新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第四
秋歌上

310

法皇御製

貞和二年七月七日三首の歌召されけるついでに、早凉知秋といふ事をよませたまうける

秋來ぬと思ひもあへず朝げより始めてすゞしせみの羽衣
311

權大納言義詮

早秋の心を

蝉の羽の薄きたもとに吹きかへて頓て身にしむ秋の初風
312

從二位家隆

二品法親王守覺の家の五十首の歌に

秋風の吹きにし日より片岡の蝉の鳴く音も色かはるなり
313

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時、初秋

須磨の蜑の袖になれぬる浦風も秋とや今朝は吹き變る覽
314

西行法師

秋の始め鳴尾といふ所にてよめる

常よりも秋に鳴尾の松風は分きて身にしむ物にぞ有ける
315

大納言經信

題志らず

大伴の三津の濱松神さびてむかしながらの秋のはつかぜ
316

後鳥羽院宮内卿

千五百番歌合に

軒近き松の木ずゑに音づれて袖に知らるゝ秋のはつかぜ
317

彈正尹邦省親王

初秋の心を

飛鳥風音吹き變てたをやめの袖にも今朝や秋を知るらむ
318

前中納言匡房

たをやめのころもをうすみ秋や立つ飛鳥に近き葛城の山
319

後京極攝政前太政大臣

木末吹く風より秋の立田山下葉につゆやもらしそむらむ
320

二品法親王寛尊

いと早も露ぞ亂るゝ玉だれのこすの大野の秋のはつかぜ
321

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

秋はまだ淺茅が末の夕風に我がそでかけて露けかるらむ
322

基俊

堀川院の御時百首の歌奉りけるに、荻

獨居て詠むる宿に秋來ぬと荻のうは葉のおどろかすらむ
323

式乾門院御匣

題志らず

いかなれば荻の葉戰ぐ風の音の秋と聞くより寂しかるらむ
324

中務卿具平親王

終夜をぎの葉風の絶えせぬにいかでか露の玉と貫くらむ
325

御製

百首の歌召されし時、荻

分きてなど荻の葉にのみ殘るらむ程なく過ぐる庭の秋風
326

等持院贈左大臣

袖にのみ置きこそ増れ荻の葉の風にたまらぬ秋の白つゆ
327

達智門院兵衛督

秋の歌の中に

昔たれ秋のあはれを知り初めていまも涙の露こぼるらむ
328

圓光院入道前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りける時、初秋

秋來ぬと思ひもあへぬ衣手のたが習はしに露けかるらむ
329

菅原孝標朝臣女

題志らず

思ひいでゝ人こそ訪はね山里の籬の荻にあきかぜぞ吹く
330

躬恒

七夕の歌に

久堅の天のかはぎり立つ時や七夕つめのわたるなるらむ
331

赤人

天の河舵音きこゆ彦星のたなばたつめとこよひ逢ふらし
332

後岡屋前關白左大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

障るべき契ならねど七夕の暮るゝ待つ間や苦しかるらむ
333

前關白左大臣近衛

同じき七月七日三首の歌講ぜられけるに、七夕契久といふことを

幾秋も絶えぬ契や七夕の待つにかひあるひとよなるらむ
334

入道二品親王法守

百首の歌奉りける時、七夕

九重の庭のともしび影更けて星合のそらに月ぞかたぶく
335

從二位行家

題志らず

幾とせを行きめぐりても七夕の契は絶えじ夜はの下おび
336

前大納言經顯

貞和二年七月七日三首の歌に、七夕契久といへる事を

織女の稀に逢ふ瀬も年經ればわたりやなるゝ天の川なみ
337

院御製

七夕地儀といふ事をよませ給うける

天の川年の渡りは遠けれどながれて早くあきも來にけり
338

前大納言忠季

百首の歌奉りし時、七夕

重ねても恨や晴れぬ七夕の逢ふ夜間どほの雲のころもは
339

源兼氏朝臣

題志らず

いつのまに紅葉の橋を渡すらむしぐれぬさきの星合の空
340

中務卿宗尊親王

天の河思ふがなかに船はあれどかちより行くか鵲のはし
341

後二條院御製

幾秋かわたし來ぬらむ天のがはおのがよりはの鵲のはし
342

前參議經宣

元弘三年、立后の屏風に、七夕

七夕の五百機ごろも重ねても秋の一夜となにちぎりけむ
