風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第五
秋歌上

436

前中納言定家

後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、殘暑を

秋來てもなほ夕風を松が根に夏を忘れしかげぞたちうき
437

後嵯峨院御歌

寳治二年、百首の歌人々に召されけるついでに、早秋を

風の音の俄に變るくれはとりあやしと思へば秋は來に鳬
438

藻壁門院但馬

白露はまだおきあへぬうたゝ寐の袖におどろく秋の初風
439

正二位隆教

題志らず

露ならぬ泪ももろくなりにけり荻の葉むけの秋のはつ風
440

入道二品親王法守

秋の歌とて

おちそむる桐の一葉の聲のうちに秋の哀を聞き始めぬる
441

權大納言公宗

夕暮の雲にほのめく三日月のはつかなるより秋ぞ悲しき
442

前大納言爲家

夕まぐれ秋來るかたの山の端に影珍らしくいづるみか月
443

權大納言公蔭

初秋露を

秋來てはけふぞ雲間に三日月の光まちとる萩のうはつゆ
444

式子内親王

正治二年、百首の歌に

詠むれば木の間移ろふ夕づくよやゝ氣色だつ秋の空かな
445

從に位家隆

名所の百首の歌の中に、泊瀬山

秋の色はまだこもりえの泊瀬山何をかことに露もおくらむ
446

前中納言定家

題志らず

山里は蝉の諸ごゑ秋かけて外面のきりのした葉おつなり
447

從三位客子

色うすき夕日の山に秋見えて梢によわる日ぐらしのこゑ
448

權中納言俊實

影弱き木の間の夕日移ろひて秋すさまじき日ぐらしの聲
449

永福門院

むら雀こゑする竹にうつる日の影こそ秋の色になりぬれ
450

凡河内躬恒

七月七日よみ侍りける

今日ははやとく暮れなゝむ久方の天の川霧立ち渡りつゝ
451

後山本前左大臣

文保三年奉りける百首に

心をばかすともなしに銀河よその逢ふ瀬に暮ぞ待たるゝ
452

前參議隆康

文永十年内裏にて七夕の七首の歌講ぜられけるに

逢ふ事をまどほに頼む七夕の契やうすきあまの羽ごろも
453

清輔朝臣

題志らず

思ひやる心も凉し彦ぼしのつままつ宵のあまのかはかぜ
454

讀人志らず

天の原ふりさけ見れば天の川霧立ちわたる君はきぬらし
455

伊勢

尚侍貴子の四十の賀民部卿清貫志侍りける屏風に七月七日たらひに影見たる所

珍らしく逢ふ七夕はよそ人も影みまほしき夜にぞありける
456

紫式部

七夕の歌の中に

大方をおもへばゆゝし天の川今日の逢ふ瀬は羨まれけり
457

前中納言匡房

天の川逢ふ瀬によする白波は幾夜をへても歸らざらなむ
458

太宰大貳重家

七夕の逢ふ瀬は難き天の川やすの渡りも名のみなりけり
459

後光明照院前關白左大臣

七夕の契りは秋の名のみしてまだ短夜はあふほどやなき
460

源義詮朝臣

年をへてかはらぬ物は七夕の秋をかさぬるちぎりなりけり
461

太上天皇

百首の歌の中に

更けぬなり星合の空に月は入りて秋風動く庭のともし火
462

後嵯峨院御歌

七夕の心を

たなばたに心をかして歎くかな明方ちかきあまのかは風
463

前大納言實教

後宇多院大覺寺におはしましける頃七夕の七百首の歌の中に、野女郎花を

幾年か嵯峨野の秋の女郎花つかふる道になれて見つらむ
464

前左兵衛督惟方

顯昭久しくおとづれざりければ申し遣しける

秋くれば萩もふるえに咲く物を人こそかはれもとの心は
465

法橋顯昭

返し

我が心又かはらずよ初萩の下葉にすがるつゆばかりだに
466

俊頼朝臣

草花露深と云ふ事を

あだし野の萩の末こす秋風にこぼるゝ露やたま川のみづ
467

安嘉門院四條

萩をよめる

さこそわれ萩の古枝の秋ならめもとの心を人の問へかし
468

永福門院

秋の御歌に

眞萩散る庭の秋風身にしみて夕日の影ぞかべに消え行く
469

前中納言定家

風吹けば枝もとをゝにおく露の散るさへ惜しき秋萩の花
470

九條左大臣女

乾元二年伏見院の五十番歌合に、秋露を

志をれふす枝吹き返す秋風にとまらずおつる萩のうは露
471

藤原公直朝臣母

題志らず

一志ぼり雨はすぎぬる庭の面に散りてうつろふ萩が花摺
472

從三位盛親

秋ふかみ花散る萩はもと透きて殘る末葉の色ぞさびしき
473

前大納言尊氏

籬薄を

露にふす眞垣の萩は色くれて尾花ぞ志ろき秋かぜのには
474

伏見院御歌

秋の歌あまたよませ給ひける中に

庭の面に夕べの風は吹きみちて高き薄のすゑぞみだるゝ
475

見わたせば裾野の尾花吹きしきて夕暮はげし山颪のかぜ
476

進子内親王

