新勅撰和歌集

Shin Chokusen wakashū

作者複数 Various

新勅撰和歌集卷第十六
雜歌一

1025

選子内親王

春のはじめ鶯のおそく鳴き侍りければ

山ざとの花のにほひのいかなれや香を尋ねくる鶯のなき
1026

禎子内親王家攝津

題志らず

雪ふかきみ山の里にすむ人はかすむ空にや春を知るらむ
1027

式子内親王

雪きえてうら珍しき初草のはつかに野べも春めきにけり
1028

入道二品親王道助

若菜をよみ侍りける

かすが野にまだもえやらぬ若ぐさの煙みじかき荻の燒原
1029

前大僧正慈圓

武藏野の春の景色も知られけり垣根にめぐむ草の縁りに
1030

殷富門院大輔

題志らず

命ありて逢ひみむ事も定めなく思ひし春になりにける哉
1031

二條院讃岐

千五百番歌合に

咲かぬまは花とみよとやみ芳野の山の白雪消がてにする
1032

按察使隆衡

題志らず

霞志くわがふる里にさらぬだに昔の跡は見ゆるものかは
1033

權大納言家良

み芳野の山のかすむ春ごとに身はあら玉の年ぞふりゆく
1034

中宮少將

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに霞をよめる

さびしさの眞柴の煙そのまゝにかすみをたのむ春の山里
1035

土御門内大臣

壽永の頃ほひ梅花をよみ侍りける

九重にかはらぬ梅のはな見てぞいとゞ昔の春はこひしき
1036

源信定朝臣

前關白内大臣に侍りける時百首の歌よませ侍りけるに庭梅をよめる

宿からぞ梅の立枝もとはれける主人も知らず何匂ふらむ
1037

下野

題志らず

有明の月は涙にくもれどもみし夜に似たる梅が香ぞする
1038

行念法師

梅が香のたが里わかず匂ふ夜はぬし定らぬ春かぜぞ吹く
1039

侍從具定

百首の歌よみ侍りけるに春の歌

春の月かすめるそらの梅が香に契もおかぬ人ぞ待たるゝ
1040

承明門院小宰相

土御門院の歌合に春の月をよみ侍りける

大方の霞に月ぞくもるらむもの思ふ頃のながめならねど
1041

前大納言忠良

東山にこもりゐて後花を見て

思ひすてゝわが身ともなき心にも猶むかしなる山櫻かな
1042

入道前太政大臣

西園寺にて三十首の歌よみ侍りける春の歌

山櫻峯にもをにも植ゑおかむ見ぬよの春を人やしのぶと
1043

祝部成茂

古郷花といへる心をよみ侍りける

春をへて志賀の花ぞの匂はずば何を都のかたみならまし
1044

如願法師

題志らず

あだなりと何恨みけむ山櫻はなぞみしよの形見なりける
1045

前大納言光頼

世を遁れては室といふ山里に籠りゐて侍りけるに花みてよみ侍りける

いさや猶花にもそめじ我心さてもうき世に歸りもぞする
1046

藤原隆信朝臣

二條院の御時殿上のふだ除かれて侍りける頃臨時の祭の舞人にて南殿の花をみて内侍丹波がもとに遣しける

忘るなよなれし雲居の櫻花うき身は春のよそになるとも
1047

皇太后宮大夫俊成

世をのがれて後栖霞寺に詣でゝ歸り侍りけるに大内の花の梢さかりに見え侍りけるを忍びて窺ひ見侍りて頼政卿のもとに遣しける

古の雲居の花に戀ひかねて身をわすれてもみつる春かな
1048

從三位頼政

返し

雲居なる花も昔を思ひ出でば忘るらむ身を忘れしもせじ
1049

宋延法師

淨名院といふ所の主身まかりにける後花を見てよみ侍りける

うゑ置きて昔語りになりにけり人さへ惜しき花の色かな
1050

平重時

花を見てよみ侍りける

年ごとにみつゝふる木の櫻花わが世の後は誰かをしまむ
1051

源光行

身のうさを花に忘るゝ木のもとは春より後の慰めぞなき
1052

藤原頼氏朝臣

題志らず

志がらきのそま山櫻春毎にいく世宮木にもれて咲くらむ
1053

前大僧正慈圓

花の歌よみ侍りけるに

吉野山猶しも奥に花さかば又あくがるゝ身とやなりなむ
1054

入道前太政大臣

落花をよみ侍りける

花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆく物はわが身なりけり
1055

按察使兼宗

閑居花といへる心をよみ侍りける

いとゞしく花も雪とぞ古里の庭の苔路はあと絶えにけり
1056

侍從具定母

題志らず

めぐりあはむ我が兼ね言の命だに心にかなふ春の暮かは
1057

藤原信實朝臣

