新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第十一
戀歌一

920

伊勢

題志らず

石清水いはぬ物から木がくれてたぎつ心を人は知らなむ
921

人丸

空に知る人はあらじなしら雪の消えて物思ふ我が心とは
922

笠女郎

中納言家持に遣しける

つくま野に生ふる紫衣に染め未だ着ずして色に出でに鳬
923

圓融院御製

中將のみやす所に給はせける

思ひあまる烟や立ちておのづから心の空の雲となるらむ
924

邦世親王

寄烟戀といふ事を

人知れぬ忍の浦の夕けぶり思ひ立つより身はこがれつゝ
925

中園入道前太政大臣

貞和の百首の歌奉りし時

人知れぬ心ばかりにさそはれて迷ふ戀路はとふ方もなし
926

從三位行能

道助法親王の家の五十首の歌に、寄雲戀

夕暮の空にはかなく行く雲の路なきみちに思ひ立つらむ
927

從二位家隆

光明峯寺入道前攝政の家の百首の歌に、名所戀を

葛城や高間の山にさすしめのよそにのみやは戀ひむと思ひし
928

殷富門院大輔

題志らず

野にも非ず山にも非ぬ戀路にも入るより袖ぞ露けかりける
929

前中納言定家

光明峯寺入道前攝政の家の百首の歌に、名所戀

甲斐が嶺に木の葉吹きしく秋風も心の色をえやは傳ふる
930

前大納言實明女

百首の歌奉りし時、寄風戀

おのづから吹きかふ風の便にも思ふ心をつたへてしがな
931

讀人志らず

題志らず

木の間より影のみ見ゆる月草のうつし心はそめてし物を
932

前大納言經繼

文保の百首の歌奉りける時

月草のはつ花染のしたごろも下にうつるを見る人ぞなき
933

聖尊法親王

欲言出戀

かくとだに岩間にむせぶ谷水の洩さばかよふ心ともがな
934

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りける時

谷蔭や岩間をせばみ行く水のわき返るとも知る人ぞなき
935

源氏經朝臣

戀の歌の中に

洩すなよ木の葉にうづむ谷水の底の心はわきかへるとも
936

大藏卿隆博

我が袖にありとやいはむ吉野川絶えず落つなる瀧の水上
937

讀人志らず

あさき瀬ぞ浪は立つらむ吉野川ふかき心を君は知らずや
938

躬恒

延喜十三年亭子院の歌合に、戀をよめる

涙川いかなる水かながるらむなど我が戀をけつ人のなき
939

權中納言實直母

題志らず

よしさらば洩るに任せむ涙川流れの末に逢ふ瀬ありやと
940

前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りける時

山川のたぎつ心もせきかねつ思ふにあまる袖のなみだに
941

平常顯

題志らず

袖に落つる瀧の白糸打ちはへて苦しき中に結ぼゝれつゝ
942

達智門院兵衛

忍戀の心を

堰きかねて落つる計りぞ今も猶音には立てぬ袖の瀧つ瀬
943

土御門院小宰相

九條前内大臣の家の百首の歌合に

洩すべきひまこそなけれしのぶ山しのびて通ふ谷の下水
944

兼好法師

忍久戀

忍山またことかたに道もがなふりぬる跡は人もこそ知れ
945

平忠度朝臣

互忍戀と云ふ事を

戀ひ死なむ後の世までの思出は忍ぶ心のかよふばかりか
946

前大僧正慈鎭

建仁二年、影供歌合に、忍戀

暫しこそ卯の花がきのほとゝぎすいつか袂は五月雨の空
947

皇太后宮大夫俊成女

人知れず思ひしのぶの山風に時ぞともなき露ぞこぼるゝ
948

西園寺内大臣女

戀の歌の中に

いかにせむ忍ぶもぢずりとにかくに思ひ亂るゝ袖の泪を
949

正三位知家

光明峯寺入道前攝政の家の歌合に、寄衣戀を

唐藍の八しほの衣ふかけれどあらぬ泪のいろぞまがはぬ
950

從二位宣子

文保の百首の歌奉りける時

打ちつけに思ひそめける心かなやがて千しほめ袖の泪は
951

權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りける時、忍戀

せきかへす泪をかねて思ふ哉朽ちなむ袖の果はいかにと
952

贈從三位爲子

せきかへす便だになく悲しきは袖にもしのぶ涙なりけり
953

常元法師

題志らず

遂にさて瀬々に朽ぬる袖ならば洩らぬ涙のかひやなからむ
954

前大納言爲定

正和五年九月十三夜後醍醐院みこの宮と申しける時五首の歌召されけるに、月前忍戀

いかにして泪つゝまむ影やどす月こそ袖の色に出づとも
955

平英時

題志らず

誰ゆゑの涙と人の思ふらむ知らせぬ先に濡るゝたもとを
956

前參議爲嗣

袂こそ涙ほす間もかたからめ心をさへにさのみしぼらじ
957

法印覺爲

寄山戀

夕時雨もる山かげに立ち濡れて移ろふ袖の色やまがへむ
958

常磐井入道前太政大臣

寳治二年百首の歌奉りし時、寄雨戀

こがれ行くよその紅葉にくらべみよ袂にかゝる秋の村雨
959

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、寄杜戀

露はまづ色にや出でむ思ふともいはでしのぶの森の下草
960

法眼源承

入道二品親王性助の家の五十首の歌に

知られじなしのぶの杜の下草に置添ふ露は結ぼゝるとも
961

大藏卿隆博

文永七年閏九月、内裏の三首の歌に、寄菊久戀

積りては袖にも淵となりやせむ泪はきくの露ならねども
962

右兵衛督教定

忍久戀を

