風雅和歌集 (Fūga wakashū) — 風雅和歌集卷第八 冬歌 作者複数 (Various) 14th Century Fūga wakashū 風雅和歌集 Various 作者複数 Kamakura-Muromachi-Azuchi-Momoyama Period 中世 14th century 14世紀 Poetry 韻文 Japanese 日本語 Text 本文 1347 ふうがわかしゅう Fūga wakashū 風雅和歌集 ふうがわかしゅう Various 作者複数 さくしゃふくすう
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風雅和歌集 Fūga wakashū
作者複数 Various
風雅和歌集卷第八
冬歌
715
前大納言公任
十月一日おほ井にまかりてこれかれ歌詠みけるに
落積るもみぢ葉見れば大井川堰にとまる秋にぞありける
716
圓光院入道前關白太政大臣
杜初冬と云ふ事を
冬のきて霜の降りはも哀れなり我もおいそのもりの下草
717
後二條院御歌
百首の御歌の中に
もみぢ葉の深山に深く散敷くは秋の歸りし道にやある覽
718
伏見院新宰相
初冬の歌に
草枯れて寂しかるべき庭の面に紅葉散敷き菊も咲きけり
719
後西園寺入道前太政大臣
浮雲の秋より冬にかゝるまで時雨すさめるとほやまの松
720
太上天皇
時雨を
夕日さす落葉が上に時雨過ぎて庭にみだるゝ浮雲のかぜ
721
儀子内親王
山あらしに浮き行く雲の一通り日影さながら時雨降る也
722
從三位盛親
降りすさぶ時雨の空の浮雲に見えぬ夕日の影ぞうつろふ
723
民部卿爲定
文保の百首の歌奉りし時
時雨るともよそには見えず絶々に外山をめぐる峯の浮雲
724
前中納言爲相
冬の歌の中に
時雨行く雲間に弱き冬の日のかげろひあへず暮るゝ空哉
725
前大納言家雅
伏見院の五十首の歌合に、冬雲を
浮きて行く雲の絶々影見えてしぐるゝ山の夕日さすなり
726
前參議教長
時雨を詠める
時雨の雨何と降るらむはゝそ原散りての後は色も増らじ
727
進子内親王
題志らず
山嵐に木の葉降り添ふ村時雨晴るゝ雲間に三日月のかげ
728
後鳥羽院御歌
神無月雲間待つ間に更けにけりしぐるゝ頃の山の端の月
729
永福門院
月の姿なほ有明の村雲にひとそゝぎするしぐれをぞ見る
730
權大納言公蔭
神無月くもの行くての村時雨はれも曇りも風のまに/\
731
伏見院新宰相
百番歌合に、閨時雨を
折々に時雨おとして長き夜の閨の板間はまてどしらまず
732
藤原爲仲朝臣
冬の歌の中に
外山より時雨れてわたる浮雲に木の葉吹きまぜゆく嵐哉
733
永陽門院左京大夫
誘ひ果てし嵐の後のゆふしぐれ庭の落葉を猶やそむらむ
734
大中臣頼基
均子内親王の裳着侍りけるに尚侍淑子に送り侍りける屏風に笠取山のほとりを人行く程に時雨のするに袖をかづきたる所
笠取の山を頼みしかひもなく時雨に袖をぬらしてぞ行く
735
從二位爲子
題志らず
時雨れ行く唯一村は早くしてなべての空は雲ぞ長閑けき
736
永福門院
むら/\に小松まじれる冬枯の野べ凄じき夕ぐれのあめ
737
進子内親王
枯れつもる楢の落葉に音すなり風吹きまさる夕ぐれの雨
738
伏見院御歌
落葉深といふ事を人々に詠ませ給ひけるついでに
