風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第七
秋歌下

615

左京大夫顯輔

九月十三夜月を見て

暮の秋月のすがたはたらねども光は空にみちにけるかな
616

院御歌

仁和寺よりあからさまに京へ御幸ありて九月十三夜、山家月を

深山出でし秋の旅ねの夜頃へて宿もる月や主人まつらむ
617

前參議俊言

九月十三夜、住吉の社にて詠み侍りける

住吉の神のおまへの濱きよみこと浦よりも月やさやけき
618

從二位宣子

秋の歌とて

しばし見むかたぶく方は空晴れて更けばと頼む村雲の月
619

永福門院内侍

山里にて月を見て詠める

露ふかき籬の花はうすぎりて岡邊の杉につきぞかたぶく
620

儀子内親王

院の五首の歌合に、秋風月と云ふ事を

風に落つる草葉の露も隱なくまがきに清きいりがたの月
621

前大僧正慈鎭

題志らず

入る月を返すあらしはなかりけり出づる峯には松の秋風
622

太宰大貳重家

月の歌とて詠める

詠めやる秋の山風心あらばかたぶく月を吹きやかへさぬ
623

前大納言經顯

月はなほ中空高くのこれども影薄くなるありあけのには
624

院御歌

月前草花を

風になびく尾花が末にかげろひて月遠くなる有明のには
625

宣光門院新右衛門督

百首の歌奉りし時、秋の歌

影きよき有明の月は空すみて鹿の音高きあかつきのやま
626

萬秋門院

嘉暦二年九月十五日内裏の五首の歌合に、曉月聞鹿と云ふ事を

有明の月はかたぶく山の端に鹿の音高き夜半のあきかぜ
627

西園寺前内大臣女

秋天象と云ふ事を詠み侍りける

月ならぬ星の光もさやけきは秋てふ空やなべてすむらむ
628

前中納言季雄

元享元年、内裏にて三首講ぜられけるに、霧間曉月

有明の月は絶々影見えてきり吹きわくるあきのやまかぜ
629

後西園寺入道前太政大臣

題志らず

村雲の隙行く月の影はやみかたぶく老のあきぞかなしき
630

選子内親王家中務

大齋院の女房春秋の哀をあらそひ侍りけるに中將、春の曙は猶勝るなど申しけるが秋の頃山里に籠りゐて侍りけるに云ひ遣しける

山里に有明の空を詠めてもなほや知られぬあきの哀れは
631

伏見院御歌

秋の御歌の中に

山風も時雨になれる秋の日にころもやうすき遠のたび人
632

永福門院

さすとなき日影は軒に移ろひて木の葉にかゝる庭の村雨
633

宣光門院新右衛門督

百首の歌奉りし時

もろくなる柳の下葉かつ散りて秋物さむきゆふぐれの雨
634

順徳院御歌

百首の御歌の中に

村雨の空吹きすさぶ夕かぜに一葉づゝ散る玉のをやなぎ
635

照訓門院權大納言

題志らず

一志きり嵐は過ぎて桐の葉の志づかに落つる夕ぐれの庭
636

太上天皇

秋の歌に

濡れて落つる桐の枯葉は音を重み嵐はかろき秋のむら雨
637

大納言公重

百首の歌奉りし時

落ちすさぶ槇の下露猶ふかし雨の名殘のきりのあさあけ
638

藤原爲秀朝臣

立ちそむる霧かと見れば秋の雨の細かにそゝぐ夕暮の空
639

徽安門院

題志らず

志をりつる野分はやみて東雲の雲にしたがふ秋のむら雨
640

院一條

吹きみだし野分にあるゝ朝あけの色濃き雲に雨こぼるなり
641

前大納言爲兼

野分を

野分だつ夕の雲のあしはやみ時雨に似たるあきのむら雨
642

藤原爲名朝臣

草も木も野分にしをる夕暮は空にも雲のみだれてぞゆく
643

院一條

秋の歌に

鳩の鳴く杉の木末のうす霧に秋の日よわきゆふぐれの山
644

永福門院

卅首の御歌の中に、秋山を

山蔭や夜のまの霧のしめりより又落ちやまぬ木々の下露
645

秋朝の心を

薄霧の朝げの梢色さびてむしの音のこすもりのしたぐさ
646

彈正尹邦省親王

野霧

津の國のゐなのゝ霧の絶々にあらはれやらぬこやの松原
647

權大納言資明

百首の歌奉りし時

朝日山まだ影くらき曙にきりのした行く宇治のしばふね
648

大江廣秀

題志らず

