千載和歌集

Senzai wakashū

作者複数 Various

千載和歌集卷第十九
釋教歌

1199

前大納言公任

維摩經十喩此身は水の泡のごとしといへる心をよみ侍りける

爰に消え彼處に結ぶ水の泡の浮世にめぐる身に社有けれ
1200

うかべる雲のごとしといへる心を

定なき身は浮雲によそへつゝはては其にぞ成果てぬべき
1201

花山院御製

三身如來を觀ずる心をよませ給うける

世中はみな佛なりおしなべて何れの物とわくぞはかなき
1202

僧都源信

法花經藥草喩品の心をよみ侍りける

大空の雨はわきても注がねどうるふ草木は己がさま%\
1203

清少納言

菩提といふ寺に結縁の講しける時聽聞にまうでたりけるに人のもとよりとく歸りねといひたりければ遣はしける

求めてもかゝる蓮の露をおきてうき世に又は歸る物かは
1204

藤原國房

後冷泉院の御時皇后宮に一品經供養せられける時壽量品のこゝろをよめる

月影の常にすむなる山の端を隔つる雲のなからましかば
1205

堀川入道右大臣

寄月念極樂といへる心をよみ侍りける

いる月を見るとや人は思ふらむ心をかけて西にむかへば
1206

瞻西上人

天王寺にまゐりて舍利を拜みたてまつりてよみ侍りける

薪つき煙もすみていにゝけむこれや名殘と見るぞ悲しき
1207

藤原敦家朝臣

御たけにまうで侍りける精進の程金泥の法華經書き奉りて後御山に納めたてまつらむとて參り侍りける時思ふ心や侍りけむ、物に書き付けおきて侍りける

夢さめむその曉をまつほどのやみをもてらせのりの燈火

かくてまうで侍りて後御山にてなむ身まかりにける。其の後故郷にて此の歌は見出て侍りけるとなむ。

1208

前大僧正覺忠

三十三所の觀音をがみ奉らむとて所々まゐり侍りける時美濃の谷汲にて油の出づるを見てよみ侍りける

世をてらす佛の驗ありければまだ燈火も消えぬなりけり
1209

穴穗の觀音をみたてまつりて

みるまゝに涙ぞおつる限なき命にかはるすがたと思へば
1210

僧都覺雅

提婆品の心をよめる

千年まで結びし水も露ばかり我身のためと思ひやはせし
1211

前大僧正快修

陀羅尼品の受持法花名者福不可量何况擁護具足受持といふわたりを誦して持經者の結縁たのもしくや侍りけむ、よみ侍りける

嬉しくぞ名を保つだに仇ならぬ御法の花にみを結びける
1212

源俊頼朝臣

阿彌陀の十二光佛の御名をよみ侍りける中に智惠光佛の心をよめる

侘び人の心の中をよそながら志るやさとりの光なるらむ
1213

崇徳院御製

百首の歌めしける時、普門品、弘誓深如海の心をよませ給うける

誓をばちひろの海にたとふ也露もたのまば數に入りなむ
1214

前參議教長

おなじ百首のとき花嚴經の心をよめる

儚なくぞみよの佛と思ひける我が身一つにありと志らずて
1215

即身成佛の心を

照る月の心の水にすみぬればやがてこの身に光をぞます
1216

前大僧正覺忠

法華經信解品の心をよみ侍りける

歸りても入りぞ煩らふ眞木の戸を惑ひ出でにし心習ひに
1217

崇徳院御製

冬のころ後入道法親王高野にこもりて侍りけるに送り給うける

降雪は谷の戸ぼそを埋むとも三世の佛の日やてらすらむ
1218

仁和寺後入道法親王覺性

御返事

照すなる三世の佛の朝日にはふる雪よりもつみやきゆ覽
1219

式子内親王

百首の歌の中に法文の歌の中に普賢願の唯此願王不相捨離といへる心を

故郷をひとりわかるゝ夕にもおくるは月の影とこそきけ
1220

攝政前右大臣

百首の歌よませ侍りける時法文の歌に五智如來をよみ侍りけるに平等性智の心をよみ侍りける

人ごとに變るは夢のまどひにてさむれば同じ心なりけり
1221

宮内卿永範

維摩經十喩、此身如水中月といへるこゝろをよめる

すめば見ゆ濁ればかくる定めなき此身や水にやどる月影
1222

法印慈圓

比叡の山に堂衆學徒不和の事出で來りて學徒皆散りける時千日の山ごもりみちなむ事もちかくひじりの跡をたえむ事を歎きてかすかに山洞にとゞまりて侍りける程に冬にもなりにければ雪ふりたる朝に尊圓法師のもとに遣しける

いとゞしく昔の跡やたえなむと思ふもかなし今朝の白雪
1223

尊圓法師

かへし

君か名ぞ猶あらはれむ降る雪に昔の跡はうづもれぬとも
1224

左近中將良經

法花經弟子品、内秘菩薩行の心をよみ侍りける

獨のみくるしき海を渡るとや底をさとらぬ人は見るらむ
1225

藤原隆信朝臣

攝政前右大臣の家に百首の歌よませ侍りける時法文の歌の中に般若經の心をよめる

呉竹のむなしと解ける言の葉は三世の佛の母とこそきけ
1226

攝政家丹後

おなじ百首の時色即是空の心をよめる

空しきも色なる物と悟ればや春のみ空のみどりなるらむ
1227

前中納言師仲

法花經、我等長夜修習空法の心をよめる

長き夜も空しき物と志りぬれば早く明けぬる心地社すれ
1228

圓位法師

壽量品の心をよめる

鷲の山月を入りぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり
1229

神祗伯顯仲

瞻西上人の雲居寺の極樂堂に堀河右大臣まゐりて歌よみ侍りけるによめる

潔き池にかげこそうかびぬれ沈みやせむと思ふ我が身を
1230

寂超法師

大品經の[1]常啼井13の心をよめる

朽果つる袖にはいかゞ包まゝし空しと説る御法ならずば
1231

藤原資隆朝臣

維摩教十喩此身は夢の如しといへる心をよめる

見る程は夢もゆめとも志られねば現もいまは現と思はじ
1232

登蓮法師

驚かぬわが心こそうかりけれ儚き世をばゆめと見ながら
1233

寂蓮法師

高野にまゐりてよみ侍りける

あかつきを高野の山にまつほどや苔の志たにも有明の月
1234

式子内親王家中將

煩惱即菩提の心をよめる

思ひとく心ひとつになりぬれば氷も水もへだてざりけり
1235

前大納言時忠

觀音の誓を思ひてよみ侍りける

頼もしき誓は春にあらねども枯れにし枝も花ぞ咲きける
1236

藤原伊綱

法花經序品の心をよめる

春ごとに歎きしものを法の庭ちるが嬉しき花もありけり
1237

右京大夫季能

授記品の心をよめる

み草のみ茂き濁と見しか共偖も月すむ江にこそありけれ
1238

皇太后宮大夫俊成

法師品、漸見濕土泥決定知近水の心をよみ侍りける

武藏野の堀金の井もある物を嬉しくも水の近付きにけり
1239

顯昭法師

提婆品をよめる

谷水を結べばうつる影のみや千とせを送る友となりけむ
1240

法橋泰覺

勸持品をよめる

朽ちはてゝ危くみえしをばたゞの板田の橋も今渡るなり
1241

藤原敦仲

恨みけるけしきや空に見えつらむ姨捨山をてらす月かげ
1242

蓮上法師

神力品、如日月光明能除諸幽冥のこゝろをよめる

日のひかり月の影とぞ照しける暗き心のやみはれよとて
1243

皇太后宮大夫俊成

勸發品の心をよめる

更に又花ぞ降り志くわしの山法のむしろのくれがたの空
1244

中原有安

滿三七日巳乘六牙白象の心をよめる

待出でゝいかに嬉しく思ふらむ二十日餘りの山の端の月
1245

中原清重

雪朝聞法といふ心を

朝まだき御法の庭にふる雪は空より花のちるかとぞ見る
1246

惠章法師

山階寺の涅槃會の暮方に遮羅入滅の昔を思ひよみ侍りける

望月のくもがくれけむ古のあはれをけふの空に知るかな
1247

俊秀法師

涅槃經の如於鏡中見諸色像の心をよめる

清くすむ心のそこを鏡にてやがてぞうつる色もすがたも
1248

寂然法師

火盛久不燃といへる心をよめる

烟だにしばしたなびけ鳥邊山たち別れにし形見とも見む
1249

平康頼

阿彌陀經の心をよめる

鳥の音も浪の音にぞ通ふなる同じ御法をきけばなりけり
1250

藤原定長朝臣

天王寺の御幸の時、古寺忍昔といへる心をよめる

世を救ふ跡は昔に變らねどはじめたてけむ時をしぞ思ふ
1251

天台座主明雲

天王寺にまゐりて遺身舍利を禮してよめる

つねならぬ例は夜半の煙にて消えぬ名殘を見るぞ嬉しき
1252

律師永觀

往生講式かき侍りける時教化の歌よみ侍りける

皆人をわたさむと思ふ心こそ極樂にゆく志るべなりけれ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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