金葉和歌集

Kin'yō wakashū

作者複数 Various

金葉和歌集卷第三
秋歌

165

春宮大夫公實

百首の歌の中に秋立つ心をよめる

とことはにふく夕暮の風なれど秋立つ日社凉しかりけれ
166

太宰大貳長實

野草帶露といへる事をよめる

まくずはふあだの大野の白露を吹きなはらひそ秋の初風
167

皇后宮美濃

待草花といへることをよめる

藤袴はや綻びてにほはなむあきのはつ風ふきたゝずとも
168

土佐内侍

後冷泉院の御時皇后宮の春秋の歌合に七夕の心をよめる

萬代に君ぞみるべき棚機のゆきあひの空を雲のうへにて
169

能因法師

七夕の心をよめる

棚ばたの苔の衣を厭はずば人なみ/\にかしも志てまし
170

橘元任

七月七日父のぶくにて侍りける年よめる

藤衣いみもやすると棚機にかさぬにつけてぬるゝ袖かな
171

前齋宮河内

七夕の心をよめる

こひ/\て今宵ばかりや棚機の枕にちりの積らざるらむ
172

三宮

あまの河別に胸のこがるればかへさの舟は梶もとられず
173

中納言國信

棚機にかせる衣の露けさにあかぬけしきを空に志るかな
174

内大臣

七夕後朝のこゝろをよめる

かぎりありて別るゝ時も棚機の涙の色はかはらざりけり
175

皇后宮權大夫師時

棚機のあかぬわかれの涙にやはなの桂もつゆけかるらむ
176

内大臣家越後

天の河かへさの舟に浪かけてのり煩はゞほどもふばかり
177

源俊頼朝臣

歸るさはあさ瀬も志らじ天の河あかぬ涙に水しまさらば
178

源雅兼朝臣

草花告秋といふ事をよめる

咲初むる旦の原の女郎花秋を志らするつまにぞありける
179

源縁法師

おなじ心をよめる

咲きにけり梔子色の女郎花いはねど志るし秋のけしきは
180

大納言經信

秋のはじめのこゝろをよめる

おのづから秋はきにけり山里の葛はひかゝる槇の伏屋に
181

右兵衛督伊通

田家早秋といへる事をよめる

稻葉ふく風の音せぬ宿ならば何につけてか秋を知らまし
182

藤原行盛

山家秋といへる事をよめる

山深みとふ人もなき宿なれど外面の小田に秋はきにけり
183

大納言經信

師賢の朝臣の梅津の山里に人々まかりて田家秋風といへる事をよめる

夕されば門田のいなば音づれて芦のまろやに秋風ぞふく
184

大江公資朝臣

三日月の心をよめる

山の端にあかで入りぬる夕月夜いつ有明にならむとす覽
185

藤原忠隆

攝政左大臣の家にて夕月夜の心をよませ侍りけるによめる

風ふけば枝やすからぬ木の間より仄めく秋の夕月夜かな
186

大納言經信

後冷泉院の御時殿上の歌合に月の心をよめる

月影のすみわたるかな天の原雲ふき拂ふ夜半のあらしに
187

法橋忠命

月はたびの友といへる事をよめる

草枕このたびねにぞ思ひしる月よりほかの友なかりけり
188

顯仲卿女

志づかに月をみるといへる事をよめる

もろともに草葉の露のおきゐずは獨や見まし秋の夜の月
189

前中納言伊房

翫明月といへる事をよめる

僞になりぞしぬべき月影をこの見るばかり人にかたらば
190

春宮大夫公實

鳥羽殿にて旅宿月といへる事をよめる

我こそはあかしのせとに旅寐せめ同じ水にも宿る月かな
191

院御製

寛治八年八月十五夜鳥羽殿にて池上翫月といへることをよませ給ひける

池水に今宵の月をうつしもて心のまゝにわがものと見る
192

大納言經信

