金葉和歌集

Kin'yō wakashū

作者複数 Various

金葉和歌集卷第七
戀歌

372

小一條院御製

五月五日はじめたる女のもとに遣はしける

志らざりき袖のみぬれて菖蒲草斯る戀路に生ひむ物とは
373

大江公資朝臣

女のもとにつかはしける

篠薄上葉にすがくさゝがにのいかさまにせば人靡きなむ
374

神祇伯顯仲

曉のこひをよめる

さりともと思ふ限は忍ばれて鳥と共にぞねはなかれける
375

春宮大夫公實

つれなかりける女のもとにつかはしける

これにしく思ひはなきを草枕たびにかへすはいな莚とや
376

俊よりの朝臣

後朝の心をよめる

我戀はおぼろの清水いはでのみせき遣る方も無て暮しつ
377

藤原顯輔朝臣

顯李卿の家にて人々戀の歌よみけるによめる

あふとみて現のかひはなけれども儚きゆめぞ命なりける
378

源雅光

女のもとに遣はしける

逢ふ迄は思もよらず夏引のいとほしとだにいふと聞ばや
379

宣源法師

從二位藤原親子の家の雙紙合に戀の心をよめる

今は唯ねられぬいをぞ友にする戀しき人の縁りと思へば
380

太宰大貳長實

思遣れ須磨のうらみてねたる夜の片しく袖にかゝる涙を
381

津守國基

ものいひける女の髮をかきこして見けるをよめる

朝ね髮誰が手枕にたばつけてけさは形見に振越してみる
382

讀人志らず

題志らず

戀すてふ名をだに流せ涙河つれなき人もきゝやわたると
383

なにせむに思ひかけゝむ唐衣戀しき事はみさをならぬに
384

中納言雅定

あふ事はいつと渚の濱千鳥なみの立居にねをのみぞなく
385

春宮大夫公實

ある宮ばらに侍りける人の忍びて宮をいでゝあやしの小家にてもの申して後、日ごろありて遣はしける

思ひいづやありし其よの呉竹は淺ましかりしふし所かな
386

少將公教母

顯李卿の家にて寄織女戀といふこゝろをよめる

棚機は又こむ秋も頼むらむ逢夜も志らぬ身をいかにせむ
387

源師俊朝臣

寄水鳥戀といへることをよめる

水鳥の羽風に騒ぐさゞ浪のあやしきまでもぬるゝ袖かな
388

左兵衞督實能

寄夢戀といへる事をよめる

夢だにあふとは見えよさもこそは現につらき心なり共
389

中納言顯隆

題志らず

白雲のかゝる山路をふみゝてぞいとゞ心は空になりける
390

源顯國朝臣

中納言俊忠卿の家にてたのめてあはぬ戀といへる心をよめる

逢見むと頼むればこそ呉機織怪しやいかゞたち歸るべき
391

中納言實行

忍戀の心をよめる

谷川のうへは木葉にうづもれて下に流ると人志るらめや
392

藤原基光

月前戀といへる事をよめる

眺むれば戀しき人のこひしきに曇らばくもれ秋の夜の月
393

讀人志らず

題志らず

つらし共愚なるにぞ言はれけるいかに恨むと人に知せむ
394

藤原知房朝臣

もの申しける人の、前の中宮にまゐりにければなごりを戀ひて月のあかゝりける夜いひつかはしける

面影は數ならぬ身にこひられて雲居の月を誰とみるらむ
395

讀人志らず

さはる事ありて久しう音づれざりける女のもとよりいひ送り侍りける

淺ましやなどかきたゆる藻鹽草さ社は蜑のすさびなり共
396

内大臣家小大進

文ばかりおこせていひたえにける人のもとにいひつかはしける

ふみそめて思ひ歸りし紅の筆のすさびをいかで見せけむ
397

長實卿母

實行卿の家の歌合に戀の心をよめる

志るらめや淀の繼橋よと共につれなき人を戀ひ渡るとは
398

藤原道經

戀わびておさふる袖や流れ出づる涙の川の井堰なるらむ
399

少將公教母

流れての名にぞ立ちぬる涙川人め包みをせきしあへねば
400

皇后宮右衛門佐

題志らず

涙川袖のゐせぎもくちはてゝ淀むかたなき戀もするかな
401

源顯國朝臣

かくとだにまだ岩代の結び松むすぼゝれたるわが心かな
402

藤原顯輔朝臣

女のもとにつかはしける

戀すてふもじの關守いくたびか我かきつらむ心づくしに
403

左兵衛督實能

命だにはかなからずば年ふとも逢見む事をまたまし物を
404

源行宗朝臣

後朝の心をよめる

つらかりし心ならひにあひみても猶夢かとぞ疑はれける
405

春宮大夫公資

堀河院の御時の艷書合によめる

思ひあまりいかでもらさむ奧山の岩がきこむる谷の下水
406

藤原顯輔朝臣

こひの心をよめる

年ふれど人もすさめぬわが戀や朽木の杣の谷のうもれぎ
407

讀人志らず

あるまじき人をおもひかけてよめる

いかにせむ數ならぬ身に從はで包むそでより落つる涙を
408

太宰大貳長實

院の熊野にまゐらせおはしましける時御迎にまゐりてたびの床の露けかりければよめる

夜もすがら草の枕におく露はふるさとこふる涙なりけり
409

神祇伯顯仲

忍戀の心をよめる

志らせばやほのみしま江に袖ひぢて七瀬の淀に思ふ心を
410

相模

野わきしたりけるにいかゞなどおとづれたりける人の其の後又音もせざりければつかはしける

荒かりし風の後より絶ぬるはくもでにすがく糸にや有覽
411

源俊頼朝臣

國信卿の家の歌合に夜戀の心をよめる

よとともに玉ちる床のすが枕見せばや人に夜のけしきを
412

相模

五月五日わりなくもていでたる所にこもといふものをひきたりけるを忘れがたさにいひ遣はしける

菖蒲にもあらぬ眞菰を引きかけし假の夜殿の忘られぬ哉
413

橘季通

閏五月侍りけるとし人をかたらひけるが後の五月すぎてなど申しければよめる

なぞもかくこひぢに立ちて菖蒲草餘り長くも五月なる覽
414

神祇伯顯仲

人のもとにつかはしける

おのづから夜がるゝ程のさ莚は涙の憂になるとしらずや
415

相模

そら事いひて久しうおとせぬ人のもとにいひつかはしける

ありふるも憂世なりけりながゝらぬ人の心を命ともがな
416

藤原惟規

人をうらみてつかはしける

池にすむ我名ををしのとり返す物にもがなや人を恨みじ
417

藤原正家朝臣

女のもとにまかりたりけるに今夜はかへりねとまうしければ歸りにける後ひと日はいかに思ひしなど申しければいひ遣はしける

秋風に吹き返されて葛の葉のいかに恨みし物とかはしる
418

藤原有教母

かたらひ侍りける人のあながちに申さする事のありければ遣はしける

從へば身をば捨てゝむ心にも叶はでとまる名社惜しけれ
419

藤原忠隆

長實卿の家の歌合に戀の心をよめる

包めども涙の雨のしるければ戀する名をもながしつる哉
420

春宮大夫公實

人にかはりて

白菊のかはらぬ色も頼まれず移ろはでやむ秋しなければ
421

藤原惟規

人を恨みてつかはしける

島風にしばたつなみのたちかへり恨みても猶頼まるゝ哉
422

前齋宮内侍

なき名立てける人のもとにつかはしける

淺ましや逢瀬も志らぬ名取川まだきに岩間洩すべしやは
423

左京大夫經忠

逢不遇戀といへる事をよめる

一夜とはいつか契りし河竹の流れてとこそ思ひそめしか
424

皇后宮式部

俊忠卿の家にて戀歌十首人々によませ侍りけるにちかひてあはずといへる事をよめる

逢見ての後つらからばよゝをへて此より勝る戀に惑はむ
425

源俊頼朝臣

實行卿の家の歌合にこひの心をよめる

いつとなく戀に焦るゝ我身よりたつや淺間の煙なるらむ
426

藤原成通朝臣

戀の歌とてよめる

後の世と契りし人もなき物をしなばやとのみいふぞ儚き
427

攝政左大臣

いはぬまは下はふ芦の根を繁み隙なき戀を君志るらめや
428

白河女御越中

かたらひける人のかれ%\になりてうらめしかりけるにつかはしける

まちし夜のふけしを何と歎き劔思絶えても過しける身を
429

律師實源

戀の心を人々よみけるによめる

命をしかけて契りし中なればたゆるはしぬる心地社すれ
430

皇后宮美濃

かきたえて程はへぬるを笹蟹の今は心にかゝらずもがな
431

攝政左大臣

旅宿戀を

みせばやな君しのびねの草枕玉ぬきかくる旅のけしきを
432

皇后宮肥後

堀河院の御時艷書合によめる

思ひやれとはで日をふる五月雨に獨やどもるそでの雫を
433

美濃

皇后宮にて人々戀の歌つかうまつりけるに被返書戀といへる事を

こふれども人の心のとけぬにはむすばれながら歸る玉章
434

攝政左大臣

人々に戀の歌よませ侍りけるに人にかはりて

心ざし淺ぢが末におく露のたまさかにとふひとは頼まじ
435

藤原爲忠

寄三日月戀をよめる

宵のまに仄かに人をみか月のあかで入りにし影ぞ戀しき
436

よみ人志らず

忍戀をよめる

忍ぶれどかひも渚のあま小舟浪のかけてもいまは恨みじ
437

三宮大進

雲居寺の歌合に人にかはりて戀の心をよめる

なぞもかく身にかふ計思ふらむ逢見む事も人のためかは
438

攝政左大臣

寄花戀

あだなりし人の心に較ぶれば花もときはの物とこそみれ
439

修理大夫顯季

百首の歌の中に戀の心をよめる

わが戀は烏ばにかく言の葉のうつらぬ程はしる人もなし
440

源雅光

攝政左大臣の家にて戀のこゝをよめる

あやにくに焦るゝ胸もある物をいかに乾かぬ袂なるらむ
441

大中臣公長朝臣

寄山戀といへる事をよめる

戀侘びて思ひ入るさの山の端にいづる月日の積りぬる哉
442

藤原公教

つれなかりける人のもとにあふよしの夢を見てつかはしける

轉寐にあふと見つるは現にてつらきを夢と思はましかば
443

源雅光

攝政左大臣の家にて寄花戀といへる事をよめる

吹く風にたへぬ梢の花よりもとゞめがたきは涙なりけり
444

源俊頼朝臣

權中納言俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるに來不留戀といへる事をよめる

おもひ草葉末に結ぶ白露のたま/\きては手にも溜らず
445

春宮大夫公實

女を恨みて遣はしける

芦根はふ水の上とぞ思ひしを憂はわが身にありける物を
446

橘俊宗女

重服になりたる人の立ちながらまうでこむと申しければつかはしける

立ち乍きたりとあはじ藤衣ぬぎ捨てられむ身ぞと思へば
447

前中宮上總

戀の心を人にかはりてよめる

石走る瀧の水上はやくより音にきゝつゝこひわたるかな
448

皇后宮女別當

たのめおく言の葉だにもなき物を何にかゝれる露の命ぞ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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