新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第七
雜春歌

577

花園院御製

貞和二年百首の歌召されけるついでに

身に積る數こそ替れ立ち歸り今年もおなじ春は來にけり
578

選子内親王

春立つ朝に詠める

春知らでおぼつかなきに鶯の今日珍しきこゑを聞かばや
579

大納言經信

寛和二年、殿上の歌合に

氷解く風の音にや古巣なる谷のうぐひすはるを知るらむ
580

入道贈一品親王尊圓

朝鶯を

出で初むる朝日隱れのたにかげにねぐらながらの鶯の聲
581

信專法師

題志らず

入りしより春知らぬ身もあるものを深山な出でそ谷の鶯
582

前關白近衞

打ち出づる波の花かと見ゆるまで氷の上にあわ雪ぞ降る
583

權僧正頼印

こと浦の春よりも猶かすめるややく鹽がまの烟なるらむ
584

爲冬朝臣

鹽がまの浦よりほかも霞めるを同じ烟の立つかとぞ見る
585

從三位定久

若菜摘む我が跡ばかり消初めてよそには見えぬ雪間なり鳬
586

源直氏

知る知らず同じ野原に打ち群れて一つ雪間の若菜摘むなり
587

權僧正興雅

踏分けし昨日の野邊の雪間より今日萠出づる若菜をぞ摘む
588

三善爲連

今日も猶若菜摘まばや春日野の昨日の雪は最ど消ゆらむ
589

津守國貴

春の歌とて

花にだにそはでよそなる梅が香を袖に移して春風ぞ吹く
590

瓊子内親王家小督

朧なる名には立てども春の月やどる袖まで霞まずもがな
591

源兼氏朝臣

山階入道左大臣の家の十首の歌に春月

今更に曇りな果てそ春の月晴れぬは老のなみだなりとも
592

前大納言爲世

後醍醐院みこの宮と申しける時三首の歌講ぜられけるに、同じ心を

かすむとも此春よりやよはの月老の心も晴れて見るべき
593

前中納言定宗

題志らず

老いぬれば我から霞む春の夜を月やあらぬと何喞つらむ
594

法印定爲

文保三年百首の歌奉りけるに

老いぬるも元の身ぞとは喞てども涙ぞ晴れぬ春の夜の月
595

清原通定

題志らず

老が身の涙のとがになし果てゝ霞むも分かぬ春の夜の月
596

權中納言公雄

小倉の山庄思の外なる事出で來て住まずなりにける頃、古郷春月を

住み憂さに暫し小倉の宿かへて見るにも霞む春の夜の月
597

從一位宣子

百首の歌奉りし時、春月を

山の端もともに匂ひて春の月かすみの庭に影ぞいざよふ
598

津守棟國

題志らず

鳴きて行く聲ぞ聞ゆる春の雁わかれはおのが心なれども
599

藤原雅能

我が方に寄るともなかぬ契をも歸れば志たふ春の雁がね
600

淨阿上人

古さとの花の盛も過ぎぬべし歸らばいそげ春のかりがね
601

前大僧正公朝

己が住む越路の花はまだ咲かじ急がで歸れ春のかりがね
602

津守國量

百首の歌奉りし時

猶深く尋ねも入らば山櫻咲かぬにまづやいへぢわすれむ
603

道甚法師

題志らず

あらましの心の中に咲き初めて人に知られぬやま櫻かな
604

法印實性

咲きやらで待たれしほどの日數より盛すくなき山櫻かな
605

前大僧正慈鎭

山櫻思ふあまりに世にふれば花こそ人のいのちなりけれ
606

中務卿宗尊親王

人々題を探て歌詠侍けるに、山花を

三吉野も同じ浮世の山なればあだなる色に花ぞ咲きける
607

式部卿邦省親王

題志らず

山櫻咲きそふまゝに佐保姫の霞のそでにあまる志らくも
608

權大僧都經賢

出でそむる月は梢に見えながら尚暮れ果てぬ花の影かな
609

源詮政

初瀬山花のあたりはさやかにてよそより暮るゝ入相の鐘
610

寂眞法師

咲きあまる尾上の花や伊駒山隔つる雲をまたへだつらむ
611

法印定圓

弘安元年百首の歌奉りける時

交野なるなぎさの櫻幾春か絶えてと云ひし跡に咲くらむ
612

津守國助

花の歌の中に

宿かさぬ天の河原や憂からまし交野に花の蔭なかりせば
613

前大納言善成

さしこもる葎のやどの花にさへなほ思ある春かぜぞ吹く
614

法印頼俊

逢坂の關はとざしもなかりけり往來の人を花にまかせて
615

藤原藤茂

山里は花故にだに訪はれねば散りても誰か戀しかるべき
616

法印源全

咲きぬとて人に語らば山櫻身のかくれがも今や訪はれむ
617

深守法親王

長閑にぞ中々見つる山ざくら暮れて歸らむ家路ならねば
618

後鳥羽院宮内卿

五十首の歌奉りけるに、花下送日と云ふ事を

花にふる日數も知らず今日とてや古郷人の我を待つらむ
619

二品法親王覺助

文保三年百首の歌奉りけるに

年々の花になれてもふり果てぬさのみや後の春を待つべき
620

前大納言經繼

あだし世に去年は今年を知らざりし命難面く花を見る哉
621

祖月法師

題志らず

思出のなき身と云はゞ春毎になれし八十ぢの花や恨みむ
622

賀茂雅久

七十ぢの春にもあひぬあだに散る花や難面く身を思ふ覽
623

大江廣房

山蔭の軒端の花を尋ねてもあるじまで訪ふ人やなからむ
624

信專法師

恨むなよ我が住む山の櫻花みやこの春にかへるこゝろを
625

超空上人

春毎に恨みも果てぬ心とやをしむによらで花の散るらむ
626

讀人志らず

見ればこそ散るも惜けれ春毎に花なき里の隱れがもがな

627

覺増法親王

落花の心を詠み侍りける

木のもとに散敷くだにも憂き物を誘ひなはてそ庭の春風
628

道英法師

題志らず

散るまゝに庭には跡もなかりけり梢や花の雪間なるらむ
629

源義則

散る花の名殘を庭に吹きとめて木のもと匂へ春の山かぜ
630

源頼隆

散る花の雪と積らば尋ねこし志をりをさへや又辿らまし
631

津守國久

散る花のいろなりけりな春の日の光に降れるみねの白雪
632

淳家法師

尋ね來て雲は紛はぬ木のもとにいかで櫻の雪と散るらむ
633

藤原基任

紛ひつる雲や嵐に晴れぬらむ散らで尾上の花ぞすくなき
634

源頼貞

峯に立つ雲も別れて吉野川あらしにまさる花のしらなみ
635

正三位通藤女

渡るべき物とも見えず山川に風のかけたる花のうきはし
636

源頼康

山櫻ながるゝ水をせきとめて瀬々の埋木はな咲きにけり
637

爲道朝臣

水上花を詠める

山颪の櫻吹きまく志賀のうらに浮きて立ちそふ花の小波
638

源藤經

題志らず

比良の山高嶺の嵐吹くなべに花を寄せ來る志賀のうら波
639

素性法師

春の歌とて

春深くなりゆく草の淺みどり野原の雨は降りにけらしも
640

權大納言忠光

雲雀をよめる

影うつす野澤の水の底見ればあがるも沈む夕ひばりかな
641

法印慶運

庵むすぶ山の裾野の夕雲雀あがるも落つる聲かとぞ聞く
642

前中納言爲秀

貞和の百首の歌に

雉子鳴く岩田の菫咲きしより小野の芝草分けぬ日はなし
643

源義將朝臣

春の歌の中に

貴船川末せき入るゝ苗代に神のみ志めを引きやそへまし
644

攝政太政大臣

題志らず

袖觸れしむかし覺えてたちばなの小島にかをる山吹の花
645

法眼頼英

吉野川いはとがしはも色かへて花散りかゝるきしの山吹
646

平重基

山城の井手の中道踏み分けて訪はではえこそ山吹のはな
647

源重之

光なき谷にも春の岩つゝじいはで入日のいろに咲くらむ
648

民部卿資宣

五位の職事になりて侍りける頃、松上藤と云ふ事を

春日山松にかけつゝいのりこし藤の末葉は今ぞはな咲く
649

儀同三司實

題志らず

花散りし山は青葉に咲く藤の色にも殘るはるや見ゆらむ
650

前大納言資名

心なき花こそ根にも歸るとも鳥さへなどか雲に入りけむ
651

源高秀

己が音の殘るばかりや鶯のなれにし花のかたみなるらむ
652

藤原宗遠

とゞまらぬ恨も知らず春毎に慕ひなれたる今日の暮かな
653

左近中將具氏

明日知らぬ命の程に別れてはいつ逢見むと春の行くらむ
654

前參議雅有

弘安の百首の歌に

數ならぬ身にはよそなる春なれど今日の別は猶や慕はむ
655

權律師桓輸

首夏の心を

大井川春をとゞめぬ志がらみに花も昨日の瀬々の志ら波
656

津守國夏

夏の歌の中に

遅櫻春暮れて咲く花なればのこる物からかたみともなし
657

平師氏

夏山の青葉にまじり咲く花や春に後るゝ木ずゑなるらむ
658

前參議爲實

文保三年百首の歌奉りけるに

もろ葛いかにみあれの年を經て都をだにもかけ離れけむ
659

前大僧正賢俊

延文二年百首の歌奉りけるに、時鳥を

いつなれてうき身と知れば時鳥我に初音の難面かるらむ
660

權律師承惠

同じ心を

いかばかり待たるゝ物と時鳥知りて難面き初音なるらむ
661

信空法師

待ち侘ぶる山郭公人づてに聞くばかりこそ初音なりけれ
662

照覺法師

時鳥いつとさだめぬ初音こそやがて待つ日の頼なりけれ
663

二品法親王承覺

今年又鳴かずと聞かば時鳥身につれなさも恨みざらまし
664

法印源意

去年聞きし頃ぞ過ぎぬる時鳥今年は猶やつれなかるらむ
665

後三條入道前太政大臣

文保の百首の歌奉りけるとき

さゝがにの雲のはたての郭公くべき宵とや空に待つらむ
666

前大納言爲世

待郭公と云ふ事を

つれなさを志ばし忘れて時鳥待たでや見まし有明のそら
667

聖尊法親王

待ちかねて我ぞ恨むる郭公なが鳴くこゑは人を分かじを
668

法印隆淵

よしさらば唯つれなかれ時鳥待つをうき身の慰めにせむ
669

太宰權帥爲經

寛治二年、百首の歌に

郭公聞かぬかぎりはまどろまで待てばや夏のよはの短き
670

小辨

夏の歌の中に

思ふ事なき身なりせば時鳥聞きての後はまどろみなまし
671

藤原永行

いく聲もあだにぞ聞かぬ子規待つ里人のかぎりなければ
672

清原良兼

山ふかく尋ねて聞けば時鳥過ぎつる方のそらに鳴くなり
673

祝部成廣

時鳥まだ里なれぬ程なれや聞きぬとかたる人のすくなき
674

讀人志らず

鳴き明す心地こそすれ時鳥一こゑなれどみじか夜のそら
675

藤原宗秀

宵の間は志ばし待たれて郭公更くれば月の影に鳴くなり
676

卜部兼[3]A3朝臣

昇殿ゆるされての頃、郭公の歌に

待たれつる雲居の上の時鳥今年かひあるはつ音をぞ聞く
677

藤原基名

題志らず

待つひとのためならずとも時鳥おのが五月に聲な惜みそ
678

源經氏

朽ちねたゞ岩垣沼の菖蒲草うきみごもりは引く人もなし
679

卜部兼直

引く人のなきにつけても菖蒲草うきに沈めるねこそなかるれ
680

前内大臣實

雲かゝるゆつきが嶽の五月雨にあなしの川は水増るらし
681

平貞秀

難波より見えし雲間の伊駒山今はいづくぞ五月雨のころ
682

紀親文朝臣

徒らに日數ふるなり飛鳥川かはらぬ淵やさみだれのころ
683

橘遠村

鈴鹿川あらぬ流も落ちそひて八十瀬にあまる五月雨の頃
684

爲冬朝臣

河五月雨

吉野川みづの心も今さらにはやさ知らるゝ五月雨のころ
685

源光正

題志らず

水まさる淀の若ごも末ばかりもえしに似たる五月雨の頃
686

源氏春

五月雨に猶水深きみなと田は急ぐ早苗も取りぞかねぬる
687

讀人志らず

五月雨に田面の早苗水越えており立ち難く見ゆる頃かな
688

前左兵衞督教定

海邊早苗と云ふ事を

早苗とる田子の浦人この頃やもしほもくまぬ袖濡すらむ
689

前關白近衞

題志らず

山水のあるに任せていくばくもつくらぬ小田の早苗取なり
690

平常顯

水莖の岡邊の小田の村さめに露かきわけて早苗とるなり
691

多々良義弘朝臣

日數のみふるのわさ田の梅雨にほさぬ袖にも取る早苗哉
692

淨阿上人

古郷の花たち花にむかし誰そでの香ながら移し植ゑけむ
693

權中納言爲重

百首の歌奉りし時、橘

後はみな忍ぶならひの橘にいまそへ置かむ袖の香もがな
694

忠房親王

文保三年後宇多院に百首の歌奉りける時、夏の歌

たち花の影ふむ道はあれにけり昔のあとを誰に問はまし
695

源基時朝臣

題志らず

立ちなれしはなたち花の移り香も今は殘らぬ墨ぞめの袖
696

聖統法師

やがてはやかくろへぬるか夏野行く牡鹿の角の短夜の月
697

藤原爲量朝臣

夏草は深くぞ茂る清水くむ野中のそこと見えぬばかりに
698

法印宗信

秋近き小野の志の原置く露のあまりてよそに飛ぶ螢かな
699

道元法師

山の端のほのめく宵の月影に光もうすく飛ぶほたるかな
700

讀人志らず

さとの名の月のかつらに飛ぶ螢暮るゝ方にや光そふらむ
701

權大納言時光

述懷の歌の中に

世々經ぬる跡をば殘せ我が身こそ集めぬ窓の螢なりとも
702

前大納言爲世

文保三年百首の歌奉りけるに

やがて又つゞきの里にかきくれて遠くも過ぎぬ夕立の空
703

大中臣頼基朝臣

扇を詠める

内も外も見えぬ扇の程なきに凉しき風をいかでこめけむ
704

前參議實名

題志らず

楸おふる影にや秋も通ふらしきよき河原のなつの夕かぜ
705

後花山院内大臣

文保三年、百首の歌に

夕すゞみ峰立ちのぼる久方の月は夏とも見えぬそらかな
706

源詮政

題志らず

志づかなる心はいさや結ぶての岩間の水ぞ身さへ凉しき
707

秀幸法師

松風の吹く音ながら山水の岩根をつたふなみぞすゞしき
708

讀人志らず

岩枕した行く水の凉しきを袖ひづばかりせきやかけまし
709

[4]B4子内親王家宰相

御祓川はや瀬凉しく行く水ややがて夏なき音を立つらむ
710

讀人志らず

なごむてふ神の驗もみたらしの川の瀬清き夏ばらへかも
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia