新拾遺和歌集

Shin Shūi wakashū

作者複数 Various

新拾遺和歌集卷第九
羈旅歌

758

讀人志らず

題志らず

爰にして家やはいづこ白雲のたなびく山を越えて來に鳬
759

人丸

玉藻刈るとしまを過ぎて夏草の野島が崎に舟ちかづきぬ
760

貞數親王

亭子院難波に御幸せさせ給うける時詠み侍りける

君が爲浪の玉敷く三津の濱行き過ぎがたしおりて拾はむ
761

讀人志らず

題志らず

逢坂を打ち出でゝ見れば近江の海白木綿花に浪立ち渡る
762

大納言通具

千五百番歌合に

泊りするをじまが磯の浪枕さこそは吹かめ與謝の浦かぜ
763

中納言爲藤

旅泊

今日幾日浪の枕に明け暮れて山の端しらぬ月を見るらむ
764

如願法師

羈旅の心を

渡の原八十島かけてしるべせよ遙にかよふおきのつり舟
765

皇太后宮大夫俊成

隅田川故郷思ふ夕ぐれになみだを添ふるみやこどりかな
766

御製

百首の歌召されしついでに、羈旅

限なくとほく來にけり隅田川ことゝふ鳥の名を慕ひつゝ
767

前大納言忠良

羈中暮と云ふことを

草むすぶかりほの床の秋の袖露やはぬらす夕ぐれのそら
768

今出河院近衛

旅の心を

行きなれぬ鄙の荒野の露分けて萎るゝ旅の頃も經にけり
769

前大納言爲兼

永仁元年八月十五夜後宇多院に十首の歌奉りしに、秋旅と云ふ事を

故郷を忘れむとてもいかゞせむ旅寐の秋の夜半の松かぜ
770

爲道朝臣

秋の夜もあまた旅寐の草枕露よりつゆにむすび添へつゝ
771

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、羈旅

大江山こえ行く末もたび衣いく野の露になほしをるらむ
772

伏見院御製

羈中野といふ事をよませ給ひける

露ふかき野邊の小笹のかり枕臥しなれぬ夜は夢も結ばず
773

前參議爲秀

題志らず

いつまでか草の枕の白露のおくとは急ぎぬとはしをれむ
774

藤原宗秀

あづま野の露わけ衣今宵さへ干さでやくさに枕むすばむ
775

前大納言有忠

元亨二年龜山殿にて題を探りて歌仕うまつりけるに、旅行

都をば夜ふかく出でゝ逢坂の關に待たるゝ鳥のこゑかな
776

按察使資明

題志らず

關の戸もはや明方の鳥の音におどろかされていそぐ旅人
777

頓阿法師

中園入道前太政大臣の家にて、朝旅行といふ事を

逢坂の鳥の音とほくなりにけりあさ露分くる粟津野の原
778

權中納言宗經

野

誰れか又露けき野邊の假寐せむ結び捨てつるくさの枕に
779

後嵯峨院御製

五十首の御歌の中に羈中衣といふ事をよませ給うける

分け過ぐる千種の花のすり衣おもひ亂るゝ旅のそらかな
780

大藏卿有家

守覺法親王の家の五十首の歌に、旅

櫻色に春立ちそめし旅ごろも今日宮城野の萩がはなずり
781

藤原行春

旅の歌に

分け行けど花の千ぐさのはてもなし秋を限の武藏野の原
782

西行法師

東の方へ修行し侍りけるに白河關にて月のあかゝりければ柱に書き付けゝる

しら河の關屋を月のもるかげは人の心をとむるなりけり
783

丹波忠守朝臣

元亨元年八月十五夜、内裏の歌合に、關月

今宵こそ月に越えぬれ秋風の音にのみ聞くしら河のせき
784

後九條前内大臣

羈旅

秋風に今日しら河のせきこえて思ふもとほし故郷のやま
785

祝部成茂

東へ下りける時詠める

足柄の山路の月にみね越えて明くれば袖に霜ぞのこれる
786

善了法師

夕旅

行く末は月にや越えむ旅衣日もゆふぐれのさやの中やま
