新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第十四
戀歌四

1220

皇太后宮大夫俊成

戀の歌の中に

現には思ひ絶え行く逢ふ事をいかに見えつる夢路なる覽
1221

前中納言定家

入道二品親王道助の家の五十首の歌に、寄枕戀

おもひ出づる契の程もみじか夜の春の枕に夢は覺めにき
1222

藻壁門院少將

題志らず

思ひつゝいかに寐し夜を限にて又も結ばぬ夢路なるらむ
1223

花園院御製

憂しと見し一夜の夢の名殘より心に覺めぬ物をこそ思へ
1224

大納言師賢

寄夢戀

明くるをも待たぬ契の悲しきは逢ふと見る夜の夢の別路
1225

性威法師

鳥羽玉の夢かあらぬか逢ふ事もたゞ一夜にてやみの現は
1226

前中納言資平

名所戀と云ふ事を

現には訪はで年ふる三輪の山いかに待ち見むゆめの通路
1227

中納言爲藤

後西園寺入道前太政大臣の家にて歌詠み侍りしに、寄山戀

うき身には越えて後こそ逢坂の山も隔つる關となりけれ
1228

權中納言經定女

題志らず

越えてしも悔しかりける逢坂の關路を何に許しそめけむ
1229

人麿

今のみもいもをば戀ひず奥山の岩根苔生ひて久しき物を
1230

坂上大孃

中納言家持に遣しける

とに斯に人は云へども若狹路の後瀬の山の後も逢はむ君
1231

中納言家持

返し

後瀬山後も逢はむと思ふにそ死ぬべき物を今日迄もあれ
1232

三條右大臣女

中納言兼輔に逢ひはじめける頃は未だ下臈に侍りければ、女は逢はむの心やなかりけむ、男も宮仕にひまなくて常にも逢はざりける頃詠める

焚物のくゆる心はありしかど獨はたへて寐られざりけり
1233

平政村朝臣

遇不逢戀

逢はでこそ戀をいのりと頼みしか今はた何か命なるべき
1234

康資王母

題志らず

さらぬだに逢ふ事難き我が戀を年さへ痛く隔て行くかな
1235

伏見院御製

戀の御歌の中に

自から又逢ふ契ありとてもなれしながらの世には歸らじ
1236

馬内侍

絶えにし人の立ち歸り又云ひおこせたる返事に

君がこと思はぬ人のつらからば我は心もあくがれなまし
1237

大納言顯實母

題しらず

つらかりし心くらべの一方も弱らぬ末はとほざかりつゝ
1238

津守國夏

後宇多院の宰相典侍の歌合に、絶戀

頼まれぬ中とは豫て云ひしかど唯一夜とは思ひやはせし
1239

前關白左大臣近衛

戀の歌の中に

憂きに猶こりずぞたのむ僞をかこちて絶えむ心ならねば
1240

皇嘉門院別當

後法性寺入道關白の家の百首の歌に、遇不逢戀

つれなきを恨みし袖もぬれしかど泪の色は變りやはせし
1241

前參議爲秀

關白前左大臣の家に題を探りて歌詠み侍りけるに、變戀

言の葉の變るにつけて憂き人の心の色もまづ知られつゝ
1242

中宮大夫公宗母

文保の百首の歌奉りし時

よしさらば忍ぶる程に絶えもせよ顯はれば憂き中の契は
1243

權大納言義詮

契戀を

世々かけて契りし迄は難くとも命のうちに變らずもがな
1244

式部卿恒明親王

題志らず

逢ふ事は思絶ゆとも同じ世にありと計りを知せてしがな
1245

法眼聖承

同じ世に生けるばかりを契にて又逢ふ迄は思ひ絶えにき
1246

岡屋入道前攝政太政大臣

寄雲戀の心を

逢見ても隔つる中に行く雲のなど絶々にしぐれそめけむ
1247

後鳥羽院下野

寳治二年百首の歌奉りける時、同じ心を

眺めやるそなたの空の雲だにも跡なき果ぞ消えて悲しき
1248

信實朝臣

あだ人の心の花にまがへばや浮きたる雲のあとも定めぬ
1249

法性寺入道前關白太政大臣

題しらず

志ら菊もうつろひにけり憂き人の心ばかりと何思ひけむ
1250

徳大寺前内大臣

百首の歌奉りし時、寄杜戀

神なびの秋ならねども豫てより移ろふ色の見ゆる中かな
1251

待賢門院堀川

心變りたる男の灌佛のつくり物に松に鶴の居たりけるをおこせて、千とせまで契し深き中なれば松の梢に鶴ぞ居にけると云ひて返しを請ひけるに

鶴のゐる松とて何かたのむべき今は梢になみも越えなむ
1252

進子内親王

百首の歌の中に、寄鳰戀

鳰鳥の下の通ひ路絶えざらば浪の浮巣はうかれたりとも
1253

右兵衛督爲遠

頼むぞよ鳰の浮巣の浮きながら下の通ひの絶えぬ計りを
1254

源兼氏朝臣

寄鳥戀

鳰鳥のすむ池水の絶えもせばいかに忍べと通ひそめけむ
1255

清愼公

忍びたる女の、などかは來ぬと聞えたりければ

小田山の苗代水にあらなくに流れそめては絶えむ物かは
1256

讀人志らず

戀の歌の中に

我妹子に又も近江のやす川の安きいも寐ず戀ひ渡るかも
1257

藤原公時朝臣

遂に又いかなる瀬にか絶え果てむ山下水の淺きちぎりは
1258

中納言爲藤

龜山殿の千首の歌に、遇不逢戀

谷川の岩間に洩れし山みづの又は如何なる瀬に淀むらむ
1259

文保三年百首の歌奉りける時

水草ゐし野中の清水今さらにすむともいさやもとの心は
1260

前中納言定家

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄鏡戀

行く水の花の鏡の影も憂しあだなる色のうつりやすさは
1261

前大僧正賢俊

百首の歌奉りし時おなじ心を

移り行く心ぞつらきます鏡誰れ故かげとなる身なるらむ
1262

人丸

題志らず

ます鏡絶えにし妹を逢見ずば我が戀やまじ年は經ぬとも
1263

小町

忘草我が身につむとおもひしを人の心に生ふるなりけり
1264

讀人志らず

紀の國のあくらの濱の忘れ貝われは忘れじ年はふるとも
1265

從二位行家

建長元年、五首の歌に、寄海戀

つらかれと駿河の海の濱つゞらくる夜は稀に人ぞなりゆく
1266

二條院讃岐

題志らず

いかなれば泪の雨は隙なきを阿武隈川の瀬だえしぬらむ
1267

法印定爲

初瀬川結ぶ水泡のうき身世に消返りても絶えじとぞ思ふ
1268

中園入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、寄杉戀

初瀬川又逢ひ見むと頼めてし志るしやいづら二もとの杉
1269

實方朝臣

戀の歌の中に

我がごとや久米路の橋も中絶えて渡しわぶらむ葛城の神
1270

源和義朝臣

寄橋戀

岩橋の絶えにし中を葛城の神ならぬ身はなほも待つかな
1271

源基幸

題志らず

今はたゞ思ひ絶えにし面かげのはかなく通ふ夢のうき橋
1272

權中納言實直女

寐ぬる夜に逢ふと見つるも夢路にて彌はかなゝる契なり鳬
1273

前大納言爲氏

思ひ出づる心一つのかひもなし同じ世にだに知らぬ契は
1274

月花門院

百首の御歌の中に、戀の心を

さらに又おなじ心にわすれなで何に思はぬ人を戀ふらむ
1275

今出川院近衛

戀の歌の中に

忘れえぬ我が心こそいとはるれはて憂かりける人の契に
1276

衣笠前内大臣

思餘り昔までやはつらからぬ誰が世に人を忘れそめけむ
1277

平親清女

いかにして忘れむと思ふ心にも猶かなはぬは涙なりけり
1278

行蓮法師

又も見ぬ夢路ながらは絶えもせでつらき現に殘る魂の緒
1279

大藏卿行宗

寄夢戀

逢ふと見る夢も空しく覺めぬればつらき現に又なりに鳬
1280

源和氏

思ひ寐にしばし慰む夢をだにゆるさぬ夜半の鐘の音かな
1281

按察使實繼

貞和二年七月七日仙洞にて三首の歌つかうまつりけるに、遇不逢戀と云ふ事を

やがてなど昔語りになりぬらむ見しはまぢかき夢の通路
1282

藤原政元

題志らず

いかにせむ通ふ夢路も頼まれず思寐ならぬ夜はしなければ
1283

惟明親王

正治二年百首の歌奉りけるに

逢ふことは夢になりにし床の上に泪ばかりぞ現なりける
1284

御製

百首の歌めされし次でに、寄枕戀

知らざりきその曉をかぎりとも我にはつげの枕ならねば
1285

式乾門院御匣

戀の歌に

思はじと思ふも物の苦しきをやすくや人の忘れはつらむ
1286

前大納言爲氏

會不逢戀の心を

今は唯思ひたえたるつらさにて契くやしき夕ぐれのそら
1287

前大納言爲世

絶不逢戀

今は早や絶えにしまゝの現にてみる慰めの夢だにもなし
1288

源高秀

忘戀を

はかなくも思ひ出づやと頼むかな我が習はしの心弱さに
1289

永福門院内侍

伏見院に三十首の歌奉りけるに

はかなくて絶えにし中の名殘しも心にとまる果ぞ悲しき
1290

關白前左大臣

百首の歌奉りし時、寄鐘戀

待ちしよに又立ちかへる夕かな入相の鐘に物わすれせで
1291

前關白左大臣近衛

別路に聞きしも今は昔にて厭はぬかねのねをのみぞなく
1292

藤原爲重朝臣

ひとりぬる霜夜の鐘の響きより秋に更け行く契をぞ知る
1293

洞院攝政左大臣

家に百首の歌詠み侍りけるに

なら柴のなれし思や今さらにかり塲の小野のよその秋風
1294

源仲教

題志らず

いつまでか逢ふ事難きあら鷹の手なれぬ中に心おくらむ
1295

前參議定宗

かはり行く人の心の秋かぜにあふたのみだになき契かな
1296

權僧正果守

寄草戀と云ふ事を詠み侍りける

淺茅原なひくもおなじ秋風の移ろふ色に吹きかはるらむ
1297

正三位知家

洞院攝政の家の百首の歌に、逢不會戀を

かよひこし里は伏見の秋かぜに人の心のあれまくも惜し
1298

龜山院御製

おなじ心を

つらきかな待ちしに變る夕暮を身は憂き時と秋風ぞ吹く
1299

閑院

平貞文絶えて後程經て逢ひて露のおきゐてと申しける返事に

白露の起臥誰を戀ひつらむ我はきゝおはす磯のかみにて
1300

前中納言季雄

戀の歌の中に

見し儘に形見なるべき月だにも憂きより外の面影ぞなき
1301

前内大臣

寄月戀

村雲の空行く月もある物を絶え%\にだに見えぬ君かな
1302

榮子内親王

自から思ひも出でば忘れじと契りしまゝの月や見るらむ
1303

權中納言公雄

山階入道前左大臣の家の十首の歌に、寄秋月戀

身をさらぬ面影ばかりさやかにて月のため憂き我が涙哉
1304

壽曉法師

題志らず

いかなれば立ちも離れぬ面影の身にそひ乍ら戀しかる覽
1305

江侍從

身まかりける男の文をとり集めてやりすつとて

見るまゝに落つる泪の玉章はやる方もなく悲しかりけり
1306

貫之

文やる女の、いかなるにかありけむ、あまたゝび返事せざりければ、やりつる文どもをだに返せと云ひやりたりければ、紙やきたる灰をこれなむそれとておこせたれば詠みてやりける

君が爲我こそ灰となり果てめしら玉章はやけてかひなし
1307

式部卿宇合

題志らず

玉藻苅るおきべはゆかし敷妙の枕せし人わすれかねつも
1308

前中納言定家

光明峰寺入道前攝政の家の百首の歌に、名所戀

いかにせむ浦のはつ島はつかなる現の後は夢をだに見ず
1309

藻壁門院但馬

寄舟戀を

蜑小舟我をばよそにみ熊野の浦よりをちに遠ざかりつゝ
1310

前議經宣

寄海戀

足たゆく來るてふ蜑にこととはむ枯れなで殘るみるめ有りやと
1311

源貞世

題志らず

追風にまかぢしげぬき行く舟の早くぞ人は遠ざかりぬる
1312

前大納言爲家

から藍の八しほの衣ふりぬとも染めし心の色はかはらじ
1313

藤原爲重朝臣

寄衣戀を

小夜衣かけはなれてもいとゞ猶ほさぬは袖の泪なりけり
1314

昭覺法師

おなじ心を

つき草に摺れる衣のいろよりも移るはやすき心とぞ見る
1315

己心院前攝政左大臣

戀の歌の中に

萎るればこれをも海士の衣とや契りし中の間遠なるらむ
1316

達智門院

重ねてもなれにし中の小夜衣隔つる物といつなりにけむ
1317

前參議爲實

文保三年百首の歌奉りける時

音をぞなくとほ山鳥のひとり寐に長きへだての中の契は
1318

後鳥羽院御製

十首の歌合に、久戀

よと共に亂れてぞ思ふ山鳥のをろの長尾の長きつらさに
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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