新後撰和歌集

Shin Gosen wakashū

作者複数 Various

新後撰和歌集卷第十二
戀歌二

858

法皇御製

弘安元年百首の歌召されし次でに

長らへばさても逢ふ世の頼みとて猶惜まるゝ我が命かな
859

前大納言爲氏

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

限ある命の程のつれなさも戀ひ死なぬにぞ思ひ知らるゝ
860

太上天皇

おなじ心を

こむ世には契り有りやと戀ひ死なむ逢ふを限の命惜まで
861

百首の歌めされしついでに

つれなさの限をせめて知りもせば命をかけて物は思はじ
862

衣笠内大臣

題志らず

戀ひ死なぬ身の難面さを歎にて逢見む迄は思ひ絶えにき
863

中務卿宗尊親王

あぢきなくいつまで物を思へとてうきに殘れる命なる覽
864

前中納言俊定

逢はでこそたゞ其儘に戀ひ死なめ中々後のつらさ思へば
865

院大納言典侍

有りて憂き命に換へて時のまも此世乍らのあふこともがな
866

藤原業尹朝臣

存へてつらき思はなからまし逢ふに命をかふる世ならば
867

藤原爲實朝臣

逢ふとみる程は現に變らぬを覺めて夢ぞと思はずもがな
868

右大臣

百首の歌奉りし時、不逢戀

是れも又たが僞の夢なれば通はぬなかもあふと見ゆらむ
869

今上御製

夢中逢戀といへる心を

現には逢ふよも知らずみる夢を儚しとては頼みこそせめ
870

靜仁法親王

戀の歌の中に

逢ふとみし夢の直路に關すゑてうちぬる隙もなき思かな
871

前中納言爲兼

逢ふことはたゞ思ひ寐の夢路にて現ゆるさぬよはの關守
872

左近大將道平

逢ふと見る我が思ひ寐の面影を覺めても頼むほどぞ儚き
873

伊豆盛繼

ぬるが内もいかに頼みて儚くも契らぬ中のゆめを待つ覽
874

法印長舜

面影の憂に變らで見えもせばいかにせむとか夢を待らむ
875

常磐井入道前太政大臣

建保六年内裏の歌合に、戀の歌

轉寐につれなく見えし面影を夢と志りても猶やうらみむ
876

前大納言基良

題志らず

いかにせむまどろむ程の夢にだにうしとみぬよの慰めもがな
877

從三位行能

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄衣戀

小夜衣返す志るしの慰めもねられし迄の夢にぞ有りける
878

大江廣茂

戀の歌の中に

思ひ寢の夜はの衣をかへしても慰むほどの夢をやはみる
879

皇太后宮大夫俊成女

名所の百首の歌奉りし時

歎きつゝ伏見の里のゆめにさへむなしき床をはらふ松風
880

前大納言資季

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄莚戀

岩が根のこりしく山の苔莚ぬるよもなしと歎くころかな
881

前參議雅有

題志らず

知らせばや人をうらみの戀衣泪かさねてひとりぬる夜を
882

讀人志らず

憂き物とわかれになして恨みばやつれなき中の有明の月
883

院御製

寄弓戀といへるこゝろを

憂き身にはつれなかりける梓弓いかなる方に心ひくらむ
884

前大納言爲氏

戀の歌の中に

よしさらば唯中々に強面かれうきに負けてや思ひ弱ると
885

光明峯寺入道前攝政左大臣

積れたゞあはで月日の重ならば暫し忘るゝ折も有りやと
886

前大納言隆房

よと共に我には物を思はせてさのみや人の志らず顏なる
887

平貞時朝臣

逢ふまでの知べぞ今はたどらるゝ心の通ふ道はあれども
888

信實朝臣

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

後はいさ逢ひみぬ先のつらさ社思ひ比ぶる方なかりけれ
889

讀人志らず

題志らず

初めて猶後は憂く共逢ひみてのつらさを歎く我身共がな
890

宮内卿經尹