てる月の岩間の水に宿らずば玉ゐる數をいかでしらまし
193

民部卿忠教

明月をよめる

いづくにも今宵の月をみる人の心や同じそらにすむらむ
194

藤原隆經

後冷泉院の御時皇后宮の歌合に駒迎のこゝろをよめる

ひく駒の數より外にみえつるは關の清水の影にぞ有ける
195

源仲正

駒迎の心をよめる

東路をはるかに出づるもち月の駒にこよひや逢坂のせき
196

源親房

八月十五夜の心をよめる

さやけさは思做しかと月影を今宵としらぬ人にとはゞや
197

春宮大夫公實

閏九月のある年八月十五夜によめる

秋は猶のこり多かる年なれど今夜の月の名こそをしけれ
198

前齋院六條

水上月といへる心をよめる

雲のなみかゝらぬさ夜の月影をきよ瀧川に映してぞみる
199

源俊頼朝臣

九月十三夜しづかに月を見るといへる事をよめる

すみのぼる心や空を拂ふらむ雲のちりゐぬあきの夜の月
200

皇后宮肥後

月をよめる

月をみて思ふ心の儘ならば行へもしらずあくがれなまし
201

源師俊朝臣

人のもとにまかりて物申しけるほどに月の入りにければよめる

いかにしてしがらみかけむ天の川流るゝ月や暫し淀むと
202

大納言經信

經長卿の桂の山庄にてしづかに月をみるといへる事をよめる

今宵わが桂の里の月を見ておもひ殘せることのなきかな
203

春宮大夫公實

承暦二年内裏の歌合に月をよめる

曇りなき影を留めば山のはに入るとも月を惜まざらまし
204

皇后宮攝津

宇治前太政大臣の家の歌合に月をよめる

照る月の光さえゆく宿なれば秋の水にもこほりゐにけり
205

源俊頼朝臣

山のはに雲の衣をぬぎ捨てゝひとりも月の立ち昇るかな
206

攝政左大臣

水上月

蘆根はひかつみも茂き沼水にわりなく宿る夜半の月かな
207

一宮紀伊

宇治前太政大臣の家の歌合に月をよめる

鏡山みねより出づる月なれば曇る夜もなき影をこそみれ
208

參議師頼

秋なにはの方にまかりて月のあかゝりければよめる

いにしへの難波の事を思出でゝ高津の宮に月のすむらむ
209

藤原隆經

秋月如晝といへることをよめる

草の上の露微りせばいかにして今宵の月を夜と知らまし
210

源行宗朝臣

翫明月といふ事をよめる

なごりなく夜半の嵐に雲晴れて心のまゝにすめる月かな
211

平師季

八月十五夜に人々歌よみけるによめる

三笠山光をさして出でしよりくもらで明けぬ秋の夜の月
212

讀人志らず

宇治入道前太政大臣の三十講の歌合に月の心をよめる

宿からぞ月の光もまさりけるよの曇りなくすめば也けり
213

藤原忠隆

月をよめる

眺むれば更けゆく儘に雲晴れて空も長閑にすめる月かな
214

權僧正永縁

奈良の花林院の歌合に月をよめる

いかなれば秋は光のまさるらむおなじ三笠の山の端の月
215

藤原顯輔

月の歌とてよめる

みかさ山もりくる月の清ければ神の心もすみやしぬらむ
216

大納言經信

太皇太后宮の扇合に月の心をよめる

三笠山みねより出づる月かげはさほの河瀬の氷なりけり
217

太宰大貳長實

顯季卿の家にて九月十三夜人々月の歌よみけるに

くまもなき鏡とみゆる月かげに心うつらぬ人はあらじな
218

源俊頼朝臣

村雲や月のくまをばのごふらむ晴れゆくたびに照増る哉
219

藤原家經朝臣

月の心をよめる

今よりは心ゆるさじ月影の行くへも志らず人さそひけり
220

三宮

月照古橋といへる心をよませ給へる

