新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第六
冬歌

557

前大納言爲世

弘安元年百首の歌奉りける時

露分けし野邊の笹原風冴えて又霜こほるふゆは來にけり
558

一條内大臣

嘉元の百首の歌に、時雨

慕はれし秋の名殘の露をだに干しあへぬ袖に降る時雨哉
559

御製

百首の歌召されしついでに、同じ心を

慕ひこし秋の別のなみだより袖も干しあへぬ初時雨かな
560

法皇御製

題志らず

眞木の屋に冬こそ來ぬれと計りを音づれ捨てゝ行く時雨哉
561

大藏卿有家

木の葉散るむべ山風の嵐より時雨になりぬ峰のうきぐも
562

前大納言公蔭

百首の歌奉りし時、時雨

誘はるゝ雲のゆきゝのさだめなき時雨は風の心なりけり
563

六條内大臣

文保三年百首の歌奉りけるに

吹き送る風のまゝなる浮雲のかさなる山は時雨降るらし
564

昭慶門院一條

嘉元の百首の歌奉りける時、時雨

絶え%\に霧の浮き立つ山の端に風を導べと行く時雨哉
565

中納言爲藤

吹きよわる嵐のひまの浮雲やしばし休らふ時雨なるらむ
566

正二位隆教

元弘三年、立后の屏風に

三輪山は時雨降るらし隱らくの初瀬の檜原雲かゝる見ゆ
567

從三位爲理

前大納言爲世の家にて時雨を詠める

浮雲をさそひも果てぬ山風に立ち歸り降る村しぐれかな
568

近衛關白前左大臣

冬の歌の中に

玉匣三室の山も冬來ぬと明くるそらより降るしぐれかな
569

三條入道前太政大臣

文保の百首の歌奉りける時

山風の吹くに任せて定めなく木の葉さへ降る神無月かな
570

權大納言房經

題志らず

いづくより吹來る風の誘ふらむ梢も知らぬ庭のもみぢ葉
571

山階入道前左大臣

寳治二年百首の歌奉りける時、落葉

冬來てはさゆる嵐の山風につぎて木葉の降らぬ日はなし
572

永福門院

伏見院の卅首の歌の中に

早晩と冬をや告ぐるはつ時雨庭の木の葉に音づれて行く
573

前大納言良冬

題志らず

吹き送るあらしの空の浮雲に時雨を添へて降る木の葉哉
574

權大納言公明

m

村時雨音を殘して過ぎぬなり木の葉吹きまくみねの嵐に
575

伏見院御製

浮きて行く雲の便の村時雨降る程もなくかつ晴れにけり
576

二品法親王覺助

家に五十首の歌詠み侍りけるに、朝時雨

木の葉散る朝げの風やさそふらむ時雨になりぬ浮雲の空
577

如願法師

題志らず

志がらきの外山の紅葉散り果てゝ寂しき峯に降る時雨哉
578

權中納言公雄

弘安元年百首の歌奉りける時

行く月のした安からぬ浮雲のあたりの空は猶しぐれつゝ
579

皇太后宮大夫俊成

冬の歌の中に

打ちしぐれ人の袖をも濡す哉空もや今日は秋を戀ふらむ
580

後徳大寺左大臣

聞く人の袖さへ濡れぬ木葉散る音は時雨にたぐふのみかは
581

赤染衛門

いとゞしく物思ふ夜のひとり寐に驚くばかり降る時雨哉
582

前大納言爲兼

弘安八年八月十五夜卅首の歌奉りける時、時雨驚夢

夢路まで夜はの時雨の慕ひ來てさむる枕に音まさるなり
583

後法性寺入道前關白太政大臣

題志らず

驚かす木の葉の音のなかりせば明くるぞ夢の限ならまし
584

[2]A2子内親王家宰相

千入まで染めし梢の殘りなく庭の落葉といつなりにけむ
585

貫之

三條右大臣の家の屏風の歌

山高み梢をさして流れ來る瀧にたぐへて落つるもみぢ葉
586

殷富門院大輔

題志らず

水上に風わたるらし大井川紅葉をむすぶたきのしらいと
587

中納言祐家

承保三年大井河に行幸の日詠める

大井川今日の行幸にもみぢ葉も流久しきゐせきにぞ見る
588

