新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第十四
戀歌四

1154

西園寺入道前太政大臣

洞院攝政の家の百首の歌に

曇るさへ嬉しと見えし大空の暮るゝもつらく何時なりに劍
1155

讀人志らず

題志らず

言の葉もかき絶えぬればつらかりし空頼めさへ戀しかり鳬
1156

爲冬朝臣

元亨三年三月盡、後醍醐院に三首の歌講ぜられける時、契戀

僞と思はゞ猶も如何ならむ頼むにだにもかはるちぎりを
1157

前大納言爲定

契變戀

契りしも頼まぬ物を今更に變るこゝろの如何で見ゆらむ
1158

後勸修寺前内大臣

貞和二年、百首の歌に

逢ふまでを限る命と思ひしは行くすゑしらぬ心なりけり
1159

讀人志らず

題志らず

來る人もあらじ今はの山かづら曉かけてなにと待つらむ
1160

津守國助

寄帆戀

頼まじなことうら風に行く舟の片帆ばかりにかゝる契は
1161

讀人志らず

題志らず

寄る方と頼むもよその中なれやこと浦舟のすゑの潮かぜ
1162

太上天皇

百首の歌召されし時、絶戀

こと浦に心をかけしかた帆より跡まで知らぬ中のはや舟
1163

讀人志らず

煩ひて久しうこざりける男の許よりさうぶの實を遣して身のなり行くさまを見せばやと云へりける返りごとにむすめに代りて

永からぬうきねと見れば菖蒲草我ぞ物思ふ身とはなりぬる
1164

中納言朝忠

語らふ女の音せぬに

今年生ひの竹の一夜も隔つれば覺束なくもなり増るかな
1165

太上天皇

をのこども題を探りて卅首の歌仕うまつりける時變戀と言へる事を詠ませ給ひける

頼めこし淺茅が末に秋暮れて今はのつゆを袖にかけつゝ
1166

讀人志らず

思ひやみにたる事を傳ふる人の許より

嵐吹く外山の紅葉冬來れば今はことの葉絶え果てぬらむ
1167

前大納言公任

とありければ

遠近の嶺のあらしに言とはむいづれの方か色はかはると
1168

從二位嚴子

題志らず

今こむと契りしなみも早越えぬうき僞のすゑのまつやま
1169

津守國助

變戀

越えぬなり末の松山すゑ遂にかねて思ひし人のあだなみ
1170

崇賢門院

百首の歌奉りし時、絶戀

逢ふ事は遠山鳥のおのづから影見し中もへだて果てつゝ
1171

定顯法師

戀の歌に

果は又ゆくへも知らぬ村鳥の立つ名ばかりを何歎きけむ
1172

太宰大貳重家

逢不會戀

御狩野のつかれになづむ箸鷹のこゐにも更に歸りぬる哉
1173

大江宗秀

題志らず

つらかりし鳥の音計り形見にて我が逢坂は隔て果てゝき
1174

宜秋門院丹波

千五百番歌合に

中々に越えてぞ迷ふ逢坂の關のあなたやこひ路なるらむ
1175

權大納言宗實

題志らず

立ち歸り越ゆべき物と思ひきや絶えにし中のあふ坂の關
1176

源頼之朝臣

寄關戀と云へる事を

通ふとも人は知らでや宵々に心のせきのさはり果つらむ
1177

侍從爲敦

百首の歌奉りし時、遇不逢戀

關守の打ちぬる程と待ちし夜も今は隔つる中のかよひ路
1178

前大納言爲家

同じ心を

今は早十市の池のみくり繩來る夜も知らぬ人に戀ひつゝ
1179

秀胤法師

題志らず

小山田の引板のかけ繩絶えしより驚かすべき便だになし
1180

藤原行詮

今は早よそにみつのゝこも枕假寐の後はゆめだにもなし
1181

三善頼秀

面影を忘れもやらぬこゝろこそ人の殘さぬ形見なりけれ
1182

兵部卿隆親

寶治の百首の歌奉りける時、寄橋戀

舊りにける長柄の橋の跡よりも猶絶えぬべき戀の道かな
1183

藤原長秀

同じ心を

片糸のをだえの橋や我が中にかけしばかりの契なるらむ
1184

平貞秀

寄水戀と云ふ事を

さもこそは淺き契のすゑならめやがて瀬絶えし中河の水
1185

前中納言爲忠

貞和二年、百首の歌に

如何にせむ憂き中河の淺き瀬に結ぶとすれば絶ゆる契を
1186

讀人志らず

題志らず

中川の淺き契のすゑかけて猶も逢ふ瀬をたのむはかなさ
1187

衣笠前内大臣

思ひ出づや荒磯なみのうつせ貝われても逢ひし昔語りは
1188

津守國量

權中納言爲重の家にて三首の歌詠ませ侍りしに、絶不逢戀を

我が中は身を宇治橋と舊りしよりいざよふ波を懸けて戀ひつゝ
1189

宗祐法師

題志らず

よそにのみ鳴海の海の沖つ浪立ち歸りてもしたふ頃かな
1190

讀人志らず

人目もる山下くゞる水莖のかき絶えぬるか音づれもせぬ
1191

參議雅經

み草のみ茂る板井の忘れ水汲まねば人のかげをだに見ず
1192

權中納言爲重

思ひ出でよ野中の水の草隱れもとすむ程の影は見ずとも
1193

前大納言宗明

結び置くもとの契の面影も見えぬ野中のみづからぞ憂き
1194

前大納言爲家

かき遣りし山井の清水更に又絶えての後の影を戀ひつゝ
1195

寶篋院贈左大臣

延文の百首の歌に、寄枕戀

敷妙の枕にかゝる涙かな如何なるゆめの名ごりなるらむ
1196

入道二品親王尊道

同じく奉りける百首の歌に、寄衣戀

須磨の蜑の潮垂衣朽ちぬ間や間遠ながらも重ねきつらむ
1197

左兵衛督基氏

寄虫戀を詠める

枯れ果つる人の契は淺茅生になほ松虫の音こそなかるれ
1198

宗覺法師

題志らず

白菊の移ろひ果つる契ゆゑ濡れて干す間も無きたもと哉
1199

大納言通具

さても猶えやはいぶきの下草の跡なき霜に思ひ消えなむ
1200

寶篋院贈左大臣

延文の百首の歌に、寄風戀

吹く風に嶺越えて行くうき雲の如何に跡なき契なるらむ
1201

安嘉門院高倉

題志らず

言の葉のかゝる方なくなりぬれば僞さへぞ今はこひしき
1202

後岡屋前關白左大臣

貞和二年百首の歌奉りけるに

遠ざかる人の心に任せなば見し面かげも身をやはなれむ
1203

太宰權帥仲光

永徳元年六月十二日内裏にて三十首の歌講ぜられけるに、違約戀と云ふ事を

遂にさて障り果てぬる人目こそつらきかごとの契なりけれ
1204

祝部行親

會不逢戀

昔ともおもひなされぬ面影におなじ世つらき身の契かな
1205

權律師實藏

題志らず

面影の殘るかたみもかひぞ無き見し夜の夢の契ならねば
1206

中宮大夫公宗母

文保の百首の歌に

自ら思出でゝも訪はれぬは同じ世になき身とや知るらむ
1207

大中臣行廣朝臣女

戀の歌とて

今はたゞ思ひ絶えねと月日さへ隔つる中を何したふらむ
1208

後二條院御製

忍絶戀を

志ばしこそ人目思ひし宵々の忍ぶ方より絶えや果つべき
1209

今出河院近衞

題志らず

同じ世に何慕ふらむ有明の面かげばかりさらぬわかれを
1210

源氏經朝臣

廻り逢ふ月こそひとの形見とも涙曇らで見る夜はぞ無き
1211

伴周清

よしさらば涙いとはで袖の月曇るをだにも形見とや見む
1212

前關白左大臣

百首の歌奉りし時、遇不逢戀

今はまたありしその夜の面影もつらき形見に月ぞ殘れる
1213

源頼遠

題志らず

忘れては見し夜の影ぞ忍ばるゝ憂き習はしの有明のつき
1214

源親長朝臣

そのまゝに頓て別れの形見とも知らでぞ見つる有明の月
1215

後二條院御製

忘らるゝ身をこそ月に喞ちつれ人をうらみぬ心よわさに
1216

正二位隆教

嘉元の百首の歌奉りけるに

あだ人の形見顏なる影も憂し見し世に變る山の端のつき
1217

西園寺入道前太政大臣

題志らず

待つとせしならひばかりの夕暮に面影のこる山の端の月
1218

左衛門督資康

三十首の歌講ぜられける時、寄鏡戀

面影は殘るともなき眞澄鏡曇るなみだもよしやいとはじ
1219

法印守遍

題志らず

つらしともたれをかこたむ眞澄鏡曇るも人の泪ならねば
1220

前大納言爲家

人はいさ鏡に見ゆる影をだにうつる方には頼みやはする
1221

攝政太政大臣

延文の百首の歌に、寄鏡戀

何時よりか鏡に見ゆる影をさへ向ふ泪にへだて果てけむ
1222

讀人志らず

題志らず

月日のみうつるにつけて眞澄鏡見し面影は遠ざかりつゝ
1223

前大納言爲氏

寶治の百首の歌奉りける時

眞澄かゞみ何面影の殘るらむつらき心はうつりはてにき
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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