と絶して人も通はぬたな橋は月ばかりこそ澄み渡りけれ
221

藤原實光朝臣

水上月をよめる

月影のさすにまかせて行く舟は明石の浦や泊りなるらむ
222

太宰大貳長實

題志らず

さらぬだに玉に紛ひておく露をいとゞ磨ける秋の夜の月
223

藤原家經朝臣

永承四年殿上の歌合に月の心をよめる

よとゝもに曇らぬ雲の上なれば思ふ事なく月をみるかな
224

修理大夫顯季

月前旅宿といへることをよめる

松がねにころもかたしき終夜眺むる月をいもや見るらむ
225

藤原有教母

ひとり月をながめてよめる

眺むればおぼえぬ事もなかりけり月や昔の形見なるらむ
226

權僧正永縁

行路曉月といへる事をよめる

諸共にいづとはなしに有明の月のみおくる山路をぞ行く
227

土御門左大臣

山にむかひて月を待つといへることをよめる

有明の月まつ程のうたゝねは山のはのみぞ夢にみえける
228

中納言顯隆

山家曉月といへる事をよめる

山里の門田の稻のほの%\とあくるも志らず月をみる哉
229

平忠盛朝臣

月のあかゝりけるころ明石にまかりて月をみてのぼりたりけるに都の人々月はいかにと尋ねければよめる

有明の月もあかしの浦風に波ばかりこそよるとみえしか
230

源俊頼朝臣

月前落葉といへる事をよめる

嵐をや葉守の神もたゝるらむ月に紅葉のたむけしてけり
231

前齋院六條

きり%\すをよめる

露繁きのべに傚ひてきり%\す我が手枕の下になくなり
232

顯仲卿女

はたおりといへる虫をよめる

さゝがにのいと引きかくる叢にはたおる虫の聲ぞ聞ゆる
233

讀人志らず

雁をよめる

玉草はかけてきつれど雁がねのうはの空にも聞ゆなる哉
234

春宮大夫公實

歌合に雁を

いもせ山みねの嵐やさむからむ衣かりがね空に鳴くなり
235

三宮大進

鹿をよめる

妻こふる鹿ぞ鳴くなる獨寐のとこの山風身にや志むらむ
236

皇后宮右衛門佐

曉聞鹿といへる事をよめる

思ふこと有明がたの月影にあはれをそふるさをじかの聲
237

内大臣家越後

夜聞鹿聲といふ事をよめる

夜はになく聲に心ぞあくがるゝ我身は鹿の妻ならねども
238

源雅光

攝政左大臣の家にて旅宿鹿といへる事をよめる

さもこそは都戀しき旅ならめ鹿の音にさへぬるゝ袖かな
239

藤原顯仲朝臣

鹿の歌とてよめる

世中をあきはてぬとやさをじかの今は嵐の山に鳴くらむ
240

藤原行家

秋ならで妻よぶ鹿を聞しかな折から聲の身には志むかと
241

皇后宮肥後

野花帶露といへる事をよめる

白露と人はいへども野べみればおく花毎に色ぞかはれる
242

僧正行尊

太皇太后宮の扇合に人にかはりて萩の心をよめる

小萩原匂ふさかりは白露のいろ/\にこそみえ渡りけれ
243

太宰大貳長實

萩をよめる

志らすげの眞野の萩原露ながらをりつる袖ぞ人な咎めそ
244

隆源法師

女郎花をよめる

女郎花さける野べにぞ宿りぬる花の名立に成や志ぬらむ
245

中納言俊忠

顯隆卿の家に歌合し侍りける時をみなへしをよめる

ゆふ露の玉かづらして女郎花野原の風にをれやふすらむ
246

藤原顯輔朝臣

女郎花をよめる

白露や心おくらむ女郎花いろめく野べにひとかよふとて
247

攝政左大臣

女郎花夜のまの風にをれふしてけさ志ら露に心おかるな
248

源忠季

攝政左大臣の家にて歌合し侍りけるに蘭をよめる