787

兼好法師

旅のそらいく夕暮に待ち出でゝ山の端變る月を見つらむ
788

前中納言爲相

題志らず

旅人はまだ出でやらぬ關の戸に月ぞさきだつ有明のそら
789

後光明峯寺前攝政左大臣

我れならぬ人もやかゝる旅寐して有明の月に物思ふらむ
790

荒木田氏忠

振り捨てゝ誰かは越えむ鈴鹿山關屋は夜半の月も洩り鳬
791

中納言家持

旅人のよこをり伏せる山越えて月にも幾夜別れしつらむ
792

後鳥羽院御製

旅の御歌の中に

さらぬだに都戀しきあづま路に詠むる月の西へ行くかな
793

伏見院御製

松が根のあらしの枕ゆめ絶えて寐覺の山に月ぞかたぶく
794

六條入道前太政大臣

元久元年七月宇治の御幸の時の五首の歌に

いほりさす端山が原の假寐には枕になるゝ小男鹿のこゑ
795

宜秋門院丹後

和歌所の六首の歌合に、旅月聞鹿

松が根のまくらに鹿の聲はして木の間の月を袖に見る哉
796

源頼貞

題志らず

鴈なきて朝風寒し故里に我が思ふいもやころもうつらむ
797

正三位知家

寳治の百首の歌に

今宵もや佐野の岡邊の秋風にさゝ葉刈り敷き獨かも寐む
798

法印長舜

題志らず

笹枕夜はの衣をかへさずば夢にもうときみやこならまし
799

源業氏

草枕露打ち拂ふそのまゝになみだ片敷く夜はのころも手
800

前大僧正實超

羈中夢

故里に通ふたゞぢは許さなむ旅寐の夜半の夢のせきもり
801

左京大夫顯輔

旅の心を

草枕袖のみぬるゝ旅ごろも思ひ立ちけむことぞくやしき
802

源仲正

吾妻に下りける時宿れりける家に男は無くて女ばかり有りと聞きていひ遣しける

霜さゆる旅寐の床の寂しさをいかにとだにも訪ふ人もがな
803

讀人志らず

返し

旅ならぬ我も衣を片敷きて思ひやれどもいかゞ訪ふべき
804

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌に、旅宿時雨

唐衣はる%\來ぬる旅寐にも袖ぬらせとや又しぐるらむ
805

前大納言爲氏

羈旅秋を

里遠き山路の雲はしぐれつゝゆふ日にいそぐ秋のたび人
806

卜部兼直

冬旅

しぐれつる雲を外山に分け捨てゝ雪に越え行く足柄の關
807

二品法親王承覺

雪の歌とて詠める

休らはで猶ぞつもらむ降る雪に強ひてや越えむ冬の山道
808

寂眞法師

甲斐が嶺はなほいかばかり積るらむ早雪深しさやの中山
809

大藏卿隆博

旅歳暮を

歸るさは年さへ暮れぬ東路やかすみて越えししら河の關
810

前大納言爲家

題志らず

旅衣はる%\來ぬる八橋のむかしの跡にそでもぬれつゝ
811

源家長朝臣

道助法親王の家の五十首の歌、旅春雨

宿もがな佐野の渡りのさのみやはぬれても行かむ春雨の比
812

讀人志らず

題志らず

頼め置く宿し無ければ旅の空暮るゝを道の限りにぞ行く
813

源季賢

行暮れぬこやに一夜の宿訪ひて難波の芦の假寐をやせむ
814

法印公順

前大納言爲世詠ませ侍りし春日の社の卅首の歌の中に

今日こそはよそになりぬれ葛城や越えし高間の嶺の白雲
815

右大臣

百首の歌奉りし時、羈旅

古里を隔て來にけり旅ごろもかさなる山の八重のしら雲
816

參議雅經

道助法親王の家の五十首の歌に、山旅

立ち歸り又もや越えむ峯の雲跡も定めぬ四方のあらしに
817

花園院御製

旅の心を詠ませ給うける

深山ぢを夕越え暮れて宿もなし雲居る嶺に今宵かも寐む
818

入道二品親王尊圓

都思ふ宇津の山道越え侘びぬ夢かと辿るこゝろまよひに