打ち渡す濱名の橋のあけぼのに一むらくもるまつの薄霧
649

前太宰大貳俊兼

朝日影うつる梢は露落ちて外面のたけにのこるうすぎり
650

左近中將忠季

百首の歌奉りしに

日影さすいな葉が上は暮れやらで松原うすき霧の山もと
651

前中納言爲相

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

奥みえぬ端山の霧のあけぼのに近き松のみのこる一むら
652

後西園寺入道前太政大臣

入りかゝる遠の夕日は影消えて裾より暮るゝ薄ぎりの山
653

權中納言俊實

秋の歌とて

霧深きつま木の道のかへるさに聲ばかりしてくだる山人
654

前大納言尊氏

秋山と云ふ事を

入相は檜原の奥に響き初めて霧にこもれる山ぞ暮れ行く
655

藤原爲基朝臣

立ちこめて尾上も見えぬ霧の上に梢ばかりの松のむら立
656

前大納言爲兼

河霧を詠み侍りける

朝嵐の峯よりおろす大井川うきたる霧もながれてぞゆく
657

前大僧正實超

伏見山ふもとの稻葉雲晴れて田面に殘るうぢのかはぎり
658

前左兵衛督爲成

海邊霧を

入海の松の一むらくもりそめて鹽よりのぼる秋のゆふ霧
659

二條院參河内侍

難波潟浦さびしさは秋霧のたえ間に見ゆるあまのつり舟
660

從二位家隆

秋の歌の中に

さえのぼるひゞきや空に更けぬらむ月の都も衣うつなり
661

鎌倉右大臣

月前擣衣と云ふ事を

夜をさむみ寐ざめて聞けば長月の有明の月に衣うつなり
662

民部卿爲定

建武二年、内裏の千首の歌に、擣衣

衣うつよその里人なれをしぞあはれとは思ふ秋の夜寒に
663

九條左大臣女

秋夜を

今は早あけぬと思ふ鐘のおとの後しも長き秋の夜半かな
664

永福門院内侍

百首の歌奉りし時

染めやらぬ梢の日影うつりさめてやゝ枯れ渡る山の下草
665

新室町院御匣

院、三十首のうた召されし時、秋木を

岡べなるはじの紅葉は色こくて四方の梢につゆの一志ほ
666

左兵衛督直義

おのれとや色づきそむる薄紅葉まだ此頃は志ぐれぬ物を
667

侍從具定

見るまゝに紅葉色づく足引の山の秋かぜさむくふくらし
668

中院入道前内大臣

山紅葉を

間なく降る時雨に色やつくば山志げき梢も紅葉しにけり
669

後宇多院御歌

岡紅葉と云ふ事を

色々にならびの岡の初もみぢ秋の嵯峨野の往來にぞ見る
670

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

朝霧の晴れ行く遠の山もとにもみぢまじれる竹の一むら
671

前大僧正道玄

題志らず

志賀の山越えて見やれば初時雨古き都はもみぢしにけり
672

讀人志らず

秋されば置く露霜にあへずして都の山はいろづきぬらむ
673

權大納言長家

人々さそひて大井川にまかりて紅葉臨水と云ふ事を詠み侍りける

大井川山の紅葉を映しもてからくれなゐの波ぞ立ちける
674

後京極攝政前太政大臣

紅葉を

時雨つる外山の雲は晴にけり夕日に染むる峯のもみぢば
675

内大臣

紅葉映日と云ふ事を

日影さへ今一志ほをそめてけり時雨の跡の峰のもみぢ葉
676

前中納言清雅

伏見院に卅首の歌奉りける時、山紅葉を詠み侍りける

晴れ渡る日影に見れば山もとの梢むら/\紅葉しにけり
677

院御歌

人々に三十首の歌召されけるついでに、秋山を

霧晴るゝ田面の末に山みえて稻葉に續く木々のもみぢ葉
678

秋木

呉竹のめぐれるさとを麓にて烟にまじるやまのもみぢ葉
679

今上御歌

秋望と云ふ事を

夕日うつる外面の杜のうす紅葉寂しき色に秋ぞ暮れ行く
680

後嵯峨院御歌

建長二年吹田に御幸ありて人々に十首の歌詠ませさせ給ひけるついでに

唐土もおなじ空こそ志ぐるらめから紅にもみぢするころ
681

伏見院御歌

二品法親王覺助長月の末に長谷の山庄にまかりて紅葉の枝を折りて奉りけるに此の一枝の殘りゆかしくこそとて給はせける

色ふかき宿の紅葉の一枝に折知るひとのなさけをぞ見る
682

一品親王覺助

御返し

色添へて見るべき君の爲とてぞ我が山里の紅葉をも折る
683

式子内親王

正治二年百首の歌の中に

解けて寐ぬ袖さへ色にいでねとや露吹き結ぶみねの木枯
684

能宣朝臣

長月の頃鈴鹿山の紅葉を見て

下紅葉色々になるすゞか山時雨のいたく降ればなるべし
685

花山院御歌

九月九日を

萬代をつむともつきじ菊の花長月のけふあらむかぎりは
686

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、重陽宴を

長月のきくのさかづき九重にいくめぐりとも秋は限らじ
687

冷泉前太政大臣

九重に千代をかさねてかざす哉けふをり得たる白菊の花
688

藤原隆祐朝臣

めぐりあふ月日もおなじ九重に重ねて見ゆる千世の白菊
689

後醍醐院御歌

位の御時三首の歌講ぜられけるついでに、庭菊を

百敷や我が九重の秋の菊こゝろのまゝにをりてかざゝむ
690

源光行

題志らず

夜もすがら光は霜をかさぬれど月には菊のうつろはぬ哉
691

前中納言師時

堀川院の百首の歌に、菊を

霜枯れむ事をこそ思へ我が宿のまがきににほふ白菊の花
692

貫之

屏風に、をんなの菊の花見たる所

置く霜の染めまがはせる菊の花孰か本の色にはあるらむ
693

前中納言定家

秋の歌に

鵙のゐるまさぎの末は秋たけてわらや烈しきみねの松風
694

進子内親王

百首の歌奉りし時、秋の歌

見るまゝにかべに消え行く秋の日の時雨に向ふ浮雲の空
695

前中納言匡房

霜草欲枯虫思苦と云へる心を

初霜に枯れ行くくさの蛬あきはくれぬときくぞかなしき
696

前參議教長

崇徳院より召されける百首の歌に

ほに出でゝ招くとならば花薄過ぎ行く秋をえやは止めぬ
697

後鳥羽院御歌

秋の御歌の中に

窓深き秋の木の葉を吹き立てゝ又時雨れ行く山颪のかぜ
698

權大納言公宗女

院の五首の歌合に、秋視聽と云ふ事を

秋の雨の窓うつ音に聞き侘びて寐ざむるかべに燈火の影
699

前大僧正覺圓

暮秋雨を

庭の面に荻の枯葉は散りしきて音すさまじきゆふ暮の雨
700

西園寺前内大臣女

院に三十首の歌めされし時、秋木を

秋の雨に萎れて落つる桐の葉は音するしもぞ寂しかりける
701

永福門院

題志らず

もろくなる桐の枯葉は庭に落ちて嵐にまじるむら雨の音
702

慶政上人

秋の頃詠み侍りける

年經たる深山のおくの秋のそら寐ざめ志ぐれぬ曉ぞなき
703

後鳥羽院御歌

建仁四年百首の御歌に

何となく庭の蓬も下をれてさび行く秋のいろぞかなしき
704

伏見院御歌

暮秋虫を

夕日うすき枯葉の淺茅志たすぎてそれかと弱き虫の一聲
705

後伏見院左京大夫

うら枯るゝ淺茅がにはの蛬よわるを志たふ我もいつまで
706

式子内親王

正治の百首の歌に

志るきかな淺茅色づく庭の面に人めかるべき冬の近さは
707

侍從隆朝

百首の歌奉りし時

いとはやもをしね色づく初霜のさむき朝げに山風ぞ吹く
708

後伏見院御歌

秋霜を詠ませ給ひける

夕霜の古枝の萩の下葉より枯れ行く秋のいろは見えけり
709

從二位爲子

淺茅秋霜を

長月や夜さむの頃の有明のひかりにまがふ淺茅生のしも
710

前大納言長雄

秋の歌に

風わたる眞葛が原に秋暮れてかへらぬ物は日かずなりけり
711

登蓮法師

九月盡に詠める

年ごとに變らぬ今日の歎かな惜みとめざる秋は無けれど
712

前中納言爲相

山をこえ水をわたりて慕ふともしらばぞ今日の秋の別路
713

常磐井入道前太政大臣

寳治の百首の歌に九月盡を

行く秋の名殘をけふに限るとも夕は明日のそらも變らじ
714

後伏見院御歌

同じ心を

月も見ず風も音せぬ窓のうちにあきをおくりてむかふ燈
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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