吹分くる木の葉の下も木のはてに庭見せかぬる山颪の風
739
後伏見院御歌
冬庭をよませ給ひける
時雨るとも知られぬ庭は木葉濡て寒き夕日は影落ちに鳬
740
四條太皇大后宮下野
宇治入道前關白の家に殿上人ども殘の紅葉を尋ぬと云ふ題を詠み侍りける時
心して風の殘せるもみぢ葉を尋ぬる山のかひに見るかな
741
貫之
題志らず
もみぢ葉の散り敷く時は行き通ふ跡だに見えぬ山路也鳬
742
順
山川に紅葉の流るゝを見て
水上に時雨降るらし山川の瀬にも紅葉のいろふかく見ゆ
743
後嵯峨院御歌
弘長二年、嵯峨にて十首の歌講ぜられけるついでに、河落葉
我宿の物なりながら大井河せきも止めず行く木の葉かな
744
後二條院御歌
冬の御歌に
神南備の山下風の寒けくにちりかひ曇る四方のもみぢ葉
745
院兵衛督
神垣のもりの木の葉は散りしきて尾花殘れる春日野の原
746
芬陀利花院前關白内大臣
文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に
吹く風のさそふともなき梢より落つる枯葉の音ぞ寂しき
747
權大納言公宗
冬の歌とて
入相のひゞきを送る山風にもろき木の葉の音ぞまじれる
748
後一條入道前關白左大臣
いつの間に苔さへ色のかはるらむ今朝初霜のふる郷の庭
749
徽安門院一條
百首の歌奉りし時
秋見しはそれとばかりの萩がえに霜の朽葉ぞ一葉殘れる
750
權大納言資明
冬枯の芝生の色の一とほり道ふみ分くる野べのあさじも
751
祝子内親王
題志らず
霜さむき朝げの山はうすぎりて氷れる雲にもる日影かな
752
今上御歌
冬の御歌の中に
霜こほる竹の葉分に月冴えて庭しづかなるふゆの小夜中
753
權大納言公蔭
吹きとほす梢の風は身にしみて冴ゆる霜夜の星清きそら
754
藤原爲基朝臣
冬動物と云ふ事を
置く霜は閨までとほる明け方の枕にちかきかりの一こゑ
755
紀淑文朝臣
霜を
殘りつる峯の日影も暮れはてゝ夕霜さむしをかのべの里
756
前大僧正源惠
暮れかゝる日影はよそになりにけり夕霜氷る森のした草
757
前大納言實明女
百首の歌奉りし時
空高く澄みとほる月は影冴えてしばふに白き霜の明け方
758
祝部成茂
冬の歌に
紅葉せし岡べも今は白たへのしもの朽葉に月ぞこほれる
759
三條入道前太政大臣
草葉こそ置添ふ霜にたへざらめ何にかれ行く宿の人目ぞ
760
前大納言實教
寒草を詠める
ふりはつる我をもすつな春日野やおどろが道の霜の下草
761
前中納言定家
建仁元年三月、歌合に嵐吹寒草と云ふ事を
淺茅生や殘るはずゑの冬の霜置き所なくふくあらしかな
762
從二位家隆
冬の歌の中に
霜白き神の鳥居の朝がらす鳴く音もさびし冬のやまもと
763
後伏見院中納言典侍
霜とくる日影の庭は木の葉濡れて朽にし色ぞ又變りぬる
764
正三位經家
後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、殘菊
染めかふるまがきの菊の紫は冬に移ろふ色にぞ有りける
765
後宇多院御歌
人々に歌を召して合せられけるついでに庭殘菊と云ふことを詠ませ給ひける
庭の面に老の友なる白ぎくは六十ぢの霜や猶かさぬべき
766
藤原道信朝臣
菊を見て詠める
濃紫殘れるきくは白露のあきのかたみに置けるなりけり
767
前大納言爲世
