新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第十二
戀歌二

1006

前大納言爲家

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄糸戀

逢ふまでの契も待たず夏引の手びきの糸の戀のみだれは
1007

芬陀利花院前關白内大臣

文保三年百首の歌奉りける時

逢ふ事はなほかた糸にぬく玉の心よわくぞ思ひみだるゝ
1008

八條院高倉

寳治二年百首の歌奉りし時、寄玉戀

消えね唯何ぞはあだの言の葉にかけてもつらき袖の白玉
1009

藤原隆祐朝臣

題志らず

徒に年は經にけり玉の緒のながらへばとも契りやはせし
1010

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時、寄篠戀

玉笹の葉分の露の消えぬべく思ふとまでは知る人やなき
1011

讀人志らず

貫之が家の歌合に

秋萩に置く白露の消えかへり人を戀しとおもふころかな
1012

赤染衛門

十月ばかりに女のもとへ遣はさむとて男のよませ侍りけるに

霜枯の野べに朝吹く風の音の身にしむ計り物をこそ思へ
1013

前大納言良教

寄露戀

我が戀は草葉にあまる露なれや置き所なく身を歎くらむ
1014

式子内親王

百首の歌の中に

我が袖はかりにも干めや紅のあさはの野らにかゝる夕露
1015

權大納言公實

堀河院の御時奉りける百首の歌に

憂しとのみ人の心をみしま江の入江の眞菰さぞ亂るらむ
1016

土御門院御製

寄鏡戀の心を

ます鏡戀しき人は見えなくに我が面かげの何うつるらむ
1017

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りける時

我がなかは遠山鳥のます鏡よそにも人のかげをやは見る
1018

權中納言實直母

題志らず

山鳥のをろの鏡のよそながら見し面影にねこそなかるれ
1019

鴨祐夏

いつまでかよそにのみして天雲の隔つる中に戀渡るべき
1020

後岡屋前關白左大臣

逢ふ迄と頼をかけし玉の緒の弱るばかりに年ぞ經にける
1021

伊勢大輔

男のずゝを置きてつとめて取りにおこせたりけるに遣しける

人しれぬ思の玉のをだえなば何してあはぬ數をとらまし
1022

壽成門院

題志らず

戀死なぬ命ばかりはおなじ世の契ありとや猶たのまゝし
1023

藻壁門院但馬

寳治の百首の歌奉りける時、寄湊戀

湊入の蘆間を分けてこぐ舟も思ふなかには障らざりけり
1024

讀人志らず

延喜十三年、亭子院の歌合に、戀

蘆間より難波の浦を引く舟の綱手ながくも戀ひ渡るかな
1025

基俊

題志らず

なぞもかく天の戸渡る海士小舟舵とる間なく物思ふらむ
1026

和泉式部

與謝の海の蜑の所爲と見し物をさも我がやくと汐たるゝ哉
1027

道曉法師

逢ふ事は堅田の浦のおきつ浪立つ名ばかりや契なるらむ
1028

後深草院少將内侍

汐垂るゝ身をば思はず異浦に立つ名苦しき夕けぶりかな
1029

後伏見院御製

戀の歌とてよませ給うける

逢ふ事も身には渚に寄る浪のよその見る目にねこそなかるれ
1030

權中納言時光

百首の歌奉りし時、寄藻戀

いつまでか思ひ亂れむ徒におきつ玉藻のみがくれにして
1031

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りけるに

如何にせむ唐土船の寄る方も知らぬに騷ぐ袖のみなとを
1032

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

逢ふことは浪路遙にこぐ舟のほの見し人に戀ひや渡らむ
1033

前參議爲秀女

題志らず

寄る舟の便はなくていたづらに我が身こがるゝ床の浦浪
1034

賀茂成助

春の立ちける日女の許へ遣しける

