新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第十三
戀歌三

1100

土御門院御製

百首の御歌の中に

行き逢はむ程をば知らず住吉の松の絶間のちぎの片そぎ
1101

新少將

題志らず

待つ人も梢にかゝる空蝉のうき身からにや音づれもせぬ
1102

前大納言爲家

果敢なしや誰が僞のなき世とて頼みし儘の暮を待つらむ
1103

土御門入道前内大臣

龜山殿の十首のうたに、忍待戀

さりともと心ひとつに頼むかな人の知るべき夕ならねば
1104

前大僧正道意

戀の歌の中に

わくらばに待てと頼むる言の葉の僞ならぬゆふ暮もがな
1105

後九條前内大臣

秋戀の心を

秋の雨に桐の葉落つる夕暮を思ひ捨つるぞ待つに勝れる
1106

藤原信實朝臣

光明峰寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄莚戀

徒にくらせる宵のさむしろは夢を頼みて寢むかたもなし
1107

惟宗光吉朝臣

夜戀を

歎侘び逢ふと計りをいかにして暮せる宵の夢にだに見む
1108

源貞世

題志らず

侘びぬれば今宵も獨ぬるが内に見えつる夢や強て頼まむ
1109

權大納言長雅

寄衣戀と云ふ事を

これも亦待つとや云はむ小夜衣かへす夢路の頼ばかりに
1110

後照念院關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りけるに、待戀

よしさらば待たじと思ふ夕こそ我が心さへ頼みがたけれ
1111

大江廣秀

戀の心を

筏おろす杣山河のはやき瀬にさはらぬ暮と思はましかば
1112

馬内侍

年ごろ語らひける人のこの夕人の婿なるべしと聞きて筏をつくりて書きてやりける

大井川人目もらさぬ今日やさは杣の筏士くれを待つらむ
1113

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時

待ちなれし夕暮ごとに小蜑のいとも苦しく物をこそ思へ
1114

徽安門院一條

頼めしもまだ知る人は無き物をことにな立てそ松の夕風
1115

權大納言宣明

忍待戀

このくれも音にな立てそ志のぶ山こゝろ一つの峯の松風
1116

賀茂雅久

題志らず

等閑の言の葉にのみ聞き慣れて頼むばかりの夕暮もなし
1117

藤原爲冬朝臣

僞の憂きにも堪へて待たれけり身はならはしの夕暮の空
1118

從三位藤子

僞の言の葉まではたのむとも契らぬ暮の待たれずもがな
1119

大江忠幸

待つ人は今宵もいさや入日さすとよはた雲の夕ぐれの空
1120

彈正尹邦省親王

臨期變約戀の心を

この暮に驚かさずばかはりける契も知らで猶や待たまし
1121

從二位爲子

伏見院に奉りける三十首の歌に

頼めねば僞とだにかこたれて我が慰めにしひて待つ夜は
1122

後西園寺入道前太政大臣

五首の歌合に、戀夕

一かたに待ちもやせまし僞の憂きにならはぬ夕なりせば
1123

津守國冬

文保三年百首の歌奉りける時

僞は待たれしまでのなさけにてなか/\つらくなる契哉
1124

後醍醐院女藏人萬代

題志らず

いつはりの契なりとも頼みてや變らば喞つ言の葉にせむ
1125

入道親王尊道

待戀の心を

かくばかり待たれずもがな僞と思ひしまゝの心なりせば
1126

讀人志らず

女の許より山吹につけて申し侍りける

頼めこしうき僞をつらしとも云はぬに見ゆる花の色かな
1127

淨妙寺關白前右大臣

返し

いはで唯あだに移ろふ花にこそとへと思はぬ色も見えしか
1128

讀人志らず

題志らず

世の中に絶えて僞なかりせばたのみぬべくも見ゆる玉章
1129

源孝朝

連夜待戀と云ふ事を

果敢なしや暮るゝ夜毎の僞に何時までこりぬ心なるらむ
1130

中納言爲藤

嘉元の百首の歌奉りし時

果敢なくて待つらむとこそ僞に契りし人は思ひ出づらめ
1131

法印淨辨

題志らず

僞の契ならずばおのづから人もひと目のひまや待つらむ
1132

中務卿宗尊親王

こぬまでも慰むものを僞のなき世なれとは誰か云ひけむ
1133

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りけるに

契ればと頼むも悲しいつはりの無き夕暮にいつ習ひけむ
1134

廉仁王

待戀の心をよみ侍りける

幾夜まで待ち明せとて憂き人の猶いつはりの數積るらむ
1135

大藏卿隆博

戀の心を

いつまでかこぬ夜數多と恨みても流石待たれし夕なりけむ
1136

如雄法師

僞のむなしきかずの積るより夕ぐれをさへ恨みつるかな
1137

權律師則祐

いつはりと思はで頼む暮もがな待つ程をだに慰めにせむ
1138

前中納言基成

題志らず

さゝがにのいとかき絶えし夕より袖にかゝるは涙なりけり
1139

[5]A5子内親王

さりともと夕けの卜の今宵さへ逢はずば頼むかひや無からむ
1140

前大納言忠季

戀の歌の中に

頼めてもいかゞと思ふ宵の間の雨にぞいとゞ待弱りぬる
1141

花園院御製

自から人まありともつげてまし誠に通ふこゝろと思はゞ
1142

前中納言爲相

僞もかぎりあらばと頼む夜のいくたび更けて獨ねぬらむ
1143

頓阿法師

前大納言爲世の家に十首の歌よみ侍りしに、深夜待戀

更けぬるを恨みむとだに思ふ間に來ぬ夜知らるゝ鳥の聲哉
1144

照慶門院一條

嘉元の百首の歌奉りけるとき、待戀を

待たじとは思ふ物から更くる夜のつらきや何の心なる覽
1145

法皇御製

貞和の百首の歌召しけるついでに、戀の御歌

今宵さへ空しく更くる燈の消えなで明日もあらむ物かは
1146

關白前左大臣

更くる迄猶こそ頼め今宵ぞと云はぬをだにも待ちし心に
1147

土御門院御製

寄露戀を

宵の間は出でゝ拂はむと思ひしに先だつ袖の露ぞ怪しき
1148

彈正尹邦省親王

寄月戀

憂き人の面かげ添へて頼む夜も來ぬ夜も獨月を見るかな
1149

菅原在夏朝臣

つれなさの限をぞ知るたのめつゝ來ぬ夜の月の有明の空
1150

前中納言冬定

月前待戀といへる事を

今宵またむなしき袖に更けぬとは涙に宿る月ぞ知るらむ
1151

左兵衛督基氏

宵の間の繁き人めのやすらひに待つ程過ぎて月ぞ更行く
1152

大納言顯實母

頼めずばさても寢ぬべき宵々のつらさにかへて月を見る哉
1153

是法法師

題志らず

君待つと人には云はぬ僞もいく夜になりぬ山のはのつき
1154

源信武

僞と思ひも知らず待たるゝやこゝろに絶えぬ契なるらむ
1155

前中納言雅孝

文保の百首の歌奉りける時

待てばこそ恨もまされ僞に思ひなしてやうちも寐なまし
1156

源師光

寄水鷄戀を

眞木の戸を敲く水鷄をそれかとも驚くまでに訪はぬ君哉
1157

高階重直

題志らず

眞木の戸はさして今宵も明けに鳬障ると言はで何待たる覽
1158

大藏卿長綱

蘆間行く入江の舟のつな手繩さはるやよそに心引くらむ
1159

源光行

頼めつゝ來ぬ夜に豫て習はずば今日やつらさの始ならまし
1160

大中臣行廣朝臣

頼めつゝ來ぬ夜の數は積れども待たじと思ふ心だになし
1161

讀人志らず

菅家萬葉集の歌

思ひつゝ晝はかくても慰めつ夜ぞ侘しきひとりぬる身は
1162

昌義法師

題志らず

僞となにか喞たむ思はねば訪はぬぞ人のまことなりける
1163

法印隆淵

立ちかへりなほこそ頼め僞も積らば人やおもひ知るとて
1164

津守國夏

せめて唯更行く鐘ぞ待たれける忘れて來ずば驚かせとて
1165

能譽法師

頼めてもこぬみの濱の沖つ風何いほざきの松に吹くらむ
1166

忠見

戀の歌の中に

夢のごとなどか夜しも君を見む暮るゝ待つ間も定なき夜を
1167

惟宗忠貞

夢とだに思ひも分かぬ契哉闇のうつゝのさだかならねば
1168

權少僧都寛耀

前關白左大臣近衛のいへにて、寄鳥戀

浮名のみ立つあだ波の淺き瀬は通ふかひなき鳰のした道
1169

讀人志らず

題志らず

憂きふしと中々なりぬさゝ枕結ぶひと夜の夢のちぎりは
1170

關白前左大臣

百首の歌奉りし時、寄枕戀

忘れじな一夜のふしのさゝ枕人こそかりに思ひなすとも
1171

後宇多院御製

嘉元の百首の歌召されけるついでに、初逢戀

戀ひ死なば悔しかるべき契かな命ぞ人のなさけなりける
1172

贈從三位爲子

待遇戀と云へる事を

さすがまた限ありける契とや命つれなくたのみ來つらむ
1173

權少僧都經賢

忍逢戀といふ事をよみ侍りける

斯てしもあり果つまじき契とや逢ふ夜を人の猶忍ぶらむ
1174

民部卿爲明

貞和二年、百首の歌奉りし時

逢坂の木のしたかげの岩清水ながれてむすぶ契ともがな
1175

信實朝臣

稀會戀を

自づから逢ふ夜稀なる契をば忍ばずとても誰か知るべき
1176

從三位宣子

さ莚の塵は拂はじ逢はぬ夜の積れるかずも思ひ知れとて
1177

頓宗法師

民部卿爲明の家に歌よみ侍りしに、遇戀を

恨むべき言の葉ぞなき葛かづらくる夜は人の憂さも忘れて
1178

藤原基世女

題志らず

稀に來る人の涙も落ちそひて逢ふ夜ぞ袖は濡れ増りける
1179

正二位隆教

永仁六年龜山殿の五首の歌合に、來不留戀の心を

おのづから着ても頼まず涙せく花色ごろも歸りやすさは
1180

後光明照院前關白左大臣

別戀を

待て暫しまた夕暮とちぎるとも猶慰まじ今朝のわかれ路
1181

源時秀

思ひ知れまた夕暮の頼だになく/\惜しき今朝の名殘を
1182

前大納言爲家

後朝戀といへる事をよみ侍りける

そのまゝにさても消えなで白露のおきて悲しき道の芝草
1183

從二位行忠

戀の歌の中に

慰むる言の葉もなほ頼まれずさても別るゝきぬ%\の空
1184

藤原冬長

きぬ%\の別を慕ふ手枕になみだをそへて鳥や鳴くらむ
1185

正三位成國

憂しと聞く鳥の音ばかり殘りけり人はとまらぬ後朝の空
1186

左兵衛督基氏

うつゝとも夢とも分かず鳥の音に鳴きて別るゝ東雲の空
1187

入道二品親王尊圓

寄鳥戀を

天の戸の明くるも知らで別路を唯鳥の音に喞ちつるかな
1188

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、寄關戀

逢坂のゆふつけ鳥は心せよまたもこゆべき關路ならぬに
1189

藤原盛徳

戀の歌の中に

自から逢ひ見る夢も覺めゆけばこれも別と鳥や鳴くらむ
1190

前參議爲秀

旅戀を

露しげき野上の里のかり枕しをれて出づる袖のわかれ路
1191

藤原仲文

左京に云ひ遣しける

程もなく明けて別れし曉はいとゞ露こそおき憂かりしか
1192

皇太后宮大夫俊成

後朝戀の心を

暮にもとちぎりおけども杣川の筏の床はおきぞわびぬる
1193

醍醐入道前太政大臣

千五百番歌合に

逢見ても名殘をしまの蜑人は今朝のおきにぞ袖濡しける
1194

赤染衛門

語らひける人の七月八日の夜來て物語して歸りぬるつとめて

七夕の昨日別れし袖よりも明くれば今朝ぞ侘しかりける
1195

從三位爲理

後醍醐院いまだみこの宮と申しける時、千首の歌召しけるに、恨別戀

ぬる夜さへ中にありつる唐衣うらみ變らでおき別れつゝ
1196

祝部成藤

題志らず

恨むるも慕ふも同じ涙にて逢ふよはさへにぬるゝ袖かな
1197

讀人志らず

移り香の殘る衣を片敷きて又寢のとこもおき憂かりけり
1198

前中納言基隆

曉別戀の心を

面影の後しのべとやありあけの月にも人のおき別るらむ
1199

法印顯詮

題志らず

忘れずよ今はと云ひしきぬ%\の面かげ殘す有明のつき
1200

大江頼重

今はまたとりの音ばかり形見にて有明の月を涙にぞ見る
1201

萬秋門院

嘉元の百首の歌に

憂きものと見し別路の有明に又やつれなくかげ慕ふらむ
1202

後宇多院御製

戀の御歌の中に

わするなと今一たびは云ひてましありし別を限と思はゞ
1203

從三位爲繼

身を捨てゝそへし心のかひもなく戀しき事のなど殘る覽
1204

花山院前内大臣

弘安元年百首の歌奉りける時

手枕のうつり香殘る朝寐がみ心みだるゝかたみなりけり
1205

躬恒

題志らず

朝な/\けづればいとゞ亂れつゝ我が黒髮の解けぬ頃哉
1206

藤原業清朝臣

いつまでかしづはたおびの存へて心も解けぬ契待つらむ
1207

進子内親王

なれそめし契忘るな下帶のまた打ち解くる人はありとも
1208

前中納言定家

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄帶戀

いかゞせむうへは難面き下帶の別れし路に廻り逢はずば
1209

俊惠法師

戀の歌の中に

あひ見ても忘るゝ程になりなましありし契の誠なりせば
1210

從三位雅宗

契經年戀といへる事を

あさからぬ契の程は年つきの積るにつけて人も知るらむ
1211

藤原行輔朝臣

百首の歌奉りし時、寄弓戀

つゝむとて急ぐけしきに梓弓おし返してもえこそ契らね
1212

眞昭法師

題志らず

ゆす末をたのめても猶音をぞなく知らぬ命の心よわさに
1213

前參議爲秀女

言の葉も定めなき世と思へども契りしまでの命ともがな
1214

法印實顯

ちぎり置く心の末も見るばかり戀に惜しきは命なりけり
1215

藤原經清朝臣

契行末戀を

明日知らぬ身にはたのまず行く末を契るは人の誠なりとも
1216

前大納言爲定

契顯戀と云ふ事を

移ろはぬ契と聞くも頼まれず其言の葉の世にふりしより
1217

左兵衛督直義

戀の心を

契こそなほ頼まるれさりともと思ふかたには心ひかれて
1218

深守法親王

僞戀と云ふ事を

はかなくて頼む心をたよりとや憂き僞もある世なるらむ
1219

花園院御製

ありし世の契よせめて夢ならば思寐をだに待たまし物を
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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