新勅撰和歌集

Shin Chokusen wakashū

作者複数 Various

新勅撰和歌集卷第十一
戀歌一

630

讀人志らず

題志らず

夢にだにまだみぬ人の戀しきは空に志めゆふ心ち社すれ
631

古はありもや志けむ今ぞ志るまだみぬ人をこふる物とは
632

かすが山朝居る雲のおぼつかな志らぬ人にも戀ひ渡る哉
633

あしわかの浦にきよする白浪の志らじな君は我思ふとも
634

石見がた恨ぞ深き沖津なみよする玉藻にうづもるゝ身は
635

難波江のこやに夜更て蜑のたく忍びにだにも逢由もがな
636

朝な/\蜑のさをさすうら深み及ばぬ戀も我はするかな
637

業平朝臣

女に遣しける

いへばえにいはねば胸に騷がれて心一つに歎くころかな
638

權中納言敦忠

始めて人に遣しける

くも居にて雲居に見ゆる鵲の橋をわたると夢にみしかな
639

讀人志らず

返し

夢ならばみゆるなるらむ鵲はこの世の人のこゆる橋かは
640

忠義公

下臈に侍りける時本院の侍從に遣しける

色に出でゝ今ぞ知らする人志れず思ひ侘びつる深き心を
641

中納言朝忠

中將に侍りける時おなじ女に遣しける

いはでのみ思ふ心を志る人はありやなしやと誰かとはまし
642

本院侍從

返し

知る人や空になからむおもふなる心のそこの心ならでは
643

太宰帥敦道親王

和泉式部に遣しける

打ち出でも有りにし物を中々に苦しきまでも歎くけふ哉
644

和泉式部

返し

けふのまの心にかへて思やれ詠めつゝのみすぐす月日を
645

藤原高光

人のむすめと物語し侍りけるを女のおや聞きつけて諸共にゐあかし侍りにける旦に遣しける

戀やせむ忘やしなむぬともなくねず共なくて明しつる哉
646

道信朝臣

題志らず

いつまでと我世中も志らなくにかねても物を思はする哉
647

相摸

いかでかは天津空にもかすむべき心のうちにはれぬ思を
648

藤原義孝

五節の頃舞姫のさし櫛をとりて返し遣はすとて

人志れぬ心ひとつに歎つゝつげのをぐしぞさす空もなき
649

太宰大貳高遠

五節の所に侍りける女いみじう見えぬと申しけるあしたに日かげにつけて遣はしける

日かげさす少女の姿みてしよりうはの空なる物を社思へ
650

躬恒

題志らず

山陰に作るわさ田のみ隱れてほに出ぬ戀に身をや盡さむ
651

業平朝臣

女に遣しける

袖ぬれて蜑の苅ほす渡つみのみるをあふにて止まむとやする
652

讀人志らず

返し

巖間より生るみるめしつれなくば潮ひ潮滿ちかひや有りなむ
653

小町

題志らず

湊入の玉つくりえにこぐ船の音こそたてね君をこふれど
654

みるめ苅る蜑の往來の湊路に勿來の關もわが据ゑなくに
655

讀人志らず

いとへども猶すみの江の浦にほす網のめ繁き戀もする哉
656

戀ひ渡る衣の袖は潮みちてみるめかづかぬ浪ぞたちける
657

權大納言公實

堀河院艷書の歌を人々にめして女房のもとに遣はして返歌をめしける時よみ侍りける

年ふれどいはでくちぬる埋木のおもふ心はふりぬ戀かな
658

康資王母

返し

ふかゝらじみなせの河の埋木は下の戀ぢに年ふりぬとも
659

神祇伯顯仲

戀十首よみ侍りけるに

戀の山志げきをざゝの露分けて入そむるよりぬるゝ袖哉
660

待賢門院堀河

久安の百首の歌奉りけるに

斯とだにいはぬに繁き亂芦のいかなる節に知せ初めまし
661

袖ぬるゝ山井の清水いかでかは人め漏さで影をみるべき
662

皇太后宮大夫俊成

ちらばちれいはせの杜の木枯に傳へやせまし思ふ言の葉
663

涙河袖のみわたにわきかへり行く方もなき物をこそ思へ
664

清輔朝臣

おのづから行合のわせを假初にみし人故やいねがてにせむ
665

我戀をいはで知する由もがな漏さばなべて世にも社しれ
666

權大納言宗家

二條院の御時戀の歌めしけるに

人目をば包むと思ふにせきかねて袖に餘るは涙なりけり
667

前大納言資賢

百首の歌よみ侍りけるに忍戀の心を

思ひやる方こそなけれおさふれど包む人めにあまる涙は
668

後法性寺入道前關白太政大臣

[9] 家に首の歌9よみ侍りけるに

紅の涙を袖にせきかねてけふぞおもひのいろにいでぬる
669

皇嘉門院別當

思河岩間によどむ水ぐきをかきながすにも袖はぬれける
670

宜秋門院丹後

袖の上の涙ぞ今はつらからぬ人にしらるゝ始めと思へば
671

皇太后宮大夫俊成

戀の歌よみ侍りけるに

