新勅撰和歌集

Shin Chokusen wakashū

作者複数 Various

新勅撰和歌集卷第十二
戀歌二

710

讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌

夏虫にあらぬ我身のつれもなく人を思ひにもゆる頃かな
711

夏草の志げき思はかやり火の下にのみこそもえ渡りけれ
712

年をへてもゆてふ富士の山よりも逢はぬ思は我ぞ勝れる
713

清愼公

下臈に侍りける時女に遣しける

誰にかは數多思もつけそめし君より又は知らずぞ有ける
714

伊勢

題志らず

山河の霞へだてゝ仄かにもみしばかりにや戀しかるらむ
715

み山木の陰の小草は我なれや露しげゝれど知る人もなき
716

謙徳公

女をみて遣しける

譬ふれば露も久しき世の中にいとかく物を思はずもがな
717

とばりあげの女王

返し

明るまも久してふなる露の世は假にも人を知じとぞ思ふ
718

東三條入道攝政太政大臣

神無月のついたちに女に遣しける

歎きつゝ返す衣の露けきにいとゞ空さへ時雨れそふらむ
719

本院侍從

題志らず

にはたづみ行方志らぬ物思にはかなき泡の消えぬべき哉
720

道信朝臣

年をへてもの思ふ人の唐衣袖やなみだのとまりなるらむ
721

讀人志らず

かた糸もてぬきたる玉の緒を弱み亂や志なむ人の知べく
722

戀侘びぬ蜑の刈藻に宿るてふ我から身をも碎きつるかな
723

筏おろす杣山河のみなれ棹さしてくれどもあはぬ君かな
724

宮木引く泉の杣に立つ民のやむ時もなく戀ひわたるかな
725

遠つ人かりぢの池にすむ鴦の立ても居ても君をしぞ思ふ
726

朝柏ぬるや河べの志のゝめの思ひてぬれば夢に見えつゝ
727

さを鹿の朝ふすをのゝ草若み隱ろへかねて人に志らるな
728

白山の雪のした草われなれや下にもえつゝ年のへぬらむ
729

廣河女王

戀草をちから車になゝくるまつみて戀ふらくわが心から
730

九條右大臣

富士の嶺に烟たえずと聞きしかど我が思ひには立後れ鳬
731

權中納言敦忠

無き名たち侍りける女に遣しける

鹽たるゝ海士の濡衣同じ名を思ひかへさできる由もがな
732

右近大將道綱

つれなかりける女に遣しける

さ衣のつまも結ばぬ玉緒の絶えみ絶えずみ世をや盡さむ
733

讀人志らず

題志らず

相坂の名をば頼みてこしか共隔つる關のつらくもある哉
734

君に逢はむ其日をいつと松の木の苔の亂れて物をこそ思へ
735

いかばかりもの思ふ時の涙河からくれなゐに袖の濡る覽
736

秋と契りて侍りけるにえ逢ふまじき故侍りければ業平朝臣に遣しける

秋かけて云し乍もあらなくに木葉降敷くえに社ありけれ
737

修理

兵部卿元良親王ふみ遣しける返しによみ侍りける

たがく共何にかはせむ呉竹の一夜二夜のあだのふしをば
738

堀河院中宮上總

堀河院、の女房の艷書をめしけるによみ侍りける

つらし共いさやいかゞは石清水逢瀬まだきにたゆる心は
739

大納言俊實

返し

世々ふともたえじとぞ思ふ神垣や岩ねをくゞる水の心は
740

大炊御門右大臣

久安百首の歌奉りける、戀の歌

手に取てゆらぐ玉の緒絶えざりし人計だに[10]逢見てしが10
741

左京大夫顯輔

年ふともなほ岩代の結び松とけぬものゆゑ人もこそ知れ
742

權中納言國信

堀河院に百首の歌奉りける時

くりかへし天てる神の宮柱たてかふるまで逢はぬ君かな
743

藤原爲忠朝臣

戀の歌よみ侍りけるに

住吉の千木のかたそぎ我なれや逢はぬ物故年をへぬらむ
744

入道前太政大臣

建仁元年八月歌合に、久戀

待ちわびて三年も過ぐる床の上に猶かはらぬは涙なり鳬
745

御製

うへのをのこども忍久戀といへる心をつかうまつりける次でに

よそにのみ思ひふりにし年月の空しき數ぞ積るかひなき
746

權中納言定家

建保五年四月庚申久戀といへる心をよみ侍りける

戀死なぬ身のをこたりぞ年へぬるあらば逢夜の心強さよ
747

參議雅經

つれなしと誰をかいはむ高砂の松もいとふも年は經に鳬
748

源有長朝臣

建保三年内大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに名所戀といへる心をよめる

高砂の尾上にみゆる松のはの我もつれなく人を戀ひつゝ
749

源家長朝臣

庚申久戀歌

いたづらにいく年波の越えぬらむ頼めかおきし末の松山
750

如願法師

あだにみし人の心のゆふ襷さのみはいかゞかけて頼まむ
751

殷富門院大輔

題志らず

逢見てもさらぬ別のある物をつれなしとても何歎くらむ
752

崇徳院御製

百首の歌めしける時

愚にぞ言の葉ならばなりぬべき云でや君に袖をみせまし
753

さきの世の契ありけむと計も身をかへて社人に知られめ
754

權大納言隆季

相坂のせきの關守こゝろあれや岩間の清水影をだにみむ
755

典侍因子

前關白の家の歌合に寄鳥戀といへる心をよみ侍りける

よそにのみゆふつけ鳥の音をぞ鳴く其名も知らぬ關の往來に
756

殷富門院大輔

戀の歌よみ侍りけるに

また越えぬ相坂山の石清水むすばぬ袖を志ぼるものかは
757

中宮少將

いかにせむ戀路のすゑに關すゑてゆけども遠き相坂の山
758

祝部成茂

逢坂の山は往來の道なれどゆるさぬ關はそのかひもなし
759

勝命法師

賀茂重保社頭にて歌合し侍りけるに戀の心をよめる

戀路にはたが据ゑ置きし關なれば思ふ心を徹さゞるらむ
760

藤原伊經朝臣

戀路にはまづ先に立つ我涙思ひかへらむ志るべともなれ
761

權中納言長方

題志らず

伊勢の海をふの恨を重ねつゝ逢事なしの身をいかにせむ
762

寂蓮法師

をふの海の思はぬ浦にこす鹽のさてもあやなく立つ烟哉
763

參議雅經

入道二品親王の家の五十首の歌、寄烟戀

恨みじな難波のみつに立つ烟心からやくあまの藻しほ火
764

正三位知家

恨みてもわが身のかたにやく鹽の思ひは志るく立つ煙哉
765

源家長朝臣

關白左大臣の家の百首の歌、忍戀

志らせばや思ひ入江の玉がしは舟さす棹の下にこがると
766

藤原行能朝臣

戀の歌よみ侍りけるに

數ならぬ三島がくれにこぐ船の跡なきものは思なりけり
767

寂蓮法師

春霞たなゝし小船いり江こぐ音にのみ聞く人を戀ひつゝ
768

殷富門院大輔

憂かりけるよさの浦浪懸てのみ思ふにぬるゝ袖をみせばや
769

皇太后宮大夫俊成

崇徳院の御時うへのをのこども忍戀の歌つかうまつりけるに

わが戀は浪こすいその濱楸しづみ果つれど知る人もなし
770

權中納言國信

堀河院の御時殿上にて題を探りて十首の歌よみ侍りけるに鹽がまをよみ侍りける

恨むとも君は知じな須磨の浦にやく鹽がまの煙ならねば
771

後法性寺入道前關白太政大臣

家百首の歌よみ侍りけるに不遇戀の心を

我戀はあはでの浦のうつせ貝むなしくのみもぬるゝ袖哉
772

入道前太政大臣

百首の歌奉りける時、戀の歌

石見がた人の心は思ふにもよらぬ玉藻のみだれかねつゝ
773

高松院右衞門佐

後京極攝政の家に百首の歌よませ侍りけるに、戀の歌

磯菜つむ蜑の志るべを尋ねつゝ君をみるめにうく涙かな
774

藤原隆信朝臣

よと共にかわくまもなきわが袖や汐ひもわかぬ浪の下草
775

正三位家隆

題志らず

春の浪のいり江に迷ふ初草のはつかに見えし人ぞ戀しき
776

前大納言隆房

女に遣しける

人しれぬ憂身に志げき思草おもへば君ぞたねは蒔きける
777

左近中將公衡

女のゆかりを尋ねて遣しける

傳へてもいかに知らせむ同じ野の尾花が本の草の縁りに
778

前中納言國道

題を探りて歌よみ侍りけるに思草をよめる

下にのみいはでふる野の思草靡く尾花はほに出づれども
779

藤原頼氏朝臣

戀の心をよみ侍りける

さしも草もゆる伊吹の山のはのいつ共わかぬ心なりけり
780

關白左大臣

百首の歌よみ侍りけるに、不遇戀

いつまでかつれなき中の思草むすばぬ袖に露をかくべき
781

入道前太政大臣

百首の歌奉りける時、戀の歌

逢ふ迄と草を冬野に踏みからし往來の道の果を知らばや
782

參議雅經

み芳野のみくまが菅をかりにだにみぬ物からや思亂れむ
783

消えぬとも淺茅が上の露しあらば猶思ひ置く色や殘らむ
784

正三位知家

建保六年内裏の歌合、戀の歌

人目もるわが通路の志の薄いつとか待たむ秋のさかりを
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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