新後撰和歌集

Shin Gosen wakashū

作者複数 Various

新後撰和歌集卷第十九
雜歌下

1465

前關白太政大臣

題志らず

忘れずと誰にいひてか慰めむ心にうかぶむかしがたりを
1466

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りける時、松

昔とてかたるばかりの友もなしみのゝを山の松の古木は
1467

天台座主道玄

廣澤の池にまかりてよみ侍りける

老いてみる我影のみや變るらむ昔ながらのひろさはの池
1468

前大僧正源惠

題志らず

思出のなき人だにも古へを忍ぶならひはありとこそ聞け
1469

讀人志らず

かくて又憂身のはてのいかならむ過にし方は思出もなし
1470

源兼氏朝臣

立ちかへり又古を戀ふるかな頼みし末のうきにつけても
1471

平政長

誰も皆昔を忍ぶことわりのあるにすぎても濡るゝ袖かな
1472

津守國助

賤しきもよきも盛の過ぎぬれば老いて戀しき昔なりけり
1473

藤原忠能

年月の隔たるまゝにこしかたの忘られはせで猶ぞ悲しき
1474

前大納言基良女

思ひ出もなきいにしへを忍ぶこそ憂を忘るゝ心なるらめ
1475

平行氏

人はいさ戀しからでやこし方を昔とばかり思ひいづらむ
1476

前大僧正禪助

法眼行濟よませ侍りける熊野の十二首の歌の中に

忍ぶべきならひと思ふことわりに過ぎて戀しき昔なりけり
1477

藤原忠資朝臣

懷舊の心を

その事の故とはなしに戀しきは我身に過ぎし昔なりけり
1478

讀人志らず

ながらへてわが身に過ぎし昔をも心ならでは誰か忍ばむ
1479

前參議雅有

弘安元年百首の歌奉りし時

まどろまぬ現ながらに見る夢は思ひつゞくる昔なりけり
1480

讀人志らず

題志らず

哀れにも見し世に通ふ夢路かなまどろむ程や昔なるらむ
1481

法眼慶融

見しことを寐覺の床におどろけば老の枕の夢ぞみじかき
1482

源通有朝臣

幾かへり秋の夜ながき寐覺にも昔をひとり思ひ出づらむ
1483

後一條入道前關白左大臣

物思はでながめし秋のありがほに何と昔の月を戀ふらむ
1484

前右衞門督基顯

いたづらにかくては獨みざらまし今夜の月の昔なりせば
1485

前大僧正禪助

御持僧に加はりて二間に侍りける事を思ひ出でゝよみ侍りける

天の下千代に八千代と祈るこそ夜居の昔に變らざりけれ
1486

讀人志らず

懷舊の心を

何とかく思ひもわかで忍ぶらむ過ぎにし方も同じ浮世を
1487

高階基政朝臣

いかなれば戀しとおもふ古の月日にそへて遠ざかるらむ
1488

惟宗盛長

出家すとてよめる

年月はいはで心に思ひこしこの世を今ぞそむき果てぬる
1489

三條入道内大臣

世をそむきて後人の音づれて侍りける返事に

今更に袖の色にや知らるらむかねても染めし心なれども
1490

權中納言公雄

前大納言爲氏かしらおろし侍る由を聞きて遣しける

身を捨てしわが墨染は歎かれでよそに悲しき袖の色かな
1491

前大納言爲氏

返し

なにゆゑかよそに歎かむ心より思ひ立ちぬる墨ぞめの袖
1492

前大納言爲世

平貞時朝臣かしらおろし侍りけるに宣時朝臣同じく出家の由聞きて申し遣しける

世をすつる一方をこそ歎きつれ共に背くと聞くぞ悲しき
1493

平宣時朝臣

返し

年たけぬ人だに背く世中に老いてつれなくいかゞ殘らむ
1494

讀人志らず

題志らず

何とまた心に物を思ふらむかゝらじとてぞ世をば厭ひし
1495

藤原景綱

寐ぬにみる此世の夢よいかならむ驚けばとて現ともなし
1496

法眼源承

如何せむ此世の夢のさめやらで又重ならむ長きねぶりを
1497

後光明峰寺前攝政左大臣

源親長朝臣身まかりにける時をはり亂れぬよし聞きて源邦長朝臣に遣しける

夢の世に迷ふと聞かばうつゝにもなほ慰まぬ別ならまし
1498

源邦長朝臣

返し

見し人の捨てゝ出にし夢の世に止る歎ぞさむるともなき
1499

典侍親子朝臣

平親清の女身まかりて後いもうとの許に申し遣しける

よそに聞く人は驚く夢の世を我のみさめず猶なげくかな
1500

藤原爲道朝臣

題志らず

仇野や風まつ露をよそに見て消えむ物とも身をば思はず
1501

經乘法師

道助法親王かくれ侍りにける頃僧正玄瑜のもとへ申し遣しける

思ひ入るみ山がくれの苔の袖數ならずとて置かぬ露かは
1502

道供法師

性助法親王かくれ侍りて後法眼行濟高野に侍りけるに遣しける