春立てば空の景色の變るかなつらき心もかゝらましかば
1035

太宰大貳高遠

櫻の花につけて或る女に遣しける

隔てたる霞の間より散る花は忍ぶに餘るこゝろとを知れ
1036

基俊

年頃物申し渡りけれどいとつれなくてやみ侍りけるに、女のいかゞ思ひけむ、いと面白く咲きたる花をおこせたりければ言ひ遣しける

如何にして花の下紐解けにけむ人の心はありしながらに
1037

洞院攝政左大臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄帶戀

紫の濃染のおびのかたむすび解けてぬる夜の限知らせよ
1038

後堀河院民部卿典侍

かりそめに結び捨てける下帶をながき契となほや頼まむ
1039

祖月法師

題志らず

思へどもえぞ岩代のむすび松打ちとけぬべき心ならねば
1040

謙徳公

杉立てる宿も教へずつらければ三輪の山邊を誰に問はまし
1041

行乘法師

祈らずよ泊瀬の檜原時雨にも露にも染めぬ色を見むとは
1042

八條入道内大臣

御祓せし神も受けずば立返りつらき人をや又かこたまし
1043

三善爲連

神だにも靡かぬ中のゆふしでは何にかくべき頼なるらむ
1044

前大納言爲定

依戀祈身

戀死なぬ身の難面さを祈るより思絶えぬと神や知るらむ
1045

關白左大臣

百首の歌奉りし時、寄杜戀

時雨する生田の杜の初紅葉日を經てまさる色に戀ひつゝ
1046

從三位行尹

正和五年九月盡日後醍醐院いまだみこの宮と申しける時十首の歌召しけるに、見不逢戀

時雨れ行く雲の絶間の峰の松見ずば難面き程も知られじ
1047

從三位爲理

逢ふ事を暫しはかけじ沖つ浪よそのみるめの絶えもこそすれ
1048

中納言爲藤

いもせ山中なる瀧の音にのみ聞かぬばかりを猶や頼まむ
1049

藤原輔相

人に對面せむといひ送り侍りし返り事は無くて小石を送りければ

逢ふ事の渚にひろふ石なれや見れば涙のまづかゝるらむ
1050

前大納言爲兼

題志らず

海士の刈るみるめはよその契にて汐干も知らぬ袖の浦浪
1051

藤原爲清

海士のたく藻に住む虫に非ねども我から戀に身を焦す哉
1052

前大納言爲世

我が中は浦より遠に置く網の引けども寄らぬ程ぞ苦しき
1053

常磐井入道前太政大臣

女の許に遣しける

うらみても年經る蜑の釣のをのうけくに浮ぶ涙とを知れ
1054

源藤經

寄關戀と云ふ事をよめる

清見潟あふ事なみの關もりは我が通路に打ちもたゆまず
1055

法印長舜

題志らず

關守の心も知らず逢坂を我がかよひ路とおもひけるかな
1056

從二位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

聞くもうし誰を勿來の關の名ぞ行逢ふ道を急ぐこゝろに
1057

前大納言隆房

題志らず

如何にまた心ひとつの通ひ路も末は勿來の關となるらむ
1058

伏見院御製

寄布戀といふ事をよませたまうける

世と共に胸あひ難き我が戀のたぐひもつらき今日の細布
1059

讀人志らず

中納言匡房のいへの歌合に、戀の心を

戀しきもつらきも同じ思ひにてやむ時もなき我が心かな
1060

實方朝臣

戀の歌の中に

哀てふ言の葉いかで見てしがな侘果つる身の慰めにせむ
1061

小少將

あだに置く露の情の言の葉に我が命さへかゝる果敢なさ
1062

源頼康

憂きに猶堪ける年を數ふれば我が難面さの程ぞ知らるゝ
1063

權大納言義詮

聞戀と云ふ事を

存へて同じ浮世にありとのみ聞くや我が身の頼なるらむ
1064

法印良憲

題志らず

つれなさの限も知らず同じ世に命あらばと頼む果敢なさ
1065

前大納言爲兼

かひなしや憂きになしても一方に思ひもこりぬ心弱さは
1066

前中納言隆長

元亨三年八月大覺寺殿に行幸ありて人々題をさぐりて歌仕うまつりける時、不逢戀

逢ふまでは結ばざりける先の世の報しられて憂き契かな
1067

前大納言公蔭

戀契と云ふ事を

世々かけて我さへつらし報ありて憂きに引かるゝ契と思へば
1068

善源法師

戀の歌の中に

報ある世とも知らでや憂き人の心の儘につれなかるらむ
1069

前大納言實教

嘉元の百首の歌奉りける時、不遇戀

あらましに慰むほどの契だにわが心よりおもひ絶えにき
1070

俊惠法師

題志らず

逢ふにだにかへむ命は悲しきに憂き人故に身をや捨つべき
1071

前大納言爲氏

二品法親王性助の家の五十首のうたに

戀死なむ後の世とても如何ならむ生きて難面き人の心は
1072

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、不遇戀

難面しとよそにや見えむ逢ふ事に人の換ねばいける命を
1073

金光院入道前右大臣

戀の歌の中に

逢見ての後のつらさをせめてなど歎く計りの思出もがな
1074

法印定煕

さりともと果敢なく頼む心こそつれなき中の契なりけれ
1075

宗惠法師

逢ふ事にかへもこそすれ惜からぬ我が命とは人に語らじ
1076

三善信方

訪はれぬも憂き身の咎と思ふこそせめても慕ふ心なりけれ
1077

殷富門院大輔

何か思ふ強ても言はじうき身をは厭ふもさこそ苦しかるらめ
1078

寂蓮法師

千五百番歌合に

伊勢の海の潮瀬に靡く濱荻の程なきふしに何しをるらむ
1079

冷泉前太政大臣

建長二年、鳥羽院にて、寄水戀を

せきとむる山井の水の影にだに見ずば袂を絞らましやは
1080

永福門院

題志らず

人心淺きにまさるおもひ川浮瀬に消えぬみづからもうし
1081

藤原頼清朝臣

人知れぬ心のうちのおもひ川流れて末のたのみだになし
1082

按察使實繼

百首の歌奉りし時、寄橋戀

年を經て戀ひわたる身の苦しさを哀とは思へ宇治の橋姫
1083

源頼康

寄川戀

思ひかね宇治の川長こととはむ身の浮舟も寄るべありやと
1084

大藏卿有家

名所の歌の中に

最上川人のこゝろのいな舟も暫しばかりと聞かば頼まむ
1085

式乾門院御匣

題志らず

水の上の泡と消えなば戀瀬川ながれて物は思はざらまし
1086

前參議爲秀

そこひなき淵となりても涙川したに心のさわぎやはせぬ
1087

山本入道前太政大臣

逢ふ瀬なき涙の川の澪標つらきしるしに朽ちや果てなむ
1088

權大僧都信聰

いかなれば人に心をそめ河の渡らぬ瀬にも袖ぬらすらむ
1089

前中納言匡房

すけしげがむすめを云ひ渡りけるに下野守よしつなに逢ひぬと聞きて云ひ遣しける

烟立つ室の八島にあらぬ身はこがれし事ぞ悔しかりける
1090

平忠度朝臣

戀の歌の中に

浮世をば歎きながらも過し來て戀に我身や堪ずなりなむ
1091

法印村基

さてしもぞ命は最ど惜からむ逢ふにはかへじ戀は死ぬとも
1092

伴周清

逢ふ事にかへぬ命ぞよそながらなか/\長き契なりける
1093

小侍從

身の憂さを思ひも知らぬ物ならば何をか戀の慰めにせむ
1094

鷹司院帥

寳治の百首の歌奉りける時、寄枕戀

敷妙の枕もうとくなるまでにさても寢ぬ夜の積りぬる哉
1095

源頼隆

題志らず

戀ひ侘ぶる袖の涙をその儘にほさでかた敷く夜半のさ莚
1096

源宗範

逢ふ事はかたしき衣さ莚に寢ぬ夜かさねて濡るゝ袖かな
1097

藤原雅冬朝臣

百首の歌奉りし時、寄衣戀

ひとりぬる泪の床の濡衣逢ふ夜も知らで朽ちや果てなむ
1098

鷹司院按察

戀の歌の中に

幾夜われおしあけ方の月影にことわりならぬ物思ふらむ
1099

後醍醐院御製

おのづから慰むやとて眺むれば月見ぬよりも濡るゝ袖哉
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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