佐保川の汀にさける藤袴なみのよりてやかけむとすらむ
249

右兵衞督伊通

藤ばかまをよめる

狩にくる人もきよとや藤ばかま秋の野毎に鹿のたつらむ
250

神祇伯顯仲

さゝがにの糸のとぢめやあだならむ綻びわたる藤袴かな
251

春宮大夫公實

鳥羽殿の前栽合に女郎花のこゝろをよめる

あだし野の露吹きみだる秋風になびきもあへぬ女郎花哉
252

藤原伊家

思野花といへることをよめる

今はしもほにいでぬらむ東路の岩田の小野の志のゝを薄
253

平忠盛朝臣

野花留人といへることをよめる

行く人を招くか野邊のはな薄今宵もこゝに旅寐せよとや
254

源俊頼朝臣

堀河院の御時御前にておの/\題をさぐりて歌つかうまつりけるに薄をとりてつかうまつれる

うづらなく眞野の入江の濱風に尾花なみよる秋の夕ぐれ
255

藤原基光

河霧をよめる

宇治川のかは瀬もみえぬ夕霧にまきの島人舟よばふなり
256

藤原行家

河霧のたちこめつれば高瀬舟わけゆく掉の音のみぞする
257

中納言通俊

郁芳門院の歌合に菊をよめる

盛なる籬の菊を今朝みればまだ空さえぬゆきぞふりける
258

修理大夫顯季

鳥羽殿の前栽合に菊をよめる

千年迄君がつむべき菊なれば露も仇には置かじとぞ思ふ
259

藤原仲實朝臣

攝政左大臣の家にて隣家紅葉といへることをよめる

もずのゐるはじの立枝の薄紅葉たれ我宿の物とみるらむ
260

源師賢朝臣

承暦二年内裏の歌合にもみぢをよめる

箒木の梢やいづこおぼつかなみなその原は紅葉志にけり
261

大納言經信

[1]宇治前太政太臣4大井河にまかりたりけるともにまかりて水邊紅葉といへる事をよめる

大井河いはなみたかし筏士よ岸の紅葉にあからめなせそ
262

源俊頼朝臣

太皇太后宮の扇合に人にかはりてもみぢの心をよめる

音羽山もみぢ散るらしあふさかの關の小川に錦おりかく
263

藤原伊家

落葉をよめる

谷川に志がらみかけよ立田姫みねのもみぢに嵐ふくなり
264

修理大夫顯季

大井河の行幸につかうまつれる

大井河ゐせきの音のなかりせば紅葉を志ける渡とやみむ
265

大納言經信

深山紅葉といへる事をよめる

山守よ斧の音高く聞ゆなり峯のもみぢはよきてきらせよ
266

神祇伯顯仲

紅葉をよめる

よそにみる峯のもみぢや散り來ると麓の里は嵐をぞ待つ
267

藤原伊家

大井河の逍遙に水上落葉といへる事をよめる

柞ちる岩間をくゞる鴨どりは己があを羽も紅葉しにけり
268

修理大夫顯季

落葉埋橋といへる事をよめる

小倉山みねの嵐の吹くからに谷のかけ橋もみぢしにけり
269

大中臣公長朝臣

落葉藏水といへる心をよめる

大井河ちるもみぢ葉に埋れてとなせの瀧は音のみぞする
270

太宰大貳長實卿母

落葉隨風といへる事をよめる

色深きみ山がくれのもみぢ葉を嵐の風のたよりにぞみる
271

中原經則

九月盡の心をよめる

あすよりはよもの山邊の秋霧の面影にのみたゝむとす覽
272

源俊頼朝臣

草の葉に儚くきゆる露をしも形見におきて秋の行くらむ
273

春宮大夫公實

九月盡の日大井にまかりてよめる

惜めどもよもの紅葉は散果てゝとなせぞ秋の泊なりける
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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