343

前大納言爲家

秋の歌の中に

七夕の雲のころもの衣々に歸るさつらきあまのかはなみ
344

内大臣

織女の飽かぬ別れの歸るさに今來む年をまたちぎるらむ
345

皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合の歌

風吹けばしのに亂るゝ苅萱も夕べは分きて露こぼれけり
346

前中納言長方

題志らず

夕されば尾花片寄る秋風にみだれもあへぬつゆのしら玉
347

[1]A1子内親王

風吹けば眞野の入江に寄る波を尾花にかけて露ぞ亂るゝ
348

輔仁親王家甲斐

雲居寺の瞻西上人の坊にて歌合し侍りける時詠める

野邊毎にみだれて見ゆる苅萱の露吹きむすぶ秋のやま風
349

從二位爲子

伏見院の卅首の歌に

置きあへぬ朝げの露に咲き初めて小萩が末は花ぞ色濃き
350

月花門院

百首の御歌に

朝な/\見れども飽かぬ秋萩の花をば雨に誰れ濡しけむ
351

法皇御製

秋の御歌の中に

忘れずよ萩の戸口のあけたてば詠めし花のいにしへの秋
352

中務卿具平親王

秋の花を贈りて今日まうでこむと云ひける人の遲く見えければ遣しける

千種なる花の錦を秋くれば見る人いかに立ち憂かるらむ
353

讀人志らず

題志らず

鶉鳴くいはれの野邊の秋萩をおもふ人とも見つる今日哉
354

法印隆淵

建武二年内裏の千首の歌に、秋植物

宮城野の露分け來つる袖よりも心にうつる萩がはなずり
355

法印定爲

文保の百首の歌奉りける時

萩が花折てを行かむ宮城野や木の下風に散らまくも惜し
356

人麿

題志らず

秋風は凉しくなりぬ駒なべていざ見に行かむ秋の花見に
357

春されば霞がくれに見えざりし秋萩咲けり折りて簪さむ
358

中納言家持

我が門に秋萩咲けり此の寐ぬる朝かぜ早み花散りぬべし
359

前大納言公蔭

百首の歌奉りし時、萩

小男鹿のしがらむ野邊の萩が花衣にすらむ散らまくも惜し
360

御製

月前萩と云へる事を詠ませ給うける

秋萩の露散る花のすりごろもうつろふ月も影ぞみだるゝ
361

前大納言爲氏

建長二年鳥羽殿にて、野草花を

唐ごろも裾野の草の白露のむすべば解くる花のしたひも
362

皇太后宮大夫俊成

秋の歌の中に

秋の野は心も志のにみだれつゝ苔の袖にも花やうつらむ
363

貫之

女郎花匂を袖にうつしてばあやなく人や我れをとがめむ
364

基俊

堀河院の御時、百首の歌に

あだし野の心も知らぬ秋風にあはれ片寄るをみなへし哉
365

二條院讃岐

千五百番歌合の歌

女郎女よがれぬ露をおきながらあだなる風に何靡くらむ
366

清原元輔

題志らず

なべて咲く花のなかにも女郎花多かる野邊は過憂かり鳬
367

法印實性

影くらき籬のもとの蟋蟀暮るゝも待たで音をや鳴くらむ
368

堀川院中宮上總

瞻西上人の歌合に

聲絶えず秋の夜すがら鳴く虫は淺茅がつゆぞ涙なりける
369

伏見院御製

秋の御歌の中に

露深きまだ朝あけの草がくれ夜の間の虫の聲ぞのこれる
370

古郷の籬の虫やうらむらむ野邊の假寐の夜さむなるころ
371

太宰大貳高遠

朝戸明けて花の紐疾く出でゝ見む立ちな隱しそ野邊の秋霧
372

邦世親王

風騷ぐ草のまがきの花ずゝき覆ふばかりの袖かとぞ見る
373

九條左大臣女

伏見院に卅首の歌奉りけるに草花露と云ふ事をよみ侍りける

夕暮の野邊吹き過ぐる秋風に千ぐさを傳ふ花の上のつゆ
374

頓阿法師

同じ心を

萩の上の露となりてや雲居飛ぶ雁の涙もいろに出づらむ
375

修理大夫顯季

白河院鳥羽殿におはしましける時、野草露繁といふ事を

鶉鳴くあだの大野の眞葛原いく夜のつゆに結ぼゝるらむ
376

前中納言定家

題志らず

鶉鳴く夕べのそらを名殘にて野となりにけり深草のさと
377

權中納言宗經

深草や我が故郷も幾秋か野となり果てゝうづら鳴くらむ
378

上西門院兵衞

立ちとまる人は交野の花薄何と穗に出でゝ招くなるらむ
379

梅壷女御

行きかへり故里人に身をなして獨ながむる秋のゆふぐれ
380

關白前左大臣

さらでだにもの思ふ事の限なる夕べを時と秋かぜぞ吹く
381

惟宗光吉朝臣

置きあまる露は亂れて淺茅生の小野の篠原秋かぜぞ吹く
382

岡屋入道前攝政太政大臣

あらはれて露やこぼるゝ陸奥のしのぶが原に秋風ぞ吹く
383

正二位隆教

文保の百首の歌奉りける時

あらち山夕霧晴るゝ秋風に矢田野の淺茅つゆもとまらず
384

花山院御製

百寺の金口うたせ給はむとて夜深き道に出でさせ給ふとて詠ませ給うける

夜を籠めて草葉の露を分行けば物思ふ袖と人や見るらむ
385

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時

あだなりな露もて結ぶ野邊の庵眞垣と頼む霧のへだては
386

龜山院御製

題志らず

花ずゝき袖に涙の露添へて暮るゝ夜毎に誰れまねくらむ
387

前參議雅有

弘安の百首の歌奉りける時

今よりははや寐ねがての秋風に色づき初むる庭の淺茅生
388

從二位家隆

承久二年内裏にて、待月と云ふことを講ぜられけるに

月待つと人には云ひし僞のいまやまことの夕ぐれのそら
389

前内大臣

題志らず

出でぬ間に雲吹き拂へ月影のいざよふ峯の秋のゆふかぜ
390

進子内親王

百首の歌の中に、月

秋風は梢をはらふ夕ぐれに雲もかゝらぬやまの端のつき
391

前大納言爲世

文保の百首の歌奉りける時

秋風の拂ふも待たで村雲のかゝる尾上を出づるつきかげ
392

中納言爲藤

嘉元の百首の歌奉りける時、月

初瀬山尾上の鐘や更けぬらむいざよふ雲に出づる月かげ
393

民部卿爲明

康安二年九月十三夜うへのをのこども題を探りて歌仕うまつりし時、月前雲といふ事を

おのづからたゞよふ雲も澄む月の光に消えて晴るゝ空哉
394

如法三寳院入道内大臣

題志らず

出で初むる月の光に足引の山の木の間もあらはれにけり
395

從三位經有

暦應三年八月十五夜仙洞にて三首の歌講ぜられけるに、月出山といふ事を

空に澄む光ぞおそき峯越えて松ばらつたふ秋の夜のつき
396

冷泉前太政大臣

寳治元年、十首の歌合に、海邊月

押し照るや難波の浦の夕なぎにあしの末葉を出づる月影
397

刑部卿頼輔

題志らず

渡の原潮路は空とひとつにて雲のなみより出づる月かげ
398

後醍醐院御製

風渡る門田のすゑに霧霽れて稻葉の雲を出づるつきかげ
399

普光園入道前關白左大臣

出づるより光ぞしるき秋の月曇らぬ御代のゆくすゑの空
400

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、山月

君が住む藐姑射の山を出づるより曇らぬ月は空に見えつゝ
401

右兵衛督爲遠

百首の歌奉りし時、月

久堅の空にも雲の殘りなくをさまれる世の見ゆる月かな
402

大江貞重

題志らず

名に高き今宵は秋の中空にひかり滿ちたる月のさやけさ
403

前大納言俊光女

思ひやる千里のほかの秋までも隔てぬ空に澄める月かげ
404

正三位知家

足引の山立ちのぼる月かげの行くかた遠き秋のそらかな
405

二條院參河内侍

月の歌とて詠み侍りける

月を見て心の儘にあくがればいづくか秋の住みかならまし
406

三條入道左大臣

正治二年、百首の歌に

更級や姨捨山の月は見じおもひやるだになみだ落ちけり
407

土御門院小宰相

名所月と云ふ事を

志賀の海士の思も入れぬ袖迄も秋は色添ふ月や見るらむ
408

大納言顯實母

百首の歌奉りし時、月

見ぬ世まで心に浮ぶあきの夜の月やむかしの鏡なるらむ
409

權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りける時同じ心を

雲の上になれし昔の面影もわすれやすると月に問はゞや
410

山階入道前左大臣

建長二年八月十五夜鳥羽院にて池上月といへる事を講ぜられけるに仕うまつりける

秋の月むかしを今にうつしてもやゝ澄み増る宿のいけ水
411

後嵯峨院御製

蓮葉の玉かとぞ見る池水のにごりにしまぬ秋の夜のつき
412

土御門院御製

秋月をよませ給うける

大井川しもは桂の月かげに磨きて落つる瀬々のしらたま
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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