今は唯色に出でゝや恨みまし憂身を知らぬ名にはたつ共
891

藤原爲實朝臣

いかにせむ泪の河の淺き瀬にあだ波かけてたつ名計りを
892

花山院内大臣

弘安元年百首の歌奉りし時

浮名をや猶立てそへむ錦木の千つかに餘る人のつらさに
893

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

無き名のみおほの浦梨徒らにならぬ戀する身社つらけれ
894

津守國冬

百首の歌奉りしとき、同じ心を

浦風のはげしき磯の松をみよつれなき色も靡きやはせぬ
895

左近中將師良

題志らず

かひなしやみるめばかりを契にて猶袖ぬるゝちかの浦波
896

衣笠内大臣

伊勢の海のをのゝ湊の自づから逢見る程の浪のまもがな
897

後鳥羽院御製

藻鹽燒く蜑の栲繩打ちはへて苦しとだにもいふ方ぞなき
898

少將内侍

寳治百首の歌奉りける時、寄衣戀

おのづから逢ふ夜もあらば須磨の蜑の鹽燒衣まどほなり共
899

平長時

戀の歌の中に

須磨の蜑の潮たれ衣浪かけてよるこそ袖も濡れ増りけれ
900

從三位範宗

名所の百首の歌奉りける時

三熊野の浦の濱ゆふいく代へぬ逢はぬ泪を袖にかさねて
901

小侍從

千五百番歌合に

浪たかき由良の湊を漕ぐ舟のしづめもあへぬわが心かな
902

藻壁門院少將

題志らず

寄るべなき棚無小舟朽もせでおなじ入江に身は焦れつゝ
903

西園寺入道前太政大臣

問はゞやなみぬめの浦に住む蜑も心のうちに物や思ふと
904

左大辨經繼

身には又まどほにだにも蜑衣慣れぬ袂のなどしをるらむ
905

遊義門院

つれなくも猶逢ふ事を松島や小島のあまと袖はぬれつゝ
906

光明峰寺入道前攝政左大臣

家に百首の歌よみ侍りける時、名所戀

立田河くれなゐくゝる秋の水いろもながれも袖の他かは
907

從二位家隆

後京極攝政の家の六百番歌合に

いかにして影をもみまし澤田川袖つくほどの契なりとも
908

安嘉門院甲斐

戀の歌の中に

徒らに名のみ流れていさやまた逢ふ瀬も志らぬ床の山川
909

三條入道内大臣

思河瀬々のうたかた徒らに逢はで消えぬる名を流せとや
910

荒木田延行

思川いつまで人になびき藻の下に亂れて逢ふせまつらむ
911

如願法師

涙川うき瀬に迷ふ水の泡の流石に消えぬ身をいかにせむ
912

民部卿成範

隔川戀

年ふれどわたらぬ中に流るゝを逢隈川と誰れかいひけむ
913

藤原季宗朝臣

題志らず

人知れぬ戀路の果やみちのくの逢隈川のわたりなるらむ
914

奨子内親王

よそにのみ猶いつまでか思ひ河わたらぬ中の契たのまむ
915

大藏卿隆博

法眼行濟よませ侍りける熊野の十二首の歌の中に

我が袖の物とはよしやいはしろの野邊の下草露深くとも
916

普光園入道前關白左大臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の三十首の歌に

飛鳥河ゆきゝの岡の葛かづら苦しや人に逢はぬうらみは
917

素暹法師

戀の歌の中に

迷行く末はいかにと問ふべきを我戀路にはあふ人もなし
918

天台座主道玄

人々すゝめて日吉の社にて廿一首の歌よみ侍りける時

相坂の關の此方のいかなればまだ越えぬより苦しかる覽
919

今上御製

寄山戀といへる心をよませ給ひける

關無くてたゞ逢坂の山ならばへだつる中に物はおもはじ
920

權大納言師信

題志らず

誰れにかは相坂山の名のみして我身にこえぬ關となる覽
921

前參議實俊

いかにせむよその人目の關守にかよふ道なきあふ坂の山
922

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌に、寄雲戀

伊駒山へだつる中の峯の雲何とてかゝるこゝろなるらむ
923

太宰權帥爲經

建長五年五首の歌に、寄山戀

夜と共にもゆ共いかゞ伊吹山さしも難面き人に知らせむ
924

讀人志らず

題志らず

戀死なむのちせの山の峯の雲きえなばよそに哀とも見よ
925

二條院讃岐

千五百番歌合に

富士の嶺も立ちそふ雲はある物を戀の烟ぞまがふ方なき
926

前參議雅有

戀の歌の中に

烟たつ室の八島はいづくぞと問へな思の行くへ知らせむ
927

後久我太政大臣

建保六年内裏の歌合に

松島や我が身のかたに燒く鹽の烟のすゑをとふ人もがな
928

前中納言定家

寄烟戀を

須磨の浦の餘りにもゆる思かな燒く鹽けぶり人は靡かで
929

大納言師頼

堀川院に百首の歌奉りける時

思ふ事荒磯の海のうつせ貝あはでやみぬる名をや殘さむ
930

後鳥羽院宮内卿

千五百番歌合に

つれなくも猶長らへて思ふかなうき名を惜む心ばかりに
931

前大納言實教

祈戀を

憂き人の心も志らず我ればかり命あらばと身を祈るかな
932

前大納言爲世

内裏の百首の歌奉りし時、おなじ心を

強面さもよしや祈らじ神だにも受けずば後の頼なければ
933

小侍從

戀の歌の中に

住吉の神の祈りしあふ事のまつも久しくなりにけるかな
934

高階宗成朝臣

思ふ事種しあらばと頼みても松の妬くや逢はでやみなむ
935

遊義門院大藏卿

戀死なぬみのゝを山の強面くもいつ迄人に待つと聞れむ
936

典侍親子朝臣

いとせめてまつに堪へたる我身ぞと知りてや人の強面かる覽
937

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

訪へかしな蜑の眞手形さのみやは待つに命の存へもせむ
938

定覺法師

題志らず

強面さのうきにしもなど長らへて思ひつきせぬ命なる覽
939

藤原基隆

戀死なむ後に逢ふせのあるべくば猶惜からぬ命ならまし
940

法印雲雅

長らへてあらばと思ふ心こそ人も契らぬたのみなりけれ
941

西圓法師

いかにせむ我れのみ人を思ふ共こふとも同じ心ならずば
942

入道前太政大臣

よしさらば戀死なず共長らへて同じ世にたに有りと聞れむ
943

藤原爲顯

弘安元年百首の歌奉りし時

我ればかり命にかへて歎く共惜まれぬべき身とは頼まじ
944

前内大臣實

百首の歌奉りし時、不逢戀

偖も又逢はで絶えなば玉の緒の幾世をかけて思ひ亂れむ
945

大江頼重

戀の歌の中に

廻逢はむ來む世も知らぬ契には身をかへて共え社頼まね
946

源親長朝臣

つらく共猶空蝉の身をかへて後の世までや人を戀ひまし
947

醍醐入道前太政大臣

千五百番歌合に

池水につがはぬ鴛鴦の浮枕ならぶかたなき戀もするかな
948

前中納言資實

題志らず

行く水に數かく人も我がごとく跡なき戀に袖やぬれけむ
949

藤原顯仲朝臣

物思へばまのゝ小菅のすが枕絶えぬ泪に朽ちぞ果てぬる
950

源家長朝臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄弓戀

つれなさのためしに引かむ梓弓思ひよわらぬ心づよさを
951

前大僧正聖兼

戀の歌の中に

物思ふ泪のはてもいかならむ逢ふを限のなくてやみなば
952

前大納言實家

玉葛絶えぬつらさの年をへてさのみや人におもひ亂れむ
953

入道二品親王性助

弘安元年百首の歌奉りし時

さりともと思ふ心に年ふるはつらきも絶えぬ契なりけり
954

藤原爲信朝臣

逢ふまでと頼む月日の果もなしうきを限りの心ながさに
955

前大納言良教

題志らず

強面さのうきにつけても喞つ哉世々の昔の知らぬ報いに
956

權大納言實國

先の世に我に心や盡しけむ報いならではかゝらましやは
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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