文保の百首の歌の中に
冬されば冴ゆる嵐の山の端にこほりをかけて出づる月影
768
正二位隆教
百首の歌奉りしに
おぼろなる光も寒し霜ぐもり冴えたる空に更くる夜の月
769
儀子内親王
題志らず
吹くとだに知られぬ風は身にしみて影さへ通る霜の上の月
770
二品法親王覺助
長き夜の霜の枕はゆめ絶えて嵐のまどにこほるつきかげ
771
徽安門院
冬雲を
氷るかと空さへ見えて月のあたり村々白き雲もさむけし
772
冷泉前太政大臣
河邊冬月
武士のやそうぢ川の冬の月入るてふ名をば習はざらなむ
773
藤原爲秀朝臣
瀬だえするふる川水の薄氷ところ%\にみがくつきかげ
774
後伏見院御歌
題志らず
鐘の音にあくるか空とおきて見れば霜夜の月ぞ庭靜なる
775
左近中將忠季
有明の月と霜との色のうちに覺えず空もしらみ初めぬる
776
前大納言爲兼
冬鐘と云ふ事を
吹き冴ゆる嵐のつての二聲に又はきこえぬあかつきの鐘
777
増基法師
曉がたに千鳥の鳴くを聞きて
あかつきや近くなるらむ諸共にかならずも鳴く鳥千鳥哉
778
左京大夫顯輔
千鳥を詠み侍りける
近江路や野島が崎の濱風にゆふなみ千鳥たちさわぐなり
779
正三位經朝
寳治の百首の歌に、潟千鳥
夕暮の汐風あらく鳴海潟かたもさだめず鳴くちどりかな
780
平宣時朝臣
海邊千鳥と云ふ事を
遙なる沖の干潟の小夜千鳥みちくる汐にこゑぞちかづく
781
權中納言通相
寒蘆を
難波潟入江にさむき夕日影殘るもさびしあしのむらだち
782
如願法師
湊いりのたなゝし小舟跡見えて芦の葉むすぶうす氷かな
783
後西園寺入道前太政大臣
氷を詠める
行きなやむ谷の氷の下むせび末にみなぎるみづぞ少なき
784
惠助法親王
冬深き谷の下水音絶えてこほりのうへをはらふ木がらし
785
前關白左大臣基
冬の歌の中に
分きて猶こほりやすらむ大井川さむる嵐のやま蔭にして
786
藤原爲忠朝臣
百首の歌奉りし時
風寒き山かげなればなつみ河むすぶ氷のとくる日もなし
787
永福門院
冬雨を
寒き雨は枯野の原に降り志めて山松風のおとだにもせず
788
伏見院御歌
冬夕の心を詠ませ給ひける
梢には夕あらし吹きて寒き日の雪げの雲にかり鳴き渡る
789
式子内親王
正治の百首の歌の中に
むれてたつ空も雪げにさえ暮れて氷の床に鴛ぞ鳴くなる
790
前中納言爲相女
霰を
空さむみ雪げもよほす山風のくものゆきゝに霰ちるなり
791
前中納言重資
風の音も寒き夕日は見えながら雲一村にあられ落つなり
792
如法三寳院入道前内大臣
野外霰と云ふ事を
霜氷る野べのさゝ原風冴えてたまりもあへず降る霞かな
793
式子内親王
正治の百首の歌の中に、冬の歌
時雨つゝ四方の紅葉は降り果てゝ霰ぞ落つる庭の木葉に
794
前大納言爲兼
題志らず
降り晴るゝ庭の霰は片よりて色なる雲ぞそらに暮れ行く
795
伏見院新宰相
冬夜と云ふ事を
夕べよりあれつる風のさえ/\て夜深き窓に霰をぞ聞く
796
權僧正永緑
霰を
冬の夜の寐覺に聞けばかた岡のならの枯葉に霰降るなり
797
民部卿爲定
百首の歌奉りし時
音たつる外面のならのひろばにも餘りてよそに散る霰哉
798
章義門院
題志らず
詠めやる岡の柳は枝さびて雪まつそらのくれぞさむけき
799
藤原爲基朝臣
浮雲の志ぐれ暮して晴るゝ跡になかば雪なる軒の山の端
800