みしめ引く卯月のいみをさす日より心にかゝる葵草かな
672

刑部卿頼輔歌合し侍りけるによみて遣しける忍戀の歌

いかにしてしるべなく共尋ねみむ忍ぶの山のおくの通路
673

西行法師

題志らず

東路や忍のさとにやすらひて勿來の關をこえぞわづらふ
674

正三位家隆

人しれず忍ぶの浦にやく鹽の我が名はまだき立つ煙かな
675

宜秋門院丹後

百首の歌奉りける戀の歌

いはぬまは心ひとつにさはがれて煙も浪も胸にこそたて
676

源師光

我心いかなる色に出でぬらむまだみぬ人を思ひそめつゝ
677

權中納言定家

松が根をいそべの浪の打つたへに顯れぬべき袖の上かな
678

前中納言匡房

堀河院に百首の歌奉りける時忍戀

春くれば雪の下草したにのみ萠出づる戀を知る人ぞなき
679

藤原仲實朝臣

逢事のかた野のをのゝしの薄ほに出ぬ戀は苦しかりけり
680

基俊

浪まより明石の浦に漕く船のほには出ずも戀ひ渡るかな
681

清輔朝臣

久安百首の歌奉りけるに、戀の歌

年ふれどしるしも見えぬ我戀や常磐の山の時雨なるらむ
682

大納言通具

題志らず

人しれず思ひそめつゝ知らせばや秋の木の葉の露計だに
683

寂蓮法師

紅の千しほもあかず三室山いろに出づべき言の葉もがな
684

參議雅經

まさきちる山の霰の玉かづらかけし心やいろに出づらむ
685

右衛門督爲家

奧山の日蔭の露の玉かづら人こそしらねかけてこふれど
686

御製

うへのをのこども未見戀といへる心をつかうまつりける次でに

山の端を分出づる月のはつかにも見て社人は人を戀ふなれ
687

大納言實家

戀の歌よみ侍りけるに

踏みそむる戀路の末にあるものは人の心の岩木なりけり
688

正三位經家

筑波山端山しげやま尋ねみむ戀にまされる歎きありやと
689

入道前太政大臣

入道二品親王の家の五十首の歌よみ侍りけるに寄烟戀

富士の根の空にや今はまがへまし我身にけたぬ空し煙を
690

前關白

百首の歌よみ侍りけるに、忍戀

我戀のもえて空にも紛ひなばふじの烟といづれたかけむ
691

關白左大臣

わが戀は涙を袖にせきとめて枕のほかにしるひともなし
692

八條院六條

題志らず

わが床の枕もいかに思ふらむ涙かゝらぬ夜半しなければ
693

二條院讃岐

千五百番歌合に

蛙なく神なび河に咲く花のいはぬいろをも人のとへかし
694

殷富門院大輔

戀の歌よみ侍りけるに

打ち忍び落つる涙の白玉のもれこぼれても散りぬべき哉
695

權大納言家良

忍びかね涙の玉の緒をたえて戀のみだれぞ袖にみえ行く
696

正三位家隆

前關白の家の歌合に寄絲戀

誰が爲に人のかた糸より懸て我玉のをの絶えむとすらむ
697

後京極攝政前太政大臣

家の歌合に

芳野川はやき流をせく岩のつれなき中に身をくだくらむ
698

藤原頼氏朝臣

戀の歌あまたよみ侍りけるに

つれなさの例はありと吉野川いはとがしはをあらふ白浪
699

藤原盛方朝臣

前參議經盛歌合し侍りけるに

隅田河せぎりに結ぶ水の泡のあはれ何しに思ひそめけむ
700

法性寺入道前關白家三河

左京大夫顯輔の家の歌合に

人志れず音をのみなけばころも河袖の柵せかぬ日ぞなき
701

源有房朝臣

平經正朝臣の歌合侍りけるに、戀の歌

涙河そでの柵かけとめてあはぬうき名をながさずもがな
702

道因法師

つらきにも憂にも落つる涙河いづれの方か淵瀬なるらむ
703

平重時

題志らず

こがれ行く思をけたぬ涙河いかなるなみの袖ぬらすらむ
704

如願法師

百首の歌奉りけるに、戀の歌

山河の石まの水のうすごほりわれのみ下にむせぶ頃かな
705

權大納言忠信

建保六年内裏の歌合に、戀の歌

卷向のあなしの河のかは風になびく玉藻の亂れてぞ思ふ
706

侍從具定母

題志らず

流れての名をさへ忍ぶ思川あはでも消えね瀬々のうたかた
707

正三位家隆

思川みをはや乍ら水の泡の消えてもあはむ浪のまもがな
708

權中納言長方

戀の心をよみ侍りける

落ちたぎつ早瀬の河も岩ふれて志ばしは淀む涙ともがな
709

皇太后宮大夫俊成

世とともに絶えずも落つる涙かな人は哀れもかけぬ袂に
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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