人よりも志たふ心は君もさぞあはれと苔の下に見るらむ
1503

典侍光子

題志らず

哀なり我が身に近き鳥部野の烟をよそにいつまでか見む
1504

荒木田氏忠

おくれじと思ふ心やなき人の迷ふやみぢの友となるらむ
1505

土御門入道内大臣

少將内侍身まかりて後佛事のついでに辨内侍人々に勸めてよませ侍りける歌の中に

跡をとふ人だになくば友千鳥しらぬ浦路に猶やまよはむ
1506

性瑜上人

同行身まかりける跡にまかりて

思ひきやこの秋迄になれ/\て今なき跡をとはむ物とは
1507

衣笠内大臣

後世の事など申しける人に

行止るいづくをつひの宿とてかとへ共人に契り置くべき
1508

法印聖勝

同じ法衆をむすびて跡をとふべきよし契り侍りけるにさきだつ人侍りけるを病にわづらひてさゝげ物調じて遣しけるつゝみ紙にかき付けゝる

いきて社有るにも非ぬ身なり共なき人數にいつかとはれむ
1509

前大納言爲氏

前關白太政大臣なげく事侍りける頃程へて申し遣しける

問はずとて愚なるにや思ひけむ心をかへて嘆きこし身を
1510

前關白太政大臣

返し

訪れぬも歎にそへてつらかりき心をかふる程をしらねば
1511

僧正慈順

題志らず

かねてなど厭ふ心のなかる覽遂に行くべき道と聞けども
1512

貞空上人

大宮院かくれさせ給ひて後高野山にをさめ奉られける時よみ侍りける

君もまた契ありてや高野山そのあかつきを共に待つらむ
1513

平行氏

題志らず

つひに行く道を誠の別にてうき世にさらば歸らずもがな
1514

藤原秀茂

惜めどもさらぬならひの命にてうきは此世の別なりけり
1515

中務卿宗尊親王

素暹法師わづらふ事侍りけるがかぎりに聞え侍りければ遣しける

限ぞと聞くぞ悲しきあだし世の別はさらぬ習ひなれども
1516

素暹法師

返し

かくつらき別も知らであだし世の習とばかり何思ふらむ
1517

天台座主道玄

普光園入道前關白かくれ侍りて後よみ侍りける

垂乳根のありし其世に哀など思ふばかりも仕へざりけむ
1518

法印覺寛

題志らず

逢坂の關にはあらでしるしらず遂に行くなる道ぞ悲しき
1519

前中納言定家

後京極攝政かくれ侍りけるあくる日從二位家隆とぶらひて侍りければ

昨日までかけて頼みしさくら花ひと夜の夢の春の山かぜ
1520

從二位家隆

返し

悲しさの昨日の夢にくらぶれば移ろふ花も今日のやま風
1521

從三位氏久

後嵯峨院かくれさせ給ひける春、山里の花を見て

さもこそはみ山隱れの花ならめ憂世もしらぬ春の色かな
1522

平親世

おなじ頃龜山殿より花にそへて光俊朝臣の許に遣しける

すみぞめに咲かぬもつらし山櫻花はなげきの外の物かは
1523

大藏卿行家

郁芳門院かくれさせ給ひて又の年の秋御前の萩をみて

萩が花おなじ匂に咲きにけりうかりし秋の露もさながら
1524

讀人志らず

返し

見る度に露けさまさる萩が花をりしりがほに何匂ふらむ
1525

後光明峰寺前攝政左大臣

秋の比圓明寺にて後一條入道前關白の事を思ひ出でゝよみ侍りける

かくばかりなき跡忍ぶ人もあらじわが世の後の秋の山里
1526

前大僧正慈鎭

九條内大臣身まかりて後の秋さがの墓所にまかりてよみ侍りける

山ざとは袖の紅葉のいろぞこき昔を戀ふる秋のなみだに
1527

平時高

題志らず

消えぬまも見るぞはかなきなき人の昔の跡につもる白雪
1528

前關白太政大臣

京極院の十三年に一品經かきて女房の中に遣すとて

跡忍ぶ心をいかであらはさむかゝる御法の知べならずば
1529

法皇御製

後嵯峨院の御事ののち龜山殿にてよませ給ひける

大井川ゆく瀬の浪もおなじくば昔にかへれ君がかげ見む
1530

後一條入道前關白左大臣

從一位倫子のおもひに侍りける頃よみ侍りける

はかなくもこれを形見と慰めて身にそふ物は涙なりけり
1531

津守國助

津守國平身まかりて後よめる

ある世にも斯やはそひし面影の立ちも離れぬ昨日けふ哉
1532

前大僧正良覺

權中納言公宗身まかりて後三月の盡に山階入道左大臣の許に遣しける

うかりける春の別と思ふにも涙にくるゝ今日のかなしさ
1533

法印定爲

藤原爲道朝臣の第三年に結縁經供養し侍りけるついでに、寄菖蒲懷舊を

かけてだに思ひやはせし菖蒲草ながき別の形見なれとは
1534

常磐井入道前太政大臣

東二條院の半物川浪もの申しける男身まかりにけるが教へ置きけるとてかつらの緒の琵琶をひきけるを聞きて

