新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第八
雜秋歌

711

土御門院御製

題志らず

かぞふれば涙の露も止まらずこれや三十ぢの秋のはつ風
712

僧正果守

一葉こそ落つともおちめ涙さへさそひなそへそ秋の初風
713

深守法親王

百首の歌奉りし時、早秋

吹きにけり我が手枕の塵ならで立つ名も志るき秋の初風
714

前大納言公兼

同じ心を

露だにもまだ置きあへぬ朝あけに風こそ秋をつげのを枕
715

頓阿法師

式部卿邦省親王の家の五首の歌合に、初秋風

行く水の淵瀬ならねど飛鳥風昨日にかはる秋は來にけり
716

爲冬朝臣

題志らず

更に尚凉しくなりぬ星あひの影見る水に夜や更けぬらむ
717

津守國基

七月七日住吉より都の方へまかり侍りけるに、天の河と云ふ所にて日の暮れにしかば舟をとゞめて河原におりゐ侍りて

七夕は思ひ知らなむ天の河いそぐわたりに舟をかしつる
718

藤原資衡朝臣

百首の歌奉りし時

一夜をも契になして織女のうときもなかと恨みやはする
719

後二條院御製

七夕露を詠ませ給うける

織女のちぎり待つ間の涙より露はゆふべの物とやは置く
720

前中納言定家

内裏の十五首の歌合に、秋風を

をさまれる民の草葉を見せがほに靡く田面の秋の初かぜ
721

清原景實

題志らず

風の音も今朝こそ變れ荻の葉に秋を知せて露や置くらむ
722

前中納言親賢女

ゆふべのみ身にしむものと思ひしを寐覺も悲し荻の上風
723

平英時朝臣

露をこそはらひも果てめうたゝねの夢をも誘ふ荻の上風
724

大江氏元

わけつゝや衣は摺らむ朝露に濡れて色そふあき萩のはな
725

爲道朝臣

露を詠み侍りける

夕ぐれは草葉の外のおきどころありとや袖にかゝる白露
726

大納言顯實母

延文二年百首のうた奉りけるに、秋夕

昔今思ふにものゝ悲しきは老いて世にふる秋のゆふぐれ
727

道應法師

題志らず

袖のうへの露をばつゆと拂ひても涙かずそふ秋の夕ぐれ
728

讀人志らず

その事と思はで袖のつゆけきや秋の夕のならひなるらむ
729

前大納言善成

秋の田のかりほの眞萩咲きしより尚庵近く鹿ぞ鳴くなる
730

權僧正増瑜

夜もすがらもる庵近き鹿の音は稻葉の風や誘ひ來ぬらむ
731

式部卿邦省親王

秋を經て忘れぬ雁の玉章を誰待ち見よとかけて來ぬらむ
732

左兵衞督直義

貞和の百首の歌に

天の戸の霧晴れそめてほの%\と明行く空を渡る雁がね
733

津守國量

百首の歌奉りし時、雁

秋風の吹くにまぢかく聞ゆるは聲に後れて雁や來ぬらむ
734

素觀上人

題志らず

湊田の稻葉に風の立ちしより雁鳴きわたる秋のうらなみ
735

前内大臣實

雲をなすわさ田の穗なみ吹き立ちて村雨ながら渡る秋風
736

爲道朝臣

秋田を詠める

夕されば野田の稻葉の穗並より尾花をかけて秋風ぞ吹く
737

前中納言公勝

秋にのみ音はひゞきて住吉の岸田の穗なみあき風ぞ吹く
738

雄舜法師

題志らず

秋の夜の長き思は老が身の寐覺よりこそまづ知られけれ
739

讀人志らず

志ばし尚いざよふ雲を先だてゝ跡より出づる山の端の月
740

藤原爲量朝臣

葛城やよるとも見えず晴れにけり雲のよそなる秋の月影
741

權大納言爲遠

應安六年九月十三夜内裏にて三首の歌講ぜられけるに、月前雲

待ち出づる月のあたりの浮雲によきよと拂ふ秋風ぞ吹く
742

權僧正良憲

題志らず

月もなほ木の葉隱れの小倉山秋待つほどゝなに思ひけむ
743

後西園寺入道前太政大臣

文保三年百首の歌奉りけるに

苔の袖ほしえぬ雲に宿りきて月さへ影のやつれぬるかな
744

兵部卿長綱

題志らず

月かげも露のやどりや尋ぬらむ草に果てなむ武藏野の原
745

後九條前内大臣

百首の歌の中に

河上に里あれ殘るみなせ山見しものとては月ぞすむらむ
746

民部卿爲藤

文保の百首の歌奉りけるに

大井川瀬々にいく世かみなれざをくだす筏の床の月かげ
747

藤原昌家

題志らず

夜舟漕ぐかいの雫や志げからし濡るゝ袂にやどる月かげ
748

津守國實

芦の屋は住むあまやなき月影に漕ぎ出でゝ見る灘の友舟
749

崇金法師

忘れずよ旅をかさねて鹽木積む阿漕が浦になれし月かげ
750

祝部成仲

いつまでか世に在明と思ふにもかたぶく月を哀とぞ見る
751

藤原雅朝朝臣

鳥の音はふもとの里に音づれて峯より西にのこる月かげ
752

六條内大臣

文保の百首の歌に

入方の山の端近き月影を身にたぐへてもあはれとぞ見る
753

後深草院辨内侍

光明峯寺入道攝政の家の三十首の歌に

なく涙我とつゆけき虫の音の秋の草葉をなにかこつらむ
754

從一位宣子

百首の歌奉りし時、虫

松虫の鳴くとも誰か來て訪はむ深き蓬のもとのすみかを
755

源高秀

題志らず

矢田の野の淺茅色づく程をだに待たで枯行く虫の聲かな
756

丹波成忠朝臣

うら枯るゝ後はなか/\おく露も淺茅が庭の松むしの聲
757

源頼之朝臣

淺茅原すゑ葉枯れゆく初霜のしたにも殘る虫のこゑかな
758

光嚴院御製

貞和の百首の歌めされける次でに

伏見山門田の霧は夜をこめてまくらに近き鴫のはねがき
759

右大辨秀長

題志らず

初瀬山尾上の霧のへだてにもあけ行く鐘はなほ聞えつゝ
760

一品法親王寛尊

夜を殘す寐覺の友となりにけり老のまくらに衣打つこゑ
761

爲冬朝臣

誰れか尚閨へも入らでもとゆひの霜の夜寒に衣打つらむ
762

儀同三司實

月影に置きそふ霜の夜や寒き更くるにつけて打つ衣かな
763

後三條前内大臣

貞和二年百首の歌に

露の間と何か思はむ濡れてほす山路の菊の千世の行く末
764

安喜門院大貳

題志らず

物思ふ誰が涙にか染めつらむ色こそ變れころも手のもり
765

藤原嗣定朝臣

晴曇り志ぐるゝ山のもみぢ葉に急ぐ千しほの袖ぞ見えける
766

讀人志らず

時雨せぬかたこそあらめ柞原そめても薄き色に見ゆらむ
767

前權僧正良宋

大峯修行し侍りける時、笙の岩屋にて蔦の紅葉を見て詠み侍りける

心とや色に出づらむ雨露も洩らぬ岩屋のつたのもみぢば
768

源頼隆

暮秋紅葉を

明日までの時雨も知らず秋の色を染め盡しぬる峯のもみぢ葉
769

藤原朝村

暮秋月を

長月のありあけの月の程ばかり時雨は冬を急がずもがな
770

權大納言實直母

題志らず

今日といへば何ぞは露の形見だにおきも留めず歸る秋哉
771

光俊朝臣

時雨を詠める

うきにこそ涙は落つれ神無月その事となく降る時雨かな
772

中務卿宗尊親王

同じ心を

秋の空如何に詠めし名殘とて今朝も時雨の袖ぬらすらむ
773

源經氏

降初むる音より冬は知らるゝを幾度つぐる時雨なるらむ
774

元可法師

冬をこそ時雨もつぐれ定なき世はいつよりは始なりけむ
775

道洪法師

過ぐるかと思へば猶も廻りきて同じ寐覺に降る時雨かな
776

藤原懷通朝臣

冬の歌の中に

今朝は又空も曇らで神無月木の葉ばかりぞ先志ぐれける
777

藤原行朝

荒れ果つる軒は木葉に埋もれて中々洩らぬ時雨をぞ聞く
778

鎌倉右大臣

松風似二時雨一と云ふ事を

降らぬ夜も降る夜もまがふ時雨哉木の葉の後の峯の松風
779

土御門院御製

百首の御歌に、時雨を

呉竹のみどりは時も變らねば時雨降りにし眞垣ともなし
780

權僧正經深

同じ心を

里までは吹きもおくらぬ山風にしぐれてとまる峯の浮雲
781

人丸

山川の水しまさらば水上につもる木葉はおとしはつらむ
782

攝政太政大臣

正文の百首の歌に、落葉

みなの河流れて瀬々に積るこそ峰より落つる木葉なりけれ
783

榮寶法師

題志らず

紅葉せし蔦もまさ木も散果てゝ匐ふ木數多に山風ぞ吹く
784

權大僧都宋親

秋に見し色も匂もそれながら霜にのこれる庭の志らぎく
785

源直頼

置く霜に殘れる庭の白菊を秋なきときのかたみとぞ見る
786

前關白近衞

百首の歌奉りし時、霜

朝日さすまやの軒端の霜解けてしぐれぬ空に落つる玉水
787

藤原滿親

題志らず

風さむき入江の芦の夕霜に枯れてもさやぐ音ぞのこれる
788

祝部成豐

難波潟入江の芦の枯れしより浦吹く風のおとぞすくなき
789

如願法師

建保四年後鳥羽院に奉りける百首の歌に

月待つと立ちやすらへば白妙の衣の袖に置けるはつしも
790

讀人志らず

題志らず

志ぐるとは見ゆる物から木葉のみ降れば晴行く冬の夜の月
791

土御門院御製

百首の御歌の中に

龍田山紅葉やまれになりぬらむ河なみ白き冬の夜のつき
792

式子内親王

題志らず

玉の井の氷のうへに見ぬ人や月をば秋のものと云ひけむ
793

是法法師

夜もすがら山おろし吹きて衣手の田上川にこほる月かげ
794

權僧正圓守

さゆる日は氷閉ぢそふ山川の志た行く水も殘りやはする
795

澄覺法親王

夏だにも頃を忘れし松蔭の岩井のみづはさぞこほるらむ
796

源和義朝臣

聞くだにもあやふき淵の薄氷望むに似たる世を渡るかな
797

法印長尊

うきねする浦わの波の枕より跡より通ふともちどりかな
798

讀人志らず

さす汐に汀やかはる小夜千鳥鳴きつる聲の近くきこゆる
799

前關白近衞

嶋千鳥と云ふ事を

遠ざかるあしはや小舟跡とめて又嶋づたふとも千鳥かな
800

嚴阿上人

熱田の龜井の寺に住み侍りける時あまた詠み侍りける歌の中に、濱千鳥を

鳴海潟夕浪千鳥たちかへり友よびつきのはまに鳴くなり
801

小槻匡遠

題志らず

古の跡ある和歌の浦千鳥立ちかへりても名をやのこさむ
802

前中納言親賢女

和歌の浦に通ひけりとも濱千鳥心の跡をいつか知られむ
803

三善爲永

知べせよ和歌の浦わの友千鳥いつ人數の名をもかけまし
804

[5]A5子内親王

冴ゆる夜は誘ふ水だに絶えぬとや氷柱の床に鴛の鳴く覽
805

前大納言隆房

霜にだに上毛はさゆる葦鴨の玉藻の床につらゝゐにけり
806

民部卿實遠

百首の歌奉りし時、水鳥

大井川ゐせきの浪に立つ鴫の歸りて跡にまたくだりつゝ
807

源和氏

同じ心を

あし鴨の群れゐる方の池水やこほりも果てぬ汀なるらむ
808

信快法師

題志らず

池水のこほる汀のあし鴨は更けてや聲のとほざかるらむ
809

前關白近衞

氷魚ならぬ浪もかへりて網代木に今夜は氷る宇治の河風
810

圓昭法師

さゝ竹の大宮人の袖の上にかざしの玉と降るあられかな
811

前大納言爲家

嵐こす外山の峯のときは木に雪げしぐれてかゝるむら雲
812

通深上人

初瀬山みねの檜原もうづもれて雪のしたなる入相のかね
813

前中納言有光

延文二年、百首の歌に、雪

降りうづむ峰の横雲夜をこめて雪より白むありあけの空
814

前大納言爲家

題志らず

富士の嶺は冬こそ高く成ぬらめ分かぬ深雪に時を重ねて
815

昭祐法師

雲よりも上に見えたる富士の嶺の雪は何とて降始めけむ
816

源秀法師

埋もるゝ風や下より拂ふらむ積れば落つる松のしらゆき

817

權大納言時光

延文の百首の歌に

山おろしに松の上葉は顯れて木かげよりまづ積るしら雪
818

紀親文朝臣

題志らず

木にも非ず草にもあらで咲く花や竹のさ枝に降れる白雪
819

後勸修寺前内大臣

此の儘に降らばと見つる白雪の思ふ程こそ積らざりけれ
820

賀茂定宣朝臣

跡絶えて訪はれぬ庭は雪もさぞ降りてかひなき宿と知る覽
821

等持院贈左大臣

雪の朝に申し贈り侍りける

古に今もならひて白雪のふるきあとをばわれぞつけつる
822

前大納言爲定

返し

いにしへに今立ち歸る道ぞともとはれて知りぬ庭の白雪
823

攝政太政大臣

延文の百首の歌奉りけるに

東屋のまやの今やと待つ人も餘りに降ればとはぬ雪かな
824

權大納言宣明

題志らず

世々を經る庭のをしへの跡ばかり殘して積れ宿のしら雪
825

内大臣

如何にして跡をもつけむ教へ置く事は數多の庭のしら雪
826

權大僧都能運

あつめこし志るしもあれや我が山の杉生の窓に殘る白雪
827

攝政太政大臣

延文の百首の歌に、雪

時しあれば今はたあひに逢坂の關の白雪三代にふりつゝ
828

侍從爲敦

百首の歌奉りし時、庭雪

庭の面は我が通路に踏分けて訪はれぬ雪の跡も見えつゝ
829

周防内侍

堀川院位におはしましける時、南殿の北面に雪の山造らせ給ふよしを聞きて、内なる人に申し遣しける

行きて見ぬ心のほどを思ひやれ都のうちのこしのしら山
830

中宮上總

返し

きても見よ關守すゑぬ道なれば大うち山に積るしらゆき
831

陽徳院少將

題志らず

山深み雪に閉ぢたる柴の戸の唯そのまゝに經る日數かな
832

性威法師

箸鷹の木居の下草枯れしより隱れかねてや雉子鳴くらむ
833

權律師則祐

暮れぬるか疲れにかゝる箸鷹の草取る跡も見えぬ計りに
834

紀盛家

あら鷹を頓てとりかふ狩人や暮れぬに歸る山路なるらむ
835

源兼能朝臣

風さむみ曉ふかく寐覺して又おきむかふねやのうづみ火
836

兼好法師

炭竈を

すみ竈も年の寒きにあらはれぬ烟や松のつま木なるらむ
837

讀人志らず

降りうづむ雪のうへにも炭竈の烟は猶ぞ立ちて見えける
838

大中臣行廣朝臣

題志らず

身こそかくふりぬる物を年くれて積るを雪と何思ひけむ
839

藤原信良

いたづらに過ぐる月日の早瀬川早くも寄する老の波かな
840

權大納言實直母

うき身まで待つとはいはぬ春ながら心に急ぐ年の暮かな
841

前關白近衞

皆人の急ぐ心にさそはれて過ぐるもはやく暮るゝ年かな
842

花山院御製

つく%\と明し暮して年月を遂にはいかゞ算へなすべき
843

寶篋院贈左大臣

歳暮の心を詠み侍りける

過ぎきつる月日の程はおどろかで今さら歎く年の暮かな
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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