

題志らず

晴れずのみ心に物を思ふ間に萩の花咲くあきも來にけり
1273

光孝天皇御歌

人に給はせける

秋なれば萩の野もせに置く露のひるまにさへも戀しきやなぞ
1274

貫之

戀の歌の中に

萩の葉の色づく秋を徒らにあまたかぞへて過しつるかな
1275

讀人志らず

我が宿の秋の萩咲く夕影に今も見てしがきみがすがたを
1276

鎌倉右大臣

君に戀ひうらぶれをれば秋風に靡く淺茅の露ぞけぬべき
1277

和泉式部

思ふ事侍りける頃、月を見て

物思ふに哀れなるかと我ならぬ人に今宵の月をとはゞや
1278

小侍從

月の夜久我内大臣の許へつかはしける

詠むらむ同じ月をば見るものをかはすに通ふ心なりせば
1279

久我内大臣

返し

今宵我が訪はれましやは月を見て通ふ心の空に志るくば
1280

伏見院御歌

戀の御歌の中に

思ふ人今宵の月をいかに見るや常にしも非ぬ色に悲しき
1281

同院新宰相

さらざりし其夜の月を如何見し向へば人の憂さになり行く
1282

權大納言公蔭

哀れいかに思ふ心のあらざらむ詠めば月にいま通ふとも
1283

前中納言爲相

前大納言爲兼の家にて歌よみ侍りけるに、寄月戀

見るからに戀しさをのみ催して人のさそはぬ月も恨めし
1284

藤原隆清朝臣

同じ心を

變らぬも中々つらし諸共に見し夜の月はおなじおもかげ
1285

大僧正行尊

曉片思と云ふ事を

思ひ出づる心や君はなかるらむ同じ有明の月を見るとも
1286

中院前太政大臣

戀の歌合の中に

憂き物と恨みても猶悲しきは面影さらぬありあけのつき
1287

後京極攝政前太政大臣

千五百番歌合に

我れとこそ詠めなれにし山の端にそれも形見の有明の月
1288

讀人志らず

題志らず

君戀ふと萎えうらぶれ我れをれば秋風吹きて月傾ぶきぬ
1289

妹を思ひいのねられぬに曉の朝霧ごもりかりぞ鳴くなる
1290

伏見院御歌

此暮に我が戀ひをれば寒き雁鳴つゝ行くは妹がりか行く
1291

永福門院内侍

哀また夢だに見えで明けやせむ寐ぬ夜の床は面影にして
1292

順徳院御歌

忘れむと思ふはおのが心にて誰が驚かすなみだなるらむ
1293

前中納言定家

憂しとても誰にか問はむ難面くて變る心をさらば教へよ
1294

院兵衛督

人にうつる心をだにも教へ置けさらば慰む方も有りやと
1295

藤原定宗朝臣

戀情と云ふ事を

我ながら我に叶はぬ心なれや忘れむとすればしひて戀しき
1296

藤原親行朝臣

憂きにならふ心かあはれたまさかの人の情の今は嬉しき
1297

從二位爲子

戀の歌に

我が心恨みにむきて恨み果てよ哀れになれば忍び難きを
1298

左近中將忠季

斯てしも思ひや弱ると計りに憂きが嬉しき方も有りけり
1299

前大納言實明女

戀命を

憂きが上の猶も情のうちにこそ君に命を捨てゝ聞かれめ
1300

伏見院御歌

題志らず

憂き事を爭でなべてに思做さむ嬉しくとても幾程のよに
1301

儀子内親王

憂きもよし報なる覽と思へ共見えぬ世々には慰まばこそ
1302

伏見院新宰相

人よりは身こそ憂けれと思做すも其しも物の悲しき物を
1303

民部卿爲定

遇不會戀

同じ世に幾度ものを思へとてつらきにかへる心なるらむ
1304

祝子内親王

戀の歌の中に

憂きゆゑも斯くやはと思ふ節々よ我こそ人を猶頼みけれ
1305

權大納言公蔭

恨戀の心を

つらさをも思ふ計りはえぞ云はぬかごと求むる人の氣色に
1306

左兵衞督直義

百首の歌奉りし時

引換へて變るしも憂し思ふ色をさのみは人の何か見せけむ
1307

院兵衛督

戀の歌に

かばかりの憂さならざりし頃だにも折々ませし底の恨を
1308

前大納言爲家

寳治の百首の歌に、寄虫戀

絶えねばと思ふも悲しさゝ蟹の厭はれながらかゝる契は
1309

徽安門院

六帖の題にこと人を思ふと云ふ事を

人を人の思ふ限を見るにしもくらぶとなしに身ぞ哀なる
1310

永福門院

題志らず

すべて唯人になれじとこりぬるもいつの爲ぞと哀なる哉
1311

權大納言公宗

寄情戀と云ふ事を

侘つゝは人に任せて恨みぬを憂きをも知らぬ心とや思ふ
1312

藤原宗季

猶暫し憂きをば憂きになし果てじ變る心の變りもぞする
1313

前大納言尊氏

恨戀の心をよめる

憂き中ようらみのかずは積れども情と思ふ一ふしもなし
1314

永福門院

題志らず

今は早と思ひしことも幾へだて隔つるはてはことのはもなし
1315

猶暫し此の一ふしは恨みはてじなじかと思ふ情もぞ見る
1316

後嵯峨院御歌

建長三年吹田にて十首の歌講ぜられけるに

憂き節は數にもあらずしづた卷くり返しては尚ぞ戀しき
1317

謙徳公

心やすくもえあはぬ人に

つらかりし君にまさりて憂き物は己が命の長きなりけり
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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