鎌倉右大臣
雪の歌の中に
まきもくの檜原の嵐冴え/\てゆつきが嶽に雪降りに鳬
801
後鳥羽院御歌
建仁元年三月、歌合に、雪似白雲と云ふ事を
雪やこれはらふ高間の山風につれなき雲のみねに殘れる
802
前中納言定家
策々窓戸前、又聞新雪下と云ふ事を
初雪の窓のくれ竹ふしながらおもるうは葉の程ぞ聞ゆる
803
前中納言雅孝
題志らず
降りけるも眞砂の上は見え分かで落葉に白き庭のうす雪
804
道命法師
庭はたゞ霜かと見れば岡のべの松の葉白き今朝のはつ雪
805
藤原朝定
笹の葉の上ばかりには降り置けど道も隱れぬ野べの薄雪
806
院冷泉
跡たえてうづまぬ霜ぞすさまじき芝生が上の野べの薄雪
807
寂惠法師
朝日影さすや雲間のたえ%\にうつるも氷る峯のしら雪
808
右近大將道嗣
冬の歌に
いづくとも積るたかねは見えねども雲の絶々降れる白雪
809
内大臣
野雪と云ふ事を詠み侍りける
高嶺にはけぬが上にや積るらむ富士の裾野の今朝の初雪
810
藤原爲守
行路雪を
旅人の先だつ道はあまたにて跡なきよりもまがふ雪かな
811
藤原重能
左兵衞督直義の家の歌合に
波かゝるしづえは消えて磯の松梢ばかりにつもるしら雪
812
前大納言爲兼
雪降りける日日吉の社へまうでけるに山深くなるまゝ風吹きあれて行くさきも見えず雲立ちむかひ侍りければ
行く先は雪の吹雪に閉ぢ籠めて雲に分け入る志賀の山越
813
鎌倉右大臣
題志らず
深山には白雪降れりしがらきのまきの杣人みち辿るらむ
814
基俊
山家雪
雪のうちに今日も暮しつ山里はつま木のけぶり心細くて
815
民部卿爲定
文保の百首の歌奉りける時、冬の歌
降るまゝに檜原も最どこもりえの初瀬の山は雪積るらし
816
永福門院
百番歌合に、山雪を
鳥の聲松の嵐のおともせず山志づかなるゆきのゆふぐれ
817
津守國基
雪の歌とて詠める
三吉野やすゞふく音はうづもれて槇の葉はらふ雪の朝風
818
俊惠法師
雪埋樵路と云ふ事を
つま木こる山路は雪の降りければ世にふる道も絶や志ぬ覽
819
光明峰寺入道前攝政左大臣
雪のいみじく降りたりけるあした慶政上人西山に住み侍りける庵室に詠みて遣しける
如何ばかり降りつもるらむ思ひやる心も深きみねの白雪
820
慶政上人
返し
尋ねいりし誠の道の深き山はつもれる雪の程も志られず
821
前大僧正道玄
無動寺に籠りて侍りける頃雪のあした藤原爲顯に遣しける
都へも見ゆらむ物を哀れとも訪はぬぞつらき峯の志ら雪
822
藤原爲顯
返し
詠むべき其方の山もかき暮れて都も雪の晴るゝ間もなし
823
權中納言宗經
題志らず
訪ふ人の跡こそあらめ松風の音さへ絶ゆるやまの志ら雪
824
藤原頼氏
降り積る梢の雪やこほるらし朝日も洩らぬ庭のまつが枝
825
西園寺入道前太政大臣
建保五年四月、庚申に、冬夕を
山の端の雪の光に暮れやらでふゆの日ながし岡のべの里
826
從二位兼行
雪を詠み侍りける
降りおもる軒端の松は音もせでよそなる谷に雪をれの聲
827
前大納言爲兼
三島の社に奉らむとて平貞時朝臣すゝめ侍りける十首の歌の中に、松雪を
山おろしの梢の雪を吹くたびに一くもりする松の下かげ
828
前中納言定資
雪の歌に
夜もすがらふる程よりも積らぬは嵐やはらふ松の志ら雪
829
從三位盛親
夕暮のみぞれの庭や氷るらむ程なくつもる夜半の志ら雪
