新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第十七
釋教歌

1449

もろともに一味の雨はかゝれども松は緑に藤はむらさき

此の歌は、住吉の社にまうでゝ通夜し侍りける人の夢に示し給ひける普賢菩薩の御歌となむ。

1450

傳教大師

比叡山の中堂に始めて常燈ともして揚げ給ひける時

あきらけく後の佛のみよまでも光つたへよ法のともし火
1451

花山院御製

修行せさせ給うける時粉河の觀音にて、御札に書かせ給うける御歌

昔より風に知られぬともし火の光にはるゝ後の世のやみ
1452

大貳三位

人の功徳つくりし所に捧物遣すとて

消えがたき昔の人のともし火に思ふ心はおとりしもせじ
1453

慈覺大師

題志らず

三界をひとつ心と知りぬれば十の境こそすぐにみちなれ
1454

清少納言女

法華經序品

白妙の光にまがふ色みてやひもとく花をかねて知るらむ
1455

花山院入道前太政大臣

前大納言爲家日吉の社にて八講おこなひ侍りける時、人々に一品經の歌すゝめけるに、方便品

幾度かまた世に出でし秋の月あまねき影は人ももらさず
1456

花山院前内大臣

譬喩品

めぐりきて猶ふる郷の出でがてをさそふも嬉し三の小車
1457

法印房觀

得未曾有非本所望

かねて我が思ひしよりも吉野山なほ立ちまさる花の白雲
1458

入道二品親王尊圓

化城喩品、從冥入於闇永不聞佛名の心を

五月やみ木の下道はくらきより暗きに迷ふ道ぞくるしき
1459

前大納言忠良

採薪及菓[6]D6

つま木とる山の秋風いかばかり習はぬ袖に露こぼるらむ
1460

從二位行家

勸持品

渡つ海の底まで照す月影に洩れたる海士はさぞ恨みけむ
1461

前大納言資名

涌出品

法の花ひらくる庭の時の間に置くしら露の數ぞそひける
1462

土御門入道前内大臣

壽量品

今も猶すむなるものを鷲の山人のこゝろの雲ぞへだつる
1463

前大納言良信

柔和質直者則皆見我身の心を

にごりなき心の水にかげとめて二たびやどれ山の端の月
1464

法眼源承

隨喜功徳品、何况於法會

水上をおもひこそやれ谷川のながれも匂ふ菊のしたみづ
1465

寂蓮法師

如寒者得火

谷のみづ峯の嵐を忍びきて法のたきゞに逢ふぞうれしき
1466

中納言爲藤

なき人をとぶらひて法華經書きて品々の心を歌に詠み侍りけるに、普門品、火澄變成池

なき人の別ををしの音にたつる思よ池のみづとだになれ
1467

前中納言定家

母の爲に經書きける時、嚴王品の心を

此道を導べと頼む跡しあらば迷ひし闇も今日ははるけよ
1468

寂然法師

普賢經、我心自空罪福無主

かつまたの池の心はむなしくて氷も水も名のみなりけり
1469

周防内侍

小野右大臣の千日の講をたび/\聞きてはての日捧物遣しける包紙に

世にふれば君にひかれて有難き一味の雨に千度濡れぬる
1470

入道二品親王覺譽

延文二年七月雨の御祈承はりて水天供つとめ侍りしに詠み侍りける

法の水絶えずばなどか草も木もうるほふ程の驗なからむ
1471

二品法親王覺助

文保の百首の歌奉りし時

うづもれぬ法の水上跡しあれば代々の流は君ぞ知るらむ
1472

高階宗成朝臣

題志らず

法の水汲みてやみまし山の井の濁りやすきは心なれども
1473

前大納言宗明

十如是の心を詠み侍りしとき、如是縁

山川の同じながれをむすびても猶あさからぬ契をぞ知る
1474

靜仁法親王

題志らず

絶えぬべき三井の流の法の水身をはや乍ら爭で汲まゝし
1475

法印憲實

金剛經の是法平等無有高下の心を

みなそこに沈むもおなじ光ぞと空に知らるゝ秋の夜の月
1476

薀堅法師

無量義經の四十餘年未顯眞實の心を

今ぞ見る四十ぢあまりの言の葉に顯はさゞりし露の光を
1477

法眼源忠

扇解脱風除世惱熱

山の端の雲にいり日は殘れどもすゞしくなりぬ松の下風
1478

夢窓國師

世尊不説之説、迦葉不聞之聞と云へる心を

樣々に説けども説かぬ言の葉を聞かずして聞く人ぞ少き
1479

左兵衛督直義

釋教の歌に

かりにこそ説き置く法の理にとまりて人や猶まよふらむ
1480

圓胤上人

消えなばと露の命にたのむかな深きよもぎのもとの誓を
1481

赤染衛門

法師のかたはらなる局に來りしに經讀めと云はせしかば、いと暗し、火燈してと云ひしに油やるとて

消えぬべき法の末には成ぬ共身を燈しても聞くべかり鳬
1482

入道親王尊道

二品尊圓親王書き置きたりける聖教を見て思ひつゞけ侍りける

おろかなる心のやみを照せとやかゝげ置きけむ法の燈火
1483

前僧正慈勝

六帖の題にて詠み侍りける歌の中に、釣を

さのみなど苦しき海に廻るらむ釣する蜑のうけ難き身を
1484

中務卿宗尊親王

不偸盜戒を

心なき春のあらしも山里のぬしある花はよきて吹かなむ
1485

法印源全

延暦寺戒壇さらに造りて澄覺法親王受戒おこなひける時思ひつゞけゝる

法の道むかしにかへる時に逢ひて今も變らぬ教をぞ聞く
1486

前僧正顯遍

識實性の唯識の心を

よしあしの思をやめて悟り入る心の奥もこゝろなりけり
1487

後宇多院御製

釋教の御歌の中に

梅の花みよの佛のためにとて折りつる袖ぞ人なとがめそ
1488

僧正慈能

一色一香無非中道

色も香もまことの法と聞きしより花に心の猶うつるかな
1489

前大僧正公澄

善惡不二邪正一如の心を

よしあしは一つ入江の澪標ふかき御法のしるしなりけり
1490

素性法師

世間相常住の心を

世の中の常とは見れど秋の野の移ろひかはる時ぞ侘しき
1491

欣子内親王

題志らず

いたづらに又この度もこゆるぎの急がで法の舟に後るな
1492

正嚴法師

いつかけし衣の裏の玉とだに知らで幾世か迷ひきぬらむ
1493

讀人志らず

おろかなる泪をかけて歎くかな衣のうらの玉を知らねば
1494

雙救上人

般舟讃、一到彌陀安養國元來是我法王家の心を

さらに又たづねきつれど住みなれし昔の花の都なりけり
1495

權僧正圓位

題志らず

にごらじな心の水のそこきよみ八重に花咲くむねの蓮葉
1496

兼空上人

九品往生の心を

よしあしの人をわかじと蓮ばな九品まで咲きかはるなり
1497

法印顯詮

各留半座乘花葉待我閻浮同行人

頼むぞよさきだつ人に契りてしおなじ蓮の花のなかばを
1498

讀人志らず

題志らず

こゝろをも猶や磨かむ蓮葉の露のたま/\法に逢ひつゝ
1499

仁明天皇御製

いつのまに厭ふ心をかつ見つゝ蓮にをるは我身なるらむ
1500

權少僧都源信

夏衣ひとへに西を思ふかなうらなく彌陀を頼む身なれば
1501

參議雅經

五神通の中に、天耳通の心を

遠ざかる聲もをしまじ時鳥聞きのこすべき四方の空かは
1502

前大僧正隆辨

彌勒を

ながき夜の曉を待つ月かげはいくへの雲の上にすむらむ
1503

前大僧正桓守

釋教の歌の中に

さすが猶我が山のはに殘るかな闇路をてらす法の月かげ
1504

法印守遍

十住心の中に、覺心不生心の心を

跡もなき室のやしまの夕けぶり靡くと見しや迷なるらむ
1505

前大僧正榮海

法流の事勅問につきて奏し侍りし時、思ひつゞけ侍りける

言の葉を散らさずもがな雲居まで吹傳へたる小野の山風
1506

後法性寺入道前關白太政大臣

法界體性智の心を

自から法の境に入る人はそれこそやがてさとりなりけれ
1507

崇徳院御製

沙羅林を

梢さへ頼むかげなく枯れにけり花の姿のねにしかへれば
1508

瞻西上人

雪にて丈六の佛を造り奉りて供養すとて詠める

いにしへの鶴の林のみゆきかと思ひとくにぞ哀なりける
1509

後京極攝政前太政大臣

禪波羅密

心をばこゝろの底にをさめ置きて塵も動かぬ床の上かな
1510

慈威上人

釋教の歌詠みける中に

夢ならば六十ぢの老も過に鳬覺めぬねぶりぞ久しかりける
1511

心海上人

山の常行堂の流通の鐘に鑄つけ侍りける歌

本覺の山のたかねの鐘のおとに長き眠をおどろかすかな
1512

前大僧正良信

菅原寺を興隆し侍りて後、古寺鐘と云ふ事を

菅原や絶えぬる法の跡とめて又おどろかす鐘のおとかな
1513

慶政上人

地藏菩薩を

迷ひ行くふかき闇路のわたり川誠の瀬には君のみぞ立つ
1514

爲道朝臣

地藏の名號を始に置きて六首の歌詠み侍りけるに

契あればうき身乍らぞ頼もしき救はむ世々の數に洩れじと
1515

天台座主院源

題志らず

西へ行く月に心の澄ぬればうき世の中は寢られざりけり
1516

土御門院御製

西へとや御法の門を教ふらむさきだちて行く秋の夜の月
1517

後嵯峨院御製

月夜極樂を觀ぜさせ給ふとて

雲間よりいざよふ月にあくがれていとゞ西にも行く心哉
1518

皇太后宮大夫俊成

美福門院に極樂六時讃の繪に書かるべき歌奉るべき由侍りけるに夜のさかひ靜にて漸く中夜に至るほど

ふかき夜の光も聲も靜かにて月のみ顏をさやかにぞ見る
1519

前權僧正慈慶

究竟即の心を

一むらは猶しぐれつる雲はれて障るかたなく澄める月影
1520

前大僧正良覺

心月輪の心を

身をさらぬ心のつきのわくらばに澄むぞ悟の始なりける
1521

惟賢上人

菩提心論の我見自心形如月輪を

よそに見る影とは云はじ心にも空にも同じ月ぞ出でぬる
1522

權僧正寛伊

前大僧正成惠に法流の事申しおくとて詠み侍りける

たのむぞよ御法のこまを進めても跡に迷ふな小野の古道
1523

入道親王尊道

前大僧正桓豪、大僧都慈濟に灌頂さづけ侍りし又の朝申し遣しける

つたへ置くおなじ流のふかければ又せき入れつ谷川の水
1524

前大僧正桓豪

返し

谷川の世々にせき入れし跡とめて絶えぬ流を今もうく覽
1525

岡本前關白左大臣

懺法の悲歎の聲を聞きて詠み侍りける

今聞くも泪なりけりいにしへの杉立つほらの深き御法は
1526

和泉式部

鞍馬に參りたりけるに、かたはらの局より扇にくだ物を入れておこせたりければ

いか計り勤むる事もなき物をこは誰が爲に拾ふこのみぞ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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