權中納言俊忠

寛治五年十月白河院大井河に御幸せさせ給うて落葉滿水と云ふ事を詠ませ給うけるに仕うまつりける

大井川水の流れも見えぬまで散るもみぢ葉の浮ぶ今日哉
589

躬恒

宇治に罷りて侍りける時よめる

河上に時雨のみふる網代にはもみぢ葉さへぞ落増りける
590

貫之

落ち積る紅葉を見れば一年の秋のとまりは網代なりけり
591

如寂法師

最勝四天王院の障子の歌

宇治山の嵐に落つるもみぢ葉やあじろに夜の錦なるらむ
592

橘俊綱朝臣

祐子内親王宇治におはしましける頃遠き所に罷りてたよりにつけて申し遣しける

神無月朝日の山も打ちしぐれ今や紅葉のにしき織るらむ
593

祐子内親王家紀伊

返し

君見ねば朝日の山のもみぢ葉もよるの錦の心地こそすれ
594

前中納言雅孝

文保の百首の歌奉りける時

篠分くる袂は風のおとさえて知られず結ぶ野邊のゆふ霜
595

是則

延喜十三年の菊合に

菊の花冬の野風に散りもせで今日までとてや霜は置く覽
596

躬恒

菊の花濃きも薄きも今までに霜の置かずば色を見ましや
597

信實朝臣

建保五年、内裏の歌合に、冬山霜

すがの根もうつろひ變る冬の日に夕霜いそぐ山の下ぐさ
598

前大納言實教

後宇多院に十首の歌奉りける時、冬寒草

風さゆる淺茅が庭の夕日影暮るればやがて結ぶ志もかな
599

西行法師

寒草帶霜といふ事を

難波潟みぎはの芦に霜さえて浦風さむきあさぼらけかな
600

等持院贈左大臣

百首の歌奉りし時、寒草

霜深きまがきの荻の枯葉にも秋のまゝなる風のおとかな
601

御製

限あれば秋もかくやは聞き侘びし嵐にさやぐ霜のした荻
602

土御門院御製

題志らず

見渡せばまじるすゝきも霜枯れて緑すくなき猪名の笹原
603

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌に

冬來ぬと共にかれ行く山里の人目や草のゆかりなるらむ
604

權大納言忠基

鷹狩を詠める

狩人のいる野の草の霜がれに疲れの鳥やかくれかぬらむ
605

前大納言爲家

三島野やくるれば結ぶ矢形尾の鷹も眞白に雪は降りつゝ
606

前中納言雅孝

題志らず

湊江やあしの枯葉に風さえて霜夜のつきに千鳥なくなり
607

中納言家持

楸生ふる河原の千鳥鳴くなべに妹がり行けば月渡る見ゆ
608

今出河前右大臣

嘉元の百首の歌奉りけるとき、千鳥

冬されば佐保の河風冴ゆる夜の更けたる月に鵆鳴くなり
609

法皇御製

同じ心を

鳴海潟渡る千鳥の鳴く聲もうらがなしさはありあけの空
610

後二條院御製

曉千鳥といへる事をよませ給うける

浦遠く渡る千鳥も聲さむし志もの白洲のありあけのそら
611

正二位隆教

文保二年八月常磐井の仙洞に行幸の時人々題を探りて歌仕うまつりけるに、千鳥

我が方や浪高からし友千鳥こと浦になくこゑぞきこゆる
612

中務卿宗尊親王

同じ心を

更け行けば山おろし冴えて漣の比良の湊に千鳥なくなり
613

中納言爲藤

湖上水鳥を

鳰鳥はをろのはつ尾にあらねども鏡の山の影になくなり
614

源義高朝臣

題志らず

鳰鳥の通ひ路もさぞたどるらし宵々ごとの池のこほりに
615

兼好法師

芦鴨のはらふ翼に波越えてうは毛の霜やなほこほるらむ
616

八條前太政大臣

崇徳院の御時、十五首の歌に

夜もすがら鴨の上毛を拂ふかな幾度霜の置くにかある覽
617

入道二品親王道助

家の五十首の歌よみ侍りけるに、池水鳥

住み侘びて池の芦間を立つ鴨の氷に殘るあともはかなし
618

從三位行能

中々に霜夜の空や寒からむこほりにかへるいけのをし鳥
619

