風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第六
秋歌中

516

俊頼朝臣

初雁を詠める

初雁は雲居のよそに過ぎぬれど聲は心に止まるなりけり
517

藤原爲基朝臣

院の五首の歌合に、秋視聽と云ふ事を

色變る柳がうれに風過ぎて秋の日さむみはつかりのこゑ
518

儀子内親王

吹き志をる千種の花は庭に臥して風にみだるゝ初雁の聲
519

前大僧正道玄

雁を

このねぬる朝風寒み初雁の鳴く空見ればこさめ降りつゝ
520

後西園寺入道前太政大臣

題志らず

村雲によこぎる雁の數みえて朝日に消ゆるみねのあき霧
521

伏見院御歌

百首の御歌の中に

朝ぼらけ霧の晴れ間の絶え%\に幾列過ぎぬ天つ雁がね
522

從三位爲信

伏見院に三十首の歌奉りける時、霧中雁を

霧薄き秋の日影の山の端にほの%\見ゆるかりの一つら
523

後伏見院中納言典侍

秋の歌に

夕日影寂しく見ゆる山もとの田面にくだるかりの一つら
524

覺譽法親王

百首の歌奉りし時

夕霧のむら/\晴るゝ山際に日影をわたるかりの一つら
525

大納言公重

しをれ來て都も同じあき霧につばさや干さぬ天つ雁がね
526

皇太后宮大夫俊成

和歌所にて暮山遠雁と云ふ事を講ぜられけるに

小倉山ふもとの寺の入相にあらぬ音ながらまがふ雁がね
527

從二位家隆

晴れ染むる遠の外山の夕霧に嵐をわくるはつかりのこゑ
528

伏見院御歌

秋の御歌の中に

打ちむれてあまとぶ雁のつばさまで夕に向ふ色ぞ悲しき
529

院御歌

百首の御歌に

雲遠き夕日の跡の山際に行くとも見えぬかりのひとつら
530

關白右大臣

雲間もる入日の影に數見えてとほぢの空を渡るかりがね
531

徽安門院

秋の歌とて

雁の鳴くとほぢの山は夕日にて軒ばしぐるゝ秋の村くも
532

前大納言爲兼

夕日移る柳の末の秋風にそなたのかりのこゑもさびしき
533

大江宗秀

秋風にうす霧晴るゝ山の端をこえてちかづく雁の一つら
534

永福門院内侍

雁の鳴く夕の空のうす雲にまだ影見えぬつきぞほのめく
535

二品法親王尊胤

秋風の高きみ空は雲晴れてつきのあたりに雁のひとつら
536

伏見院御歌

雁を

連れてとぶ數多の翅横切りて月の下行く夜半のかりがね
537

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

萩の上に雁の涙の置く露はこほりにけりな月にむすびて
538

徽安門院一條

百首の歌奉りしに

窓白き寐覺の月の入りがたにこゑもさやかに渡る雁がね
539

賀茂保憲女

秋の歌の中に

秋の夜のねざめの程を雁がねの空にしればや鳴渡るらむ
540

和泉式部

雁がねの聞ゆるなべに見渡せば四方の梢も色づきにけり
541

讀人志らず

題志らず

雲の上に鳴つる雁の寒きなべに木々の下葉は移ろはむかも
542

穂積皇子

今朝の朝げ雁がね聞きつ春日山紅葉にけらしわが心痛し
543

貫之

朝霧の覺束なきに秋の田の穗に出でゝ雁ぞ鳴き渡りける
544

前大納言爲家

春日の社に奉りける百首の歌の中に

色かはる梢を見ればさほ山の朝霧がくれかりは來にけり
545

後伏見院御歌

霧中雁を

天つ雁霧のあなたに聲はして門田のすゑぞ霜にあけゆく
546

永福門院

月前虫と云ふ事を

きり%\す聲はいづくぞ草もなき白洲の庭の秋の夜の月
547

藤原定成朝臣

きり%\す月をやしたふ庭遠くかたぶく方の影に鳴く也
548

前左大臣

夜虫を

宵の間は稀に聞きつる虫の音も更けてぞ志げき蓬生の庭
549

章義門院

題志らず

分きてなど夜しも増る憂へにて明くるを際に虫の鳴く覽
550

接心院内大臣

野邊の色もかれのみ増る淺茅生に殘るともなき松虫の聲
551

權大納言公蔭

百首の歌奉りし時

蛬おのが鳴く音もたえ%\にかべのひま洩る月ぞ悲しき
552

後京極攝政前太政大臣

秋の歌とて

虫の音は楢の落葉に埋もれて霧のまがきに村さめの降る
553

從二位兼行

蛬なく夜をさむみ置くつゆに淺茅が上ぞいろかれてゆく
554

前大納言爲兼

伏見院の御時、六帖の題にて人々歌詠ませさせ給ひけるに、秋雨を

庭のむしは鳴きとまりぬる雨の夜のかべに音する蛬かな
555

今出川前右大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

夜さむなる枕の下のきり%\す哀に聲のなほのこりける
556

西行法師

題志らず

何となく物悲しくぞ見えわたる鳥羽田の面の秋の夕ぐれ
557

後鳥羽院御歌

建仁元年、百首の御歌の中に

露しげき鳥羽田の面の秋風に玉ゆらやどる宵のいなづま
558

大納言公重

秋の歌に

秋の田のまだはつかなるほの上を遙かに見する宵の稻妻
559

權大納言公蔭

院に三十首の歌召されし、時秋山を

夕日さす外山の梢あきさびて麓の小田もいろづきにけり
560

前内大臣

百首の歌奉りし時

小山田の露のおくてのいなむしろ月をかたしく床の獨寐
561

前大納言經房

題志らず

何となく山田のいほの悲しきに秋風寒みうづら鳴くなり
562

式子内親王

正治の百首の歌に

うちはらひ小田の淺茅にかる草の茂みが末に鶉たつなり
563

藤原爲秀朝臣

稻妻を

稻づまの暫しもとめぬ光にも草葉のつゆの數は見えけり
564

從三位實名

秋の雨の晴れ行く跡の雲間より志ばしほのめく宵の稻妻
565

前大納言爲家

夕やみに見えぬ雲間も顯はれて時々てらす宵のいなづま
566

伏見院御歌

秋の御歌に

にほひ志らみ月の近づく山の端の光に弱るいなづまの影
567

徽安門院

月をまつ暗き籬の花のうへに露をあらはす宵のいなづま
568

後伏見院御歌

待月と云ふ事を

聲たつる軒の松風庭のむし夕ぐれかけてつきやもよほす
569

太上天皇

百首の歌の中に

草むらの虫の聲より暮れそめて眞砂の上ぞ月になりぬる
570

院一條

秋の歌に

草がくれ虫鳴きそめて夕ぎりの晴間の軒に月ぞ見えゆく
571

伏見院新宰相

影うすき月見えそめて庭の面の草に虫鳴く宿のゆふぐれ
572

祝子内親王

吹分くる竹のあなたに月みえて籬は暗きあきかぜのおと
573

前大納言經顯

立並ぶ松の木の間に見えそめて山のはつかに月ぞ仄めく
574

關白右大臣

百首の歌奉りし時、秋の歌に

いましはや待たるゝ月ぞ匂ふらし村雲白き山の端のそら
575

徽安門院

題志らず

隈もなく閨のおくまでさし入りぬ向ひの山をのぼる月影
576

前太宰大貳俊兼

月のぼる夕の山に雲晴れてみどりの空をはらふあきかぜ
577

院御歌

百首の御歌に

暮もあへず今さしのぼる山の端の月のこなたの松の一本
578

[1]A1子内親王

月の歌の中に

山の端を出でぬと見ゆる後までも麓の里は月ぞまたるゝ
579

前大納言尊氏

程もなく松より上になりにけり木のまもりつる夕暮の月
580

藤原定宗朝臣

出づるより雲もかゝらぬ山の端を靜にのぼる秋の夜の月
581

伏見院御歌

八月十五夜伏見に御幸ありて人々に月の歌詠ませさせ給ひけるついでに

軒近き松原山のあきかぜに夕ぐれきよくつきいでにけり
582

前中納言定家

秋の歌とて

月影を葎の門にさし添へて秋こそきたれとふひとはなし
583

前關白左大臣

月の歌に

さ夜更けて人は志づまる槇の戸に獨さし入る月ぞ寂しき
584

前參議家親

伏見院萬葉の言葉にて人々に歌よませさせ給ひける時、秋のもゝ夜と云ふ事を

ながしてふ秋の百夜を重ねても詠めあくべき月の影かは
585

從二位隆博

月を

心こそあくがれやすく成にけれ詠めうかるゝ月の導べに
586

清輔朝臣

ひたすらに厭ひも果てじ村雲の晴間ぞ月は照り増りける
587

後鳥羽院御歌

正治二年百首の歌召されける時

薄雲のたゞよふ空の月影はさやけきよりもあはれなりけり
588

從二位爲子

題志らず

月影の澄みのぼる跡の山際にたゞ一なびき雲ののこれる
589

後久我前太政大臣

千五百番歌合に

秋はたゞ荻の葉過ぐる風の音に夜深くいづる山の端の月
590

權大納言實尹

月前萩を詠める

眞萩原夜ふかく月にみがゝれておき添ふ露の數ぞ隱れぬ
591

前大納言實明女

月前露を

打ちそよぎ竹の葉登る露ならで月更くる夜の又音もなし
592

藤原爲基朝臣

月を詠み侍りける

月の行く晴間の空はみどりにてむら/\白き秋のうき雲
593

平宗宣朝臣

絶々の雲間に傳ふかげにこそ行くとも見ゆれ秋の夜の月
594

永福門院

題志らず

村雲に隱れあらはれ行く月の晴れも曇りも秋ぞかなしき
595

吹き志をる風に志ぐるゝ呉竹のふしながら見る庭の月影
596

前大納言爲兼

月の歌とて

月の色も秋にそめなす風の夜の哀うけとるまつの音かな
597

永福門院内侍

松風も空にひゞきて更くる夜の梢にたかき深山べのつき
598

崇徳院御歌

みし人に物の哀を知らすればつきやこのよの鏡なるらむ
599

選子内親王

月のくまなき夜詠み侍りける

心澄む秋の月だになかりせばなにをうき世の慰めにせむ
600

民部卿爲定

百首の歌奉りし時、秋の歌

秋を經て涙落ち添ふ袖の月いつを晴間と見る夜半もなし
601

院御歌

見月と云ふ事を

我が心澄める計りに更け果てゝ月を忘れてむかふ夜の月
602

前大納言忠良

同じ心を

雲晴れてすめばすみけりみる人の心やつきの心なるらむ
603

二品法親王覺助

文保三年、百首の歌に

我袖の露も涙もあまりあるあきのうれへは月のみぞとふ
604

西行法師

月を詠める

深き山に澄みける月をみざりせば思出もなき我身ならまし
605

前大僧正道玄

心こそやゝ澄み増れ世の中を遁れて月は見るべかりけり
606

崇徳院御歌

山家月を

山里は月も心やとまるらむみやこにすぎて澄み増るかな
607

西行法師

月の歌とて

何處とて哀ならずはなけれ共荒れたる宿ぞ月はさやけき
608

庵にもる月の影こそ寂しけれ山田はひたの音ばかりして
609

藤原爲秀朝臣

霧はるゝ遠の山もとあらはれて月かげみがく宇治の川波
610

前中納言定資

秋の歌に

影ははや遠きうらわにさきだちて磯山出づる秋の夜の月
611

皇太后宮大夫俊成

月前旅を

清見潟波をかたしく旅ごろも又やはかゝる月を來て見む
612

後鳥羽院御歌

海邊月明といふ事を

清見潟ふじの烟や消えぬらむ月かげみがくみほのうら波
613

平忠度朝臣

遍昭寺にて人々月見侍りけるに

あれにける宿とて月は變らねどむかしの影は猶ぞ床しき
614

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、山月を

常磐山かはる梢は見えねども月こそ秋のいろにいでけれ
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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