819

法印定圓

吾妻よりのぼりける道にて

露繁き蔦のしげみを分けこえて岡邊にかゝる宇津の山道
820

平齋時

小夜の中山をこえ侍りけるに朝霧深く侍りければ

明けぬとて麓の里は出でぬれどまだ霧くらき小夜の中山
821

性嚴法師

題志らず

孰くにか宿をからまし岩根蹈み重なる山に日は暮れに鳬
822

從二位家隆

洞院攝政の家の百首の歌に

龍田山夕こえくれぬ大伴の三津のとまりに舟やまつらむ
823

祝部行親

旅の心を

漕ぎ出でし湊隔てゝ渡の原かさなるくもにかゝるしら波
824

後岡屋前關白左大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

漕ぐ舟の行方も知らぬ浪間より見ゆる小島や泊りなる覽
825

前大納言爲定

元亨三年十月後宇多院に十首の歌奉りけるに海邊旅といふ事を

渡の原沖漕ぐ舟の寄るべなみ蜑の住むてふ里や訪はまし
826

後宇多院御製

嘉元の百首の歌召されしついでに、海路を

いかにして人も通はむ渡の原舟と風とのたよりならずば
827

大炊御門右大臣

保延元年内裏の歌あはせに、海上遠望

見渡せば碧の空に浪かけて泊りも知らぬふなでしにけり
828

二品法親王守覺

旅の心を

臥しなれぬ鳥籠の浦風身にしみて心浮き立つ波の音かな
829

前中納言定家

洞院攝政の家の百首の歌に

臥しなれぬ濱松が根の岩枕袖打ちぬらしかへるうらなみ
830

前内大臣實

百首の歌奉りけるに、千鳥

言とひて幾たび過ぎぬ友千鳥あらいそ波のよるの浮寐に
831

權僧正果守

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

臥し侘びぬ芦の葉そよぐ湊風寒く吹く夜の波のまくらに
832

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

身にぞしむかゝる所の夜半も又なれぬ旅寐をすまの浦風
833

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、旅泊

舵枕いかに定めてゆめも見む浮寐になるゝ人にとはゞや
834

法印覺寛

道助法親王の家の五十首の歌に、海旅

衣手をしき津のうらの浮枕なみだも波もかけぬ夜ぞなき
835

平行氏

題志らず

浮枕結びも果てぬ夢路よりやがてうつゝにかへる波かな
836

權大納言忠基

思ひやれなれたる海士の袖だにも波の浮寐は濡るゝ習を
837

從三位成清

こゝろして苫引きおほへ浮雲も雨に鳴門の沖つふなびと
838

法印源意

船泊めて片敷く袖の浦風をたゆたふ波のまくらにぞ聞く
839

大江茂重

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、旅泊

友誘ふ室の泊りの朝嵐に聲を帆にあげて出づるふなびと
840

大江貞重

題志らず

憂かりける荒磯波の音までもならはぬ旅に袖ぞしをるゝ
841

源兼氏朝臣

太神宮の歌合に、羈中月

まどろまで月をぞ見つる寄る浪の荒き濱邊の夜はの假寐に
842

法眼源承

伊勢島や月に折り敷く濱荻の假寐もさむし秋のしほかぜ
843

從二位家隆

羈旅を

折り敷かむ隙こそ無けれ沖つかぜ夕立つ波の荒き濱をぎ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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