なかばなる月の桂の面かげを思ひ出でゝやかき曇るらむ
1535

東二條院半物川浪

返し

かきくもるなみだも悲し今さらに半の月を袖にやどして
1536

前大納言實冬

前大僧正隆辨八月十五夜身まかりて侍りける一周忌に結縁經の歌そへて秋懷舊と云ふ事を

めぐりあふこぞの今夜の月みてやなき面影を思出づらむ
1537

前權僧正教範

安嘉門院御忌にこもりて侍りける九月十三夜藤原道信朝臣月みるよし申して侍りければ

今夜とて涙のひまもなき物をいかなる人の月を見るらむ
1538

平時範

平時茂都にて身まかりにける後あづまの月を見てよみ侍りける

めぐり逢ふこれや昔の跡ぞともいつか都の月に見るべき
1539

中臣祐親

題志らず

垂乳根の親の見しよの秋ならば月にも袖は絞らざらまし
1540

法眼行濟

戀ひしのぶむかしの秋の月影を苔のたもとの涙にぞ見る
1541

山階入道左大臣

西園寺入道前太政大臣身まかりて第三年の秋常磐井入道前太政大臣の家にて三首の歌よみ侍りけるに、暮秋雨といふ事を

ふりにける年の三とせの秋の雨さらに夕の空ぞかなしき
1542

大藏卿隆博

八月十五夜後一條入道前關白の事思ひ出でゝよみ侍りける

もろ共に見し夜の秋の面影も忘れぬ月にねをのみぞなく
1543

安喜門院大貳

從三位爲繼身まかりて後日數過ぎて人のつぶらひ侍りければ

今さらに悲しき物は遠ざかるわかれの後の月日なりけり
1544

源兼孝朝臣

源時長朝臣身まかりて後第三年の春いもうとの許に申し遣しける

わかれにし後の三とせの春の月面影かすむ夜半ぞ悲しき
1545

中原行實朝臣

後嵯峨院かくれさせ給ひける時素服給ひてよめる

かすむ夜の空よりも猶すみぞめの袖にもくもる春の月影
1546

前大納言爲氏

性助法親王身まかりにける頃法眼行濟が許に申し遣しける

さこそげに夢の別のかなしきは忘るゝまなき現なるらめ
1547

法眼行濟

返し

なにと又驚かすらむうつゝとは思ひもわかぬ夢の別れ路
1548

前大納言成道

西行法師後世の事など申したりければ

驚かす君によりてぞ長き夜の久しき夏はさむべかりける
1549

西行法師

返し

驚かぬ心なりせば世のなかを夢ぞと語るかひなからまし
1550

藤原景綱

題志らず

何かその人の哀もよそならむ浮世の外にすまぬ身なれば
1551

辨内侍

少將の内侍身まかりにける時さまかへて後いく程なくて信實朝臣に後れてよみ侍りける

呉竹のうき一節に身を捨てつ又いかさまに世を背かまし
1552

蓮生法師

なき人を夢に見て人々歌よみ侍りけるに

諸共に行くべき道に先だちて定めなき世の知べをぞする
1553

前太政大臣

京極院かくれさせ給ひての頃雁を聞きて

身を志れば雲居の雁の一つらも後れ先だつねをや鳴く覽
1554

中務卿宗尊親王家三河

わづらひ侍りける時郭公を聞きて

ことゝへよ誰かしのばむ郭公なからむ跡の宿のたちばな
1555

待賢門院堀川

夏のころ西行法師がもとへ遣しける

この世にて語らひ置かむ時鳥志での山路の知べともなれ
1556

大納言師頼

五月のころ大藏卿行宗父の忌日にて侍りけるに遣しける

あしびきの山郭公けふしこそ昔を戀ふるねをば鳴くらめ
1557

入道前太政大臣

前大納言爲家身まかりて後日數過ぐるほどに前大納言爲氏の許に申し遣しける

五月雨の日數はよそに過ぎながらはれぬ涙や袖ぬらす覽
1558

如圓法師

題志らず

なぞもかく露の命といひ置きて消ゆれば人の袖ぬらす覽
1559

法印乘雅

はかなくも消え殘りては歎くかな誰も行くべき道芝の露
1560

興信法師

何としてうき身ひとつの殘るらむ同じ昔の人はなき世に
1561

源兼氏朝臣

九條右大臣身まかりての頃おなじ心になげきける人の許に申し遣しける

君ゆゑに身に惜まれし命こそ後れて殘る今日はつらけれ
1562

法眼慶融

前大納言爲家に後れて後懷舊の歌よみ侍りけるに

たらちねのさらぬ別の涙より見しよ忘れず濡るゝ袖かな
1563

我身いかにするがの山の現にも夢にも今はとふ人のなき

これは寂蓮法師が歌とて僧正道譽が夢に見え侍りけるとなむ。

1564

讀人志らず

題志らず

苔のしたに埋れぬ名を殘しつゝ跡とふ袖に露ぞこぼるゝ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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