秋さむき夕日は峰にかげろひて岡の尾花にかぜすさぶ也
477

從三位親子

風後草花を

招きやむ尾花が末も靜にて風吹きとまるくれぞさびしき
478

院御歌

百首の御歌の中に

吹きうつりなびく薄の末々を長閑にわたる野邊の夕かぜ
479

藤原隆祐朝臣

九條前内大臣の家の百首の歌に、遠村秋夕と云ふ事を

夕日さす遠山もとのさと見えて薄吹きしく野邊のあき風
480

二品法親王慈道

薄を

身をかくす宿にはうゑじ花薄招くたよりに人もこそとへ
481

前大納言爲兼

秋の歌の中に

哀れさもその色となき夕暮の尾花が末にあきぞうかべる
482

源重之女

招くとも頼むべしやは花ずゝき風に隨ふこゝろなりけり
483

正三位季經

後法性寺入道關白、右大臣に侍りける時、よませ侍りける百首の歌の中に、草花を

吹く風のたよりならでは花ずゝき心と人を招かざりけり
484

前中納言定家

題志らず

打ち志めり薄のうれはおもりつゝ西吹く風に靡く村さめ
485

伏見院御歌

荻風を

こゝにのみあはれやとまる秋風の荻のうへこす夕暮の宿
486

前大納言爲兼

吹き捨てゝ過ぎぬる風の名殘まで音せぬ荻も秋ぞ悲しき
487

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時

庭白きいさごに月は移ろひて秋風よわきはなのすゑ%\
488

前太宰大貳俊兼

秋の歌とて

薄霧のそらはほのかに明けそめて軒の忍に露ぞ見え行く
489

藤原爲守女

秋ぞかしいかに哀のとばかりにやすくも置ける袖の露哉
490

藤原重顯

光り添ふ草葉の上に數見えて月を待ちけるつゆの色かな
491

如願法師

庭草露と云ふ事を

踏み分けて誰れかは訪はむ蓬生の庭も籬もあきの志ら露
492

後鳥羽院御歌

千五百番歌合に

哀れ昔如何なる野邊の草葉よりかゝる秋風吹き始めけむ
493

前大僧正覺圓

題志らず

村雲に影さだまらぬ秋の日の移りやすくもくるゝ頃かな
494

從二位家隆

淺茅原秋風吹きぬあはれまた如何に心のならむとすらむ
495

伏見院御歌

秋風は遠き草葉をわたるなり夕日の影は野邊はるかにて
496

藤原爲基朝臣

鷺のゐるあたりの草はうら枯れて野澤の水も秋ぞ寂しき
497

院御歌

秋の歌あまた詠ませ給ひける中に

村雨のなかば晴れ行く雲霧に秋の日きよきまつ原のやま
498

永福門院

夕附日岩根の苔に影消えて岡のやなぎはあきかぜぞふく
499

前大納言爲兼

秋風に浮雲たかく空澄みて夕日になびくきしのあをやぎ
500

伏見院御歌

庭深き柳の枯葉散りみちてかきほあれたるあきかぜの宿
501

太上天皇

百首の歌の中に

川遠き夕日の柳岸はれてさぎのつばさにあきかぜぞふく
502

前中納言重資

影よわき柳がうれのゆふづくひ寂しくうつる秋の色かな
503

從二位家隆

秋の歌とて

玉島や落ちくるあゆの河柳下葉うち散りあきかぜぞ吹く
504

儀子内親王

薄霧のやまもと遠く鹿鳴きて夕日かげろふ岡のべのまつ
505

橘爲仲朝臣

小夜の中山と云ふ所にて鹿の鳴くを聞きて詠める

旅寐するさよの中山さよなかに鹿も鳴くなり妻や戀しき
506

藤原爲秀朝臣

題志らず

暮れうつる眞垣の花は見え分かで霧に隔てぬ小牡鹿の聲
507

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

隔たらぬ牡鹿の聲は間近くてきりの色よりくるゝ山もと
508

寂然法師

秋の歌に

木枯に月澄む峯の鹿の音を我のみ聞くは惜しくもある哉
509

後京極攝政前太政大臣

千五百番歌合の歌

物思へとする業ならし木の間より落たる月に小男鹿の聲
510

前大僧正範憲

野鹿を

幾秋の涙さそひつ春日野や聞きてなれぬる小牡鹿のこゑ
511

貫之

題志らず

秋萩の亂るゝ玉は鳴く鹿の聲より落つるなみだなりけり
512

基俊

堀川院の百首の歌に、鹿を

風さむみはだれ霜降る秋の夜は山下とよみ鹿ぞ鳴くなる
513

大納言成道

同じ心を

終夜妻とふ鹿を聞くからに我さへあやないこそ寐られね
514

式子内親王

正治二年、百首の歌に

山里は峰の木の葉にきほひつゝ雲よりおろす小牡鹿の聲
515

民部卿爲藤

文保三年後宇多院より召されける百首の歌の中に

小山田の庵もる床も夜さむにて稻葉の風に鹿ぞ鳴くなる
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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