830
從二位爲子
花よたゞまだうすぐもる空の色に梢かをれる雪の朝あけ
831
永福門院内侍
院より召されける卅首の歌の中に
ふればかつこほる朝げのふる柳なびくともなき雪の白糸
832
前大僧正道意
冬の歌とて
朝日さす軒端の雪はかつきえてたるひの末に落つる玉水
833
後伏見院御歌
朝雪と云ふ事を
岡のべや寒き朝日のさしそめておのれと落つる松の白雪
834
後西園寺入道前太政大臣
野も山も一つに志らむ雪の色に薄雲くらき朝あけのそら
835
徽安門院
薄曇まだ晴れやらぬ朝あけの雲にまがへるゆきのとほ山
836
院一條
題志らず
深雪降る枯木のすゑの寒けきにつばさを垂れて烏鳴く也
837
後鳥羽院御歌
鳥歸る谷のとぼそに雪深しつま木こるをの道や絶えなむ
838
儀子内親王
薄曇折り/\さむく散る雪にいづるともなき月も凄まじ
839
前大僧正覺實
降りすさむ夕の雪の空晴れて竹の葉志ろき軒のつきかげ
840
藤原親行朝臣
吹きかくる簾も白くなりにけり風によこぎる夕暮のゆき
841
前中納言重資
百首の歌奉りし時
うづもるゝ草木に風の音はやみて雪志づかなる夕暮の庭
842
院一條
冬の歌とて
山もとの竹はむら/\埋もれて烟もさむき雪のあさあけ
843
左兵衛督直義
冬地儀と云ふ事を
見渡せば山もと遠き雪のうちに烟さびしき里のひとむら
844
伏見院御歌
夕雪
降り積る色より月のかげになりて夕暮見えぬ庭の志ら雪
845
前大納言爲兼
暮るゝまで屡拂ふ竹の葉にかぜはよわりて雪ぞ降り敷く
846
貫之
屏風の繪に雪の降りたる所
三吉野の山より雪は降りくれどいつとも分かぬ我宿の竹
847
讀人志らず
題志らず
池のべの杜の末葉に降る雪は五百重降り志けあすさへも見む
848
うば玉の今宵の雪にいざぬれむ明けむ朝にけなば惜しけむ
849
貫之
物ごと に降りのみ隱すゆきなれど水には色も殘らざりけり
850
源仲正
水上雪と云ふ事を詠める
諸共にはかなき物は水の面に消ゆれば消ゆる泡の上の雪
851
二品法親王覺助
文保三年後宇多院へ召されける百首の歌の中に
降りつもる雪間に落つる瀧川の岩根に細きみづのしら浪
852
從二位行家
氷上雪を
かつ結ぶ氷の程もあらはれて雪になり行く庭のいけみづ
853
修理大夫顯季
雪の降りたりけるつとめて俊頼朝臣の許に詠みて遣しける
雪降りてふまゝく惜しき庭の面は尋ねぬ人も嬉しかり鳬
854
俊頼朝臣
返し
我心ゆきげの空に通ふとも知らざりけりな跡しなければ
855
伏見院御歌
正應二年十一月廿八日、賀茂の臨時の祭の還立待たせ給ふ程、上達部殿上人あまたさぶらひて夜もすがら御歌合など有りける朝ぼらけ雪さへ降りていとおもしろく侍りけるを、同じ五年のおなじ月日臨時の祭にて雪降りて侍りければ、おぼし召し出づる事ありて、御硯の蓋に雪を入れて、淨妙寺關白其の頃こもりゐて侍りけるに遣はさせ給ひける
廻り逢ふ同じ月日は思ひいづや四とせ舊りにしゆきの曙
856
淨妙寺關白前右大臣
御返し
つもれどもつかへしまゝの心のみふりてもふりぬ雪の曙
857
進子内親王
冬聲と云ふ事を
降り晴れて氷れる雪の梢よりあかつき深き鳥のはつこゑ
858
覺譽法親王
朝雪を
降り晴るゝ朝げの空は長閑にて日影に落つる木々の白雪
859
從二位隆博
雪の歌の中に
日影さす其方の雪のむらぎえにかつ%\落つる軒の玉水
860
前中納言爲相
鷹狩を
御狩野に草をもとめて立つ鳥のしばしかくるゝ雪の下柴
861
前大納言公泰
御狩するかた山蔭のおち草にかくれもあへず立つ雉子哉
862
前大納言爲兼
谷ごしに草取る鷹を目にかけて行く程おそきしばの下道
863
前大納言爲世
文保三年後宇多院へ奉りける百首の歌の中に
風さゆるうぢのあじろ木瀬を早み氷も波も碎けてぞ見る
864
前中納言雅孝
山深き雪よりたつる夕烟たがすみがまのしるべなるらむ
865
安嘉門院四條
小野山はやくすみがまの下もえて烟のうへにつもる白雪
866
前大納言爲家
住吉の社に奉りける百首の歌の中に、炭竈
炭がまの烟に春をたち籠めてよそめ霞める小野の山もと
867
平貞時朝臣
遠炭竈と云ふ事を
炭がまの烟ばかりをそれと見て猶みちとほし小野の山里
868
院御歌
冬夕の心を詠ませ給ひける
暮れやらぬ庭のひかりは雪にして奥暗くなる埋火のもと
869
皇太后宮大夫俊成
日吉の社へ奉りける百首の歌の中に、爐火を
埋火にすこし春ある心して夜深きふゆをなぐさむるかな
870
太上天皇
冬の歌の中に
寒からし民のわら屋を思ふには衾のうちの我もはづかし
871
後深草院小將内侍
寳治の百首の歌に、冬月
雲の上の豐のあかりに立ち出でゝ御階の召に月を見る哉
872
民部卿爲藤
文保三年後宇多院へ召されける百首の歌の中に
少女子が雲の通路吹く風にめぐらす雪ぞそでにみだるゝ
873
龜山院御歌
永仁五年五節のまゐりの日申させ給ひける
面影も見る心ちするむかしかな今日少女子が袖の志ら雪
874
伏見院御歌
御返し
忍ぶらし少女が袖のしら雪も降りにし跡の今日のおも影
875
權中納言公雄
文保の百首の歌の中に
忘れずよ豐のあかりのをみ衣きつゝなれしは昔なれども
876
前左兵衛督爲成
賀茂の臨時の祭の舞人つとめける時社頭にて詠み侍りける
山あゐの袖の月影さ夜ふけて霜吹きかへす賀茂の河かぜ
877
皇太后宮大夫俊成
文治六年、女御入内の屏風に、十二月内侍所の御神樂の所
道理や天の岩戸も明けぬらむ雲居のにはのあさくらの聲
878
永福門院右衛門督
冬の歌の中に
殘りなく今年も早くくれ竹の嵐にまじるゆきもすさまじ
879
後鳥羽院御歌
正治二年人々に百首の歌召されけるついでに、年のくれを
今日までは雪降る年の空ながら夕ぐれ方は打ち霞みつゝ
880
中務卿宗尊親王
十二月十七日立春の節、方遠に外へ罷りて曉、有明の月を見て
入方の影こそやがて霞みけれ春にかゝれるありあけの月
881
伏見院御歌
冬庭と云ふ事を
自ら垣根のくさもあをむなり霜の下にもはるやちかづく
882
貫之
歳のうちの梅をよみ侍りける
一年にふたゝび匂ふ梅の花春のこゝろにあかぬなるべし
883
後鳥羽院御歌
百首の御歌の中に
惜みこし花や紅葉の名殘さへ更におぼゆる年のくれかな
884
永福門院
題志らず
あれぬ日の夕べの空は長閑にて柳の末もはるちかく見ゆ
885
卜部兼直
冬の歌とて詠める
身の憂さも變りやするとよしさらば今年は歳の暮も惜まじ
886
關白右大臣
百首の歌奉りし時
今年又暮ぬと思へば今更に過ぎし月日の惜しくも有る哉
887
藤原爲明朝臣
いたづらに今日さへくればあすか川又歳波の數や重ねむ
888
正三位知家
寳治の百首の歌の中に、歳暮を
暮れぬとて何かは急ぐ年を經て人の爲なる春と見ながら