前大納言隆房

守覺法親王の家の五十首の歌に

霜にだに上毛は冴ゆる芦鴨の玉藻の床はつらゝゐにけり
620

民部卿爲明

百首の歌奉りし時、冬月

冴ゆる夜は衣片敷く床の霜袖のこほりにつきやどるなり
621

信專法師

同じ心を

冴え増る袖の嵐をかたしきて霜夜の床につきを見るかな
622

後醍醐院御製

元弘三年立后の屏風に五節をよませ給うける

袖返す天つ少女も思ひ出でよ吉野の宮のむかしがたりを
623

從二位行家

寳治二年百首の歌奉りける時、豐明節會

みの山のしら玉椿いつよりか豐のあかりに逢ひ始めけむ
624

前大納言爲家

冬の歌の中に

夜寒なる豐のあかりを霜の上に月冴え渡る雲のかけはし
625

前大納言實教

中納言爲藤神無月の比北白河に罷りて人々十首の歌よませ侍りける時、河上冬月

早き瀬は氷りもやらで冬の夜の川音たかく月ぞ更け行く
626

達智門院

題志らず

おのづから氷らぬ隙も氷りけり月影さむき山がはのみづ
627

祝部成光

立つ浪のおとは殘りて沖つ風ふけひの浦にこほる月かげ
628

前大僧正實越

前大僧正桓守すゝめ侍りける日吉の社の三首の歌合に、冬月を

眞野の浦や入海さむき冬がれの尾花の波にこほる月かげ
629

僧正慈能

湖邊冬月といふ事をよみ侍りける

鳰の海や比良の山風冴ゆる夜の空より氷るありあけの月
630

權中納言時光

百首の歌奉りし時、冬月

冴ゆる夜の霜を重ねて袖の上にやどれば氷る月の影かな
631

按察使公敏

冬の歌の中に

枯れ果つる草葉の霜の白妙にやどるも寒き月のかげかな
632

前大納言忠良

千五百番歌合に

今はとて淺茅枯れ行く霜の上に月かげさびし小野の篠原
633

昭慶門院一條

永仁五年、仙洞の歌合に

秋の色は跡なき野邊の霜の上に猶見し儘の月ぞ夜がれぬ
634

權中納言公雄

文保の百首の歌奉りける時

晴れ曇り浮き立つ雲の山の端に影定まらぬ冬の夜のつき
635

左近中將善成

題志らず

しぐれてぞ中々晴るゝ風まぜに木葉降る夜の山の端の月
636

祝部成茂

冬月をよめる

秋よりも冴えにけらしな降る雪の積りて晴るゝ山の端の月
637

祝部成仲

左京大夫顯輔の家の歌合に

久堅の空冴え渡る冬の夜は月のひかりもゆきかとぞ見る
638

前大納言爲世

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、冬曉月

冴ゆる夜の雪げの空の村雲を氷りて傳ふありあけのつき
639

頓阿法師

中納言爲藤の家の五首の歌に、川氷

初瀬川井手越す波の其儘に氷りてかゝる瀬々のしがらみ
640

左兵衞督爲遠

百首の歌奉りし時、氷

さゆる夜は氷るも早し吉野川岩きりとほす水のしらなみ
641

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

立ち歸るおとも聞えず冬河の石間にこほる水のしらなみ
642

院御製

冬の御歌の中に

谷川や結ぶこほりの下むせび流れもやらぬ音もさむけし
643

權大納言宣明

音立てしあらしや松に殘るらむさゞ波こほる志賀の辛崎
644

從二位宣子

文保の百首の歌奉りける時

風騷ぐ楢の落葉に玉散りて音さへさむく降るあられかな
645

前中納言定家

西行法師人々すゝめて百首の歌よませ侍りけるに

朝夕の音は時雨の楢柴にいつ降りかはるあられなるらむ
646

參議雅經

建保五年、内裏の歌合に、冬野霰

宇多の野や宿かり衣きゞす立つ音もさやかに霰降るなり
647

法眼源承

太神宮の十五首の歌に

玉藻苅るいちしの海士のぬれ衣夕日もさむく霰降るなり
648

後宇多院御製

嘉元の百首の歌召されけるついでに、霰

風寒み空は雪げになりそめてかつ%\庭に散るあられ哉
649

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

庭の面に枯れて殘れる冬草のむら/\見えてつもる白雪
650

從二位爲子

雪の歌とて詠める

いとゞ又雪には跡もなかりけり人目かれにし庭のふゆ草
651

前大僧正賢俊

百首の歌奉りし時、同じ心を

いづくとも汀ぞ見えぬ池水のこほりにつゞく庭のしら雪
652

法印長舜

題志らず

宵の間の軒のしづくも音絶えて更くれば氷る雪の村ぎえ
653

後京極攝政前太政大臣

伏見里雪と云ふ事を

里分かぬ雪のうちにも菅原や伏見の暮はなほぞさびしき
654

前大僧正慈鎭

建保四年、百首の歌に

初雪の降らばと云ひし人はこで空しく晴るゝ夕暮のそら
655

中納言家持

題志らず

初雪の庭にふりはへ寒き夜を手枕にしてひとりかも寐む
656

好忠

都にも道踏みまよふ雪なれば訪ふ人あらじみやまべの里
657

六條内大臣

文保の百首の歌奉りける時

訪はるべき身とも思はぬ山里に友待つ雪の何と降るらむ
658

平親清女

枯れ果つる小野の篠原道絶えて餘り日數のつもる雪かな
659

花山院内大臣

文保の百首の歌奉りける時

今よりはとだえも見えじ白雪のつぎて降敷く久米の岩橋
660

後嵯峨院御製

寳治元年、十首の歌合に、野外雪

いとゞまた限も見えず武藏野や天ぎる雪のあけぼのゝ空
661

後山本前左大臣

松上雪を

老が身のたぐひとやせむ代々を經てゆきを戴く松の心は
662

源光行

武隈の松のみどりもうづもれて雪を見きとや人に語らむ
663

源頼貞

水鳥の賀茂の神山さえくれてまつの青葉も雪降りにけり
664

後西園寺入道前太政大臣

嘉元の百首の歌の中に、雪

月殘る眞木の外山のあけぼのに光ことなる嶺のしらゆき
665

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌召しけるついでに、冬月

白妙の光ぞまさるふゆの夜の月のかつらに雪つもるらし
666

後鳥羽院御製

題志らず

挿頭折る袖もや今朝はこほるらむ三輪の檜原のゆきの曙
667

二條院御製

百首の御歌の中に

冬の夜のさゆるにしるし三吉野の山の白雪今ぞ降るらし
668

前大納言爲氏

白河殿の七百首の歌に、河邊雪

降り積る雪を重ねて三吉野のたぎつかふちに氷るしら波
669

三條院女藏人左近

平兼盛が大井の家にて冬の歌よみ侍りけるに

大井河杣山かぜのさむけきに岩打つ波をゆきかとぞ見る
670

平衞内侍

建保五年内裏の歌合に、冬海雪

漕ぎ歸る棚なし小舟跡もなし難波のあしのゆきの下をれ
671

正三位知家

道助法親王の家の五十首の歌に

降る雪はそれとも見えずさゞ波の寄せて歸らぬ沖つ島山
672

津守國冬

文保の百首の歌奉りける時

吉野山雪降り果てゝ年暮れぬかすみし春は昨日と思ふに
673

前大納言資季

寳治二年、百首の歌に、歳暮

徒らに過ぎ行く物と思ひ來し年の何とて身につもるらむ
674

花園院御製

百首の御歌の中に

分きてしも惜むと無しに哀なり今年も斯て暮れぬと思へば
675

前中納言高定

中納言になりて侍りける年光俊朝臣よませ侍りける春日の社の五首の歌合に

暮れぬとて今更急ぐ今年哉月日の行くも知らざりし身に
676

御製

歳暮忙と云へることを詠ませ給うける

今さらに年の暮とも驚かずいそぎ慣れたる朝まつりごと
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia