金葉和歌集

Kin'yō wakashū

作者複数 Various

金葉和歌集卷第八
戀歌下

449

良暹法師

始めたる戀のこゝろをよめる

かすめては思ふ心をしるやとて春の空にも任せつるかな
450

藤原範永朝臣

公任卿の家にて紅葉、海の橋立、戀と三つの題を人によませ侍りけるにおそくまかりて人々みなかきけるほどなりければ三つの題を一つによめるうた

こひわたる人にみせばや松の葉も下もみぢする天の橋立
451

源師俊朝臣

後朝戀の心をよめる

東雲の明けゆく空も歸るさは涙にくるゝ物にぞありける
452

内大臣

月増戀といへる事をよめる

いとゞしく面影にたつ今宵哉月見よとしも契らざりしを
453

藤原顯輔朝臣

戀の心を

戀侘びてねぬ夜積れば敷妙のさへこそうとくなりけれ
454

藤原仲實朝臣

鳥羽殿の歌合にこひの心をよめる

夜と共に袖のかわかぬ我が戀やとしまが磯によする白浪
455

中納言雅定

晩のこひといへる事をよめる

逢事を今宵と思はゞ夕づく日いる山のはも嬉しからまし
456

右兵衛督伊通

戀の心をよめる

山の井の岩もる水に影みれば淺ましげにもなりにける哉
457

太宰大貳長實

皇后宮にて人々こひの歌つかうまつりけるによめる

陸奧の思ひしのぶにありながら心にかゝるあふの松ばら
458

皇后宮權大夫師時

戀の心をよめる

人しれぬ戀をしすまの浦人は泣き潮垂れて過すなりけり
459

權僧正永縁

奈良の人々百首の歌よみけるに恨の心をよめる

思はむと頼めし人の昔にもあらずなるみの恨めしきかな
460

隆源法師

戀の歌とてよめる

くるゝまも定めなき世に逢事をいつ共志らで戀ひ渡る哉
461

前中宮越後

藏人家時かれ%\になりけるを恨みていひ遣はしける

人心あさ澤水のね芹こそかるばかりにもつまゝほしけれ
462

修理大夫顯季

俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるにたち聞きて戀ふといへる事をよめる

わぎも子が聲たちきゝし唐衣その夜の露に袖はぬれけり
463

讀人志らず

我をばかれ%\になりてこと人の許へまかると聞きてつかはしける

ことわりや思ひくらぶのやま櫻匂まされる花をめづるも
464

周防内侍

郁芳門院の根合に戀のこゝろをよめる

戀ひわびて眺むる空の浮雲や我が志たもえの烟なるらむ
465

前齋宮河内

人をうらみて五月五日につかはしける

逢事のひさしにふける菖蒲草唯かりそめの妻とこそ見れ
466

太宰大貳長實

戀の心をよめる

つらきをも憂をも志らぬ身の程に戀しさ爭で忘れざる覽
467

前中宮上總

題志らず

さきの世の契を志らで儚くも人をつらしと思ひけるかな
468

源俊頼朝臣

戀の歌よみける所にてよめる

忘草志げれる宿をきてみれば思の木よりおふるなりけり
469

讀人しらず

人をうらみて

今よりは思ひも出でじ恨めしといふも頼みのかゝる契は
470

左兵衞督實能

逢不遇戀をよめる

思ひきや逢見し夜はの嬉しさに後のつらさの勝るべしとは
471

讀人志らず

人をうらみける頃心地例ならずおぼえければよめる

あはず共なからむ世には思ひ出よ我ゆゑ命絶えし人かと
472

藤原永實

女のがり遣はしける

する墨も落つる涙に洗はれて戀しとだにもえ社かゝれね
473

中納言國信

家の歌合に初戀を

色みえぬ心ばかりは靜むれど涙はえこそ志のばざりけれ
474

讀人志らず

題志らず

逢事は夢計にてやみにしをさこそみしかと人にかたるな
475

大納言經信

芦垣の隙なくかゝるくものいの物むつかしく繁るわが戀
476

藤原忠隆

おさふれどあまる涙はもる山の歎きにおつる雫なりけり
477

橘俊宗女

なき名たちける頃月をみてよめる

如何にせむ歎の杜は茂けれど木の間の月の隱れなき世を
478

前齋院肥後

もの申しける人の久しう音もせざりければ遣はしける

芦ぶきのこや忘らるゝつまならむ久しく人の音信もせぬ
479

左兵衛督實能

戀の心をよめる

我戀の思ふ計の色にいでばいはでも人にみえましものを
480

春宮大夫公實

もろともに敦公をまちけるにさはる事ありていりにける後鳴きつやなどたづねけるを聞きてよめる

郭公雲居のよそになりしかば我ぞなごりの空に泣かれし
481

藤原成通朝臣

冬戀といへる事を

水の上にふる白雪の跡もなく消や志なまし人のつらさに
482

權僧正永縁

多聞といへる童をよびに遣はしたりけるに見えざりければ月のあかゝりける夜よめる

まつ人の大空わたる月ならばぬるゝ袂にかげはみてまし
483

攝政左大臣

寄水鳥戀

あふ事も渚にあさる蘆鴨のうきねをなくと人志るらめや
484

盛經母

人を恨みてよめる

さのみやは我身の憂に爲果てゝ人のつらきを恨みざるべき
485

源雅光

攝政左大臣の家にて戀の心をよめる

名に立るあはでの浦の蜑だにもみるめは潜く物と社きけ
486

前齋宮甲斐

うらめしき人のあるにつけて昔思ひ出でらるゝ事ありて

今人の心をみわの山にてぞすぎにしかたは思ひ志らるゝ
487

橘俊宗女

忘れたる人のおもひ出でゝ音づれたるによめる

めづらしや岩間に淀む忘水いく世をすぎて思ひいづらむ
488

左京大夫經忠

皇后宮にて山里戀といへる事をよめる

山里の思ひかけぢにつらゝゐてとくる心のかたげなる哉
489

讀人志らず

山の歌合にこひの心をよめる

たまかさに逢ふ夜は夢の心地して戀しもなどか現なる覽
490

中原章經

いかでかと思ふ人のさもあらぬさきにさぞなど人の申しければよめる

こひわぶる君にあふてふ言の葉は僞さへぞ嬉しかりける
491

前中納言資仲

伊賀少將がもとへつかはしける

よもの海の浦々毎にあされ共怪しやみえぬいけるかひ哉
492

伊賀少將

かへし

邂逅に浪の立寄る浦々はなにのみるめのかひかあるべき
493

源親房

忍戀の心をよめる

物をこそしのべばいはぬ岩代の森にのみもるわが涙かな
494

橘俊宗女

ものおもひ侍りけるころ月のあかゝりける夜あかざりし面影つねよりもたへがたくてよめる

つれ%\と思ぞ出づるみし人をあはで幾月詠めしつらむ
495

上總侍從

題志らず

あさましや涙の浮ぶわが身かな心かろくは思はざりしを
496

源縁法師

ものへまかりける道にはした物のあひたりけるをとはせ侍りければ上東門院に侍るすまひこそとなむ申すといひけるを聞きていひ遣しける

名聞くより兼ても移る心哉いかにしてかはあふべかる覽
497

民部卿忠教

戀の心をよめる

こひわびてたえぬ思の煙もやむなしき空の雲となるらむ
498

大納言經信

女のもとへ遣はしける

逢事はいつともなくて哀れわがしらぬ命に年をふるかな
499

藤原顯綱朝臣

ある所にて女房のながき髮を打ちいだして見せければよめる

人しれず思ふ心を叶へなむかみ顯はれて見えぬとならば
500

中納言俊忠

堀河院の御時艷書合によめる

人しれぬ思ありその浦風に浪のよるこそいかまほしけれ
501

一宮紀伊

かへし

音にきく高師の浦の仇波はかけじや袖のぬれもこそすれ
502

攝政家堀川

くれには必とたのめたりける人のはつかの月出づるまで見えざりければよめる

契りおきし人も梢の木間よりたのめぬ月の影ぞもりくる
503

江侍從

心かはりたる人のもとへ遣はしける

目のまへにかはる心を涙河ながれてやとも思ひけるかな
504

源兼昌

國信卿の家の歌合に初戀の心をよめる

けふ社は岩瀬の杜の下紅葉色に出づれば散りもしぬらめ
505

出羽辨

雪の朝に出羽辨がもとよりかへり侍りけるにこれよりおくりて侍りける

送りては歸れと思ひし魂の行きさすらひてけさはなき哉
506

大納言經信

かへし

冬の夜の雪げの空にいでしかど影より外に送りやはせし
507

前齋院六條

住みかをしらせぬ戀といへる事をよめる

行方なくかき籠るにぞひき繭のいとふ心の程はしらるゝ
508

讀人志らず

よにあらむ限はわすれじと契りたりける人の久しう音もせざりければよめる

人はいざありもやす覽忘られて問れぬ身社なき心地すれ
509

源俊頼朝臣

寄關戀をよめる

勿來といふ事をば君が言草を關の名ぞとも思ひけるかな
510

讀人志らず

としごろもの申しける人のたえて音づれざりければつかはしける

はやくよりあさき心を見てしかば思ひたえにき山川の水
511

題志らず

もらさばや細谷川のうもれ水かげだに見えぬ戀に沈むと
512

男の今日は方たがへにものへまかるといはせ侍りければ遣はしける

君こそは一夜廻りの神ときけなにあふ事の方たがふらむ
513

藤原顯輔朝臣

後朝戀の心を

梓弓かへるあしたの思には引きくらぶべき事のなきかな
514

皇后宮少將

人のもとよりせめて袖ぬらす樣をみせばやなゝどいはせたりければよめる

恨むともみるめもあらじ物ゆゑに何かは蜑の袖濡すらむ
515

修理大夫顯季

旅宿戀といへることをよめる

戀しさをいもしるらめや旅ねして山の雫に袖ぬらすとは
516

一宮紀伊

人の夕方まうでこむと申したりければよめる

恨むなよ影みえ難き夕月夜おぼろげならぬ雲間まつ身ぞ
517

藤原永實

くら人にて侍りける頃内をわりなく出でゝ女のもとにまかりてよめる

三日月の朧げならぬ戀しさにわれてぞ出づる雲の上より
518

源信宗朝臣

周防内侍したしくなりて後ゆめ/\この事もらすなゝど申しければよめる

逢はぬ夜は睡ろむ程のあらば社夢にもみきと人に語らめ
519

左京大夫經忠

なき名たつといへる事をよめる

人志れぬなき名はたてど唐衣かさねぬ袖はなほぞ露けき
520

大中臣輔弘女

人をうらみてよめる

味氣なく過ぐる月日ぞ恨めしき逢見し程を隔つと思へば
521

僧都公圓

三井寺にて人々戀の歌詠けるに詠る

つらしとも思はむ人は思はなむ我なれば社身をば恨むれ
522

讀人志らず

かたらひける女のもとにまからむなど申しけれどさはる事ありてまからざりければ五月雨のころおくりて侍りける

梅雨の空頼めのみ隙なくて忘らるゝ名ぞ世にふりぬべき
522a

左兵衞督實能

返し

忘られむ名はよにふらじ梅雨も爭でか暫し小休ざるべし
523

讀人志らず

題志らず

あま雲のかへしの風の音せぬは思はれじとの心なるべし
524

足曳の山のまに/\倒れたるからきは獨ふせるなりけり
525

津の國のまろやは人を芥河君こそつらきせゞはみえしか
526

あふみてふ名は高島に聞ゆれどいづらはこゝに栗本の里
527

笠とりの山によをふる身にしあれば炭燒きもをる我心哉
528

み熊野に駒の躓く青つゞら君こそまろがほだしなりけれ
529

こりつむる歎をいかにせよとてか君に逢期の一節もなき
530

逢期なき物と志る/\何にかは歎を山とこりはつむらむ
531

うとましや木の下蔭の忘れ水いくらの人の影をみつらむ
532

謀るめる言のよきのみ多けれど空歎をばこるにやある覽
533

逢事の今は形見のめをあらみもりて流れむ名こそ惜けれ
534

逢事は片ねぶりなるいそ額ひねりふす共かひやなからむ
535

近江にかありといふなる餉山君は越えけり人とねくさし
536

逢事の交野に今は成ぬれば思ふがりのみゆくにや有る覽
537

逢事はながめふる屋の板廂さすがにかけて年のへぬらむ
538

かしがまし山の下行くさゞれ水あなかま我も思ふ心あり
539

盗人といふもことわりさ夜中に君が心をとりにきたれば
540

はな漆こやぬる人のなかりけるあなはらぐろの君が心や
541

前齋院六條

寄石戀といへる事をよめる

あふ事をとふ石神のつれなきにわが心のみ動きぬるかな
542

源雅光

攝政左大臣の家にて戀の心を詠る

數ならぬ身をうぢ川のはし/\といはれ乍も戀渡るかな
543

修理大夫顯季

戀の歌十首人々よみけるに來不留といふ事をよめる

玉津島きしうつ浪の立ち歸りせないでましぬ名殘久しも
544

春宮大夫公實

戀の歌とてよめる

逢事は舟人よわみこぐ舟のみをさかのぼる心地こそすれ
545

顯仲卿母

心からつきなき戀をせざりせば逢はで闇には惑ざらまし
546

内大臣家小大進

斯ばかり戀の病は重けれどめにかけさげてあはぬ君かな
547

源顯國朝臣

攝政左大臣の家にて、時々あへりといへる事をよめる

我戀は志づの志げ糸すぢよわみ絶間は多く來るは少なし
548

源俊頼朝臣

戀の歌人々よみけるによめる

淺ましやこは何事の樣ぞとよ戀せよとても生れざりけり
549

源行宗朝臣

寄夢戀をよめる

つらかりし心ならひに逢見てもなほ夢かとぞ疑はれける
550

源俊頼朝臣

俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるにおとしめてあはずといへる事をよめる

怪しきも嬉しかり鳬卑しむる其言の葉にかゝると思へば
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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