暮れて行く空を彌生の暫しとも春の別はいふかひもなし
1058

京極前關白家肥後

太皇太后宮大貳四月に咲きたる櫻を折りて遣し侍りければ

春はいかに契置てか過ぎにしと後れて匂ふ花にとはゞや
1059

藤原顯綱朝臣

四月祭の日葵に付けて女に遣しける

思ひきやそのかみ山の葵草かけてもよそにならむ物とは
1060

相模

題志らず

あと絶えて人もわけこぬ夏草のしげくも物を思ふ頃かな
1061

上東門院小少將

夕月夜をかしき程に水鷄の鳴き侍りければ

天の戸の月の通路さゝねどもいかなる浦にたゝく水鷄ぞ
1062

紫式部

返し

槇の戸もさゝでやすらふ月影に何をあかずも叩く水鷄ぞ
1063

右近大將道綱母

養ひ侍りけるむすめの五月五日くす玉奉らせ侍りけるに代りてよみ侍りける

隱沼におひそめにける菖蒲草深きした根にしる人もなし
1064

東三條院

御返し

菖蒲草ねに顯るゝ今日社はいつかと待ちしかひも有けれ
1065

權中納言定頼

思ふこと侍りける頃

五月雨の軒の雫にあらねども憂夜にふれば袖ぞぬれける
1066

藤原行能朝臣

五月雨をよみ侍りける

三島江の玉江の眞菰かりにだにとはで程ふる五月雨の空
1067

藤原親康

夏月をよめる

忘れては秋かと思ふ片岡のならの葉わけて出づる月かげ
1068

祝部成茂

初秋の心をよみ侍りける

吹く風に荻の上葉の答へずば秋たつ今日を誰かしらまし
1069

權少僧都良仙

世を厭ふ住處は人にしられねど荻の葉風は尋ねきにけり
1070

藤原信實朝臣

民部卿成實よませ侍りける荻風と云ふ心を

等閑のおとだにつらき荻の葉に夕をわきて秋かぜぞ吹く
1071

源季廣

題志らず

雁がねの聲せぬ野べをみてしがな心と萩の花はちるやと
1072

人志らず

實方朝臣承香殿のおまへの薄を結びて侍りける誰ならむとて女のよみ侍りける

秋風の心もしらず花ずゝきそらにむすべる人はたれぞも
1073

實方朝臣

殿上人返しせむなど申しける程に參りあひてよみ侍りける

風のまにたれ結びけむ花ずゝきうは葉の露も心おくらし
1074

按察使朝光于時右大將

圓融院御出家の後八月ばかりに廣澤にわたらせ給ひ侍りける御供に左右大將つかうまつり一つ車にて歸り侍りける

秋の夜を今はと歸る夕ぐれはなく虫の音ぞ悲しかりける
1075

左近大將濟時于時左大將

返し

虫の音に我涙さへおちそはゞ野原の露のいろやまさらむ
1076

菅原孝標女

後朱雀院の御時祐子内親王藤壺にかはらず住み侍りけるに月くまなき夜女房昔思ひいでゝながめ侍りける程梅壷の女御まうのぼり侍りけるおとなひをよそにきゝ侍りて

天の戸を雲居ながらもよそに見て昔の跡をこふる月かな
1077

仁和寺二品法親王守覺

五十首の歌よみ侍りける時

昔おもふ涙のそこにやどしてぞ月をば袖のものと知ぬる
1078

鎌倉右大臣

題志らず

あさぢ原ぬしなき宿の庭の面に哀いく夜の月かすみけむ
1079

思ひ出でゝ昔を忍ぶ袖の上にありしにあらぬ月ぞ宿れる
1080

入道前太政大臣

月前懷舊と云へる心をよみ侍りける

眺めつる身にだにかはる世中にいかで昔の月はすむらむ
1081

入道二品親王道助

家に五十首の歌よみ侍りける秋の歌

この里は竹の葉わけてもる月の昔の世々の影を戀ふらし
1082

權中納言定家

元暦の頃ほひ賀茂重保人々の歌すゝめ侍りて社頭歌合し侍りけるに月をよめる

忍べとやしらぬ昔の秋を經て同じかたみにのこる月かげ
1083

高辨上人

秋座禪の次でに夜もすがら月を見侍りて里わかぬ影も我身一つの心地し侍りければ

月影は何れの山とわかず共すますみねにや澄み増るらむ
1084

法印超清

後にこの歌を見せ侍りければよめる

いかばかり其夜の月の晴れにけむ君のみ山は雲も殘らず
1085

參議成頼

世を遁れて高野の山にすみ侍りける時よめる

高野山奥まで人のとびこずばしづかに峰の月はみてまし
1086

西行法師

題志らず

あらはさぬ我が心をぞうらむべき月やはうとき姨捨の山
1087

法印慶忠

身に積る老ともしらで詠めこし月さへ影の傾ぶきにけり
1088

正三位家隆

老いぬればことし計と思ひこし又秋の夜の月をみるかな
1089

源家長朝臣

忘れじのゆく末かたき世のなかに六十なれぬる袖の月影
1090

寂延法師

幾秋をなれても月のあかなくに殘り少なき身を恨みつゝ
1091

侍從具定母

はらひかね曇るもかなし空の月つもれば老のあきの涙に
1092

殷富門院大輔

今はとて見ざらむ秋の空までも思へば悲し夜半のつき影
1093

源光行

樂府を題にて歌よみ侍りけるに陵園妾の心を

閉ぢはつるみ山の奧の松の戸を羨ましくも出づる月かな
1094

素性法師

巫陽臺の心をよみ侍りける

わきてなど夕の雨となりにけむ待つだに遲き山のはの月
1095

法印道清

故郷月といへる心をよめる

高圓のをのへの宮の月の影たれ忍べとてかはらざるらむ
1096

如願法師

題志らず

此里はしぐれにけりな秋の色の顯はれそむる峯の紅葉ば
1097

藤原基綱

さほ山の柞の紅葉いたづらにうつろふ秋はものぞ悲しき
1098

行念法師

立田山紅葉の錦をりはへてなくといふ鳥の霜のゆふしで
1099

藤原永光

明年叙爵すべく侍りける秋うへのをのこども藤壺の紅葉見侍るにまかりてよみ侍りける

人はみな後の秋ともたのむらむ今日を別とちる紅葉かな
1100

建禮門院右京大夫

高倉院の御時藤壺の紅葉ゆかしき由申しける人にむすびたる紅葉を遣しける

吹く風も枝に長閑き御代なれば散らぬ紅葉の色を社みれ
1101

源有長朝臣

前關白内大臣に侍りける時家に百首の歌よみ侍りける暮秋の歌

紅葉ばのちりかひ曇る夕時雨いづれか道と秋のゆくらむ
1102

權大納言忠信

建保三年五月の歌合に曉時雨といへる心をよみ侍りける

曉と恨みし人はかれはてゝうたてしぐるゝあさぢふの宿
1103

高階家仲

むら雲はまだ過ぎはてぬ外山より時雨にきほふ有明の月
1104

源泰光朝臣

題志らず

かくてよに我身時雨はふりはてぬ老曾の杜の色も變らで
1105

相摸

冬の歌よみ侍りけるに

木葉ちる嵐のかぜの吹く頃は涙さへこそおちまさりけれ
2106

[14]14前大納言公任

歎く事侍りける頃紅葉の散るをみてよみ侍りける

紅葉にも雨にもそひてふるものは昔をこふる涙なりけり
1107

紫式部

冬の頃里に出でゝ大納言三位に遣しける

うき寐せし水の上のみ戀しくて鴨の上毛にさえぞ劣らぬ
1108

從三位廉子

うち拂ふ友なき頃の寐覺にはつがひし鴛ぞ夜はに戀しき
1109

相模

題志らず

冬の夜を羽根もかはさず明すらむ遠山鳥ぞよそに悲しき
1110

康資王母

六條右大臣小忌宰相にて出で侍りにける朝に遣しける

小忌衣かへらぬ物と思はゞや日かげの葛けふはくるとも
1111

六條右大臣

返し

歸りてぞ悔しかりける小忌衣その日影のみ忘れがたさよ
1112

中納言家持

新甞會をよみ侍りける

足引の山した日かげかつらなる上にやさらに梅を忍ばむ
1113

式子内親王

百首の歌に

あまつかぜ氷をわたる冬の夜の少女の袖をみがく月かげ
1114

讀人志らず

五節の頃權中納言定頼内にさぶらひけるに遣しける

日かげさす雲の上にはかけてだに思ひも出でじ古里の月
1115

左近中將公衡

歎くこと侍りてこもりゐて侍りける雪の朝皇太后宮大夫俊成のもとに遣しける

冬籠り跡かき絶えていとゞしく雪のうちにぞ薪つみける
1116

伊勢大輔

題志らず

忘られて年くれはつる冬草のかれ果てゝ人も尋ねざり鳬
1117

選子内親王家宰相

年の暮に琴をかき鳴らして空も春めきぬるにやと侍りければ

琴の音を春の調とひくからに霞みて見ゆる空めなるらむ
1118

選子内親王

返し

琴の音の春のしらべに聞ゆれば霞たなびく空かとぞ思ふ
1119

殷富門院大輔

題志らず

仄かにも軒端の梅の匂ふ哉となりをしめて春はきにけり
1120

法印覺寛

入道親王の家にて冬の花といふ心をよみ侍りける

今日よりや己が春べと白雪のふる年かけてさける梅が香
1121

寂延法師

年の暮の心をよみ侍りける

筏士のこす手に積る年浪の今日の暮をもしらぬわざかな
1122

行念法師

行く年をしらぬ命に任せてもあすをありとや春を待つ覽
1123

寂超法師

雪つもる山路の冬を數ふれば哀わが身のふりにけるかな
1124

相模

題志らず

數ふれば年の終になりにけり我身のはてぞいとも悲しき
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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