新後撰和歌集

Shin Gosen wakashū

作者複数 Various

新後撰和歌集卷第十三
戀歌三

957

從二位家隆

後京極攝政の家の六百番歌合に

偖もなほ人の心を志らぬまは契るさへこそ思ひなりけれ
958

今上御製

忍契戀といふ事をよませたまひける

誠かと又おしかへし問ふ程の人目のひまもなき契りかな
959

前大納言爲家

山階入道左大臣の家の十首の歌に、寄心戀

僞のある世悲しき心こそたのまじとだにおもひさだめね
960

鷹司院帥

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

頼め置く人の契ぞあり果てぬ命待つまもうたがはれける
961

院御製

戀の心を

逢事を志らぬ頼みはかひなくて契計りに身をや換へてむ
962

前中納言定家

後京極攝政の家の六百番歌合に

味氣なし誰もはかなき命もて頼めば今日の暮をたのめよ
963

從一位[6]A6子

題志らず

人傳ての僞りにだにおのづから哀をかくる言のはもがな
964

遊義門院權大納言

内裏に百首の歌奉りし時、切戀

契しもあらぬ世にとはきかざりき戀死なでまつ命共がな
965

法印定圓

契戀

さならではたのめも置かじ僞のある世ぞ人の情なりける
966

藤原光盛

僞を頼までもまたいかゞせむ兼ねて志らるゝ誠ならねば
967

素暹法師

いつはりと思ひながらや契るらむ志らばや人の下の心を
968

前參議能清

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

おのづから僞ならぬ契りをも我が心とやたのまざるらむ
969

平宗宣

題志らず

頼むるを命になしてすぐす身は僞りかともよしや思はじ
970

高階成朝

さのみまた人の心をうたがはゞ我が僞りの程や志られむ
971

前中納言資高

僞りの言の葉ぞとて頼まずばうき身に契る人やなからむ
972

前中納言俊光

げに思ふ心の底の知られねば契るまゝにもえやは頼まむ
973

按察使實泰

さり共と思ひ乍らも待つほどは猶身のうさに疑はれつゝ
974

津守國道

僞を頼むにこそはなりもせめ待たずと爭で人にきかれむ
975

近衛關白左大臣

契りしを人の誠と頼みてもまたいかならむゆふぐれの空
976

安嘉門院大貳

待ち見ばやよも僞になりはてじ強ひてたのめし夕暮の空
977

賀茂久世

さりともと此夕暮を待たるゝやいひしを頼む心なるらむ
978

法眼源承

となせ川越す筏士のみなれ棹さして頼めし暮ぞまたるゝ
979

前大納言實冬

暮るゝ間をはかなく急ぐ心かなあふにかへむと誓ふ命に
980

院御製

忘れても訪はずもぞなる契置きし暮ぞと人に驚かさばや
981

前僧正道性

思へたゞ頼めぬだにも待たるゝに今宵といひし心盡しは
982

大藏卿隆博

僞を思ひ知らぬになし果てゝ又なほざりの暮を待つかな
983

賀茂經久

契りしは唯なほざりの夕べともしらで待ちける程ぞ儚き
984

法印定爲

百首の歌奉りし時、待戀

今宵だにいかに夕けの占ぞ共聞き定めてや人をまたまし
985

讀人志らず

戀の歌の中に

更けにけるうらみや猶も殘るべき僞ならぬ今宵なりとも
986

津守國助

人目よく道はさこそと思へ共慰めがたく更くる夜半かな
987

前參議實時

思ひやれ空頼めせぬ月だにも待つは心をつくすものとは
988

法眼兼譽

待ち侘びて更け行く月の影のみや寐ぬ夜の袖の泪とふ覽
989

平宗泰

更けぬるは來ぬ人故に憂き物を待たれ顏にも出づる月哉
990

藤原親方

掻暮す泪しなくば來ぬ人のつらさにかへて月も見てまし
991

昭慶門院一條

百首の歌奉りしとき、待戀

更けぬ共暫しはまたむ山の端の月みて後も思ひいづやと
992

九條左大臣女

題志らず

頼めても來ぬ人つらきよひ/\に僞知らで出づる月かな
993

今上御製

月前待戀といへる心を

僞に更け行く程のしらるれば待つ夜の月の影はながめじ
994

典侍親子朝臣

おなじ心を

頼めしは今夜もいかに成ぬらむ更けぬる物を山の端の月
995

參議雅經

千五百番の歌合に

山の端に入るまで月を詠むともしらでや人の有明のそら
996

後嵯峨院御製

寄月戀を

かへるさの別のみかはまつ人のつれなきもうき有明の空
997

藤原爲藤朝臣

百首の歌奉りし時、待戀

更ぬればせめて頼みのなき儘に今宵もあすの暮ぞ待るゝ
998

前大納言資季

弘長三年内裏の百首の歌奉りける時、寄戸戀

訪るべき其あらましに槇の戸を頼めぬよはもさゝで明ぬる
999

參議雅經

寄鳥戀

待侘びてこぬ夜空しく明けゆけば泪數そふ鴫のはねがき
1000

待賢門院堀河

久安の百首の歌に

頼めずばうき身のとがと歎きつゝ人の心を恨みざらまし
1001

前大僧正道瑜

題志らず

たのめぬを我心よりまち兼て人のうきにや思ひなすべき
1002

平時常

たのまじと思ひなりても僞にかはらでまつは心なりけり
1003

左近中將具氏

うかりける人の言の葉歎けとてなど僞の有る世なるらむ
1004

左近中將冬基

契しに變ると聞くもつらからず偖も問るゝ習はなければ
1005

法印圓伊

うらみじよ思へば人のこぬ迄も情にこそは契り置きけめ
1006

按察使實泰

百首の歌奉りし時、待戀

慰むる我あらましに待慣れてさのみねぬよの數や重ねむ
1007

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、寄關戀

聞く度に勿來關の名もつらし行ては歸る身に知られつゝ
1008

權大納言師重

五首の歌合に、來不留戀

待ちえてもやがて別の夕こそとふさへつらき契なりけれ
1009

前大納言經任

月前逢戀といふ事を

獨寐の床に馴れこし月影をもろ共にみるよはも有りけり
1010

中務卿宗尊親王家小督

戀の歌の中に

つらかりし時社あらめ逢見ての後さへ物はなどや悲しき
1011

前大僧正深惠

歎きわび逢ふにかへむと思ひしはうかりし迄の命なりけり
1012

前大僧正聖兼

忍會戀を

うつゝとも思ひ定めぬ逢ふ事を夢にまがへて人に語るな
1013

從二位家隆

題志らず

君も又あふとみる夜の夢ならば誰れ別れのまづはさむ覽
1014

前大僧正慈鎭

嬉しさを今夜つゝまむ爲とてや袖は泪にくちのこりけむ
1015

中臣祐賢

忘られむ後の浮名を思ふにも逢ふとはよその人にしられじ
1016

光俊朝臣

前大納言爲家日吉の社にて歌合し侍りけるに、寄枕忍戀

忍ぶ山岩ねの枕かはすともした行く水のもらさずもがな
1017

大藏卿重經

戀の歌の中に

いかゞせむ待つ程過て更くる夜に頓て名殘の惜しき別を
1018

尚侍藤原現子朝臣

五首の歌合に、來不逢戀

通ひくる名のみ荒磯の濱千鳥跡はしばしもなどか止めぬ
1019

權中納言國信

別戀の心を

心ある鳥のねならばいか計今ひとゝきもうれしからまし
1020

讀人志らず

別るればおなじ心にうしとのみゆふ附鳥のねをぞ恨むる
1021

大江頼重

曉の別れもしらぬ鳥の音は何のつらさに鳴きはじめけむ
1022

法眼源承

せめて猶後の世をこそ頼めつれ存らへぬべき別ならねば
1023

平盛房

あだになど思ひそめけむ朝露のおき別れてもきえぬ命を
1024

大納言通具

千五百番の歌合に

曉の床は草葉のなになれや露にわかれのなみだそふらむ
1025

寂蓮法師

後京極攝政の家の六百番の歌合に

逢ふまでの思はことの數ならで別れぞ戀のはじめなりける
1026

源親長朝臣

題志らず

あぢきなく又有明やつらからむこれを限の別れならずば
1027

大江茂重

歸るさの忘れがたみの袖の月それも止らず明くる空かな
1028

藻壁門院少將

洞院攝政の家の百首の歌に、後朝戀

有明の月はかたみに頼まれず暮まつ迄の身にもそはねば
1029

前大納言教良

題志らず

ながらへて又あふ事も知らぬ身は是やかたみの有明の月
1030

前大納言實教

形見とて我れこそみつれ面影を人はのこさぬ有明のつき
1031

前大僧正慈鎭

うつゝこそ今朝は中々悲しけれ歸る恨みは夢に見ざりき
1032

俊惠法師

我ならぬ葛の裏葉もけさみれば歸るとて社露もこぼるれ
1033

式乾門院御匣

分けわびぬ袖の別のしのゝめに泪おちそふ道しばのつゆ
1034

祝部成良

もらすなよ道のさゝ原ふみ分けし一夜のふしの露の手枕
1035

平久時

ありしよの後はたがひに忍びきてかよふ心もしらぬ中哉
1036

近衞關白左大臣

弘長三年内裏の百首の歌奉りける時、寄水戀

逢ひみてもはかなき物は行く水に數かきとめぬ契なりけり
1037

尚侍藤原現子朝臣

戀の歌の中に

一すぢに頼む心のなくもがな變らばつらき身とも社なれ
1038

前大納言爲氏

文永七年九月盡、内裏の三首の歌に、契戀

代々かけて波こさじとは契るともいさや心のすゑの松山
1039

從三位隆教

題志らず

淺くとも頼みこそせめ泪川さても逢ふせの變り果てずば
1040

藤原泰基

逢ふ事を猶や頼まむかた糸のくる夜まれなる契なりとも
1041

從三位光成

誰が方に心をかけて下ひもの稀にあふよもむすぼゝる覽
1042

内大臣

遠戀の心を

思ひやる人の心をへだてずばいくへもかゝれ峯の志ら雲
1043

藤原爲信朝臣

尋ねても行方志るべき契かはもろこし舟のあとの志ら波
1044

從三位氏久

戀の歌の中に

渡つみの底と知てもいかゞせむみるめは己が心ならねば
1045

前中納言定家

後京極攝政の家の六百番の歌合に

面影はをしへしやどに先だちてこたへぬ風の松にふく聲
1046

源有長朝臣

題志らず

徒らにきえ歸るとも知らせばや行きてはきぬる道芝の露
1047

權大納言師信

徒らに待ちみる人もなかりけりとひて苦しき三輪の山本
1048

藤原親盛

前參議範長の家の歌合に、隔河戀

いもがすむ宿のこなたの衣川渡らぬをりも袖ぬらしけり
1049

權中納言經平

題志らず

住吉の岸のあだ浪かけてだに忘るゝ草はありと志らすな
1050

順徳院御製

濱千鳥通ふ計の跡はあれどみぬめの浦にねをのみぞ鳴く
1051

鎌倉右大臣

我がせこを松浦の山の葛かづら邂逅にだにくる由もなし
1052

藤原雅顯

里のあまの假初なりし契より頓てみるめの便りをぞとふ
1053

平時村朝臣

晩風催戀といふ事を

驚ろかす風につけてもこぬ人のつらさぞまさる秋の夕暮
1054

太宰權帥爲經

はじめて物申しける女のあとなき夢になしてよと申しければつかはしける

行く末をかけて契りし現をば跡なき夢といかゞなすべき
1055

讀人志らず

返し

見し夢のわすられぬだにうき物を何か現になして歎かむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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