風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第十九
神祇歌

2093

世の中に物思ふ人のあるといふは我を頼まぬ人にぞ有ける

これは鴨御祖明神の御歌となむ。

2094

三笠山雲居遙に見ゆれども眞如のつきはこゝにすむかな
2095

世の中に人の爭ひなかりせばいかに心のうれしからまし

此の二歌は、暦應三年六月の頃春日の神木やましな寺の金堂に渡らせ給ひける時、つげさせ給ひけるとなむ。

2096

我かくて三笠の山をうかれなば天の下には誰かすむべき

これは、春日の御さか木、都におはしましける春の頃、ある人の夢に、大明神の御歌とて見えけるとなむ。

2097

波母山や小比叡の杉のみやまゐは嵐も寒し訪ふ人もなし

これは日吉の地主權現の御歌となむ。

2098

有漏よりも無漏に入りぬる道なれば是ぞ佛のみもとなるべき

此の歌は後白川院熊野の御幸三十三度になりける時、みもとゝいふ所にてつげ申させ給ひけるとなむ。

2099

もとよりも塵にまじはる神なれば月の障も何かくるしき

是は和泉式部熊野へまうでたりけるに、さはりにて奉幣かなはざりけるに、晴れやらぬ身のうき雲のたなびきて月の障りとなるぞかなしきとよみてねたりける夜の夢につげさせ給ひけるとなむ。

2100

後伏見院御歌

神祇を

神路山内外のみやのみや柱身は朽ちぬとも末をばたてよ
2101

後西園寺入道前太政大臣

建治の百首の歌に

動きなき國つ守りの宮柱たてしちかひはきみがためかも
2102

太上天皇

河を

よどみしも又立ち歸るいすゞがは流の末は神のまに/\
2103

前左大臣

左兵衛督直義、稻荷に奉納し侍りける十首の歌の中に、月を

やはらぐる光をみつの玉垣に外よりもすむ秋の夜のつき
2104

院御歌

神祇を

神風に亂れし塵もをさまりぬ天照す日のあきらけき世は
2105

後宇多院御歌

月の五十首の御歌の中に、雜月を

常闇をてらすみかげの變らぬは今もかしこき月讀のかみ
2106

荒木田氏之

社頭月を

すむ月も幾とせふりぬいすゞ川とこよの波の清き流れに
2107

度會家行

豐受太神宮にて立春の日よめる

小鹽井をけふ若水に汲初めてみ饗手向くる春はきにけり
2108

度會延誠

神祇を

世々をへて汲むとも盡きじ久方の天より移す小鹽井の水
2109

西行法師

みづからよみあつめたりける歌を三十六番につがひて伊勢太神宮に奉るとて俊成卿にかちまけしるしてと申しけるに、度々辭み申しけれどしひて申し侍るとて歌合のはしにかきつけてつかはしける