かくしつゝ年も經にけり言の葉の人傳ならぬ便待つ間に
963

花園院御製

戀雜物と云ふ事を

いとせめて忍ぶる中の玉章はおもふ限を書きもつくさず
964

入道二品親王尊圓

忍通書戀

散すなよしのぶの杜の言の葉に心の奥の見えもこそすれ
965

祭主輔親

始めて女のもとに遣しける

思ひつゝこゝらの年を志のぶ草忍ぶる程に摘みてける哉
966

深養父

題志らず

年を經てちりのみつもる泪かな床打ち拂ふ人しなければ
967

忠房親王

文保の百首の歌に

云出でゝ難面からずば年月を忍び來つるや悔しからまし
968

平行氏

題志らず

人知れぬ涙の玉のおのれのみ思ひくだけて年ぞ經にける
969

權律師則祐

洩さじと何忍ぶらむ數ならぬ身を知らでこそ思初めしか
970

大納言師賢

せきかへす袖の涙のたま葛かけても知らじ色し見えねば
971

等持院贈左大臣

遂に我が心や色にあらはれむ暫しは包むうき名なりとも
972

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、忍戀

かくばかり忍ばざりせば戀しさの一方にのみ物や思はむ
973

後西園寺入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時

戀すてふみをの杣人朝夕に立つ名ばかりはやむ時もなし
974

山階入道前左大臣

寳治二年百首の歌奉りける時、寄鳥戀

芦鴨のおりゐる池の水波の立つこと易き我が名なりけり
975

爲道朝臣

寄霞戀といへる事を

如何せむ空に霞の立つ名のみ晴れぬ戀路に迷ひ果てなば
976

[4]C4子内親王

戀の歌の中に

せめて猶慰む方もありなまし逢ふにしかふる浮名なりせば
977

藤原長秀

いつしかと我が名は立ちぬ敷妙の枕に誰か知せ初めけむ
978

法眼行經

忍戀の心を

洩さじと抑ふる袖ぞなか/\に人目にあまる泪なりける
979

中宮大夫公宗母

忍遇戀

顯れていつ名に立たむ關守の打ちぬるひまの數も積らば
980

源光明

題志らず

越え侘ぶる逢坂山の關よりもよそに洩る名ぞ苦しかりける
981

平重基

憂き人の心の關となり果てゝ猶越えがたきあふさかの山
982

前大納言爲氏

建長元年、五首の歌に、寄山戀

富士のねや燃えつゝとはに歎きてもならぬ思の果ぞ悲しき
983

常磐井入道前太政大臣

寳治の百首の歌奉りける時、寄烟戀

駿河なる山は富士のね我がごとや絶えぬ烟に結ぼゝるらむ
984

入道二品親王道助

家に五十首の歌よみ侍りけるに、同じ心を

富士のねや絶えぬ烟の行方だに知らぬ思に年の經ぬらむ
985

民部卿爲明

貞和二年百首の歌奉りし時

富士のねのとはに燃ゆれば憂き人や珍しげ無く思ひけつ覽
986

頓阿法師

關白前左大臣の家に題を探りて歌よみ侍りけるに、寄烟戀を

こと浦になびかぬ程ぞ夕けぶり我が下燃えの頼なりける
987

小侍從

男のつらくあたりけるに遣さむとて請ひける人に代りて

靡きける我が身あさまの心からくゆる思に立つけぶり哉
988

前大納言爲定

百首の歌奉りし時、寄烟戀

憂きなかは契あさまの夕烟我が爲燃ゆと見やはとがめむ
989

素暹法師

戀の歌の中に

神代より烟絶えせぬ富士のねは戀や積りて山となるらむ
990

權少僧都寛耀

ほとりぬる枕の塵のつもりてや空しき床の山となるらむ
991

人丸

相思はぬ妹を何せむ鳥羽玉の今宵も夢に見えもこなくに
992

兵部卿元良親王

夢にだに見るべき物を寐覺めつゝ戀ふる心は行く方もなし
993

皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合に

思ひ寢の夢のうき橋とだえして覺むる枕に消ゆる面かげ
994

權中納言公雄

文保の百首の歌奉りける時

現には忘れやはする憂き事の夢こそさむる程なかりけれ
995

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、寄橋戀

人はよも心かよはじ宵々の我が思ひ寐のゆめのうきはし
996

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

憂き人の心には非で思ひつゝぬればぞ見ゆる夢は頼まじ
997

從三位爲信

寄夢戀

まことなき夢のたゝぢの面かげは誰が僞に通ひ初めけむ
998

前右兵衛督爲教

せめて猶現につらき慰めとぬる夜の夢を待つも果敢なし
999

祝部成景

寐ぬる夜の夢に越えける逢坂や人も許さぬ關路なるらむ
1000

前中納言定家

承久二年土御門院に奉りける三首の歌に、夜長増戀

秋の夜の鳥の初音はつれなくてなく/\見えし夢ぞ短き
1001

後久我太政大臣

建保五年、内裏の歌合に、冬夜戀

消え侘ぶる霜の衣をかへしても見し夜まれなる夢の通路
1002

八條院高倉

長き夜に氷かたしき臥し侘びぬまどろむ程の涙ならねば
1003

正二位隆教

文保三年百首の歌奉りける時

逢はぬ夜のつらさ重なるさ莚にかたしく物は涙なりけり
1004

安嘉門院四條

歳暮戀といふ事を

逢ふ迄と憂きに堪たる月日さへせめて難面く暮るゝ年哉
1005

前大納言爲氏

逢ふ迄と頼みしまゝに年暮れて契も知らず行く月日かな
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia