千載和歌集

Senzai wakashū

作者複数 Various

千載和歌集卷第十八
雜歌下

1157

短歌

源俊頼朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りける時述懷の歌とてよみてたてまつりける

もがみがは 瀬々の岩かど わきかへり 思ふこゝろは おほかれど 行く方もなく せかれつゝ 底のもくづと なることは 藻にすむ蟲の われからと 思ひしらずは なけれども いはではえ社 なぎさなる かたわれ舟の うづもれて ひく人もなき なげきすと 浪のたち居に あふげども むなしき空は みどりにて 云ふ事もなき かなしさに 音をのみなけば からごろも 抑ふるそでも くちはてぬ なに事にかは あはれとも 思はむひとに あふみなる 打出での濱の うちいでゝ いふとも誰か さゝがにの いか樣にても かきつかむ ことを軒端に ふくかぜの はげしき頃と 志りながら うはの空にも をしふべき あづさの杣に みや木ひき 御垣がはらに せりつみし 昔をよそに きゝしかど 我が身の上に なりはてぬ 流石に御代の はじめより 雲のうへには かよへども なにはのことも ひさかたの 月のかつらし をられねば うけらが花の さきながら 開けぬことの いぶせさに よもの山邊に あくがれて 此面かのもに たちまじり うつぶし染の あさごろも 花のたもとに ぬぎかへて 後の世をだに と思へども 思ふひと%\ ほだしにてゆくべき方も まどはれぬ 斯る憂き身の つれもなく 經にける年を かぞふれば いつゝの十に なりにけり いまゆく末は いなづまの 光の間にも さだめなし たとへば獨 ながらへて 過ぎにし計り すぐすとも 夢にゆめ見る こゝちして ひまゆく駒に ことならじ 更にもいはじ ふゆがれの 尾花がすゑの つゆなれば 嵐をだにも またずして 本のしづくと なりはてむ 程をばいつと 知りてかは 暮にとだにも たのむべき かくのみ常に あらそひて なほふる里に すみの江の 汐にたゞよふ うつせがひ 現しごゝろも うせはてゝ あるにも非ぬ 世のなかに また何ごとを みくま野の うらの濱木綿 かさねつゝ 憂に堪へたる ためしには なる尾の松の つれ%\と いたづら事を かきつめて 哀れ志られむ ゆくすゑの 人のためには おのづから 忍ばれぬべき 身なれども はかなきことも くもとりの あやに叶はぬ くせなれば 是もさこそは 實なしぐり くち葉が下に うづもれめ 其につけても 津のくにの 生田のもりの いくたびか 海士のたく繩 くりかへし 心にそはぬ 身を怨むらむ
1158

反歌

世中はうき身にそへる影なれや思ひすつれど離れざり鳬
1159

崇徳院御製

百首の歌めしける時よませ給うける

志きしまや やまとの歌の つたはりを きけば遙かに ひさかたの あまつ神代に はじまりて 三十文字餘り ひと文字は 出雲のみやの 八くもより 起りけりとぞ 志るすなる それより後は もゝくさの 言の葉しげく ちり%\に 風につけつゝ きこゆれど 近きためしに ほりかはの 流れをくみて さゞなみの 寄り來る人に あつらへて つたなきことは はま千どり 跡をすゑまで とゞめじと 思ひながらも 津のくにの 難波のうらの なにとなく 舟のさすがに このことを 忍びならひし なごりにて 世の人聞きは はづかしの もりをやせむと おもへども 心にもあらず かき連ねつる
1160

待賢門院堀川

おなじ百首の歌奉りける時の長歌

とき志らぬ 谷のうもれ木 くちはてゝ むかしの春の こひしさに 何のあやめも わかずのみ 變らぬつきの かげ見ても 時雨にぬるゝ 袖のうらに 潮たれまさる あまごろも 哀をかけて とふひとも 波にたゞよふ つりぶねの 漕ぎ離れにし 世なれども 君にこゝろを かけしより 繁きうれへも わすれぐさ 忘れがほにて すみの江の 松のちとせの はる%\と こずゑ遙かに さかゆべき ときはの陰を たのむにも なぐさの濱の なぐさみて 布留の社の そのかみに 色ふかゝらで わすれにし もみぢの下葉 のこるやと 老曾のもりに たづぬれど 今はあらしに たぐひつゝ 霜枯れ%\に おとろへて かき集めたる みづぐきに 淺きこゝろの かくれなく 流れての名を をしどりの 憂き例にや ならむとすらむ
1161

旋頭歌

源仲正

下つふさのかみに罷れりけるを任果てゝ上りたりける比、源俊頼朝臣に遣はしける

東路のやへの霞をわけきても君にあはねば尚[1]へだてたるむこゝち12こそすれ
1162

源俊頼朝臣

かへし

かきたえしまゝのつぎ橋ふみ見れば隔てたる霞もはれてむかえるがごと
1163

左京大夫顯輔

百首の歌奉りける時旅の心をよめる

東路の野島が崎のはま風にわがひも結ひしいもが顏のみおもかげに見ゆ
1164

折句歌

源雅重朝臣

二條院の御時こいたじきといふ五字を句の上におきて旅の心を

駒なべていざ見にゆかむ立田川白浪よする岸のあたりを
1165

仁上法師

なもあみだの五字をかみにおきて旅の心をよめる

何となくものぞ悲しき秋風のみに志む夜半の旅の寐覺は
1166

物名

和泉式部

さみだれをよめる

夜のほどに假初人や來りけむ淀の水薦のけさみだれたる
1167

中納言定頼

すたれかは

跡たへてとふべき人も思ほえず誰かは今朝の雪を分く覽
1168

大貳三位

かきのから

榊葉はもみぢもせじをかみがきのから紅に見え渡るかな
1169

二條太皇太后宮肥後

ふり鼓

池もふり堤崩れて水もなしうべ勝間田にとりもゐざらむ
1170

源俊頼朝臣

かるかや

我駒を暫しと借るかやま城のこはだの里にありと答へよ
1171

まゝきの箭たて

御倉やま槇の屋たてゝ住む民は年をつむ共朽じとぞ思ふ
1172

からかみのかたき

よと共に心をかけてたのめども我からかみのかたき印か
1173

刑部卿頼輔母

とりはゝき

秋の野に誰を誘はむゆき歸り獨りは萩を見るかひもなし
1174

待賢門院堀川

百首の歌奉りける時のかくし題の歌、きり%\す

秋は霧霧すぎぬれば雪降りてはるゝまもなき深山邊の里
1175

僧都有慶

みづのみ

稻荷やま印の杉の年ふりてみつのみやしろ神さびにけり
1176

登蓮法師

笠置のいはや

名にし負はゞ常はゆるぎの森にしも爭でか鷺のいはやすくぬる
1177

誹諧歌

道命法師

花のもとによりふしてよみ侍りける

怪くも花のあたりにふせる哉をらば咎むる人やあるとて
1178

源俊頼朝臣

卯花をよめる

卯花よいで事々しかけ島のなみもさこそは岩をこえしか
1179

道因法師

五月五日菖蒲をよめる

けふかくる袂に根ざせ菖蒲草憂は我身にありと志らずや
1180

橘俊綱朝臣

ともしをよめる

燈志て箱根の山に明けに鳬ふたよりみより逢ふとせしまに
1181

江侍從

みな月の晦日がたはたおりの鳴くをきゝてよめる

夏の内ははた隱れても非ずしており立ちにける虫の聲哉
1182

輔仁親王

題志らず

秋來れば秋の景色も見えけるを時ならぬ身と何にいふ覽
1183

藤原爲頼朝臣

萩の露の玉と見ゆるとてをりけれども露もなかりければよめる

朝露を日たけて見れば跡もなし萩の上葉に物やとはまし
1184

花薗左大臣家小大進

崇徳院に百首の歌奉りける時秋の歌とてよめる

つ花生ひし小野の芝生の朝露を貫散しける玉かとぞみる
1185

僧都範玄

野花をみて道にとゞまるといへる心をよめる

おちにきと語らばかたれ女郎花こよひは花の陰に宿らむ
1186

賀茂まさひら

九月十三夜によめる

暮の秋殊にさやけき月影は十夜に餘りてみよとなりけり
1187

顯昭法師

隔我聞他戀といへる心をよめる

板廂さすやかや屋の時雨こそおとし音せぬ方はわくなれ
1188

藤原基俊

堀川院の御時百首のうち戀の歌とてよめる

笛竹のあな淺ましの世中やありしやふしの限りなるらむ
1189

源俊頼朝臣

旅戀

慕ひくる戀の奴の旅にても身のくせなれや夕とゞろきは
1190

待賢院堀川

百首の歌奉りけるに戀の歌とてよめる

逢ふ事の歎の積る苦しさをおへかし人のこり果つるまで
1191

良喜法師

六波羅蜜寺の講の導師にて高座にのぼる程に聽聞の女房あしをつみ侍りければよめる

人の足をつむにて志りぬ我方へ文おこせよと思ふ成べし
1192

空人法師

山寺にこもりて侍りける時心ある文を女の志ば志ばつかはし侍りければよみて遣はしける

恐しや木曾の懸路の丸木橋ふみ見る度に落ちぬべきかな
1193

心覺法師

賀茂の社にこもりて侍りけるに政平つねに罷できて歌よみ笛吹きなどして遊びける、かたはらなるつぼねにこもりたる人をも志りてそなたへも罷りなどしけるが其人出でゝ後久しくまうでこざりければ遣はしける

笛竹のこちくとなにゝ思ひけむ隣に音はせしにぞ有ける
1194

道因法師

あづまのかたにまかりけるに八はしにてよめる

八橋の渡にけふもとまる哉爰に住むべき身かはと思へど
1195

安性法師俗名時元

女をかたらひ侍りけるを、いかにもあるまじき事なり、思ひたえねといひ侍りければよめる

つらしとてさてはよもわれやま烏頭は白くなる世也とも
1196

源俊頼朝臣

あみだの小呪の文字を歌のかみにおきて十首よみ侍りけるにおくにかき侍りける

かみに置る文字は誠のもじなれば歌も闇路を助ざらめや
1197

赤染衛門

山寺に罷でたりける時貝吹きけるを聞きてよめる

けふも亦午の貝こそふきつなれ未のあゆみ近づきぬらむ
1198

空也上人

題志らず

極樂ははるけき程ときゝしかど勤めていたる所なりけり
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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