藤波を御裳濯川にせきいれて百枝の松にかけよとぞ思ふ
2110

皇太后宮大夫俊成

勝負しるしつけてつかはしける歌合の奥に書き付け侍りける

藤波も御裳濯川の末なればしづ枝もかけよ松のもゝえに
2111

荒木田房繼

題志らず

ふして思ひあふぎて頼む神路山深き惠をつかへてぞまつ
2112

度會朝棟

かたそぎの千木は内外に變れども誓は同じいせのかみ風
2113

賀茂遠久

久方のあまの岩舟漕ぎよせし神代のうらや今のみあれ野
2114

鴨祐光

君がためみくにうつりて清き川の流にすめる鴨の瑞がき
2115

賀茂惟久

片岡の岩根の苔路ふみならしうごきなき世を猶祈るかな
2116

前大納言爲兼

雜の歌に

あふぎても頼みぞなるゝ古への風を殘せるすみ吉のまつ
2117

津守國夏

我が君を守らぬ神しなけれども千世のためしは住吉の松
2118

後光明照院前關白左大臣

神祇の歌の中に

思初めし一夜の松の種しあれば神の宮ゐも千世や重ねむ
2119

京極前關白家肥後

春日の社に參りて身の數ならぬ事を思ひてよみ侍りける

三笠山その氏人の數なればさし放たずやかみはみるらむ
2120

前太政大臣

雜の歌の中に

そのかみを思へば我も三笠山さして頼をかけざらめや
2121

刑部卿頼輔

春日の社へまゐりてよめる

數ならで天の下にはふりぬれど猶頼まるゝみかさ山かな
2122

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、嶺松を

ふりにける神代も遠し小鹽山おなじみどりのみねの松原
2123

後伏見院御歌

建武の頃雜の御歌の中に

沈みぬる身は木隱れの石清水さても流の世にし絶えずば
2124

太上天皇

神祇を

頼む誠ふたつなければ石清水一つ流れにすむかとぞ思ふ
2125

百首の御歌に

祈る心わたくしにては石清水濁り行く世を澄せとぞ思ふ
2126

前左大臣

社頭月を

今までは迷はでつきを三笠山あふぐ光よすゑもへだつな
2127

中臣祐春

春日の社にて月を見て

我が心曇らねばこそ三笠山おもひしまゝに月はみるらめ
2128

中臣祐植

祖父祐茂自筆の祝本を見てよみける

かはらじな跡は昔になりぬとも神の手向の代々の言の葉
2129

皇太后宮大夫俊成

文治六年女御入内の屏風の歌、春日の祭の社頭の儀

春の日も光異にや照すらむ玉ぐしの葉にかくるしらゆふ
2130

紀俊文朝臣

神祇を

名草山とるや榊のつきもせず神わざ志げき日のくまの宮
2131

前大僧正慈勝

日本紀を見てよめる

明けき玉ぐしの葉の白妙にしたつ枝までぬさかけてけり
2132

狛光房

鵜萱ふきなぎさに跡を留めしぞ神代をうけし始なりける
2133

中臣祐臣

春日の若宮の神主になりてよめる

春日山同じ跡にと祈りこし道をばかみもわすれざりけり
2134

賀茂教久

雜の歌に

世を祈る心を神やうけぬらし老らくまでに我ぞつかふる
2135

入道二品親王尊圓

天台座主にて侍りける時、日吉の祭の日、禰宜匡長がもとよりかざしのかづらを贈りて侍りければ

久かたの天つ日吉の神祭つきのかつらもひかりそへけり
2136

祝部成國

神祇を

生れきて仕ふることも神垣に契りある身ぞ猶たのむかな
2137

前中納言爲相

代々をへて仰ぐ日吉の神垣に心のぬさをかけぬ日ぞなき
2138

前左大臣

寄鏡神祇といふことを

九重に天照る神のかげうけてうつす鏡はいまもくもらじ
2139

權大納言公蔭

天てらすみかげを映すます鏡つたはれる代の曇あらめや
2140

源有長朝臣

熊野にまうでゝ三の山の御正躰を奉るとてよみ侍りける

かず/\に身にそふかげと照し見よ研く鏡にうつす心を
2141

高階師直

暦應元年津の國のうての使にまかりて鎭め侍りける後住吉の社にまうでゝよみける

天降るあら人神の志るしあれば世に高き名は顯れにけり
2142

皇太后宮大夫俊成

日吉の社に奉りける百首の歌の中に、櫻を

山櫻ちりに光を知らげて此の世にさける花にや有るらむ
2143

前大僧正慈鎭

雜の歌の中に

日の本は神のみ國と聞しよりいまする如く頼むとをしれ
2144

後西園寺入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りける時、神祇

天つ神國つやしろと別れても誠をうくるみちはかはらじ
2145

後宇多院御歌

おなじ心を

天つ神國つやしろを祝ひてぞわが葦原のくにはをさまる
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Thursday, January 09, 2014
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia